カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻91話脚本:物語を盛り立てる「キャラクター」としての煙草や木の葉

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

めぞん一刻は、アパート一刻館管理人の未亡人・響子と、一刻館住人・五代のラブストーリー。

前回まで:

五代がこずえ(五代のガールフレンド)にプロポーズしたと勘違いした響子は、管理人業務を放棄し実家にこもってしまう。五代は何度も説得に行くが響子は戻らず…

響子の父のお節介もあり、一刻館オーナー(響子の亡き夫の父)は管理人代行を五代に依頼。代行者が五代であることを知らない響子は、代行者が決まったことに狼狽する。このあたりで、高屋敷氏特徴である無機物のアップが続き、物がキャラとして活躍している。

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心配になった響子は一刻館を覗きに行く。だが入りづらく、まずスナック茶々丸(一刻館住人のたまり場で、住人・朱美の勤務先)に立ち寄る。だがそこには、五代を除く一刻館住人が先客として来ていた。四谷(一刻館住人)がその場をとりなし、響子を着席させる。

茶々丸のマスターは、絶妙なタイミングで響子にコーヒーを出してくれる。ここもコーヒーのアップが入り、特徴的。また、同氏ポリシー「相手の事を考えた贈り物」が見える。ジョー2脚本にて、サチ子が葉子にカイロをくれる場面と比較。

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朱美は響子に、逃げ続けていると五代とこずえが接近するかも、とか、(朱美自身が)五代を誘惑するかも、と響子を煽る。五代とやっちゃうよ、とも言う。ここの朱美の、煙草演出が渋い。煙草をキャラとして扱う、同氏特徴が出ている。カイジ・DAYS脚本と比較。

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響子は意地をはり、「そうなったらそれまで」だと言い、茶々丸を出ていく。
響子が出て行ったあと朱美は、「あれくらい言わなきゃ戻ってこない」「厄介な女」と言う。「厄介な女」と言う所で煙草の吸い殻のアップになる所に、同氏特徴が出ている。 

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響子は朱美の言葉を気にしつつも、一刻館に向かう。響子がこっそり一刻館を覗くと、五代が管理人代行を四苦八苦しながらやっていた。
五代のレアな管理人姿と、チエちゃん奮戦記脚本の、労働するテツのレアなエプロン姿が被る(奮戦記は、めぞん一刻の後年)。

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管理人代行が五代だとわかった響子は安堵し、立ち去る。

その夜、バイト中の五代に朱美から電話がかかってくる。朱美から指定された場所に行くと、そこはラブホテルだった。酔って寝ているうちに男が帰ってしまったので、ホテル代を立て替えて欲しい、という用件だった。

用件を済ませてラブホテルから出てきた五代と朱美は、こずえと、その友達にバッタリ会う。こずえはショックを受けるも、他人のフリをしてその場を去る。
翌日、五代はそれを気に病みながら一刻館の掃除をする。葉っぱの意味深アップが同氏特徴的。 

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こずえと決着がついたのだから感謝しろ、と朱美から言われるも、五代は別れ方がマズイと思い、こずえに電話をかける。しかし、電話を切られる。

朱美と一之瀬(一刻館住人)は、こずえの胸の中で自分がキレイなままでいたいと思うのは虫がよすぎる、と五代を非難する。

一之瀬は響子の実家を訪ね、こずえと五代は完全に別れたと報告。また、五代がこずえにプロポーズしたというのも響子の完全なる誤解だと説明する。ここも、一之瀬の喫煙仕草が渋く、特徴が出ている。

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一之瀬の説得を受け、響子は一刻館に戻ることにする。

一之瀬は、一刻館の皆に響子が戻ってくると報告し、五代達は喜ぶ。五代は皆にいいようにからかわれるが、宴は盛り上がる。皆の様子が和やかで疑似家族的(特徴)。翌朝、賢太郎(一之瀬の息子)と五代は響子が戻ってくる事を楽しみにする。五代の喜び方が幼い(特徴)。

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一刻館に向かう響子は、偶然こずえと会う。踏切の雑踏の中邂逅する二人が、横断歩道で邂逅するカイジと遠藤さんに被る(カイジ2期1話脚本)。しかもカイジ2期はアニオリ。同氏の好きなシチュエーションかも。ちなみに踏切演出は、同氏師匠の出崎統氏がよく使う。 

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こずえと響子は、喫茶店に入る。こずえは、五代に好きな人がいた、と響子に話す。響子は、五代が自分の事をこずえに話したのだと思い込み、そのまま会話が進む。だがこずえの言う「五代が好きな人」とは、朱美の事だった。ソーダや手のアップが、同氏特徴的。 

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更にこずえは、朱美と五代がホテルから出てくる所を見たと言ってしまう。
その頃、一刻館の皆は響子を待ちわびていた。風で舞う木の葉が、今後の波乱を告げる(特徴)。画像は、今回、ベルばらコンテ、監督作忍者マン一平、らんま脚本。葉や風をキャラとして扱っている。

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  • まとめ

今回は朱美がかっこいい役回り(次回は更にかっこいい)。アニメでそれを際立たせているのは、高屋敷氏特徴でもある煙草演出。勿論、作画や演出も半端ない。めぞん一刻の他の同氏脚本回でも、煙草演出が原作より色濃く、煙草がキャラとして様々な活躍をしている。

また、木の葉も今回活躍している。
こずえに誤解された翌朝、五代が一刻館玄関にて木の葉を掃除しているが、木の葉の意味深なアップが、「関係の清算」を示唆しているし、ラストも、舞い上がる木の葉が波乱を予告する。五代も、それに気付くような表情をする。

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この段階になると、ライバルの三鷹は見合い相手の明日菜とくっついて退場しており、残るは、こずえとの決着を残すのみとなる。そして朱美が色々、手荒いが五代や響子に恋のアシストをしてくれる。朱美や一之瀬、四谷の仲間愛が染みる感じに、同氏特徴が出ている。

驚いたのは、この段階になっても五代に幼さが残っていること。特に、「ブーン」と飛行機の真似をする五代が幼すぎる。同氏が演出や脚本を手がけた、元祖天才バカボンぽくもある。最終シリーズ構成として、男の成長を描きつつ、幼さも残したい同氏の意向が見える。

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序盤や中盤に、男の幼さ・可愛さ(容姿年齢問わず)を描き、クライマックスでガラッと成長する姿を見せ、それでもなお、ラストで幼さを残すという扱い方が、同氏の演出・脚本・構成には多い。カイジ2期でも、あれだけ覚醒したカイジが、ラストシーンでは幼い。

同氏家なき子最終回演出も、「男はいつか一人で生きていくもの」と、男の顔に豹変したレミが、ラストではマチヤと無邪気にジャンケンしている。
思うに、成長してほしい所とは別に、「変わらないでいてほしいもの」としての幼さは残しているのではないだろうか。

めぞん一刻のアニメ化で難航したのは、20歳前後の五代の恋にまつわる、性的描写。時間帯的にも、五代が性風俗店に行ってしまう描写はアニメではカットされたが、高屋敷氏が代わりに描写したのは、酔った五代と坂本(五代の親友)の、無邪気で仲睦まじい姿。

また、カイジ2期1話脚本においても、カイジの「売春」発言をカットした。賛否分かれるとは思うが、同氏は男の純潔を守る傾向がある。アニメ版めぞん一刻の議論の一つである、ベッドシーンのカットも、放送コードとは別に、高屋敷氏らしさが出ている。

深夜帯のカイジでも男の純潔を守ったということは、もし、めぞん一刻が深夜アニメだったとしても、ベッドシーンがあったかどうか怪しい。今回ラブホテル描写があったが、五代には弟的可愛さがあった。この終盤に来て、同氏の描く「男の幼さ」が興味深い回だった。