カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

蒼天航路1話脚本:「天」を読む者、「天」を掴む

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

アニメ・蒼天航路は、曹操の生涯を描いた同名漫画のアニメ化作品。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

冒頭、中国の空想上の怪物・トン(犭貪)の話が語られる。トンは世界の全てと自身を喰らい、世界を無にするという。
映像が、高屋敷氏が演出や脚本をした、まんが世界昔ばなしの雰囲気に似る。
また、太陽のアップ(特徴)も入る。太陽の使者鉄人28号脚本・家なき子演出と比較。

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物語(蒼天航路)についてのナレーション中、太陽に照らされた玉座が映る。

ここも、物(玉座)をキャラと捉えていて(特徴)、存在感がある。家なき子演出と重なる。

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そして太陽が映り、主人公の曹操が映る。特徴の、太陽=重要キャラ。太陽の使者鉄人28号あしたのジョー2脚本と比較。

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後漢の宦官・曹騰(そうとう)の養子・曹嵩(そうすう)の子として生まれた曹操は、快活な少年。曹操と曹騰は、血のつながりがなくとも仲がよい(特徴:疑似家族)。
曹騰もまた、高屋敷氏の作品に多く登場する、やさしいお爺さん。はだしのゲン2・めぞん一刻花田少年史脚本と比較。

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曹操は曹騰から、書物を曹嵩に届けてほしいと頼まれる。曹操は、義理の従兄弟で幼馴染みの曹仁と共に、書物を持って外へ出る。
都は治安が悪く、民衆は貧困にあえいでいた。
偶然にも、高屋敷氏はベルサイユのばらコンテにて、フランス革命直前時代の貧民の様子を描いている。

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曹操曹仁は、貧民が屯する通りにて、賊に襲われる。刃物を向けられても毅然とする曹操の鋭い眼光に、賊はひるみ、眼が気にくわないとして曹操に酷い暴行を加える。
カイジ2期脚本では、全てを賭ける覚悟を決めたカイジの鋭い眼差しを、遠藤さんが直視できない描写がある。

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曹操は結局、書物を賊に奪われる。が、傷つきながらも曹操は賊に追い付き、剣で賊を斬る。
曹仁は、なにも殺さなくても…と言うが、曹操は、人を脅し殺める者を「天も我も許さじ」と言う。高屋敷氏は「天」を重要キャラと捉えているので、ここを相当に強調している。

その後曹操は、文武両道に秀でる若者に育つ。

ある日、曹操が盗賊狩りをしていたところ、仲間が盗賊に殺されてしまう。そこへ、許チョという巨漢の若者が加勢に入る。許チョの大声で盗賊達が怯むが、じゃりん子チエ脚本にて、ヒラメの音痴さに皆が倒れる回が思い出される。

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許チョ曹操は意気投合。曹操は、仲間に会いに行くために許チョと川を下る。
許チョは月を読むことができ、明日は嵐になると予測。高屋敷氏特徴の、月=重要キャラ。火の鳥鳳凰編脚本・元祖天才バカボン演出・一歩3期脚本と比較。
また、天の流れを読めるキャラも強調される。 

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許チョは「お月様は15個ある」と主張し、それを聞き曹操は笑う。高屋敷氏特徴の、無邪気で幼い描写。絵に関与できない「脚本」でも、画が似通うのが毎度不思議。忍者戦士飛影・DAYS脚本と比較。

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曹操許チョは、明日再会することを約束し別れる。そして曹操は、後の曹操軍四天王となる仲間、夏侯惇、夏候淵、曹仁曹洪と会う。
ここも、月が印象的に描かれ、月が一同を引き合わせる役割をしている。はじめの一歩3期脚本でも、沢村とライバル達を、月が引き合わせる。

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曹操夏侯惇らは、爆裂団というゴロツキ集団と対立しており、彼らを倒すための会議をする。ここで、高屋敷氏特徴の火のアップ・間が出てくる(火=重要キャラ)。太陽の使者鉄人28号・チエちゃん奮戦記・花田少年史脚本と比較。

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爆裂団のリーダー・李烈は、自らを始皇帝に続く者と名乗り、仲間を増やしていた。
曹操は、李烈の「舌」、つまり李烈の論を覆すことが勝ちへの道だと説き、作戦を任せて欲しいと言う。
舌を出す描写は、高屋敷氏の作品によく出てくる。多数あるのだが、カイジ2期脚本と並べてみた。

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翌日、李烈と対峙した曹操は、問答の末、李烈を論破。論を交わす姿が、カイジ2期脚本のカイジと一条を思わせる。

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また、許チョの予測通り、天候は嵐となり、それを利用して、曹操は爆裂団を破る。アカギ・ルパン三世3期脚本も、自然が大きな役割を担う。

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許チョの活躍もあり李烈は戦死。爆裂団の生き残りは曹操達の配下となる。
許チョ曹操から報酬を得る。そして、曹操の頭巾を友情の証として貰う(特徴:物=キャラ)。ルパン三世3期と比較。

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ここも太陽がキャラとして印象的に描かれている。はだしのゲン2脚本と比較。

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  • まとめ

冒頭の、トンについての伝説パートが、まんが世界昔ばなしっぽい件は、高屋敷氏も、今回コンテの芦田総監督も、まんが世界昔ばなしに参加していたためかもしれない(芦田氏は主にキャラクターデザイン)。
まんが世界ばなしは様々なクリエーターの素の部分が出ており、非常に貴重な作品。

今回の目玉は、曹操許チョが月や天候など、「天」を読み、かつ味方につける事ができるキャラだということを強調している点。
今回の曹操のように、ワンナウツ(脚本・シリ構)でも、渡久地が雨を味方につけている。また、太陽の使者鉄人28号脚本でも、火山を利用する。

そして今回も、太陽や月が、キャラクターとして大きな役割を担っている。演出時代から目立つ高屋敷氏の特徴だが、年を経るにつれ、そのストーリー性や重要性が増している。
「なぜ月や太陽を映すのか」の意図が明確になっており、意思を持つかのような殺気がある。

脚本面の技術としては、わずか22分前後の尺に、色々と話を詰め込み、曹操の少年期~青少年期を1話内でやりきっている驚異の圧縮術が光る。
これは、1980年版鉄腕アトム脚本にて磨かれたと思われる。1980年版鉄腕アトムは、脚本の密度の濃さが目を引く作品。

また、1話のクライマックスとして、李烈と曹操の問答~戦闘を持ってきたのも、非常に高屋敷氏らしい構成。
論をもって戦を有利に導くのは、あらゆる作品で言葉の駆け引きを描写してきたことが生きている(カイジの脚本・シリーズ構成含む)。

序盤の、少年期の曹操が賊を斬るエピソードでは、高屋敷氏が得意とする「少年から男への豹変」が描かれている。
家なき子最終回演出はじめ、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)の五代、カイジ(脚本・シリーズ構成)のカイジなども、無邪気な青年が「男」に豹変する様が描かれている。

曹操は、一人の「男」であるが、後に魏を起こす「覇者」でもある。
その「覇者」たる者は「天」や「自然」を読み、味方につける力を存分に持っているということが、今回強調されている。

本作では、「男への成長」と共に、「覇者への成長」も描く必要がある。
そのため、前述の「天や自然を読む力」を持っている曹操の姿を描くことに重点を置いていると思う。言うなれば、「天」を掴むには、「天」を知らなければならない。

カイジの脚本・シリーズ構成においても、「天」は何度も強調される。ある意味天下を知る兵藤会長を倒すには、カイジは「天」を読まなければならない。カイジの場合、あくまで「地」または「地獄」から、「本物の天」を読み、「偽の天」を討つべしという構成になっている。

カイジ2期脚本では、「天は人の上に人を造らず」という諭吉の格言を、カイジが「チャンスを掴めばバカでもクズでも勝者」と解釈する様を相当に強調している。ここでも「天」。カイジは覚醒すると、「天」がもたらすチャンスを読もうと努力し、具体的な知略を巡らす。

曹操カイジ、まったく違うように見えても、「天」を読める点では同じ。他の作品でも、そういうキャラは多い(特に主人公)。
主人公は、ものいわぬ「天・自然・物」の声を聞き、流れをを読める人間であってほしいという、高屋敷氏のポリシーを再確認できる回だった。

太陽の使者鉄人28号47話脚本:「己」を失う恐ろしさ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。) 

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。
少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。
監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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フランスのベルサイユ宮殿に展示されていた王冠・「マリーの瞳」が、謎の巨大ロボットにより盗まれるという事件が発生。
高屋敷氏はコンテ、本作監督の今沢哲男氏は演出として「ベルサイユのばら」に参加しており、そこからのネタと思われる。

また、美術品を盗むというのが、ルパン三世(高屋敷氏脚本or演出)やキャッツアイ(同氏脚本)を彷彿とさせる。今回のは、ダイナミックすぎるが。

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犯人は自称ドロンボ党総裁・ドロンボ。
高屋敷氏のルパン三世脚本回に、「トロンボ」という警察官が出てくるので、名前の使いまわしが見られる。元ネタ自体は「泥棒」や「刑事コロンボ」のもじりだが。高屋敷氏の名前付けは、言葉遊びや楽屋ネタが多い。 

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ドロンボは、ドイツの研究所から盗んだロボット・イカロスを駆り、美術品を盗んでは闇ルートに流すという犯行を繰り返していた。
そして今度は鉄人を盗むことにする。
ドロンボの秘書はビジネスライクで個性的な美女。ルパン三世における高屋敷氏の脚本や演出の不二子もビジネスライク。

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ドロンボは、鉄人を盗む事は自分にうってつけの仕事だと、自信満々でグラスを見つめる。
高屋敷氏特徴の「真実を映す鏡」演出。
キャッツアイ・忍者戦士飛影脚本、ベルサイユのばらコンテと比較。

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イカロスはいつもカナダ上空でレーダーから消えるので、ICPOはドロンボのアジトがカナダにあると推測。
正太郎・大塚警部・鉄人は早速カナダへ飛び、地元警察のギャバン警部に会う。ギャバン警部の喫煙仕草が渋い(特徴)。アカギ・カイジ脚本と比較。

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正太郎達は、イカロスが消える地点の周囲を調べる。
それを知ったドロンボは、盗む対象が自らやって来たとして、イカロスで鉄人を迎撃する。
だが、イカロスは鉄人に苦戦。そこでドロンボは正太郎を狙う。悪役としてはマナー違反だが、敵も頭を使うのが高屋敷氏の特徴。

イカロスに追い詰められた正太郎は、崖から川に転落してしまう。
大塚警部達が必死に捜索するも、正太郎は行方不明に。
ここで、特徴である夕陽のアップ・間が入る。ベルサイユのばらコンテ、コボちゃんめぞん一刻脚本と比較。

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正太郎が見つからず、大塚警部は泣く。高屋敷氏の作品では、おじさんが泣く場面もよくある。ルーツは、脚本デビューの「あしたのジョー1」にて段平がよく泣くところからではないかと思われる。
カイジ2期脚本と比較。

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一方正太郎は、ドロンボに助けられるも、捕らわれの身になっていた。ドロンボの目的は、鉄人の操縦法をコンピューターにインプットすること。
それを強く拒む正太郎だが、特殊な機械により催眠をかけられてしまう。

その頃、敷島博士(正太郎の父の友人)とブラックオックス(鉄人のライバルだった自律ロボ)は、大塚警部達の応援に駆けつけていた。
ドロンボは、格好のデモンストレーションになるとして、催眠にかかった正太郎が操る鉄人と、ブラックオックスを戦わせる。催眠にかかって己を失った正太郎と、ギャンブルに脳をやられ己を失ったカイジ(脚本)を比較。

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鉄人とブラックオックスは互角の戦いをする。
その最中、正太郎が催眠にかかっているのに気付いた敷島博士は、ブラックオックスで正太郎を捕らえる。
一回気絶し、目覚めたことで催眠が解けた正太郎は、鉄人を正しく操り反撃。ブラックオックスと共にイカロスを倒す。

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ドロンボはイカロスから脱出するも、捕らえられる。
ジタバタするドロンボには愛嬌があり、中高年のコミカルな描写が上手い高屋敷氏の特徴が出ている。ルパン三世2nd演出と比較。

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また、喜ぶ大塚警部達が可愛い(特徴)。監督作忍者マン一平と比較。

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その後、ドロンボのアジトも発見され、闇ルートも明らかに。
レストランにて、正太郎達は乾杯するのだった。
満月に向かい乾杯しているような画に、月を重要キャラと捉える高屋敷氏の特徴が出ている感じがする。
監督作忍者マン一平蒼天航路脚本と比較。 

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  • まとめ

今回の脚本は、ファンに人気のあるブラックオックスと、鉄人を戦わせる状況を作る目的があるような気がする。確かにこの2機が戦う姿はかっこいいので、ブラックオックスが味方側についてもなお、鉄人と戦う姿が見たいというファンが多かったのでは。

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そして、高屋敷氏が打ち出すテーマの一つ、「己を強く保て」もよく出ている。
己を失った正太郎が操る鉄人は、恐ろしい兵器となってしまう。
また、鉄人は正太郎のアイデンティティの一つなので、高屋敷氏作品によくある、アイデンティティ喪失の危機でもある。

思えば、本作の高屋敷氏脚本担当作にて、正太郎はコントローラーをなくしたり、コントローラーを操る要である手を怪我したり、敵に催眠をかけられたりしている。
つまり、人間側に試練を与える展開が多い。それを克服してこそ一人前ということかもしれない。

「一人前」という概念は、高屋敷氏が多く演出を担当(最終回含む)した家なき子に、よく出てくる。家なき子では、「男は、いつか一人で生きていくもの。誰にも頼らず自分の力で生きてこそ一人前」というビタリスの教えが軸になっている。

そして、この「太陽の使者鉄人28号」では、人間側の正太郎に試練を課すことで正太郎が「一人前」になることを望んでいるような感じを受ける。ただ、あくまで「自発的」にそれができるよう促しており、今川版ジャイアントロボのような、父との関係についての苦悩はない。

今回、己を失った状態がどれほど恐ろしいかを描いているが、カイジ2期脚本でも、一見コミカルな、地下でカイジが久々にビールを飲むシーンにて、それが表れている。禁欲から解き放たれた時こそ、人間は己を失って欲に溺れるという真理を描いており、それを知る班長の恐ろしさも描かれている。

正太郎もカイジも、まさに死と隣り合わせの試練を与えられている。
それは、家なき子で提示された「一人前」となるための布石とも取れる。
そう考えると、高屋敷氏は、家なき子に相当な思い入れがあるのではないだろうか。
太陽の使者鉄人28号とは、年代も近い。

あと、再度「己を強く保て」について述べると、カイジの構成・脚本にて「オレがやると決めてやる。ただそれだけだ」や、やさしいおじさんの「帝愛じゃねえ、俺だ。俺がやるって言ってんだ」など、原作通りだが「己を強く持つ」台詞が相当に強調されている。

特に「帝愛の黒服」の一人にすぎなかった「やさしいおじさん」が自我を取り戻し、カイジを助けるのは重要な事として強調されている。
カイジもまた、2期1話の、ギャンブルに脳を焼かれ己を失っていた状態から、試練を通して自我を取り戻し、人間愛を発揮する。

今回、催眠にかかった正太郎は、鉄人の恐ろしさを示すが、正気に戻ると、鉄人を正しく使い悪を倒す。
一方、カイジにおいては「金」という力をどう使うかを問われ、最終的に、カイジは自分の意志で、人を救う事に使う。
そんな、力の使い方の共通性も感じた回だった。