カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン7話脚本:「もの言わぬもの」の声を聞け

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台は日本の田舎。
冒頭からして、同氏特徴である自然(今回は入道雲)のアップ・間が出る(自然をキャラと捉える)。
入道雲のアップから始まるのは、チエちゃん奮戦記脚本にもあり、ほぼ同じで驚いた。
画像は今回と、チエちゃん奮戦記・めぞん一刻脚本。

f:id:makimogpfb:20170820171540j:image

夏休み、キートンと百合子(娘)は、キートンが幼少期を過ごした田舎の家に遊びに来ていた。また、百合子の誘いで、キートンの父・太平もやって来る。太平は女好きであるが可愛いお爺さん(特徴)で、キートンとのやり取りが幼い(特徴)。ワンナウツ脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170820171636j:image

キートンと太平は、ともに離婚した身。百合子は、この機会を利用し、女心がわかっていない事への反省を二人に促す。
そして百合子は、隣家の新庄さんの家を訪ねるが、そこで村田さんというお婆ちゃんと出会う(特徴:味のあるお年寄り)。めぞん一刻脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170820171723j:image

百合子は、村田さんと話し込む。
村田さんは昔、太平の妻だったパトリシアが、森の中で寂しそうに佇んでいる所を見たという(特徴:ぼっち)。そしてその後すぐに、パトリシアは故郷に帰ってしまったそうだ。
ちなみにパトリシアは健在で、実業家としてロンドンで活躍している。

一方、キートンと太平は、パトリシアが作ってくれた料理の中で、どれが美味しかったかという話をする(特徴:食いしん坊、飯テロ)。太平の場合は、新鮮なわさびと共に食べる手打ち蕎麦で、キートンはサマープディング。
二人は早速、それらを作り始める。

サマープディングを作ってみたキートンだったが、何かの香りが足りないことに気付く。
そこで、パトリシアが昔書いたメモを探すことに。
捜索の末、キートンは彼女のノートを発見する(特徴:魂のこもった紙)。

魂を持つ紙(ノートや本、手紙)は、同氏作品で多く見られる。
画像は今回と、監督作忍者マン一平エースをねらえ!演出、チエちゃん奮戦記脚本。
特にエースをねらえ!音羽さんのノートは、色々な思いが込められている。 

f:id:makimogpfb:20170820171933j:image

ノートを手にしたキートンは、幼少の頃を思い出す。母は、サマープディングの香りを「妖精の香り」と言っていた。
それは、女神プロセルピナが、妖精ミンスを草に変えてしまったという話が元ネタ。
画像は菓子テロ集。今回、怪物くん脚本、元祖天才バカボン演出。 

f:id:makimogpfb:20170820172031j:image

神話から、香りの元がミントであることが判明するが、それはただのミントではなかった。
キートンは、ノートに挟まっていた葉から、それがペニロイヤルミントである事を突き止める。
ここでも、葉をキャラとして扱う同氏の特徴が出ている。めぞん一刻脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170820172127j:image

ペニロイヤルミントは、パトリシアの故郷・コーンウォールのもの。
キートンは、太平の愛犬・太助の力を借り、パトリシアが植えたペニロイヤルミントの畑を発見する。
犬の描写がめぞん一刻脚本を思わせる。 

f:id:makimogpfb:20170820172206j:image

そこに太平も来て、二人でパトリシアのノートを見る。

ノートには、故郷のペニロイヤルミントを植えた、と書かれていた。
ここも、同氏特徴の、「紙に書かれた思い」が出ている。エースをねらえ!演出と比較。

f:id:makimogpfb:20170820172244j:image

だが畑は、水が来なくて干上がりかけていた。そこで太平と太助は、寝食を忘れる勢いで、畑に水を引く装置を作り始める(二人とも工作が得意)。
後に装置は完成、起動の日を迎える。
特徴であるランプのアップ・間が出てくる。カイジめぞん一刻脚本と比較。 

f:id:makimogpfb:20170820172324j:image

装置は、発動機と風車、ホースなどを組み合わせたもの。まるで生き物のような描写に、同氏特徴が出ている(物もキャラクター)。
また、ピタゴラスイッチ的描写も、同氏作品によく出る。ルパン三世2期演出と比較。 

f:id:makimogpfb:20170820172402j:image

装置は見事に水を運び、畑は生き返る。
二人の技術に村人も盛り上がり、百合子は父と祖父を見直す。
風車ということで、カイジ2期脚本と比較。家なき子演出にも、よく出ていた。
これもまた、生きているかのような「間」が発生している。

f:id:makimogpfb:20170820172446j:image

生き返った畑を見つめ、キートンは太平に、ミントの神話の別説を紹介する。

別説によれば、プロセルピナは、ミンスが運ぶ故郷の香りが辛くてミンスを草に変えたが、それでも故郷が忘れられず、遂には故郷に帰ってしまったという。
また、ミントには、思い出を保つ働きがあると言われる。
ペニロイヤルミントによって望郷の念にかられたため、パトリシアは故郷に帰ってしまったのではないか…とキートンは説く。
画像は、父子(今回)と疑似父子(カイジ脚本)。どちらも距離を縮める。

f:id:makimogpfb:20170820172532j:image

その後、旧友と会うため、太平は先に東京に帰る。
キートンと百合子は親子水入らずで、ペニロイヤルミント入りのサマープディングを作るのだった。ラストも、二人を見守るかのようなペニロイヤルミントのアップ・間がある(特徴)。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

f:id:makimogpfb:20170820172607j:image

  • まとめ

自然が豊かな田舎が舞台になっているため、同氏の「自然をキャラとして扱う」ポリシーが、ふんだんに発揮されている。
おまけに機械も出て来て、こちらも「生きているような物」の描写が強く出ている。
更に飯テロ。
同氏特徴の宝庫になっている。

「ぼっち」が悲劇を招いたり、果ては世界の危機に発展する話は、同氏作品によく出る。
パトリシアは孤独ではなかったが、ふるさとを離れた寂しさには勝てなかった。
そういう寂しさは本人にしかわからず、孤独な悩みとも言える。

また、ミントが元は妖精だったという神話は、自然をキャラと捉える同氏にうってつけ。植物であるミントに「魂」があることの裏付けになっている。
神話のプロセルピナも、今回のパトリシアも、ミントによって「故郷へ誘われた」とも取れる。

f:id:makimogpfb:20170820172820j:image
そしてキートンと太平は、故郷を想うパトリシアの寂しさを、料理やノートといった「物」に「導かれて」知ることとなる。

これも、同氏特徴である「意思を持つ物の活躍」が出ている。

こういった、「意思を持つ自然・物の活躍」が、あらゆる同氏作品に出て来るのが毎度不思議(特に脚本)。
思えば、めぞん一刻(脚本・最終シリ構)でも、自然の描写がアニオリでよく出ていた。画像は今回と、めぞん一刻脚本との比較。 

f:id:makimogpfb:20170820172757j:image

枯れかかったミント畑に関しても、まるでキートンに助けを求めていたかのようにも取れる。
アカギ1話脚本でも、南郷に切られようとした牌を助けるように、アカギが南郷を止める。その結果、南郷は生き残る。

アカギもカイジも、ワンナウツの渡久地も(いずれも脚本・シリ構)、物の声を聞き、自然の助けを借りる術を知っている。特に渡久地が雨を利用したり、カイジが地盤を利用したりする場面によく出ている。
今回のキートン然り。

元祖天才バカボン演出では、物を粗末にしたパパに恐ろしい罰が下される回がある。
そこから考えるに、アカギ・カイジ・渡久地らには、自然や物の声を聞ける主人公であってほしい…という願いが込められているのかもしれない。

ちなみにサマープディングの作り方は、ネットで検索すると出てくる。食パンを容器に敷き詰めて、そこへ果汁と果肉を煮詰めたものを流し込み、冷やし固めたものらしい。今回のは、焼く工程があるので、ちょっと普通と異なり、難しそう。

f:id:makimogpfb:20170820172928j:image