カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン5話脚本:学問にも適用される「不屈の精神」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台はフランス・パリ。キートンはシモンズ社会人学校にて考古学の講師をしていた。
授業内容は、ヨーロッパ文明の起源について。
授業は活気があり、ど根性ガエル演出の町田先生の授業風景と重なる。 

f:id:makimogpfb:20170813155422j:image

生徒もキートンも、ヨーロッパ文明の起源はエジプトだけではないのではないか…という論で盛り上がる。
優秀モブは、高屋敷氏の作品で頻出。
授業風景ということで、ど根性ガエル演出・はだしのゲン2脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170813155455j:image

キートンは生徒達に人気があり、理事長も満足している。
だが、学校は廃校が決まっており、著名な画家の壁画以外は取り壊される運命。
めぞん一刻脚本の一刻館や、はだしのゲン2脚本の原爆ドームはじめ、建物=キャラと捉える高屋敷氏のポリシーに合った話と言える。

様々な思いを抱えてキートンが自宅に帰ると、そこには娘の百合子が来ていた(妻とは離婚)。
お転婆な百合子は、アパートの屋根に上る。
風景が綺麗ということで、キートンも上り、二人は屋根の上でランチ。特徴の飯テロ。ロックフォールチーズ等美味しそう。

f:id:makimogpfb:20170813155558j:image

キートンは今の勤め先が廃校になることを嘆くが、「弱気なお父さんなんて大きらい」と百合子に叱られる。
めぞん一刻脚本で、自分の将来を真面目に考えろ、と五代を叱った響子が思い出される。

f:id:makimogpfb:20170813155634j:image

百合子と話すうち、キートンは大学時代を思い出していく。

ヨーロッパ文明の起源は、エジプトだけでなく、ドナウ川周辺にもあるのではないか…という論は、キートンが大学時代から考えていたもので、今でもライフワーク。

キートンは、その説を授業で発表する。
ここで、同氏作品頻出の地図が出る。ジョー2脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170813155722j:image

授業は盛り上がるが、壁画の調査のために来た役人のせいで邪魔されてしまう。残り時間が僅かなこともあり、キートンは渋々授業を終えるが、百合子は憤慨。
キートンは、考古学に対する思いを、百合子に話す。ベルばらコンテと比較。どちらも夕暮れのパリ。

f:id:makimogpfb:20170813155752j:image

キートンは、一生考古学を続けたいと言う。そのきっかけの一つが、大学の恩師・ユーリー先生だった。
先生は、新婚で忙しかったキートンが卒論で赤点を取った時も、「夜学べばいい」と書庫の鍵を渡してくれたりした。
これも、同氏特徴の、心のこもった贈り物。

f:id:makimogpfb:20170813155836j:image

キートンはユーリー先生を尊敬し、百合子の名前も先生の名前から取った。
だがしかし、キートンより前に、ヨーロッパ文明の起源=ドナウ説を唱えていた先生は、説を発表した後辞職してしまう。この論が異端であるためだ。
置き手紙がカイジ2期脚本とシンクロ。

f:id:makimogpfb:20170813155922j:image

先生の置き手紙には、学ぶことを続けなさい、立派な学者になったならまた会おう、と綴られていた(特徴:主人公に人生の何たるかを教える中高年)。
百合子は、会いに行けばいい、とキートンに提案するが、年齢を考えればもう亡くなっている筈との事だった。

だが、先生との思い出を話すうち、キートンは、最後の授業で先生の話をしようと思い立つ。
そして最後の授業の日。キートンが先生の話をしようとした時、再び役人達が邪魔しに来る。キートンは、今回は「静かにしなさい」と彼等を一喝する(特徴:豹変)。

キートンは、ユーリー先生の過去の話を紹介する。先生は、第二次大戦中にドイツ軍の爆撃を受け瓦礫と化した校舎でも、授業を続けたという。向上心を削がれたら、それこそ敵の思う壺だ、と。
はだしのゲン2脚本にて、穴だらけのボロ校舎で授業をしていた先生と比較。 

f:id:makimogpfb:20170813160008j:image

ユーリー先生は、人間の愚かな性を学び、またそれを克服することこそ人間の使命だと説いた。
キートンは生徒達にそれを伝え、学ぶことを止めないように伝える。
生徒達は拍手し、かつてヨーロッパ文明=ドナウ起源説を説いた講師がもう一人いたことを伝える。

キートンはすぐに、それがユーリー先生だと悟った。
後日、生徒達は、キートンにお礼がしたいと、パーティーに誘う。そこには、年老いた(90代)ユーリー先生がいた。
味のある中高年ということで、ど根性ガエル演出・めぞん一刻脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170813160055j:image

ユーリー先生は、キートンを「立派になったな」と褒める。キートンは目を潤ませるのだった。
温かく見守るモブ達が、めぞん一刻脚本と重なる。

f:id:makimogpfb:20170813160121j:image

  • まとめ

まず、今回も「キャラとしての建物」が出てきた。はだしのゲン2脚本の原爆ドームは、子供達や次世代の動物達(鳥)を育て見守り、めぞん一刻脚本(+最終シリ構)では、一刻館は「皆が帰ってくる場所」として存在している。 
だが今回の校舎は取り壊される。

めぞん一刻脚本・最終回のサブタイは「この愛ある限り!一刻館は永遠に…!!」。 
愛ある限り永遠に一刻館は「生きる」わけだが、今回の校舎も、取り壊されはしたが「皆の学ぶ心がある限り」、皆の胸で「生きている」。

一刻館の「愛」も今回の校舎の「学」も、人間の営みという点では同じ。
また、第二次大戦中のユーリー先生は、校舎どころか街そのものが死にかけた状態でも「学ぶ心」を忘れなかった。

今回はユーリー先生という、学問でも人生でも師と言える年上男性が出て来るわけだが、高屋敷氏の演出・脚本作とも、こういった存在が非常に多く出る。また、そういった存在を「強調する」同氏の手腕が見えてくる。

また、戦時下でも学ぶ事を忘れないユーリー先生は、不屈の精神の持ち主でもある。
こういった「不屈の精神」も同氏の作品にはよく出て、カイジでも出てくる。カイジ9話脚本では、「絶対に諦めねえ…!最後まで…!」という台詞を、かなり強調している。

こういった「不屈の精神」ポリシーのルーツも、あしたのジョー1、2脚本(1は無記名)にある気がする。
丈も、倒れても倒れても起き上がる。
今回の「学問」でも、それが適用されている。

今回のラストでは、ユーリー先生とキートンは再会を果たす。
ど根性ガエル演出では、見舞いに来てくれたひろしを抱きしめて「教師生活25年、町田は報われた」と泣く町田先生の話があり、それが思い出された。ユーリー先生も多いに報われている。

MASTERキートンは1998年制作なので、高屋敷氏の引き出しも大分豊富な状態。
あしたのジョーど根性ガエルはだしのゲン2、ベルばら、めぞん一刻など、担当して来た作品の要素がどんどん出てくる。その引き出しの豊富さにも驚かされた回だった。

MASTERキートン4話脚本:「天」が招く縁

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学の大学講師として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

舞台は極寒のポーランド東部。
冒頭からして、高屋敷氏の特徴である自然(雪)の静かな間がある。監督作の忍者マン一平と比較(コンテ疑惑もある)。こちらも、冒頭から雪の崖の「間」がある。 

f:id:makimogpfb:20170806160214j:image

雪の中、車を走らせていたキートンは、危うく老人を轢きそうになる。
幸い老人は無事。
老人は、自分は不死身だと豪語する。
彼もまた、高屋敷氏作品によく出る、味のある老人。忍者戦士飛影めぞん一刻・DAYS脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170806160300j:image

キートンは老人を車に乗せる。老人はセミョーノフという名の在米ロシア人。
寒さをしのぐため、キートンはブランデーをセミョーノフにあげる。
これも特徴の、「相手を思いやる贈り物」。ルパン三世3期脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170806160327j:image

セミョーノフは、スリルの無い人生などつまらない、と語る。スリル=人生のスパイス的なテーマは、元祖天才バカボン高屋敷氏演出・山崎晴哉氏脚本の話によく出てきた。アカギやカイジでも出てくるテーマ。

セミョーノフはロシアンマフィアに追われる身で、キートン達はロシアンマフィアの襲撃を受ける。
しかしセミョーノフの手荒な機転と知略で、二人は危機を脱する。特徴である火+煙草(葉巻)演出が、カイジ2期脚本とシンクロ。 

f:id:makimogpfb:20170806160418j:image

マフィアを撃退するために車を犠牲にしたキートン達は、雪の中を歩くしかなくなる。だが天候は悪くなり、吹雪に。強がっていたセミョーノフは倒れてしまう。演出参加した家なき子にてビタリスが凍死した場面を思い出す。
また、チエ脚本ともシンクロ。

f:id:makimogpfb:20170806160508j:image

セミョーノフが目を覚ますと、そこはキートンの作ったカマクラの中だった。
たき火場面は、演出でも脚本でもよく出てくる。家なき子演出でもよく出ていた。
画像はジョー1制作進行(脚本または演出手伝い疑惑あり)、ジョー2・チエ脚本。 

f:id:makimogpfb:20170806160538j:image

キートンはセミョーノフに、コートに残っていた、たった一つのチョコレートを差し出す。これも特徴の、「手から手へ想いを伝える」場面。カイジ脚本・シリーズ構成と比較(他も多数)。キートンと同じく、カイジも自己犠牲の精神で石田さんを助ける(1期9話脚本)。 

f:id:makimogpfb:20170806160608j:image

セミョーノフは、チョコレートのお礼に、ロシアの秘宝伝説キートンに聞かせる。
キートンは、父の話を聞く息子のような顔になって、その話を面白がる(特徴:疑似父子)。
チエ脚本でも、ジュニアが小鉄の昔話に聞き入る回がある。 

f:id:makimogpfb:20170806160702j:image

伝説は、ロシア革命の折、皇帝の命を受けたニキータ卿が、大量の金塊を英国へ運ぶことになった…という話。だが道中、鯨をUボートと勘違いして大きく迂回した折、船は氷山に激突。金塊もろとも船は沈没したとのこと。
あらゆる作品で頻出の地図が出てくる。チエ脚本と比較。 

f:id:makimogpfb:20170806160753j:image

ニキータ卿は命からがら生き残るも、息子に航海日誌を遺し亡くなる。だがニキータ卿の妻も革命の折に亡くなり、孤児となった息子はアメリカに渡ったという。
セミョーノフの話が、早口長台詞名調子(特徴)。セミョーノフ役の大塚周夫氏も名演。

なんとか吹雪を乗り切ったキートン達は、朝を迎える。ここでも、特徴である「全てを見ているような太陽」の間が発生する。
家なき子演出と比較。 

f:id:makimogpfb:20170806160832j:image

キートン達は、再びマフィアの襲撃を受ける。マフィア達によれば、金塊伝説に乗せられ、セミョーノフに10万ドルだまし取られたとのこと。
セミョーノフは、キートンをかばうも、狙撃されてしまう。
体を張る年上男性はよく出る。忍者戦士飛影ルパン三世3期脚本と比較。 

f:id:makimogpfb:20170806160914j:image

キートンは、昨夜の話は楽しかったのに…とセミョーノフを抱き上げ、悲しむ。
だがセミョーノフは、胸ポケットに入れていた日記に助けられ生きていた。これも特徴である「魂を持つもの」の活躍。監督作忍者マン一平でも、本が人の姿に変化する話がある。

f:id:makimogpfb:20170806160952j:image

日記は、金塊を運んだという、ニキータ卿のものだった。セミョーノフは、本当にニキータ卿の息子なのかもしれない。
セミョーノフは、「スリルが無くて何が人生か」と言い、キートンと二人で街を目指すのだった。
雪原を行く二人が、家なき子演出とシンクロ。 

f:id:makimogpfb:20170806161040j:image

  • まとめ

まず、演出参加作の家なき子とのシンクロが激しい。まるで、家なき子のビタリスの生存ルートのようだ。
ビタリスもセミョーノフも、主人公に人生の何たるかを教える役割を持つ老人。
暗黒ではあるが、カイジ(シリ構・脚本)の兵藤会長も該当する。

あと、「スリルが無いと人生は面白くない」というテーマ。
元祖天才バカボンの演出でも出てきたテーマだが、アカギやカイジでも、よく取り上げられている。予想だが、レースに命を賭けるF-エフ-(シリ構・脚本)でも出てくるのではないだろうか。

この「スリルのある人生こそ面白い」というテーマは、長年一緒に仕事した出崎統氏の作風がルーツかもしれない。
そして、一つしかないチョコレートを差し出すキートンの「無償の愛」は間違いなくカイジにも息づいている要素。

高屋敷氏の作品では、可愛かったり、優しかったりする中高年がよく出てくるが、今回のセミョーノフも、歌を歌ったり、茶目っ気があったりして可愛い老人。
シリ構・脚本のワンナウツも、可愛かったり大人気なかったりする中高年男性の宝庫である。

また、自然=キャラの一人、としての描写も今回大きい(特に雪)。セミョーノフは「いまいましい雪」と言うが、演出参加の家なき子も同様の台詞が出てくる。
雪は、キートン達を危機に陥れるが、キートンとセミョーノフが仲良くなる切欠も作っている。

めぞん一刻脚本では、雪の降る日に五代と響子が結ばれ、雪が丁寧に描写された。
今回は、雪がセミョーノフとキートンを引き合わせる。そして(カマクラで)二人の命を守り、仲を深める役を担った。
然るに、雪は重要なキーキャラクターと言える。

カイジでも、物語冒頭、カラスが鳴く曇天の日が不吉を予感させる。また、会長戦時には外が嵐になっている。
アカギは更に明確で、「嵐」がアカギと麻雀を引き合わせる。また、この「嵐」が無ければアカギは南郷や安岡と会っていない。

このように、太陽・月・天候等「天」が重要キャラであることが今回も描写された。
今回は、全編が雪景色であり、メインキャラはセミョーノフとキートンしかいない。だが「雪」という、もう1つのキャラがいた。ここに同氏の大きな特徴が出ていた回だった。