カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

チエちゃん奮戦記26話脚本:年下に背中を押される、無邪気な中高年

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。モバイルだと、クリックしても画像が大きくならないのですが、urlをクリックするとtwitterの大きい画面で見えます。)

2部作の前半。興業師となった地獄組ボス(1期で活躍。名はレイモンド飛田)が再登場。
今度はコケザル(テツの鑑別所時代の友人の息子)の誘いで、お化け屋敷を企画。
冒頭、入道雲のアップ・間がある(特徴:自然=キャラ)。
年の差コンビが夢を語るのが、カイジ2期脚本とシンクロ。 https://t.co/Iwpg46g0aZ

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地獄組ボスが夢を語る場面が、何か情緒ある。散々夢をテツや西萩連中に潰された地獄組ボスだが、コケザルのお化け屋敷企画で元気を取り戻す。
カイジの沼攻略企画で再び中高年が奮起する、カイジ2期脚本と通じるものがある。
石を池に投げる場面がベルばらコンテとシンクロ。 https://t.co/DmCeHoYfuA

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コケザルはマサルを誘い、表向きの、お化け屋敷企画者にする。
マサル主催という事で張り切るマサル母の強引な誘いを断れず、チエやヒラメも、お化け屋敷に参加することに。二人は、かき氷を食べながら、その事を愚痴る。特徴の飯テロ。カイジ2期脚本と比較。 https://t.co/mXnQtV3Xn5

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猛暑ということで、おバァはんが、チエ家に扇風機やスイカを持って来る(特徴:贈り物)。
特徴である、物のアップ・間が出て来る。
また、スイカを落としてしまっても、おいしく食べる食いしん坊なのも特徴。 https://t.co/SD1efrhhx3

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一方、地獄組ボス達とコケザルは、喫茶店で、お化け屋敷の計画を語りあう。ここも、カイジ2期脚本13話とシンクロ気味。

今回のコケザルの計画は、お化け屋敷を通り抜け出来たら賞金を出すという条件でヤクザを集め、テツを使って絶対にヤクザを通り抜けさせず、参加費だけをせしめるというもの。カイジの沼も、スケールが違うが今回と同じく大金獲得計画。 https://t.co/8gwZSNpYsQ

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お化け屋敷でヤクザから大金を巻き上げる陰謀を語る場面、カイジ2期脚本で班長達が陰謀を語る場面とシンクロ。

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コケザルの後を追ったチエは、裏に地獄組ボスがいることを把握する。また、お化け屋敷をテツが嫌がるので、チエは怪しむ。過去に何かあるようだ(これは次回に持ち越し)。

コケザル達の計画にはテツの協力が必要なので、コケザルがミルク金時を持って、テツとの交渉にあたる。

またしても飯テロ。カイジ2期脚本と比較。ちなみにチエ1期でも、高屋敷氏脚本にて、かき氷を美味しそうに食べる場面がある。 https://t.co/fU9SO4pFe2

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何としてもお化け屋敷に行きたくないテツは、ヤクザを脅かす役を引き受ける。かき氷屋の間(特徴)が、カイジ2期脚本とシンクロ。

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テツはお化け屋敷のバイトの事を伏せ、就職したと嘘をつき家を出るが、拳骨は、テツが手の込んだ嘘をついたことに感心する。ここで次回へ。 https://t.co/6Pfu6zSM59

 

  • まとめ

今回はカイジ2期13話脚本とのシンクロが多く、比べると面白い。
地獄組ボスも、カイジのおっちゃん(坂崎)も、何度も夢破れているが、親子ほど年の離れた少年・青年から、具体的な勝算のある野望を聞き、再び奮起する。
真夏の入道雲が見守るのも同じ。冒頭、地獄組ボスが夢を語るが、コケザルが「まだ便所の豆電球一つ買うてない」とつっこむ。これも、具体的な勝算がある野望を持つコケザルと、漠然とした野望を持つ地獄組ボスの差。具体的な野望を持つカイジと、ヤケクソ競馬でオカルトに頼ったおっちゃんに通じる。

地獄組ボスは、フランク・シナトラのディナーショーをプロデュースしたいなどとも夢を語るが、コケザルに、「目の前の金儲けの事を考えんと」と言われる。そんなコケザルを、地獄組ボスは「クールなミラクルボーイ」と評する。この場面も、何か渋い。

年下が年上に生きる気力を与える話も、高屋敷氏の作品には多い。ルパン3期・はだしのゲン2・カイジ脚本など。
監督作忍者マン一平でも、一平の優しさに触れた魔法使いの老人が、一年生から再出発する話がある。また、こういった所に、生きる=生き甲斐を描く同氏の特徴が出ている。

高屋敷氏は、少年や青年の成長を描く一方で、少年・青年から背中を押される中高年の再起も、よく描いている。これもデビューまわりの、ジョー1脚本の段平・丈がルーツなのかもしれない。ジョー1脚本は無記名だが、記名のジョー2脚本でも、それは色濃い。

地獄組ボスは、チエ1期の高屋敷氏脚本でも大活躍した。特に、竹本家や西萩の人々の異様さを説いた大演説は名場面。
ジョー2脚本の経験からか、テツをボクサーにしようとした地獄組ボスに愛着があるのかも。今回も、地獄組ボスの不屈の精神が描かれている。

中高年の奮起といえば、ワンナウツ脚本でも、オーナーの犬であることを捨て、奮起する監督の話がある(結局、渡久地の犬になるが)。
高屋敷氏の作品には、演出・脚本とも可愛いおっさんがよく出る。夢を諦めない姿が無邪気だから可愛いのかもしれない。とにかく地獄組ボスが可愛い回だった。

  • 追記

この続きの27話について。以下ネタバレ

小鉄・ジュニア、拳骨の妨害によりテツが参ったため、地獄組ボス・コケザルの野望は潰える。
テツは過去に、ヨシエとのお化け屋敷デートでヨシエにプロポーズしていたので、お化け屋敷を嫌がっていたのだった。
拳骨は、テツのプロポーズ話をチエに伝える。
照れ臭くていたたまれないヨシエとテツは偶然街で鉢合わせし、思い出の喫茶店でお茶する。ヨシエが財布を忘れたため、テツが奢るハメになる事が予想できるオチ。

チエちゃん奮戦記24話脚本:時系列操作やナレとのかけあいが光る脚本技術

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

23話との二部作。

23話概要:

テツが、おバァはんにお灸をすえられ丸坊主に。 一方チエは、普段と違うことをする、という春休みの宿題のため、現金をちらつかせて、テツに店をやらせる。そしてヒラメが1日店員を体験。そこへヤクザ客が来るが、テツは我慢し通す。そして翌日から、テツは何かを企む。

ここから今回の話へ。

テツは、23話でやりたい放題したヤクザが再度来店するまで店をやり続ける。

2週間後、待ちに待ったヤクザが来る。
場面は転じて朝。マサルは、テツが店をやっていた2週間、探偵の格好をして張り込んでいたとチエに報告。探偵コスのマサルが幼く可愛い(特徴)。

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マサルによると、ヤクザ二人組は店に入ったきり出て来なかったという。

そこへチャイムが鳴り、マサルの推理は中断。

裾が長い探偵コスのせいで散々転んだマサルは、体育を休み見学。その際マサルは学校の講堂へ向かうテツを目撃。

体育授業中のヒラメやチエが幼く可愛い(特徴)。

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マサルは、テツの監視を続行することにする。

一方テツは、お好み焼き屋にて、自分は人間が変わったと豪語し、散歩へ。

見送る百合根は、最近刑事のフリしたヤクザが来て、消えたヤクザ2人を探していたとカルメラに話す。その頃ニセ刑事がマサルと接触。再び探偵コスのマサル可愛い(特徴)。

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時間は飛び、マサルは偽刑事との接触をタカシに話す。マサルの回想という形でニセ刑事とテツの邂逅が描かれる。高屋敷氏特徴の時系列操作。カイジ2期脚本においても巧みに使われている。
時間はマサル・タカシの会話地点に戻り、マサルは刑事が消えたと話す。

マサルは、ヤクザ二人と刑事がテツに殺されてホルモンにされたと想像し卒倒。

その頃百合根は、テツが最近お好み焼きを3枚持ち帰るので、テツがどこかにヤクザを飼っていると推理。

一方テツは、窓に映る自分を見て、髪型が戻りつつあるのを実感(特徴:鏡演出)。画像は今回とルパン三世2期脚本。ここでの鏡演出は、テツの髪型が戻る=自分を取り戻しつつある、という現状把握。

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そこへ、1期最終回でテツ達とバトルした、大学の応援団団長(先の23話で頭を丸めて再登場)が声をかける。二人はうどん屋へ。特徴の飯テロ。画像は今回とジョー2脚本。

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団長は自分の未熟さに悩み、泣く。ヤクザは好きかとテツに問われた団長は、ヤクザが大嫌いと回答。するとテツが、お前ええ奴やと言い、どこかへ連れていく。落ちる涙のアップがカイジ脚本とシンクロ。

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一方拳骨はテツの異変をチエから聞き、危険な兆候だと警告。

拳骨曰く、テツは我慢しすぎると、ある日たまったガスのように爆発するから危険とのこと。話し方がカイジ脚本の船井と似てたから並べてみたw

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そこへミツルが、組員3人の捜索願がヤクザ組から出されたと知らせに来る。拳骨はテツが3人を囲っていると確信。

テツが学校の講堂に向かうのを見たという情報がある事をチエから聞き、拳骨とミツルは慌てる。

その頃、テツは団長を伴い講堂に向かっていた。テツはここにヤクザを囲っており、ヤクザが大嫌いだという団長に、一緒にヤクザをどつこうと提案。

一方拳骨・ミツル・チエも学校へ。拳骨とミツルは、テツの悪行の拠点が講堂だと知っていた。

学校に向かう際、拳骨とミツルはテツの過去の悪行について話す。拳骨の台詞が長く、かつ名調子早口。これも高屋敷氏の特徴。ジョー1、2の脚本で実況台詞を数多く練った経験から培われたものかもしれない。
学校に着いた3人が塀を登る姿が可愛い(特徴)。

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その頃テツも、過去に拳骨(当時のテツの先生)に怒られたことを思い出し、腹いせにヤクザをどつきに行く。取り残された団長は戸惑う。
一方拳骨達も講堂に到着。ランプのアップ(特徴)が入る。上げればキリがないが、カイジ破戒録脚本と比較。

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拳骨達は、テツがヤクザをどつこうとした現場を押さえる。

時は飛び(特徴:時系列操作)、チエ家にてヒラメの1日店員体験記を読み上げる拳骨の場面になる。ヒラメのナレ→読み手の拳骨の声にうまくスイッチするのも同氏特徴。カイジ2期脚本でも使われている。

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純粋なヒラメは、23話にて嫌な客(ヤクザ)に対し我慢を続けたテツを見て感銘を受け、その事を作文を書いていた。チエやおバァはヒラメの純粋さに心打たれる。一方テツは天井裏で縛られていた。ランプや物が事柄を見ているのが同氏特徴だが、今回はテツが見聞きしているオチ。

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  • まとめ

今回は、脚本手腕から判る同氏特徴が多め。ナレとのかけあい、時系列操作、文章の読み手のスイッチ、複数平行エピの取りまとめの上手さなど。どれもカイジ脚本においても使われている技術。
それにしてもチエ1、2期とも脚本の密度が濃い。

言い回しの特徴である、早口長台詞名調子も、存分に発揮されている。拳骨・ミツルの声優さんも見事。
全体の話は相当サイコだが、アイデンティティの着脱としての、同氏特徴「脱衣演出」が出ている(マサルの探偵コスや、テツの丸坊主からの復活)。

時系列操作の上手さは、カイジだと2期7・20・26話脚本で特に発揮されている。
ナレとの掛け合いはカイジ全編に及ぶ。ナレを重要キャラとするポリシーは、監督作の忍者マン一平で、ナレーター役の学校仮面を活躍させている事を見ても明らか。

チエ1期にて、ナレーション(小鉄)が初めて入ったのは高屋敷氏脚本回。それだけ、同氏作品においてナレーターの存在は重要。ナレーションが無い場合は、太陽やランプなど、全てを見渡せる物の「無言の間」が代わりを務めているのではないだろうか。

高屋敷氏は、演出と脚本とで、やることが同じなのだが、今回の凝った脚本技術を見るに、脚本に絞って行った理由が解るような気がする。また、「脚本」からでも毎度映像に表れる可愛さも、不思議な特徴。同氏脚本の不思議な能力を感じる回だった。