カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

陽だまりの樹 脚本:感想ツイート集

アニメ・陽だまりの樹は、手塚治虫氏の同名漫画をアニメ化した作品。監督は杉井ギサブロー氏、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

高屋敷氏は脚本陣の一人として、数本を執筆。

  • あらすじ

時は江戸時代末期。武士の万二郎と、蘭方医の良庵。二人の若者が、激動の時代を駆け抜けていく。

1話

あしたのジョー(脚本)の力石・ホセやF-エフ-(シリーズ構成・脚本)の聖のキャラ性を受け継いだようなキャラや、f:id:makimogpfb:20180906233428j:image

キャラの可愛さ・無邪気さなどに注目した。

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あと、原画に(RED LINE監督の)小池健氏がいた。

4話

 特徴である、

  • 太陽や嵐といった、「天」の活躍
  • 手紙描写の強調
  • 食いしん坊描写
  • 可愛い喜び方
  • 手と手で伝える情愛

などなどを確認。特に、緊迫した状況と嵐が連動する所に、高屋敷氏らしさが出ていた。

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本作は、江戸時代を1本の大樹に喩えており、その点は、「もの言わぬものに魂がある」という高屋敷氏のポリシーにマッチ。この4話でも、まるで全てを「見ている」ような大樹のアップ・間(同氏特徴)がある。

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8話

1段目:忍者戦士飛影脚本とシンクロする富士山

2段目:味のある老人。DAYS脚本と比較

3段目:裸の付き合い。DAYS脚本と比較

4段目:炎の意味深アップ・間。コボちゃん脚本と比較

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他も、状況と連動する天候等確認。

11話

今回、非常に高屋敷氏の得意な部分が出ていた。

1段目:可愛い友情描写。F-エフ-脚本と比較。
2段目:意味深な炎のアップ。コボちゃん脚本と比較。

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ビールならぬ酒テロ、酔って寝る姿が無邪気。カイジ2期脚本と比較。

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下記画像1段目:主人公の1人・良庵が結婚。めぞん一刻脚本の、最終回の結婚式が思い出される。
2段目:味のあるお爺さん。MASTERキートン脚本と比較。

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話も、ハリスの将軍謁見の際の、ギミックを使った一大作戦。カイジ(脚本・シリーズ構成)はじめ、こういったギミック大作戦展開は、よく強調される(オリジナル話の脚本や演出でも多い)。そして、筆がノっている感じがする。

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13話

画像上段:一人夕暮れに佇んでいると、友達や仲間が来てくれる状況は、ど根性ガエル演出の頃からよくあった。

画像下段:とにかく、喜び方が可愛い。グラゼニ脚本と比較。高校の野球部の監督をする程の野球好きだから、野球の喜び方から来ている?

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とにかく、演出時代ならわかるが、脚本になっても、喜び方が無邪気で可愛いという特徴が変わらないのが不思議。
喜び方だけでなく、数多くの作品で、幼い所作が確認できる。シリーズ構成作では、幼さから一変した成長も描かれる。

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ちなみにコンテは、出崎哲氏の右腕的な存在の四分一節子氏(この回の原画にも参加している)。四分一氏も高屋敷氏も、ど根性ガエルスタッフだったので、所々ど根性ガエルがよぎるのも自然なことかもしれない。

15話

安政の大獄に巻き込まれ、無実の罪で投獄された万二郎(主人公の一人)を、良庵(もう一人の主人公)が、知略で救う(薬でコレラに似た症状を作り、病死扱いにする)あたり、知略や友情を強調する高屋敷氏らしい。

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死人扱いとなった万二郎は水戸へ逃れるが、職も名前も失った万二郎は、「自分とは何か」を問われている状態。「自分とは何か」「どういう自分になるかは、自分で決めろ」を長年テーマに掲げてきた、高屋敷氏にマッチした展開だった。

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22話

高屋敷氏の特徴、
幼く無邪気な、男の友情描写(画像1段目、グラゼニ脚本と比較)や、飯テロ(画像2段目、F-エフ-脚本と比較)が出た。

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出崎兄弟ゆずりの鳥演出も出てきた。
空手バカ一代演出/コンテ、ベルサイユのばらコンテ、カイジ脚本と比較。

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軍医である良庵は、戦闘に勝利して喜ぶ兵士達を一括。
強調やリズムがカイジ脚本と重なる。
良庵「あれだけ人を殺して、これだけ怪我人を出して、どこがめでてえんだ!」
カイジ「何がめでたい、どこがめでたいんだ、え?」

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父の仇を討った万二郎は顔に傷を負い、仇である音次郎は、妹の身を案じながら死ぬ。
カイジ(シリーズ構成・脚本)では、勝つためにカイジは耳を切る。仇の利根川は、矜持を見せ焼き土下座。高屋敷氏は、善悪では割り切れぬものを描く。

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本作における高屋敷氏の脚本回は、これで最後。今回は色々と、善悪では割り切れないビターな構成となっており、これは、同氏の得意分野。こういったビターな余韻は、1980年版鉄腕アトムや、太陽の使者鉄人28号脚本にも見られ、歴史は長い。

  • まとめ

本作は、激動の時代を駆け抜けた二人の男の物語。結末は、ほろ苦いものの、確かにその時その時を全力で「生きた」ことが描かれている。

高屋敷氏は、(特にシリーズ構成作で)「男の生きざま」を描くのを得意とするが、そのセンスや技術が、担当回にて存分に発揮されている。

また、万二郎と良庵の友情描写も絶妙で、このあたりも同氏の豪腕が唸る。色々と、同氏の妙技が見られた作品だった。

おにいさまへ…38話脚本:「思うがままに」

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が佐藤豊氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

原作を大幅に改変したエピソード。
研究のため、ドイツに行くことにした武彦(奈々子の文通相手/義兄)は、元恋人の薫(体育会系だが病を抱える)に、一緒にドイツに行こう…と再三説得を試みる。

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夏休みということで、奈々子・智子(奈々子の幼馴染)・マリ子(奈々子の級友)はボウリングに興じる。
自身のナイスプレーに喜ぶ奈々子が幼い。喜ぶ姿が微笑ましいのは、色々な作品にある。
グラゼニ・太陽の使者鉄人28号ルパン三世2nd・DAYS(脚本)と比較。

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そして奈々子・智子・マリ子は夏祭りを楽しむ。祭り・花火描写は、結構出てくる。あしたのジョー2・F-エフ-(脚本)と比較。

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一方、武彦(奈々子の文通相手/義兄)は、いつまででも待つから、指定する喫茶店に来て欲しいと、元恋人の薫(体育会系だが病を抱える)に電話する。

薫を待ちながら、武彦は過去を回想する。回想の中で、武彦は、ドイツに行く夢を語り、薫は一緒に行きたいと言う。
夢を語る男に女が惹かれる様子は、F-エフ-(脚本)でも見られた。

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武彦の回想は続き、病に倒れた薫の病状を医者から告げられる場面になる。
薫は、5年以内に病(乳がん)が再発したら生きられない体であることがわかり、武彦はショックを受ける(たまたま聞いてしまった薫も同様)。
回るシーリングファンのアップがあるが、こういった「物」の「間」は多い。グラゼニカイジ2期・蒼天航路(脚本)と比較。

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時は現在に戻って夕刻となり、来るつもりはないと言っていた薫が喫茶店に来る。研究のためドイツに行くことが決まった武彦は、一緒に行こうと薫に言うが、病に悩む薫は拒否。
薫が来るあたりで夕陽が映る。夕陽は頻出。宝島(演出)、F-エフ-・蒼天航路(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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夜、武彦は親友の貴(学園の社交クラブ・ソロリティの会長だった蕗子の兄)に電話するが、貴は愛車の整備をしており、蕗子が代わりに応対する。貴は原作より車好きであり、レースもののF-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)の名残が見られる。また、出崎統監督も車好き。

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電話を代わった貴は、武彦が薫のことで参っていると直ぐに察し、武彦のいるバーに行くことにする。
以心伝心の親友関係は、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)でも見られたし、他も多数。

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義父から預かった(武彦がドイツに行く為の)書類を届けに、武彦の住むアパートに行った奈々子は、酔い潰れた武彦を介抱する貴に会う。酔っぱらい描写は結構ある。ど根性ガエル・宝島(演出)と比較。

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貴から事情を聞いた奈々子は、武彦の苦悩を知るのだった。

後日、奈々子と貴は、武彦の想いを受け止めてやって欲しいと、薫に話す。
薫には武彦が必要であると断言する奈々子を、薫はビンタしてしまう。高屋敷氏は、ビンタシーンに縁がある。ベルサイユのばら(コンテ)、カイジ2期(脚本)、ど根性ガエル(演出)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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奈々子と貴の説得虚しく、薫は去る。ライトが映るが、意味深なライト/ランプの表現は実に多い。グラゼニ・らんま・RIDEBACK(脚本)と比較。

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奈々子は、名前を伏せた上で、薫と武彦の関係や愛について、母と義父に相談する(すぐに武彦の事だとばれる)。
結果を求めたり、形を決める為に愛があるとは思えない…と奈々子の母は述べ、義父は、(自分の息子である)武彦の愛は本物だと語る。「愛」に対する高屋敷氏のスタンスが窺え、興味深い。

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ある雨の日、親友・れい(謎めいた上級生)が事故死した現場を訪ねた薫に、蕗子(れいの姉でもある)は声をかける。
二人の傘が映る。心情や状況と連動する傘は、めぞん一刻(脚本)にも見られた。

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命の全てを使いきってしまった妹・れいに比べれば、残り4年「も」あるのだから、れいの分まで、思うがままに生きて欲しい…と、蕗子は薫を諭す(蕗子もまた、少女期に武彦に恋をした)。
めぞん一刻(脚本)にて、雨の中、響子に発破をかけた八神(響子の恋敵)が思い出される。

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前を向いていないあなたなんて、あなたらしくない…と蕗子は言って去る。「らしくない」と、薫の中のれいも語りかけ、笑う。
キャラクターの笑顔は、様々な作品で印象に残る。陽だまりの樹・F-エフ-・グラゼニ蒼天航路(脚本)と比較。

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一方、武彦が行きつけのバーに行くと、貴と奈々子が待ち構えていた。
薫の事を諦めないで欲しい…と奈々子は武彦に言い、武彦の水割りを奪って飲む。
飲酒場面は多い。宝島(演出)、カイジ2期(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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貴は、ジュークボックスを再生する。ここも意味深な「物」の「間」。あしたのジョー2・アカギ(脚本)と比較。

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武彦は、自分は腑抜けな男ではないと奈々子に告げ、人を愛することの大変さ、素晴らしさがわかり始めた所だと言う。
ここも、高屋敷氏の「愛」に対する姿勢が窺える。

帰宅した武彦は、PC画面に「YES」と表示されているのに気付く。部屋に入って、武彦の帰りを待っていた薫が打ったものだった。
魂がこもったような機械の表現は多々あり、1980年版鉄腕アトム(脚本)では、実際に魂が宿った機械が出る。

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自分が最期を迎えるとき、手をしっかり握っていてくれるかと、薫は武彦に問う。
自分の手でいいのか、問い返す武彦に、「他にない」と薫は答える。
高屋敷氏は、多くの作品で「手」の触れ合いを重視するが、それが直球で出ている。

薫は武彦に抱きつき、(二人が別れた時に舞っていた)蛍のイメージが出る。雪が舞い散る夜に結ばれた、めぞん一刻(脚本)の五代と響子に通じるものがある。

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また、出崎統監督の後期ベルサイユのばらにも、蛍が舞う恋愛場面がある(発案は、ベルサイユのばら脚本陣の杉江慧子氏)。

  • まとめ

今回、

  • 薫の病
  • 武彦が薫に、一緒に渡独しようと言う
  • 武彦が、自分は腑抜けな男ではないと奈々子に言う

あたり以外はアニメオリジナル。つまり、大筋の大筋しか原作に沿っていない。

まず、生き方や愛についての、高屋敷氏の姿勢が見えて面白い。
F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)のアニメオリジナル台詞、「自分の思う通りに生きろ」が、蕗子の台詞「生きて欲しい。精一杯思うがままに」(こちらもアニメオリジナル)に繋がっているのも感慨深い。

「自分の道は自分で決めろ」は、高屋敷氏がよく掲げるテーマであるが、本作でも炸裂。
めぞん一刻(最終シリーズ構成・脚本)では愛、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)ではレース、カイジ(シリーズ構成・脚本)では勝負、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)ではプロ野球…と、いずれもキャラクターが「生きる道」を決める姿を丁寧に描いている。本作の、薫もそれに該当する。

F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)の軍馬、カイジ(シリーズ構成・脚本)のカイジグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の夏之介は、いずれも人生や命を賭けて、それぞれの道を行く。本作の薫も、まさに命を懸けて武彦と一緒になる事を選ぶ。このあたりの重なりは熱い。

蕗子の言う「前を向いていないあなたなんて、あなたらしくない」(アニメオリジナル)も、家なき子(演出参加)の「前に進め」はじめ、F-エフ-(脚本)の「前だ、前に行くんだ」(アニメオリジナル)、カイジ(脚本)の「前だ…!もっと前に行くんだ!」(アニメオリジナル)、に連なり、印象深い。

更に、「結果を求めたり、形を決める為に愛があるとは思えない」という奈々子の母の論は、高屋敷氏のスタンスが窺えて興味深い。恋愛ではないが、カイジ(シリーズ構成・脚本)のカイジもまた、愛に利を絡ませないし(無償の愛)、形にもこだわらない。この重なりも面白い。

また、高屋敷氏は「手と手のコミュニケーション」に並々ならぬこだわりを持つが、愛する人=最期の時に手を握っていてくれる人という、今回出て来た概念に驚かされた。これもアニメオリジナルなわけだが、こうも直球で出て来るとは思わなかった。

高屋敷氏のシリーズ構成は、終盤に怒濤のようにテーマを放出するが、本作(金春氏と共同)も同様で、今回(最終回手前)、色々なテーマが前面に出ている。このあたりも不変なスタイルであり、かつ、見事で唸らされる。

自分とは何かを見つめ、自分で自分の道を選び、前に進む…というテーマは、F-エフ-・カイジグラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)にも見られたが、これらと、見た目もジャンルも違う本作が、このテーマに収束して行くのは本当に驚いた。
高屋敷氏のテーマは熱いが、それを発するための仕掛けや計算は精密。それが十分感じられた回だった。

参考までに、こちらを紹介: