カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

チエちゃん奮戦記24話脚本:時系列操作やナレとのかけあいが光る脚本技術

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

23話との二部作。

23話概要:

テツが、おバァはんにお灸をすえられ丸坊主に。 一方チエは、普段と違うことをする、という春休みの宿題のため、現金をちらつかせて、テツに店をやらせる。そしてヒラメが1日店員を体験。そこへヤクザ客が来るが、テツは我慢し通す。そして翌日から、テツは何かを企む。

ここから今回の話へ。

テツは、23話でやりたい放題したヤクザが再度来店するまで店をやり続ける。

2週間後、待ちに待ったヤクザが来る。
場面は転じて朝。マサルは、テツが店をやっていた2週間、探偵の格好をして張り込んでいたとチエに報告。探偵コスのマサルが幼く可愛い(特徴)。

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マサルによると、ヤクザ二人組は店に入ったきり出て来なかったという。

そこへチャイムが鳴り、マサルの推理は中断。

裾が長い探偵コスのせいで散々転んだマサルは、体育を休み見学。その際マサルは学校の講堂へ向かうテツを目撃。

体育授業中のヒラメやチエが幼く可愛い(特徴)。

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マサルは、テツの監視を続行することにする。

一方テツは、お好み焼き屋にて、自分は人間が変わったと豪語し、散歩へ。

見送る百合根は、最近刑事のフリしたヤクザが来て、消えたヤクザ2人を探していたとカルメラに話す。その頃ニセ刑事がマサルと接触。再び探偵コスのマサル可愛い(特徴)。

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時間は飛び、マサルは偽刑事との接触をタカシに話す。マサルの回想という形でニセ刑事とテツの邂逅が描かれる。高屋敷氏特徴の時系列操作。カイジ2期脚本においても巧みに使われている。
時間はマサル・タカシの会話地点に戻り、マサルは刑事が消えたと話す。

マサルは、ヤクザ二人と刑事がテツに殺されてホルモンにされたと想像し卒倒。

その頃百合根は、テツが最近お好み焼きを3枚持ち帰るので、テツがどこかにヤクザを飼っていると推理。

一方テツは、窓に映る自分を見て、髪型が戻りつつあるのを実感(特徴:鏡演出)。画像は今回とルパン三世2期脚本。ここでの鏡演出は、テツの髪型が戻る=自分を取り戻しつつある、という現状把握。

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そこへ、1期最終回でテツ達とバトルした、大学の応援団団長(先の23話で頭を丸めて再登場)が声をかける。二人はうどん屋へ。特徴の飯テロ。画像は今回とジョー2脚本。

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団長は自分の未熟さに悩み、泣く。ヤクザは好きかとテツに問われた団長は、ヤクザが大嫌いと回答。するとテツが、お前ええ奴やと言い、どこかへ連れていく。落ちる涙のアップがカイジ脚本とシンクロ。

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一方拳骨はテツの異変をチエから聞き、危険な兆候だと警告。

拳骨曰く、テツは我慢しすぎると、ある日たまったガスのように爆発するから危険とのこと。話し方がカイジ脚本の船井と似てたから並べてみたw

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そこへミツルが、組員3人の捜索願がヤクザ組から出されたと知らせに来る。拳骨はテツが3人を囲っていると確信。

テツが学校の講堂に向かうのを見たという情報がある事をチエから聞き、拳骨とミツルは慌てる。

その頃、テツは団長を伴い講堂に向かっていた。テツはここにヤクザを囲っており、ヤクザが大嫌いだという団長に、一緒にヤクザをどつこうと提案。

一方拳骨・ミツル・チエも学校へ。拳骨とミツルは、テツの悪行の拠点が講堂だと知っていた。

学校に向かう際、拳骨とミツルはテツの過去の悪行について話す。拳骨の台詞が長く、かつ名調子早口。これも高屋敷氏の特徴。ジョー1、2の脚本で実況台詞を数多く練った経験から培われたものかもしれない。
学校に着いた3人が塀を登る姿が可愛い(特徴)。

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その頃テツも、過去に拳骨(当時のテツの先生)に怒られたことを思い出し、腹いせにヤクザをどつきに行く。取り残された団長は戸惑う。
一方拳骨達も講堂に到着。ランプのアップ(特徴)が入る。上げればキリがないが、カイジ破戒録脚本と比較。

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拳骨達は、テツがヤクザをどつこうとした現場を押さえる。

時は飛び(特徴:時系列操作)、チエ家にてヒラメの1日店員体験記を読み上げる拳骨の場面になる。ヒラメのナレ→読み手の拳骨の声にうまくスイッチするのも同氏特徴。カイジ2期脚本でも使われている。

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純粋なヒラメは、23話にて嫌な客(ヤクザ)に対し我慢を続けたテツを見て感銘を受け、その事を作文を書いていた。チエやおバァはヒラメの純粋さに心打たれる。一方テツは天井裏で縛られていた。ランプや物が事柄を見ているのが同氏特徴だが、今回はテツが見聞きしているオチ。

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  • まとめ

今回は、脚本手腕から判る同氏特徴が多め。ナレとのかけあい、時系列操作、文章の読み手のスイッチ、複数平行エピの取りまとめの上手さなど。どれもカイジ脚本においても使われている技術。
それにしてもチエ1、2期とも脚本の密度が濃い。

言い回しの特徴である、早口長台詞名調子も、存分に発揮されている。拳骨・ミツルの声優さんも見事。
全体の話は相当サイコだが、アイデンティティの着脱としての、同氏特徴「脱衣演出」が出ている(マサルの探偵コスや、テツの丸坊主からの復活)。

時系列操作の上手さは、カイジだと2期7・20・26話脚本で特に発揮されている。
ナレとの掛け合いはカイジ全編に及ぶ。ナレを重要キャラとするポリシーは、監督作の忍者マン一平で、ナレーター役の学校仮面を活躍させている事を見ても明らか。

チエ1期にて、ナレーション(小鉄)が初めて入ったのは高屋敷氏脚本回。それだけ、同氏作品においてナレーターの存在は重要。ナレーションが無い場合は、太陽やランプなど、全てを見渡せる物の「無言の間」が代わりを務めているのではないだろうか。

高屋敷氏は、演出と脚本とで、やることが同じなのだが、今回の凝った脚本技術を見るに、脚本に絞って行った理由が解るような気がする。また、「脚本」からでも毎度映像に表れる可愛さも、不思議な特徴。同氏脚本の不思議な能力を感じる回だった。

チエちゃん奮戦記20~21話脚本:食べ物が象徴する、義理人情の温かさ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。モバイルだと、クリックしても画像が大きくならないのですが、urlをクリックするとtwitterの大きい画面で見えます。)

  • 20話

冒頭、いつものごとくテツがおバァはんにどつかれているのだが、あんまどつきすぎると(テツの)頭のゼンマイがきれるで、とチエが言う場面のイメージが、同氏演出の元祖バカボンとシンクロ。どちらもバカを通り越して超発想の頭だからか?

pic.twitter.com/4KqltHf1qh

posted at 20:24:26

そんなチエ家のもとに、速達が届く。宛先に「竹本テツ先生」と書いてある奇妙なもので、内容はヤクザの組開きパーティーにテツを招待するものだった。というわけで、同氏作によく出る紙がまた出た。画像は手紙シリーズ。今回・チエ1期・カイジ脚本、家なき子演出。 pic.twitter.com/Qr8D5eP7mQ

posted at 20:30:33

普段ヤクザをどついているテツは、ヤクザと聞いて喜び回転するが、同氏が敬愛しているらしき、出崎哲氏の回転演出ぽい。高屋敷氏の監督作や演出作でもよく出るほか、脚本作でも何故か怪現象?でよく出る。画像は今回、忍者マン一平監督、チエ1期脚本。カイジでもカードや賽子が回転する。 pic.twitter.com/pe0CznHogK

posted at 20:37:04

招待状について、チエは拳骨に相談。拳骨は、これは何かの手違いで、担当者は慌てているのでは?と推察。推察は大当たりで、招待状を送ったヤクザが、百合根の店に相談に来ていた。相談料代わりの、お好み焼き10枚が、DAYS脚本の11本の煙草とシンクロ。 pic.twitter.com/cCPD6jXdbI

posted at 20:44:46

いつものごとくお好み焼きが美味しそう(特徴・飯テロ)。

また、DAYS脚本も今回も、食べ物やタバコのアップに意味がある。さらに、状況を表す、火のアップ。これも同氏特徴で頻出。下記画像はコボちゃん脚本との比較。 pic.twitter.com/7J5GZ1bBfX

posted at 20:51:43

百合根はヤクザの相談に乗る。そのヤクザは新米で、手違い・勘違いで招待状を送ってしまったのだった。新米ヤクザは田舎から大阪に就職しに来たが、どの仕事もブラックで辞め、ついにはヤクザになってしまったという。時代先取りなブラック労働による精神疾患がまた出た。 pic.twitter.com/XWcWGeFNss

posted at 21:00:26

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今回のミスで組長を怒らせた新米ヤクザは、テツと刺し違えて来いと放り出されてしまったのだった。話を聞いた百合根は対策を考えると共に、何故面識が無いのにこの店がわかったのか聞く。すると新米ヤクザは、組に出回っているテツの相関図を渡す(特徴・紙ネタ) 。pic.twitter.com/zXlS5YbDG6

posted at 21:07:35

新米ヤクザのくれた、組で出回っているテツ相関図を、チエ・拳骨・おバァはんも見る。これも特徴の、破壊力のある文による紙ネタ。画像は同氏特徴の紙ネタ集。今回、ど根性ガエル演出、チエ1期脚本、元祖バカボン演出、カイジ脚本。 pic.twitter.com/XxHUSIXhJi

posted at 21:13:39

テツ相関図の人物紹介プロフィール文は、小鉄の名調子ナレで読み上げられる(特徴)。人物紹介映像→止め絵→プロフィール読み上げ、の演出が、シリ構・脚本の「二舎六房の七人」(戦後少年院の話)と重なる。止め絵演出が、師匠かつ長年仕事した出崎統氏的でもある。

pic.twitter.com/HVrrX3bh34
posted at 21:25:44

相関図のプロフィール文に怒るおバァはんだが、チエはマサルに普段言われているから慣れっこだと言う。チエ1期同氏脚本に、マサルが、「遺伝は怖い」という内容の手紙をチエに送りつける話があり、その時の演出法も今回と重なる。演出も1期演出陣の佐藤博暉氏。

 pic.twitter.com/vhSCXsaI3v

posted at 21:34:16

一方、新米ヤクザを救う方法を百合根は考えつく(特徴・義理人情)。その方法は、テツに金を払い、テツ+相関図に載っている人達と一緒に記念写真を撮ること。写真を組に送れば、びびって新米ヤクザに手は出さないだろうという算段。仲間が集まるのも同氏特徴。

 pic.twitter.com/sfpVr4wHhH

posted at 21:44:03

新米ヤクザは足を洗い、郷里に帰ることにする。見送りに来た百合根は、写真を現像したら、組に送っておくと言い、フィルムを見せる。これも同氏特徴の、想いを込めたものを持つ、手のアップ。画像は今回とジョー2脚本。今回は百合根の義理人情が格好いい。

pic.twitter.com/l67OZoZ616

posted at 21:49:26

新米ヤクザは百合根に感謝し、落ち着いたら手紙を書くと言うが、百合根は「ええねん」と返す。

百合根に感謝しつつホームに向かう新米ヤクザは、ヨシエを偶然見かけ、ヨシエのプロフィール文を思い出し、慌てて逃げ出すのだった。ヨシエのプロフィール文でend。 pic.twitter.com/Maaee1wt9y

posted at 21:56:41

  • 21話

前回のあらすじのまとめが上手く、名調子(特徴)。同氏は、カイジ破戒録1話でも、1期の内容をアバンでまとめてしまうほどのまとめ上手。これは、「がんばれタブチくん」で他の人達が書いた脚本を劇場版用に構成するなどの経験が生きてそう。
posted at 22:04:06

冒頭、組開きパーティーでウケる服が欲しいテツが、ミツルや百合根に服を貸せとねだる。結局、百合根の羽織を借りることに(特徴・脱衣演出)。元祖バカボン同氏演出に、本官さんの制服を着たパパが散々な目に合う話があり、それを彷彿とさせる。 pic.twitter.com/5lhSJqx2cm
posted at 22:10:53

更にテツは、カルメラ兄弟もパーティーに付き合えと強要。一方ヨシエは、前回出た、自分を含めたテツ相関図を読み上げる。読み手のヨシエに合わせ、登場人物の過去映像が次々出され、プチ総集編ぽい(特徴・総集編が上手い)。これも1期の同氏脚本と同じノリ。 pic.twitter.com/TzoAdsVZdH

posted at 22:18:53

ヨシエはテツを心配するが、チエはヤクザ組を心配する。その頃、ヤクザ組は、チエの店に行ってチエ達を人質にとり、テツを大人しくさせようという作戦を立て、チエの店に向かっていた。状況を表す月が出る(特徴・自然もキャラ)。赤い月がヤクザの不幸を予言。

pic.twitter.com/VoHanL3oD6

posted at 22:24:15

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一方、客が来ないのを憂いていたチエは、やって来たヤクザ組を団体客として不気味な笑顔で歓迎。ヤクザ組はビビりつつ、ナイフでチエを脅そうとするが、料理途中だったヨシエが出刃包丁を持って出てきたので逆に怖がる。刃物が語るようなアップが同氏特徴。画像は今回とカイジ脚本。 pic.twitter.com/Pix3oHTJWK

posted at 22:32:01

ビビりながらホルモンを食べるヤクザ組のもとへ、百合根、拳骨、おバァはんが偶然にも来る。ヤクザ組はまたも、この面子のプロフィール文を思い出し怖がる。何となく事情を察した百合根達は店を閉めきりにする。ヤクザ組は恐ろしい思いをして退散するのだった。

posted at 22:38:24

その頃テツはカルメラ兄弟を伴って、もぬけの殻の宴会会場から鯛や酒などを持ち出し、売りさばいていた。そして大量の酒についてはチエの店で売ることに。酒を運ぶ途中、テツはヤクザ組と鉢合わせする。テツに怒鳴りつけられたヤクザ組は逃げ出す。こうして、また一つ組が消えた。
posted at 22:50:09

後日、テツは酒をちまちま売りながら利益を実感し喜ぶ。テツは算盤が上手いという設定は、1期からの継承。テツは、ケチって酒を水でうすめようとした所をチエに見つかり、下駄でKOされる。同氏脚本参加ジョー2のKO場面ぽい。同氏特徴の無機物アップでend pic.twitter.com/fEaFriWLMH
posted at 22:56:53

  • まとめ

とにかく同氏の真骨頂は、20話の、百合根と新米ヤクザの義理人情話。「ええねん」と恩を売らない百合根が渋い。また、ブラック労働の不幸も時代先取りで興味深い。カイジの帝愛もブラック。同氏演出・脚本とも、過労などによる精神疾患がよく出る。
posted at 23:05:20

百合根のお人好しぶりについては、ヤクザ組の書いたプロフィール文にも「アホなアホなお人好し」と書いてある。この「アホなお人好し」のフレーズは、話の中で何回も強調され、同氏が百合根の優しさを前面に出したい意図が見て取れる。
posted at 23:15:37

思えばカイジも「アホなアホなお人好し」であり、それがアニメでも強調されている。こういった、無償の愛や博愛については、まんが世界昔ばなしの「幸福の王子」演出はじめ、同氏作品によく出てきて、メインテーマの一つになっている。
posted at 23:21:10

あと1期の継承として、テツに関わるとヤクザ組が壊滅する・ヨシエは誰からも恐れられている、が使われていて、スタッフ全体が1期をよく把握しているのが感じ取れる。関西でしか放映されなかったにしては、正当な続編として機能している。
posted at 23:27:22

お好み焼き屋=コミュニケーションの場、といえば、ど根性ガエルの同氏演出においても、梅さんの寿司屋が、よくその役割を果たしていた。両者ともにお人好し。そういった温かさが、寿司・お好み焼きが美味しそうに見える一因かもしれない。
posted at 23:37:14

同氏特徴の、物や食べ物、月や太陽のアップにしても、一つ一つ意味があり、キャラクターとしての役割がある。それらがテーマを強調するため機能しており、何故出てくるか理由がある。今回は、お好み焼き、フィルム、紙、文字が活躍した回だった。
posted at 23:45:19

ちなみに、お好み焼きは余程チエで気に入ったのか、コボちゃん脚本でも、お好み焼きが出る。こちらも、義理人情と家族愛を象徴して出てくる。やはり食べ物は重要な役割を担っており、そのメッセージ性の高さから、見ている側も食べたくなるのだろう。 pic.twitter.com/FJ7fRkqNiZ
posted at 23:52:00