カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

空手バカ一代45話演出・コンテ:生き急ぐ若者を導く大人達

アニメ・空手バカ一代は、同名漫画のアニメ化作品。空手家・飛鳥拳(実在の空手家・大山倍達がモデル)が、己の空手道を極めるために、国内外の強敵と対戦する姿を描く。
監督は岡部英二・出崎統氏。
今回は、脚本が硲 健氏(誰かの変名という噂がある)、演出・コンテが高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

帰国して空手道場を開いた飛鳥は、亡き愛弟子・有明に似ている高津に注目する。
しかし高津は、若さゆえに町中で喧嘩をする日々。そんな彼に飛鳥は、自らの体を張り、空手で私闘をしてはならぬと教えるのだった。

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開幕に、高屋敷氏の大きな特徴である太陽のアップ・間がある。今回も、「すべてを見ているキャラクター」としての存在感がある。
画像は開幕太陽集。今回、ワンナウツ・らんま脚本、元祖天才バカボン演出。

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高津が、亡き愛弟子・有明に似ていると、飛鳥が物思いにふける場面では、これまた高屋敷氏の大きな特徴・ランプの意味深アップが出る。
あしたのジョー2・ワンナウツカイジ2期・めぞん一刻・らんま・RIDEBACK脚本と比較。

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高津が、女性に絡むチンピラに喧嘩を売る場面があるのだが、ど根性ガエル演出や、1980年版鉄腕アトム脚本に重なるものがある。ど根性ガエルについては、同作品における高屋敷氏の演出の初回。思い出が強いのかもしれない。

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町中で喧嘩をした高津を、飛鳥がいさめる場面では、雨が印象的に描写される。天候や自然に重要な役割を持たせるのも、高屋敷氏の担当作によくある。1980年版鉄腕アトムめぞん一刻脚本と比較。

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Bパート開始時にも、高屋敷氏特徴の、意味深な太陽のアップ・間がある。画像は意味深夕陽集。今回と、エースをねらえ!演出、マッドハウス版XMEN脚本、ベルサイユのばらコンテ。
どれも物語と連動している。

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高津には瀬川という親友がおり、ヤクザと喧嘩をしようとする高津を懸命に止める。
熱かったり、可愛かったりする男同士の友情は、高屋敷氏の得意分野。めぞん一刻脚本、監督作忍者マン一平と比較。他も多数。

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ヤクザと喧嘩した高津の責任者として、飛鳥がヤクザに詫びを入れる場面が、アカギ脚本にて、アカギがヤクザに脅される場面と重なってくる。どちらも、ヤクザに物怖じしない。

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責任者として、ヤクザにボコられても無抵抗でいた飛鳥だったが、拳に対する落とし前は拳だけにして欲しいと言い、真剣白刃取りを披露。恐れをなしたヤクザは退散。ヤクザ達のびびり具合が、カイジ2期脚本のチンピラと重なる。

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飛鳥と、師範代の黒木は、高津に「空手に私闘なし」を教えたわけだが、二人の大人が若者を導く姿勢は、アカギ脚本における仰木(ヤクザの若頭)や安岡(アカギのプロモーター的な悪徳刑事)に通じるものがある。仰木と安岡は、生きるのに飽きているアカギに、ある意味、鷲巣(物語のラスボス)という生きがいを与えた。

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飛鳥は高津を破門せず、明日からしごいてやると宣言。飛鳥は、人に教えを授ける難しさ・尊さを知るのだった。そんな彼等を、月が「見ている」。これも、月や太陽を重要キャラと捉える、高屋敷氏の大きな特徴。
画像は、見守る月集。今回、蒼天航路脚本、エースをねらえ!演出、はじめの一歩3期脚本。

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  • まとめ

今回は、アカギ14話(脚本)と比較すると面白い。今回の高津も、アカギも、若さゆえに生き急ぎ、ヤクザと対立する。また、どちらも、自分に正しさがあるとして譲らない。

今回の場合は、飛鳥と黒木が、アカギの場合は仰木と安岡が、大人として駆けつける。

飛鳥は身をもって高津に、空手の精神や本当の強さを教え、黒木は、飛鳥の真意を高津に伝える。

一方アカギの方は、安岡が体を張ってヤクザとアカギの間に割って入り、仰木がヤクザと交渉してアカギを救い出す。

今回の高津は、有り余る若さと力をもて余しており、アカギは、生きるのにも死ぬのにも興味がないというか、無に近い境地におり、命知らずである。

飛鳥と黒木の熱い思いにより、高津は、本当の強さとは何なのかを知る。

アカギの場合は、仰木と安岡が、身を焦がすような勝負を求めるアカギのハングリーさを見越して、鷲巣という怪物を紹介する。

年上男性と、青年や少年の交流は、高屋敷氏の得意分野で、数多くの作品に生かされている。今回、その初期タイプが見られたのは収穫。

また、今回も、高屋敷氏の大きな特徴である、ランプ演出の初期タイプが見られたのも収穫だった。

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今回のような初期タイプにしろ、昨今の作品にしろ、ランプのクローズアップは「意味のあるもの」であることがわかる。また、今回のような演出・コンテ作ならわかるが、「脚本」作でも、同じような「ランプ演出」が炸裂するのは、やはり不思議。脚本とは、台詞を並べればいいわけではないことが窺い知れる。

ランプだけでなく、太陽や月、自然、天候、無機物など、「喋らないもの」を、高屋敷氏は「脚本」でも「活躍」させる。その手腕には、いつも驚かされる。
何故そのような脚本になるのかは不明だが、今回含む、豊富な演出経験が生かされているのは確か。

今回で、空手バカ一代における高屋敷氏の担当回は最後となる。ランプ演出の異様な強調具合をはじめ、後の担当作に繋がる要素が多数あり、非常に貴重な作品だった。

空手バカ一代44話演出:「自然」と一体になる魂

アニメ・空手バカ一代は、同名漫画のアニメ化作品。空手家・飛鳥拳(実在の空手家・大山倍達がモデル)が、己の空手道を極めるために、国内外の強敵と対戦する姿を描く。
監督は岡部英二・出崎統氏。
今回は、脚本が吉原幸栄氏、コンテが出崎統氏、演出が高屋敷英夫氏。

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以前書いたが、本作は監督を「演出」、各話演出を「演出助手」とクレジットしているので、本作の演出助手=各話演出とする。実際の内容も、各話演出助手でかなり雰囲気が違う。クラシック作品においての演出(現場監督のような立場)は、なぜか個性のばらつきが激しい。

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  • 今回の話:

香港にて、太極拳の達人・陳と手合わせした飛鳥は、陳の熟練した動きの前に敗れる。

その後 、陳から太極拳の心技を学んだ飛鳥は、武者修行の旅から帰ってきた陳の弟子・カオと勝負し、陳から学んだ「武道の心」で勝利するのだった。

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冒頭、出崎演出でおなじみの太陽+航空機構図が出る。今回はコンテが出崎統氏だが、高屋敷氏は「脚本」からでも似た感じの画が「出力」されるのが、毎度の怪。忍者戦士飛影・太陽の使者鉄人28号脚本、元祖天才バカボン演出と比較。

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舞台となる香港は、高屋敷氏の作品にて複数回登場している。今のところ、私が視聴済なのはルパン三世2nd脚本と、太陽の使者鉄人28号脚本。他にもあるかもしれない。

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ホテルのネオンの意味深なアップ・間に、高屋敷氏らしさを感じる。めぞん一刻脚本と比較。この「間」も、脚本からでも出るのが不思議。

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タクシーのシーンで、出崎演出定番の坂道遠近が出るが、高屋敷氏単独でも出す。高屋敷氏のルパン三世2nd演出・コンテ、ベルサイユのばらコンテと比較。

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太極拳の達人・陳は、一見柔和な老人だが、心技ともに飛鳥を凌駕するほど強い。味のある老人を描写するのは、高屋敷氏の得意分野で、演出・脚本ともに、視聴者の心に残る老人は多い。画像は今回と、監督作忍者マン一平蒼天航路忍者戦士飛影脚本。

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飛鳥と陳が手合わせする場面にて、竹林の意味深な描写があるが、こういった、意思を持つかのような自然の描写は高屋敷氏の演出・脚本作で多い。めぞん一刻マッドハウス版XMEN・チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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陳による円・球の動きを説明する場面にて、陳の身体がゆっくり回転する。
360度きっちり作画する回転描写は、出崎哲・統兄弟の特徴。高屋敷氏も、それに則り単独でも出し、かつ「脚本」でも出力される。画像は今回と、チエちゃん奮戦記脚本、監督作忍者マン一平

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飛鳥が陳の下で修行する場面では、滝が出てくる。どうやら出崎統氏は滝が好きなようで、エースをねらえ!(監督は出崎統氏)でも出る(演出は高屋敷氏)。そして高屋敷氏監督作忍者マン一平、同氏シリーズ構成カイジ2期でも、滝は印象的に描写されている。

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滝に続き、花も意味深に描写される。これも、「間」に、高屋敷氏の、「自然や物は意思を持っている」というポリシーが表れている。あしたのジョー2・めぞん一刻マッドハウス版XMEN脚本と比較。

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武者修行から帰ってきたカオを迎える場面でも、龍の像のアップ・間がある。像は、高屋敷氏の作品に多く出て来る。像には「魂」がこもりやすいからかもしれない。あしたのジョー2脚本、ベルサイユのばらコンテ、カイジ脚本と比較。

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カオが、虎を倒した話をする場面にて虎の絵が映るが、これも独特な「間」がある。また、アカギ脚本の虎の絵と重なるものがある。こちらも「間」がある。

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続いて、龍の絵も、「間」をもって、意味を持つ表現になっている。カイジ2期・DAYS脚本でも、意味を持つ「絵」の「間」が出てくる。

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そして月も、全てを「見ている」かのような「間」と共に表現されており、この特徴は、高屋敷氏の作品に数多く出てくる。
はじめの一歩3期・あしたのジョー2・マッドハウスXMEN脚本と比較。脚本作でも、演出作と同じような「間」があるのが、やはり不思議。

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飛鳥は、陳から教わった「心」をもってカオを倒し、日本へと帰国する。
飛行機+太陽のシーンが、マッドハウス版XMEN「脚本」とシンクロを起こしている。

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奇跡と片付けずに考えると、「コンテ師が画を想像しやすい脚本」だから、かもしれない。だが、シンクロ現象が多過ぎて、そこはもう怪現象としか言いようがない。

ラストでは、不屈の精神の象徴としての龍が出てくる。蒼天航路(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)の龍が思い出される。

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蒼天航路では、原作通りだが、三國志の英傑は龍に喩えられ、死す(成長しきる)と龍となり昇天する。
蒼天航路のシリーズ構成では、「成長しきると龍となる」ことが強調されていた。
今回の場合も、飛鳥の成長が、龍に喩えられている。

  • まとめ

自然と一体になって悟りを開くような、陳の説く「武道の心」は、高屋敷氏がよく表現する、「意思を持つかのような自然や物」と相性がいい。いや、そうなるように高屋敷氏の「好み」が話に出ているからかもしれない。この時代の各回演出は、各自、「好み」を強烈に出してくる傾向がある。

家なき子」「エースをねらえ!」など、出崎統監督作品では、コンテが出崎統監督で共通していても、竹内啓雄氏と高屋敷氏の演出は極端に違う。それだけ、出崎統氏のコンテを、どう「演出」するかは、演出担当者の個性にかかっているのかもしれない。これは、漫画原作とアニメスタッフの関係に似たものがある。出崎統氏は漫画家経験があるだけに、興味深い。

今回、高屋敷氏が前面に出したいテーマの一つに、「不屈の精神を持つ者は、成長して龍となる」がある。前述のように、高屋敷氏は、蒼天航路のシリーズ構成にて「英傑が龍となるまでの成長」をテーマの一つにしている。偶然か意図的か、この2作品に共通点があったのは驚き。

また、今回描かれた「不屈の精神」の大切さ。カイジのシリーズ構成・脚本においても重要な構成要素になっている。

ルパン三世2nd、太陽の使者鉄人28号などの脚本でも、一度負けてからのリベンジという構成は多め。ルーツはやはり、デビュー作のあしたのジョー1脚本(無記名)と思われる。

今回は、舞台が香港であることをはじめ、後年の色々な作品のルーツを多く発見できた回だった。