カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

花田少年史9話脚本:作品・年代を超えて描かれる、インチキオカルトへの怒り

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

花田少年史概要:

舞台は、カラーテレビが憧れだった時代の日本の田舎。
事故を切欠に幽霊が見えるようになってしまった少年・花田一路が遭遇する様々なドラマが描かれる。

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一路は下校途中に、占い師だと自称する謎の女に出会う。女は、かつてインチキ占い師だったが、今は違うらしく、「お隣さんが持ってきた大福を食べ損ねる」と一路の未来を予言。
画像はインチキオカルトの使い手集。今回、元祖天才バカボン演出、ルパン三世2nd・チエちゃん奮戦記脚本。

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彼女の予言を聞いた一路は、お腹がすいていたため、「大福大福大福…」と連呼(高屋敷氏の脚本における特徴)しながら急いで家に向かう。

帰宅すると、予言通り、お隣の山崎さんが大福を花田家にくれていた。一路は、最後の1個を姉の徳子と取り合う。食べ物を巡る醜い争いは高屋敷氏の作品にて頻出で、ど根性ガエル演出にも出る。

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争いの最中、大福は地面に落ちて台無しに。奇しくも、占い女の予言は当たった。元祖天才バカボン演出でも、僧侶の予言が次々当たる回がある。
一路は罰として、隣家の納屋に閉じ込められる。アニメオリジナルで夕日(特徴:全てを見守る太陽)が出てくるが、コボちゃん脚本と結構シンクロ。

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そして、納屋の中に占い女がテレポートしてくる。彼女は、自分が幽霊であることを明かし、生前はインチキ占い師だったが、死後は予言が当たりまくるようになったと話す。
一路は、幽霊が厄介事を持ってきた、と反発。そこで彼女は、もうすぐ納屋から出してもらえると予言。更に、今夜の夕飯が、約束のハンバーグではなく、肉の入っていないライスカレーであることも予言。

予言通り、母ちゃん(寿枝)が、夕飯はライスカレーだと言って納屋から出してくれる。
母ちゃんは優しく、ど根性ガエル演出の、ひろしの母ちゃんが思い出される。

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占い女の予言は続き、一路の皿にはイモが3個分配されるが、結局カレーを食べ損ねること言う。

予言通り、夕飯は肉の無いカレーだったが、一路の皿にはイモが4個入っていた。
特徴の飯テロ。DAYS脚本のカツカレーと比較。

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イモの数が予言と違うことで安堵した一路だったが、徳子がイモを1個奪う。またも姉弟の醜い争いが始まるが、見かねた一路の祖父・徳路郎がイモ1個を一路に差し出す。
ど根性ガエル演出にて、ケンカを止めるためにおかずを差し出す母ちゃんと比較(特徴:無償の愛)。

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だが寿枝に、数の不公平さが出るとたしなめられた徳路郎は、イモを自分の皿に戻す。結局、一路の皿には、予言通りイモ3個。

占い女は予言の的確さを自慢。うざがった一路は彼女に罵詈雑言を浴びせるが、それが父・大路郎に向けたものであると、皆に誤解される。

激怒した大路郎は、ちゃぶ台をひっくり返すが、大路郎と一路以外は、その前に皿を避難させる。
ルパン三世3期脚本にて、ルパンがテーブルをひっくり返しても、ご馳走を避難させていた次元と五右衛門が思い出される。
とにかく食いしん坊さが強調される。

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一路は再び納屋に閉じ込められる。占い女は、予言の的確さを自慢した上で、一緒に組まないかと持ちかける。彼女の目的は、生前騙した客に正しい道を示すことで、地獄行きを回避する事だった。
彼女は、いずれご馳走にありつけると言い、半ば強引に一路とコンビを組む。

女は、マダム・カトリーヌと名乗り、一路を弟子のムッシュ・イチ~ロと名付ける。
元祖天才バカボン演出にて、インチキオカルトを駆使する坊主に、パパが弟子入りする話があるが、それを彷彿とさせる。

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空腹でやる気が出ないと言う一路に、カトリーヌは、地蔵の傍にあった紙袋を渡す。
彼女は、袋の中にお菓子が入っているが、時を見極めて開けないと、食べられない物に変わってしまうと一路に警告する。
一路はそれを励みに、何とかカトリーヌと行動を共にする。

カトリーヌが贖罪したい一番目の客はホステス。特徴の、炎のアップが出る(キャラクターとしての炎)。ここはアニメオリジナル。コボちゃん脚本と比較。

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更に、原作通りだが炎が生き物のように燃え盛る。チエちゃん奮戦記・キートン脚本と比較。

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カトリーヌは一路の口を借り、田舎に帰って子を成せとホステスに助言する。

次に贖罪したい客は、受験生と、その母。
ここも、チエちゃん奮戦記脚本の、インチキ占い師が出てくる回と映像が似てくる。

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カトリーヌは再び一路の口を借り、受験生に「成人したら働け」と助言。

母子は激怒し一路にゲンコツするが、一路達はテレポートで脱出。
カトリーヌは満足し、また会いましょうと言って消える。ご馳走については、迷子になりながら家に帰れば食べれると予言。
その頃、一路の父と祖父は一路を探し回り、母は一路のためにハンバーグを焼いていた。特徴の飯テロ。カイジ2期脚本と比較。

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ハンバーグを焼く母を見て、徳子は嫉妬。ど根性ガエル演出にて、ひろしとピョン吉が母の愛を取り合う場面に重なるものがある。

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一方、カトリーヌから渡された紙袋を一路が開けると、犬の糞が入っており、一路は脱力(特徴:イカサマ)。だが父達の声は近付いて来ており、彼女の予言は当たるオチ。

  • まとめ

じゃりん子チエ脚本(2期含む)と同じで、原作に忠実でありながら、じわじわ高屋敷氏の個性が出てくる作り。
特に一路の食いしん坊ぶりが、ほぼ全編に渡り発揮されており、強調されている。コボちゃん脚本にて、やたら食べるシーンや飯テロが多かった事に重なる。

あと、幽霊に振り回される話は、監督作の忍者マン一平の最終回にもあり、その経験が生きているのが窺える。
忍者マン一平の場合は、散々世話をしてやったのに、一平達は幽霊に恩を仇で返される(幽霊自身は無自覚)が、今回の場合、一応報酬は貰える(予定)。

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あと、オカルト詐欺師については、私が見てきた中では元祖天才バカボン演出・ルパン三世2nd脚本・チエちゃん奮戦記脚本にて出て来ており、どれも、それに対する怒りのようなものを感じる。今回のカトリーヌも、地獄行き寸前だった訳で、面白い縁を感じる。

元祖天才バカボンでは、インチキ坊主が、どうとでも取れる予言をパパに言い、パパが坊主を信じてしまう事例が描かれる。この場合は、パパにかけられた洗脳が、バカボンの涙により解かれ解決する。
一方今回のカトリーヌは死んでおり、既に罰を受けている状態。

カトリーヌは今まで騙した客に対し贖罪をして回るわけだが、人生において的確な助言をするのみ。

そしてカトリーヌは、他の客については、騙された事に既に気付き学んだから、贖罪の義務は無いと言う。ここは、善悪の区別は単純ではないという高屋敷氏のポリシーが浮き出ている。

紙袋を使ったイカサマについてだが、これも、カトリーヌが培ったイカサマ術にかかれば、子供の一路など簡単に騙せることが描かれている。結局一路は、「開ける時を間違った」と信じ込んだままになっており、子供の無邪気さが出ている。これも、高屋敷氏の得意分野。

原作通りにしろオリジナルにしろ、高屋敷氏の作品にはイカサマの上手いキャラは沢山出てくるわけだが、善悪問わず、それに感心させられる作りになっている。
対してオカルト詐欺については、前述の通り、怒りのようなものが表れている。何故かは不明だが。

それとは別の話になるが、母の愛情についても、今回含めてクローズアップされることが多い。
また、なんだかんだ言っても一路が家族に愛されている事も描かれている。
疑似家族にしろ、血縁家族にしろ、家族愛が強調されているのも興味深い。

まとめると、
オカルト詐欺に対する怒り・イカサマ・善悪の区別の難解さ・幼さ・家族愛・母性・食いしん坊・飯テロ
について今回は強調されている。2000年代ともなれば、高屋敷氏の引き出しはかなり豊富。その歴史を感じる回だった。

1980年版鉄腕アトム13話脚本:「悪い心」の欠如

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。
監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。

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ロボット展覧会の目玉であるロボット・電光は、偏光で照らさない限り、透明で姿が見えない仕様の美しいロボット。
高屋敷氏特徴・「意思を持つ“物”が人知れず様々な事象を見ている」にマッチした設定。 

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そんな電光を、スカンクが狙う。煙草演出が渋い(特徴)。カイジ2期脚本と比較。色々な作品で、煙草が原作より目立つ。今回のはアニオリ。

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スカンクは、電光を盗むことに成功する。

そしてスカンクは電光に次々と悪事をさせる。原作では悪事の描写が長いが、映像で見せることで大幅に短縮。文字演出も使い、大胆に省略している。ジョー1脚本疑惑・アカギ・カイジ2期脚本と比較。

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更にスカンクは、ヒゲオヤジに電話をかけ挑発。そこで、ヒゲオヤジはスカンクを挑発し返す(特徴:知略)。逆上したスカンクは、電光を見せると言ってヒゲオヤジと待ち合わせの約束をする。煽りの上手いカイジ(脚本)に重なる。 

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ヒゲオヤジはスカンクとの待ち合わせ場所周辺に警官隊を配置。そこへスカンク一味と電光がやってくる。だが、作戦を知らないアトムが直情的にスカンク一味を攻撃し、作戦は台無し。直情的な義憤では勝てない…というメッセージは高屋敷氏の作品に多く出る。

作戦を台無しにしてヒゲオヤジに叱られたアトムは、自室にて落ち込む。そこへ、電光が訪ねてくる。先程戦った時に、アトムが人間と違うことに気付いたためだ。

アトムは、電光を街へ連れ出し、善悪の区別を教えようとする。街がクリスマス仕様なのはアニオリ。

電光は、アトムの指示で善行をする。帽子を拾ってかけ直すのは、ジョー1脚本疑惑・赤ルパン脚本に、男にしつこく絡まれる女性を助けるのは、ど根性ガエル演出に出てくる。この善行内容はアニオリ。
悲しいことに、人々は電光が透明なので恐がる。

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それでもアトムは電光をクリスマスパーティーに誘う。
パーティーに来た電光にアトムは、位置を確認するためのパーティーハットをあげる(特徴:その人に必要な贈り物)。監督作忍者マン一平でも、仲間を救う為に髪を失った一平にサンタが帽子をくれる。

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アトムから、電光がパーティーに来ることを聞いていたヒゲオヤジは、サンタに扮して発信機入りのペンダントをプレゼントし、電光にカラースプレーをかけ、何とか足だけは視認できるようにする(特徴:知略)。発信機作戦はルパン脚本にも出る。

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スプレーを嫌がった電光は逃走、スカンクの元へ戻る。
スカンクは、視認できるようになった電光を用無しと判断。時限爆弾を持たせ、ヒゲオヤジの元に向かえと命令する。爆弾を気に入った電光は爆弾を人に渡すのを嫌がるが、結局命令に従う(特徴:無邪気)。

一方、発信機によりスカンクのアジトを突き止めたアトム達は、スカンク一味を捕らえる。
その直後、お茶の水博士から、電光が爆弾を持ってアトム宅に現れたが逃走したという連絡が入る。
発信機はスカンクにより外されてしまったため、捜索は難航。

大々的な捜索の末、電光は筑波山麓にいると判明。
吹雪の中さまよう電光の姿が、家なき子演出や、じゃりん子チエ・MASTERキートン脚本と重なる。

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電光の進行方向には病院があり、このままでは大惨事を招くとして、警官隊はやむを得ず電光を電磁分解砲で破壊する。

電光は、雪山の中死んでしまうが、MASTERキートン脚本では、雪山の中、狙撃されたセミョーノフが生き残っている。

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アトムは「誰も恨みません…」と言うも、せっかく友達になれたのに…と悲しむ。
そして夜空に星が輝くのだった(特徴:一キャラクターとしての“天“。また、ここはアニオリ)。元祖天才バカボン演出と比較。

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  • まとめ

高屋敷氏特徴である、「無邪気さ」が、今回は悲劇を招く。
また、善悪の判断がつかない電光は、原作通りの設定ながら、同氏のテーマの一つ「善悪の区別は単純ではない」を色濃く押し出しやすいキャラクターとなっている。

元祖天才バカボンにおける高屋敷氏の演出や脚本では、パパの無邪気さが大惨事を招くことが多い。元祖天才バカボンはギャグで済むが、今回は深刻で、最悪の結果を招いてしまう。
無邪気さとは何なのかも考えさせられる作りになっている。

また、同氏がよく作品に込めるメッセージである「直情的な義憤だけでは勝てない。理も必要」が、今回も、アトムの義憤がヒゲオヤジの作戦を台無しにしてしまうという流れを印象づける事により出ている。

ヒゲオヤジがサンタに扮して電光に発信機をつけ、足に塗料を付着させる場面はアニオリ。
原作では、スカンクのアジトを見つけるのも、電光の足に塗料を塗るのもアトム。
アニメではヒゲオヤジにこれをさせる事で、大人と子供の差別化を図っている。

ヒゲオヤジは今回、挑発や煽り、知略、騙しテクニックなど、大人かつ人間ならではの策を使う。
対して、子供の心を持つアトムにはそれができない…ということが招く悲劇とも取れるように、今回の話は設計されているのではないだろうか。

勝負に勝つには義憤だけでなく知略や悪知恵も必要…という高屋敷氏のテーマは、ど根性ガエル演出、まんが世界昔ばなし脚本「きつねのさいばん」からアカギ・ワンナウツカイジ脚本&シリ構まで強く発せられているが、アトムには備わっていない機能。

原作序盤でも、スカンクが「アトムは完全じゃないぜ。なぜなら、わるい心を持たねえからな」と言っている。
高屋敷氏はこれを話の焦点にしているように見える。上記のスカンクの台詞は、アニメには無いが、話全体でそれが解る作り。

人間的な悪知恵や知略を使う事をヒゲオヤジに担当させる事により、アトムに備わっていないもの…すなわち「わるい心」が浮き彫りになっている。
そして、「人間とロボット」「大人と子供」の差が淡々と描かれている。どちらが悪いとも言わず…。

それを受けての、アトムの終盤台詞「誰も恨みません…」なのではないだろうか。原作通りだが、直後のお茶の水博士の台詞、「スカンクが悪いと思いたまえ」がアニメには無い。これにより、「善悪の区別は単純ではない」という高屋敷氏のテーマを出せている。

ちなみに、電光の声は菅谷政子さんで、エースをねらえ!のマキや、家なき子のレミと同じ声。エースをねらえ!家なき子も、高屋敷氏演出参加作。それも手伝い、今回の話が「保護者がいない場合のレミ死亡ルート」にも見える。

1980年版アトムは、原作の長い話を、超圧縮して1話で完結させるスタイル。
今回、幸いな事に原作との比較ができたが、「どこを省略し、どこを強調させるか」が見えた。それにより、同氏の提示するテーマが益々見えた回だった。