カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻82話脚本:原作を踏襲しつつ表現される、高屋敷氏独自の「愛」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

めぞん一刻は、アパート一刻館の管理人で未亡人・響子と、一刻館住人である青年・五代のラブストーリー。

前回まで:
保育士を目指す五代は、バイト先のキャバレーで子守係をしている。そんな折、ホステス・かすみが子供達を五代に預け何処かへ消えてしまい…

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五代は、かすみの子供達・太郎と花子を連れ、とりあえず一刻館に帰る。
響子と対面した太郎は、響子にキャラメルをくれる。同氏特徴の、心のこもった贈り物。ジョー2脚本でも、サチ子が葉子を気遣い、カイロをくれる。

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五代から事情を聞いた響子は、子供達を歓迎し、母親が見つかるまで一刻館で保護する事を許可する。同氏特徴の疑似家族愛。画像は今回・ど根性ガエル演出(ひろしの夢想)・家なき子演出。家なき子では、血の繋がらないマチヤをレミの兄弟として迎え入れようとする。

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夜更け、月や物の意味深なアップが入る(特徴:自然や物をキャラとして捉える)。家なき子演出・元祖天才バカボン演出コンテと比較。
元祖天才バカボンでは、月が震えたり、気分を悪くして落ちたりする。監督作の忍者マン一平では、月や太陽に顔があったりして明確。

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太郎と花子の面倒をみる響子と五代は、いい雰囲気に。五代を父・響子を母とした、疑似家族愛を前回脚本(81話)に引き続き前面に押し出している。カイジのシリーズ構成でも同氏は、カイジとおっちゃんの疑似父子愛を前面に押し出している。

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とりあえず五代がバイトに行っている間、響子・一ノ瀬・五代の祖母(上京中)が太郎や花子の面倒を見る。洗濯をする響子は、子供用の靴下を見つめ、今回のトラブルは「五代さんらしい」と呟く。同氏特徴の、キャラとしての「物」のアップ。カイジ脚本と比較。 

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太郎と花子の母・かすみの行方を探す五代は、客とデキる度にかすみが駆け落ちを繰り返すという情報を、他のホステスから得る。ホステスの存在感が原作より強い(特徴:優秀モブ)。更にバイト先の先輩(飯岡)が、かすみのアパートの場所を教えてくれる。
この先輩も、存在感が強め。

一方、五代のライバル・三鷹は、見合い相手の明日菜とは別の人(響子)と結婚したいと、父母に打ち明けていた。三鷹の両親は、それをあっさり受けとめる。ここのやりとりも、三鷹が原作より幼い(特徴)。三鷹響子の結婚を望む響子の母は、三鷹と結託し、両家の会食を計画する。

五代の方は、かすみのアパートを訪ねる。覗き魔と勘違いされた五代は、かすみからシャワーをかけられ濡れ鼠になり、半裸に(特徴:脱衣演出)。
かすみは子供達の父になってくれる男を探し回っており、今度の彼氏は有望なので1週間時間をくれと、五代に懇願する。

かすみは、必ず一週間で戻ると言い残し逃げる。五代は半裸のままかすみを追いかけ、散々な目に。チエ2期脚本でも、テツが半裸で走り回る回あり。とにかく同氏作品は、脱ぐ機会が多く、大抵はアイデンティティの如何を問うことが多い。別室カイジの全裸描写然り。

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五代達は、かすみが帰るまで、そのまま子供達を預かることにする。
一方響子の母は、三鷹親子が来る事を伏せて響子を食事に誘い、響子は承諾する。それを響子の母から聞いた三鷹は愛犬と共に大喜び(特徴:幼い)。エースをねらえ!演出と比較。 

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太郎と銭湯に出かけた五代は、帰り道にて太郎と語り合う。かすみは一週間で帰ってくると、お星様と約束したから寂しくない、と太郎は無邪気に言う。「お星様と約束」を強調し、星をキャラとして捉えるのが同氏特徴。元祖天才バカボン演出コンテと比較。 

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かすみと子供達の間に、ちゃんと絆がある事を確認できた五代は安堵するも、その「お星様」が流れ星となり落ちてしまう。五代は更なる波乱を予感するのだった。ここでも、星をキャラとして捉える同氏特徴が出ている。元祖天才バカボン演出コンテでも、星が悲鳴をあげて落ちる。 

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  • まとめ

前回81話脚本に引き続き、疑似家族愛が前面に出ている。また、響子の母性も引き出されている。この「母性」を描くことも同氏特徴の一つ。「母性」は年齢性別問わず表され、カイジの脚本・シリーズ構成においてもカイジに「母性」がある事が表現されている。

カイジの持つ「母性」の強調は、例として挙げれば2期5話脚本、カイジが石田息子をビンタする場面。ど根性ガエル演出にて、ひろし母がひろしをビンタする場面や、ベルばらコンテにて、ジャンヌ母がジャンヌをビンタする場面と通じるものがある(母の厳しい愛)。

また、家なき子演出においては、レミの育ての母や実母が、血の繋がりを越えた愛を示している。
一方で、カイジとおっちゃんのような疑似父子愛の側面も、今回表れている。
ところで五代の声=カイジにおける、おっちゃんの声(二又一成氏)なので、色々面白い。

今回、花子がおもらしし、響子と五代が面倒をみるが、カイジでは、失禁したおっちゃんの面倒をカイジがみる。声優の二又氏の立場が逆になっていて笑った。
疑似父子愛については、ジョー1・2脚本における、段平と丈の関係がルーツと思われる。

高屋敷氏の本作最終シリーズ構成において、恋愛というより疑似家族愛が強調されていると以前書いたが、今回もそれが色濃くなっている。
あと、愛する家族(夫)と死別し独りとなった響子が、再び家族を得るという、ぼっち救済ポリシー(同氏特徴)も見受けられる。

じゃりん子チエ脚本で見せたような「原作通りでありながら個性を出す」技が、本作でも段々顔を出している。ジョー2脚本はオリジナル部分が多く、同氏の出したいテーマは明確だったが、本作やチエのように、原作の話に隠れた同氏のテーマを探るのも面白い。