カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻66話脚本:性別問わず発揮される「男のかっこよさ」

めぞん一刻は、アパート「一刻館」に住む青年・五代と、一刻館管理人で未亡人・響子との、山あり谷ありのラブコメ(原作・高橋留美子先生)。高屋敷氏は最終シリーズ構成と脚本を担当している。監督(最終シリーズ)は吉永尚之氏。

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五代に惚れている女子高生・八神は、五代の教育実習が終わっても、五代を家庭教師に任命し、足しげく一刻館に通う日々を続けていた。

そんな折、八神の担任(響子の恩師)の耳に八神の近況が入る。響子と担任の会話が原因だった。八神は、響子が担任に告げ口したと憤慨し、響子への闘志を更に燃やす。

八神は、周囲に文句を言わせまいと、勉強に励む。勉強中に鉛筆が折れ、八神がイラつく場面に高屋敷氏の特徴が出ている(物がキャラとして意思を持つ)。

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ここでは、くじけてもへこたれない八神の根性が表れている。

そして早速、夜食のサンドイッチが出て、同氏特徴の飯テロ。

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また、八神の部屋の、鳥のモービルが意味深に映り、心情を表す役目を担っている。高屋敷氏もよく出す、出崎鳥*1っぽい。下記は今回(上段)と、家なき子(出崎統監督作)における高屋敷氏演出回(下段)との比較。

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一方、一刻館では、八神が最近訪ねて来ない、という話をしていた。ここでも同氏特徴である、自然=キャラ演出が現れ、入道雲のアップが入る。画像は今回(上段2つ)と、チエちゃん奮戦記・カイジ2期脚本。

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そして模擬試験結果発表の日、努力が実り、八神は成績トップに返り咲く。ここの場面で、八神の友達の個性がよく出ている(特徴:優秀モブ)。台詞も多い。

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八神は試験結果を胸に、一刻館を訪ねる。八神は模擬試験結果を響子に見せ、担任に告げ口した(誤解)ことを責め、もう口出しさせない、と牽制する。

そこへ五代が帰って来て、八神は喜び、五代の胸に倒れこむ。ここでも響子のヤキモチが炸裂。だが八神は、勉強での寝不足がたたってのガチ倒れだった。そのため、響子は自室で八神を寝かせる。

八神が寝ている間、意味深な自然の間が次々と入る(特徴:自然=キャラ)。中でも特徴的なのは、入道雲と鳥。八神の自由奔放さを表している?(高屋敷氏と鳥については、こちらを参照。)

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鳥の他にも、下記上段のように、多くの自然の間が入る。家なき子演出(下段)と比較。
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そして、頑張った八神を包み込むように風が吹いて、八神が起きる。ここも、風がキャラとして活躍している。

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これら自然の活躍は、アニメオリジナル。なので、高屋敷氏の特徴がダイレクトに入っている。

寝たことで復活した八神だったが、また倒れたら大変だからと、五代が駅まで送ることに。その折、八神は響子に向かって、あかんべーをする(特徴:幼い)。

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響子は怒るが、自分にはできないアプローチ法を次々と取る八神に感心はする。その際、サンダルが意味深に脱げるのが同氏特徴的。

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夜、八神は勉強についての障害を取り除いたことに満足し、次のアプローチ方法を考えるのだった。ここも意味深な鳥のモービルが映り(特徴)、八神の心情を表している。

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そして、八神は以前のように、五代(と四谷)を家庭教師とし、一刻館に通うようになる。

そこへ響子がケーキとお茶を差し入れに来るが、八神は、自分でケーキとお茶を持ってきたから、今後差し入れは不要だと、響子を牽制。響子もそれを受け意地になって、ケーキを五代に渡し、八神も負けじとケーキを渡す。(特徴:飯テロ・物=キャラ)。

それに助け舟を出す形で、四谷が両方のケーキを食べ、他の一刻館住人を呼ぶ(特徴:仲間愛)。ケーキということで、怪物くん脚本(下段)と比較。他作品でもよく出る。

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以前の話でも、カップを巡って八神と響子が対立したが、今回はケーキとお茶を使っての戦いになっており、高屋敷氏の特徴が存分に発揮されている。四谷の仲介がなければ、かなり怖い状況。そして、二人とも幼く、大人げない(特徴)。

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八神は皆の面前で、五代が好きなんでしょ、と響子に問い詰める。響子は逃げるように部屋を出ていき、五代が追いかける。五代は、皆の言うことを気にしないように、と言い、響子は、大人げなかったと素直に謝る。見つめ合う二人は、いい雰囲気になるが、皆が見ている事に気付いて中断。ここでも、五代が何やら、高屋敷氏担当シリーズ全体に見受けられる「母性本能をかきたてる可愛さ」を発揮していて、高屋敷氏の特徴である「男の可愛さ・無邪気さ」が表現されている。

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後日、四谷が八神から家庭教師の月謝を貰ったということで、スナック茶々丸(一刻館住人のたまり場)に、皆で飲みに行くことに。

茶々丸には八神も来ており、響子は閉口。だが響子は大ジョッキを次々に飲む。同氏特徴のビールテロ。挙げればキリがないが、代表格としてカイジ脚本と比較。

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そこへ五代から茶々丸に電話が入り、バイト仲間(保育園の面々)と飲みに行くことになってしまったので、遅くなるという連絡が入る。

八神は素直に落胆するが、響子が素直じゃない事にイラつき、
「本当に素直じゃないのよね」
「好きなら好きってハッキリ言いなさいよ」
「好きじゃないフリして愛されようなんて、虫が好すぎる」
と色々発破をかける。

この、”好きなら好きってハッキリ言え“、は忍者戦士飛影脚本の次回予告パートでもジョウが言っており、同氏ポリシーと思われる。以前の回もだが、同氏は八神を通して自分の主張を出しているように見受けられる、

また、八神は響子に対し「意気地無し、見栄っ張り、弱虫!」と言うのだが、こういった3拍子のリズムも同氏の言い回しの特徴が出ている。例えば、カイジ2期脚本・一条の「今打て!すぐ打て!さあ打て!」など。

散々八神に言われ放題の響子だったが、言われたことは当たっている、と素直に受け止める。そして「みんなウソになりそうで怖い」とポツリと言うが、八神はその真意がわからなかった。

そこへ五代が到着。これ見よがしに八神は五代にベタベタする。夜遅いということで、五代は八神を駅まで送る。一方、他の住人と帰路につく響子は、一人しか好きになったことがない八神を羨ましく思うのだった。

後日の雨の日、八神は担任と、響子や五代の事について話す。ここの多層美術の描写が、奇跡的に出崎的。家なき子の高屋敷氏演出と比較。

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 担任は、響子は意固地だが一途でもあり、「“本当のこと”は幾つもあるのに、1つしかないと思ってしまう」と評す。ここの場面の担任が渋い。渋い中高年描写も、同氏特徴。

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他の誰かを好きになったら、亡き夫・惣一郎への想いがウソになってしまいそうだから怖い、というのが、響子の真意だった。八神は、勇気が無いだけだ、と言うものの、神妙な気分になる。

響子に言いすぎたかもしれない、と八神は反省し、元気づけてやろうか、と思いつく。

そこで、雨の中傘を閉じ、響子に「弱虫!」と言い放ち、去っていくのだった。

この、傘を閉じ、凛々しい顔で「弱虫!」と言う八神の対決姿勢が、カイジ脚本での、手袋を脱ぎ、鬼気迫る顔で班長との対決に挑む姿と被る。八神もカイジもかっこいい。

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弱虫と言われた響子は、何かに気付いたようにハッとなる。そこへ風が吹くのだった。

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ここでは、雨や風が重要なキャラとなり、状況を盛り上げている(特徴)。

  • まとめ

ケーキやビールなど、相変わらず飲食物が美味しそうな描写があり、その個性を見るのが楽しい。

美味しそうなだけでなく、ケーキを使った恋愛戦争が、いかにも物を重要なキャラとする高屋敷氏らしい。

そして確定的になって来たのが、五代の可愛さ。可愛さを見せることで、響子の母性本能をくすぐるよう設定されている。もともと高屋敷氏は、「男の幼さ・可愛さ」を描写することが容姿年齢問わず得意。そこへ活路を見出し、響子の心が五代に傾いて行くことへの説得力を持たせようとしていると思われる。確かに原作と比べ、びっくりするくらい五代が幼く可愛い。

一方八神は今回、男らしい態度を見せている。そして、好きなら好きとハッキリ言え、など高屋敷氏のポリシーを言う役を担っている。これは、じゃりん子チエ脚本にて、地獄組ボスが西萩の面々に対する不満をぶちまける回にも通じる。これも、高屋敷氏の意見を代弁していた。そしてそれは、視聴者の共感を呼ぶよう設計されている。それが自然に出来ているのが凄い。

今回見せる八神の男らしさ・かっこよさは、高屋敷氏が演出陣だった「エースをねらえ!」でも発揮されている。エースをねらえ!は、監督である出崎統氏が、男の世界好きなため、女性キャラであろうと男らしく設定されている。その経験が生きている。

また、雨の中、八神が響子に発破をかける場面は、あしたのジョー2脚本にて、雨の中、丈がホセに「See you again!」と叫び、試合をする約束を交わす場面と被る。

こう見ていくと、以前も述べたが、エースをねらえ!ジョー2における「男の世界」が、女性作家作品である「めぞん一刻」に出張して来ており興味深い。出崎統氏と同じく、高屋敷氏は女の世界が少々苦手なのかもしれない。そこで、得意である「男の」可愛い描写や、男らしさを性別関係無くキャラに課していると感じられる。

そして、風や雨といった、もの言わぬ自然が、キャラとして今回も活躍しており、「映像」を見ることで高屋敷氏脚本とわかる。それが毎度面白い。

今回は、八神の「男らしさ」が前面に出ていてかっこいい。性別問わず「男のかっこよさ」は表現できる、と感じられる回だった。

*1:高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏の、よく鳥を飛ばす演出