カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻92話脚本:素直な心でぶつかれ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

 めぞん一刻は、アパート一刻館管理人の未亡人・響子と、一刻館住人・五代のラブストーリー。

前回まで:
五代がこずえ(五代の女友達)にプロポーズしたと誤解した響子は実家にこもるが、後に誤解は解ける。響子は一刻館に戻ることにするが、そんな折、こずえと偶然会い…

こずえから、五代と朱美(一刻館住人)がホテルから出て来た所を見たと聞いた響子はショックを受ける(実際は、朱美とその彼氏とのホテル代を立て替えてくれと呼び出されただけ)。

真偽を確かめるため、響子は朱美の勤務先のスナックを訪ねる。

朱美は、五代とホテルから出てきたのは本当だ、と紛らわしい答え方をする。それを聞いた響子は固まってしまう。
朱美と響子の会話の間、高屋敷氏特徴である、無機物のアップ・間が続く(物や自然をキャラとして捉える)。画像は今回と、ジョー2・カイジ2期脚本。

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そこへ、朱美から電話で呼び出された五代と一ノ瀬(一刻館住人)がやって来る。朱美から事態を聞いた五代は、朱美とは何も無かったと必死に弁明する。だが響子は五代を激しく罵倒。五代は堪らず手を上げそうになるが、ポンと頬に手を置く程度に留める。

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五代はいつになく真剣な表情で(特徴:豹変)、「話くらい聞いてください」と言う。

響子は涙を流しながら「嫌いよ」と言い、出ていこうとする。
状況は全然違うが、頬をさするなど一連の場面がカイジ2期脚本とオーバーラップ。

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出て行こうとする響子を、朱美が制止する。朱美曰く「ろくに手も握らせない男のことで、泣くわ喚くわどうなってんの」「あんたみたいな面倒くさい女から男取るほど、あたし物好きじゃないわよ。バカ」。

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ここは原作もアニメも名場面・名台詞。

それでも響子は出ていく。

朱美は五代に、(響子が忘れていった)コートを届けてやれ、と言って背中を押す。一連の煽りも、朱美なりの世話の焼き方だった(特徴:義理人情)。
そして、やけくそで走る響子を制止するように風が吹く(特徴:自然もキャラクター)。画像は今回と、ベルばらコンテ。 

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五代は響子に追い付き、コートをかけてやる(特徴:優しい手つき)。ゲン2脚本と比較。

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五代は、二人で話をしようと、響子を公園に連れ出す。ここも、特徴であるランプのアップ・間が発生。ワンナウツ脚本と比較。

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五代は響子に、好きだと真摯に言う。そして「僕の目の中にはあなたしかいないんです」と訴えかける。“「目」の中に”を強調し、目を別個の生命体と捉える所に高屋敷氏らしさが出ている。実際、監督作の忍者マン一平は、目玉が別個の生命体。

五代の真摯な告白を受けた後、響子は一人、一刻館の自室(管理人室)に帰る。響子は、「もっと素直になりたいのに」と呟き、暗い部屋に佇む。鏡が響子を映す(特徴)。画像は、真実や状況を映す鏡演出集。今回、ジョー2脚本、元祖天才バカボン演出、じゃりん子チエ脚本。 

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一方こずえは、偶然会った四谷(一刻館住人)から、ホテルの件は完全な誤解だと知らされる。

こずえは五代のバイト先を訪ね、誤解が解けた事を告げる。だが五代は、好きな人(響子)がいるから、あらためて、こずえとの曖昧な関係を絶とうと決心する。

話をしに外に出た五代とこずえは、月がきれいだという話をする。月や太陽=重要キャラであり、全事象を見ているという、高屋敷氏の特徴が出ている。ジョー2脚本と比較。ジョー2の場合は強烈で、自分はパンチドランカーではないと嘘をつく丈を、太陽がじっと見ている。 

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五代は意を決して、好きな人がいるから、これ以上付き合えないことを告げる。一方こずえは、それを聞いて「ホッとしちゃった」と意外な返答をする。こずえはこずえで、別の男性と結婚することを、五代に告げに来たのだった。こずえと五代は「おあいこ」だと言い別れる。

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こずえは、「好きな人ってどんな人?」と五代に尋ねるが、「やっぱり、いい」と笑顔で去る。

帰りの電車の中で五代は、「俺の好きな人は、ヤキモチ焼きで、早とちりで、泣いたり怒ったりだけど…その人が笑うと、俺、最高に幸せなんだ」と響子の事を想うのだった。

本当に響子が好きだと言う五代の想いを、電車の窓が映す。ここも、特徴の「真実や状況を映す鏡演出」。
画像は今回、カイジ1・2期シリ構・脚本、ど根性ガエル演出。どれも「己や現実と向き合う」場面。

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  • まとめ

原作では五代と響子のベッドシーン(そして失敗)があった回。アニメではベッドシーンが無くなり、五代の真っ直ぐな告白を受けた響子が、自分も素直にならなければ、と一人呟く場面が強調された。これは賛否あれど非常に高屋敷氏らしい展開と感じた。男の純粋さ(特徴)を描いている。

響子が呟く「もっと素直になりたいのに。もっと素直に…」は、以前、ゆかり婆ちゃん(五代の祖母)が五代に助言した「人間、素直が一番」を受けたものと思われる。この言葉が出た回も、高屋敷氏脚本回。婆ちゃんの出番が原作より多いのも、高屋敷氏的(特徴:お年寄りに優しい)。

また、原作の「あなたしか抱きたくないんです」がカットされ、「僕の目の中にはあなたしかいないんです」が強調された。
放映時間を考慮したのだろうが、前述の通り、「目」を別の生命体と捉えている、非常に高屋敷氏らしいものになっている。

このように、最終シリーズ構成として、高屋敷氏が「男の純粋さや成長」を描くことにこだわっている姿勢が見えてくる。
前にも書いたが、深夜帯だったとしても、ベッドシーンがあったかどうか怪しい(特徴:男の純潔を守る)。それくらいのこだわりが感じられる。

特徴である「真実や状況を映す鏡演出」も活躍している。演出を多数担当したエースをねらえ!でも、ひろみが鏡に映った自分によく語りかけていた。そこらへんや、デビューまわりのジョー1脚本がルーツと思われる。
ベッドシーンの替わりに鏡が活躍したのも面白い。

一方で朱美の格好よさや、四谷の心遣いが染みる話にもなっていて、同氏が押し出したい義理人情や疑似家族愛なども見える。
そして、「人を信じられるかどうか」という問題にも切り込んでいる。その回答が、「純粋で、素直でいるべき」なのかもしれない。

思えば、カイジ1期で「俺はお前らを信じる。お前らも俺を信じろ」とカイジが言う回も高屋敷氏直接脚本であり、その直前の場面も鏡が活躍している。
その後カイジは、どんなに裏切られても信じることは止めない傾向にあり、それを有効利用して利根川を討っている。

そう思うと、恋愛でも、その他でも、真っ直ぐ素直な気持ちで当たれ、というメッセージが感じられる。鏡は、それを手助けするキャラクターとも取れる。
今回は原作と大きく異なる要素があり、最終シリーズ構成としての、同氏のテーマが一層濃くなった回だった。