カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

チエちゃん奮戦記34話脚本:男のロマンと幼さのせめぎ合い

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

2部作の後編。
33話概要:
宿題のネタのため、チエとヒラメは見知らぬ駅で降りるという冒険を思い付く。一方マサルも、(宿題のネタのため)男のロマンを求めタカシと共に旅に出る。
チエを守るという名目で小遣いをせしめたテツも、見知らぬ駅に着く。偶然にも全員が同じ駅に着き…

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前回、見知らぬ土地(香部駅)の閑散さに飽きてしまったチエ達は、早々に西萩に帰る。西萩に着いた途端チエ達は、あんみつやミルク金時を食べたいと口にする。同氏特徴の飯テロ(台詞バージョン)。すると改札口で、マサルを過剰に心配するマサル母と出会う。

チエ達と同じ発想(あてどもない旅)で出かけたから、マサルはチエ達と同じ駅に着いたに違いない、とマサル母はまくしたてる。マサルは「旅は男のロマンだ」と言っていたらしい。同氏演出・家なき子も同様の台詞があり、特徴が出ている。

その頃、マサル達は山に登っていた。ハイキング程度の山だが、マサルにとっては険しい雪山に見えており、そのイメージが出る。イメージでなくガチの雪山は、同氏家なき子演出に出るし、カイジシリ構でもイメージが出てくる。どれも人生で越えなければならない障害。画像は今回、家なき子演出、カイジ2期シリーズ構成。

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マサルは最初にペースを上げすぎてスタミナ切れになる性質である事を知っているタカシは、マサルにそれを指摘するが、マサルは言うことを聞かない。

ところで森の描写が偶然にも同氏過去作と似てくる。画像はエースをねらえ・家なき子演出、めぞん一刻脚本。 

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同氏過去作と画像が似てくる怪、その2。エースをねらえ!演出と比較。出崎演出によく出て、それらが普遍的になってるからそうなるってだけだが、最終映像が似てくるのが面白い。脚本でもそれが起こるから不思議。

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一方テツは、森の中を徘徊していた。

その頃、登山を続けるマサルは、タカシの指摘通り、ハイペースがたたってスタミナ切れを起こし倒れる。
家なき子演出では、レミとマチヤが人生の厳しさを再び噛み締めるために雪山に登るが、二人とも逞しいため健在。
理想(家なき子)と現実(今回)という感じ。 

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そんなマサルとタカシの所に、斜面を転がり落ちてきたテツが来る。三者は激突し、山道から転がり落ちてしまう。これも平行するエピソードをさばいて、指定の所で合流させる、高屋敷氏の脚本上の特徴。

虫の知らせか、マサル母は心配を募らせる。
マサルを心配するマサル母の音頭で、マサル母・ヒラメ母(元登山部)・チエ・ヒラメは、マサル達の捜索に向かう。香部駅に着いた一行は、マサル達とテツらしき人物が来たという情報を掴む。マサル母の早口長台詞が同氏特徴。テツの情報に、チエは動揺。

その頃、目を覚ましたテツ・マサル・タカシは、状況を把握する。テツの体力なら斜面を登って山道に戻れるが、マサル達は無理。
この組み合わせは結構珍しいが、3人のやりとりが可愛らしい(特徴)。

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一方、マサル母は、マサルの荷物を見つけ大声でマサルを呼ぶ。

マサルを呼ぶマサル母達のもとへ、テツがツッコミがてら登ってくる。元登山部のヒラメ母とテツのパワーで、マサル達はロープで救出される。だが、母離れ・男のロマン・旅立ちを目指していたマサルは、理想破れて男泣きするのだった。カイジ脚本と比較。

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  • まとめ

まず、家なき子同氏演出(最終回)と比較すると面白い。家なき子の場合、レミとマチヤはガチ雪山に登り、人生の厳しさを敢えて味わい、その後、あてどもないが自立した旅に出る。

ところがどっこい、マサルとタカシは、やる気はあれど夢破れてしまう。
レミとマチヤは、マサル達より3年くらい上だが、このギャップはすごいw
しかも、レミとマチヤは「誰にも頼らず自分の力で」生きていこうと誓い、実行に移すのに、マサル達は、テツ、ヒラメ母など大人の力を借りねばどうにもならなかった。

だが「幼さ」の表現も長けている高屋敷氏なので、今回に関してはマサル達の幼さを前面に出しているようにも感じる。「まだ、それでいいんだよ」的な。もともと、1期中盤~2期は、チエ一家が修復したため、子供達が幼く無邪気に描かれるようになっている。

時々テツは、変わろうともがくが、チエ世界がそれを許さない。そういう、テツが変わろうとする回は、高屋敷氏の脚本回が多い。今回はそれのマサル版。マサルに関しては変われるチャンスはあるのだが、今回は失敗する。最後のガン泣きは結構胸を打つ。

家なき子や宝島の演出においては、少年から男への成長を描いてきた高屋敷氏だが、今回の場合、それに対する「照れ」も何だか感じられる。元祖天才バカボン同氏演出でも、出崎統氏的な男世界に対する「照れ」が出ている。

そこから来るセルフパロというか。

出崎統氏作品にて竹内啓雄・高屋敷氏で演出をしていた頃でも、高屋敷氏は可愛くコミカルな特徴を出していた。それが、男らしくかっこいい竹内氏の演出と好対称になっていた。これを見るに、同氏は一旦出崎統監督と反対のスタンスを取っているようにも見える。

そういった、男ロマンもいいけどコミカルさや幼さも欲しい…という同氏の反発?があってこそ、家なき子等が演出バリエーション豊かな名作になっていると思う。じゃりん子チエはギャグなので、今回、コミカル系に振り切ったのではないだろうか。

そうは言っても、ラストの、母離れも、男のロマンも達成できなかったマサルの男泣きは胸を打つわけで、ここだけシリアスになっている。

家なき子のレミ達のようにはできなくても、いつかは自立できる…という希望を込めて書いているような感じもする。

あと、同氏の脚本上の特徴が顕著に出ている。チエ・ヒラメ、マサル母・ヒラメ母、テツ、マサル・タカシの平行エピが要所要所で合流するようになっている。もともとチエ1期脚本から突出して来た特徴。山での冒険ものだから、それが存分に生きた回だった。