カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

MASTERキートン26話脚本:太陽が照らす愛

 (Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。) 

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。
今回の舞台は冬のドイツ東部・ライプツィヒ(旧東ドイツ)。

冒頭にて、高屋敷氏の演出や脚本によく出る、窓やランプ、物の意味深なアップ・間がある(特徴:物や自然をキャラと捉え、無言で語らせる)。下記画像はRIDEBACK脚本との比較。

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下記画像はジョー2脚本との比較。

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東ドイツの水泳選手で五輪の金メダリスト・ノイマンは、とある事情でホームレスとなり、ユーゴ内戦から逃れた難民達と、廃屋の中で暮らしていた。
ノイマンは生きる気力を失い、死にたがっていた。
ゲン2脚本の、死にたくても死ねない老人を思わせる。

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一方難民達は、故郷を追われて苦しいはずなのに、笑顔が絶えない。ノイマンは、それを不思議に思っていた。
難民達の笑顔は、はだしのゲン2脚本にて、原爆被害にあっても、たくましく生き、笑い合うゲン達と重なる。

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難民の子供・イリアは、よくノイマンに接してくる(特徴:ぼっち救済)。そんなイリアに、ノイマンは金メダルをあげる(特徴:贈り物)。
ジョー2脚本で、孤独に佇むホセに対して丈が話しかけ、それに応えてホセが折れたコインを渡す場面が思い出される。 

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難民達があたっている焚き火のアップが入るが、同氏演出・脚本とも火のアップ・間はよく出る。ど根性ガエル演出と比較。
まんが世界昔ばなしでは「動物達と火」という、「なぜ人類が火を使うようになったか」という話の演出までしている。

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ある日、雪だるまを作っていたイリアに、極右のスキンヘッド達が因縁をつけてくる。スキンヘッド達はユーゴ難民を差別しており、嫌がらせをしたり、暴力をふるったりする。
はだしのゲン2脚本でも、原爆で負った火傷のせいで、かつ子が差別を受ける。 

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そこにノイマンが来て、自分を殺せとスキンヘッド達に言う。自殺願望キャラは、同氏の演出・脚本によく出て、強く描写される。これも興味深いところ。
だがスキンヘッド達は、ノイマンの異常さに圧倒され、退散。ちょっと、カイジがチンピラを撃退する場面と比較してみた。

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イリアの親はノイマンに感謝するも、ノイマンは内心、死ねなかったことを惜しむ。
その後、難民達はユーゴ名物の、豚の血入りソーセージを焼く(特徴:飯テロ)。ここも、はだしのゲン2脚本の、皆で餅を焼く場面と重なる。どちらも苦境の中での楽しみ。 

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そこへ、キートンがやってくる。キートンは持ち前の人懐さで、すぐ難民達と打ち解ける。そして、共に酒盛りを始める。
一方、イリアはノイマンにもソーセージをあげる。
特徴の、「皆で食べるご飯は美味しい」。ど根性ガエル演出、カイジ2期脚本と比較。

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そんな折、またもスキンヘッド達が嫌がらせをしに来る。
外に出ていたノイマンとイリアは、再びスキンヘッドと対峙。スキンヘッドのリーダーは、イリアが持っていた金メダルを見て、ノイマンの正体に気付く。ノイマンは、金メダルを獲るも、ドーピングをしていたのだった(コーチが本人に知らせてはいなかったが)。

そんなノイマンに対し、スキンヘッド達は暴行を加えるが、キートンが難民達と共に、つららを武器にした組織戦を展開。スキンヘッド達を撃退する(特徴:知略)。
キートンは、ノイマンに敗れた銀メダリストのヴェンナーの依頼で、ここに来たことを明かす。

ヴェンナーは、ドーピング云々より、ノイマンの泳法を高く評価しており、一緒に水泳関係の仕事をしようと誘うつもりだった。
だがノイマンは、自分の体は薬の副作用でボロボロだからと言い、固辞する。
それでもキートンはヴェンナーを連れてくる。

だがノイマンは、何処かへ姿を消していた。
人知れず去ろうとするノイマンを、イリアが止めようとするが、ノイマンは聞かなかった。
この場面、不思議なことに、出崎演出(特徴)ぽく船が横切っていく(アニオリ)。ジョー2脚本と比較。他作品でも多い。 

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ノイマンの決意の固さを理解したイリアは、もらった金メダルを返そうとする。その拍子に、イリアは川へ落ちてしまう。
ノイマンはすかさず川へ飛び込み、イリアを助ける(特徴:体を張る年上男性)。ルパン三世3期脚本と比較。

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ドーピングで体がボロボロであるノイマンは、イリアを助けた後、自身が川へ沈んでしまう。

ノイマン臨死体験をし、そこで光を見る。天国へ行けると思ったノイマンだったが、その光は太陽だった。特徴の、「全てを見守る太陽」。ジョー2脚本でも、太陽が「見ている」。 

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ノイマンは意識を取り戻す。ヴェンナーに助けられていたのだった。そして、自分が生きていることを、涙を流して喜ぶ難民達に気付く。
ノイマンは、彼等が「家族」なのだと悟る(特徴:疑似家族)。
ゲン2脚本にて、老人を家族として迎えるゲン達と比較。

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ノイマンは、「家と家族を見つけた」と、ヴェンナーの誘いを丁重に断り、難民達と生きていくことにする。
そして、イリアと共に作った雪だるまに、金メダルがかけられたのだった。

  • まとめ

背景に戦争があることもあり、はだしのゲン2脚本を思わせるものが多々ある。
特に、はだしのゲン2の、死にたくても死ねない老人と、今回のノイマンが重なっていくのは面白い。

死にたくても死ねない…は鬱の症状の一つだが、「そっとしておく」という周囲の適切な対処も、ゲン2脚本と同じ。原作通りなのだが、ここの強調具合に、はだしのゲン2と通じるものがある。つくづく、はだしのゲン2脚本の、鬱病対処描写には驚かされる。

自殺願望者の描写は、ど根性ガエル演出、元祖天才バカボン演出時代にも、よく出てくる。以前書いたが、カイジ2期(脚本・シリ構)の、おっちゃんも自殺同然のことをする。
そして、それを止めるキャラクター達も印象的に描かれている。

じゃりん子チエにて、おバァはんが「寒くてひもじいと死にたくなるから、ご飯は食べよう」と言う名シーンがある回も、奇しくも高屋敷氏脚本回。今回、極寒の中で難民達がソウルフードを食べ、笑い合う事にも通じるものがある。

そして、あらゆる作品で出る「孤独は万病の源」が、今回も描かれている。そして、「孤独にさせない」ことが大切だと今回も説く。
ノイマンも終盤、自分が一人ではなく、家族同然の人々に囲まれていたことに気付く。

こういった、精神疾患と、その対処について強く描かれているのが高屋敷氏の作品の魅力だと感じるわけだが、やはりルーツは、脚本参加の、あしたのジョー(無記名の1も含む)における力石の死であるのでは?と考えている。丈も悩み苦しむが、一人ではない事に徐々に気付き、ジョー2最終回手前(高屋敷氏脚本)では、泪橋の皆が自分の心にしっかりといる事を自覚している。

また、今回「太陽」が活躍している。まんが世界昔ばなし「幸福の王子」演出では、王子と燕の魂が太陽に回収される。今回も、意識を取り戻したノイマンが目にしたのが太陽。原作より目立っている。
そして太陽が照らしたのは、ノイマンの「家族」である難民達。

監督作忍者マン一平EDでは、顔のついた太陽が出てきて、最終的に太陽の中に仲間達の顔が映る。
これを見るに、高屋敷氏にとって太陽がいかに重要なキャラクターであるかがわかる。また、太陽は万事を見て、時に真実を照らす、というメッセージも感じられる。

今回のサブタイは原作通りで、ズバリ「家族」。MASTERキートンは全話、原作と同じサブタイなのだが、疑似家族と、その家族愛を描いて来た高屋敷氏にはうってつけのサブタイと話になっている。

毎度、奇跡的に同氏が得意な要素が入っている原作が回ってくるような感じを受けるが、奇跡で片付けずに考えると、強調したい箇所やテーマが共通しているのだろう。
今回も、自殺防止や精神疾患に対する鋭いテーマが出て驚かされる回だった。