カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

1980年版鉄腕アトム21話脚本:人の業を「見ている」ロボット達

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。 監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。

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豪華宇宙客船タイタン号は、月一周旅行に向けて順調に航行していた。
船内パーティーにて、取材のため乗り込んでいるアナウンサーがベラベラ名実況なのが、高屋敷氏特徴。下記画像は名実況達。ジョー2脚本・監督作忍者マン一平・らんま脚本。

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タイタン号は、お茶の水博士の友人・神田博士の設計。それを祝いに、お茶の水博士とアトムも乗船していた。この状況設定はアニメのオリジナル。
だがタイタン号は、コンピューターの故障もあり、小惑星に激突。船は爆発の危険があるとして、皆は救命艇で避難するが、アトム含め逃げ遅れた乗客がおり、彼らは予備の救命艇で脱出。だが救命艇は故障し、月に不時着する。

救命艇に乗っていたのは、アトム・神田博士・少年のヨシオ・新婚夫婦のノリコとケンジ・成金社長の西山・会社重役の樽井・アナウンサー。

このキャラ名・キャラデは全てアニメのオリジナル。
この中で、ヨシオという名は高屋敷氏と長年仕事した、竹内啓雄(よしお)氏からとったのではないだろうか。
また、ノリコという名。リコというオリジナルキャラクターはXMENやらんま脚本で登場しており、気になる所である。あくまで推測だが、ど根性ガエル演出などで関連性がある演出家・棚橋一徳(かずのり)氏の“のり”から来ているのではないか?とも考えている。

アトム達が不時着した地は、夜は-200℃だが、日照時間中は人が生きられる温度になり、空気も存在。
一行はそれを知り喜ぶ。
いつも不思議だが、同氏作品は、演出も脚本も、喜ぶ姿が可愛い。家なき子演出、監督作忍者マン一平カイジ脚本と比較。

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外に出た一行は、月の不思議な自然に圧倒される。
植物も一気に成長したりするのだが(原作通り)、高屋敷氏演出の、まんが世界昔ばなし「ジャックと豆の木」が思い出される。

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一方、神田博士は救難信号を出せるように、救命艇の修理に励む。

その一方で西山と樽井は、でかい怪物を森で見たと、アトムに知らせる。

それを聞き、調査に向かったアトムは、朽ち果てた古い宇宙船を見つける。
船内には旧式のテープレコーダーがあり、女性宇宙飛行士・ミーニャの声が吹き込まれていた。

ミーニャによれば、事故でここに不時着し、イワンというロボットと共に何とか暮らしていたらしい。
また、ダイヤを見つけ、それをイワンに耳飾りとして与えた話も吹き込まれていた。
高屋敷氏特徴の、ぼっち・ぼっち救済描写が冴える。

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ミーニャは病に倒れ、テープレコーダーに話を遺して死亡。
アトムが話を聞き終えた直後、イワンが現れる。イワンはミーニャを看病するプログラムを実行し続けており(特徴:ぼっち)、アトムも看病しようとする。アトムは困り、なんとか脱出する。

その頃、アナウンサー達は原生する果物を見つける。果物は美味で、彼らは食べまくる。
高屋敷氏特徴の飯テロ。しかも、このくだりはアニオリ。
相変わらず描写が食欲をそそる。チエ2期・キートンカイジ2期脚本と比較。

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アトムからミーニャの話を聞いたヨシオは、アナウンサー達を鼓舞しようとし、ダイヤの話もするが、彼らはダラダラし続ける。
だが神田博士が救難信号システムを直した途端、西山達はダイヤを欲しがる。カイジ脚本でも描かれている、人の浅ましさ。 

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西山はダイヤを独り占めすべく銃を取り出し、ヨシオを人質に取って、アトムをダイヤの在処へ案内させる。
やむを得ずアトムがイワンにダイヤの在処を聞くと、ミーニャの墓に埋めたとのこと。

西山はヨシオに墓をあばくよう命令するが、ヨシオは拒否。
このヨシオ、少年ながら不屈の精神を持ち、勇敢で誇り高い好漢。カイジ1期9話脚本の、不屈の精神を持ち、汚い心を嫌悪するカイジに共通するものがある。同氏の好きなタイプなのかもしれない。 

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そうこうするうち、雪が降ってくる。夜が来ると凍死は必至。アトムは、やって来る救出艇に乗るよう西山を促すが、西山は墓あばきを止めない。アトムは怒りとも呆れとも取れる表情をし、ヨシオだけを連れて艇へ向かう。人の業に怒るカイジ脚本と比較。

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そして、西山はダイヤを掘り当てる。カイジ脚本と比較。

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また、雪などの「天」を重要キャラと捉えるのは高屋敷氏の特徴。下記は情感溢れる雪特集。今回、家なき子演出、めぞん一刻脚本。

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ダイヤを手にした喜びも束の間、西山はイワンに捕まり、介護プログラムを実行されて身動きが取れなくなる。そして、そのまま夜を迎えることに…。
救出艇は西山を残し発進。窓から外を眺めるアトムは虚しさを覚えるのだった。
人間の浅ましさに悔し涙を浮かべるカイジ脚本と比較。

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  • まとめ

冒頭からして、アナウンサーがベラベラ名調子で喋る所に、高屋敷氏の特徴が出ている。台詞もほぼアニオリ。
これは、あしたのジョー脚本にて実況アナの台詞を書いてきた所から培われたと思うが、同氏が好きな、「男はつらいよ」の寅さんの口上からも来ているかもしれない。

ミーニャとイワンの過去話や、ひとりぼっちで過ごして来たイワンの描写についても、多くのぼっち・ぼっち救済を描いてきた高屋敷氏の特色が出ている。
監督作忍者マン一平でも、海岸でぼっちで過ごし、人を砂像に変えてしまう怪物の話がある。

忍者マン一平の方の怪物は、人に危害を加えすぎたとして一平達に退治されるが、怪物の寂しさも印象に残る話になっている。
一方今回のイワンは、自覚はなくとも、介護プログラムが人を殺める方向に働いてしまう。
それは、イワンを益々孤独にする。

「孤独は万病の源」は高屋敷氏が強く打ち出すメッセージの一つだが、今回もそれが強く出ている。
原作もアニメもミーニャの病名は明かされていないが、高屋敷氏的に考えると、アニメでは孤独が彼女を蝕んでいたとも取れる。

イワンとミーニャは互いの孤独を癒し合う関係にあったと思われ、ミーニャの死により、イワンは果てしない孤独に陥っている。それが何とも悲しい。
西山にしても、じきに死んでしまうだろうし、イワンの孤独はさらに強まることが予想される。

高屋敷氏の作品では、死を招きかねない孤独が、仲間や家族の愛により救済される例と、死を招く孤独にはまったまま狂ったり、死んだり、果ては世界の危機を招くまでに至る例とがある。今回は後者。

原作ではラストにナレーションが入り、強欲な者にバチが当たったことが強調されるが、アニメの場合は、イワンの孤独と悲しさが強調されている。

高屋敷氏の特徴として、「意思を持つ、もの言わぬもの」の活躍があるが、イワンもその好例と言える。

クライマックスで描かれる、ダイヤに目がくらんだ人間達の浅ましさは、カイジ1期9話脚本と比べると面白い。
命の危機にあっても、墓あばきを断るヨシオと、金に翻弄される人間の浅ましさを見てきたカイジの激昂は、重なるものがある。

そしてアトムやイワンは、人間の浅ましさを、ロボットとして客観的に「見ている」。
高屋敷氏の作品では、月や太陽などの自然や、ものいわぬ物たちが全てを「見ている」かのように描写される特徴があるが、今作でも、それが出ている。

そしてアトムには感情があるので、人の業を見て怒ったり悲しんだりする。
高屋敷氏が描写してきた、「もの言わぬもの」達も、アトムのようになれたなら、様々な表情を浮かべたかもしれない。その証拠に、同氏の児童向け作品では月や太陽に表情がつく。

このように、高屋敷氏のロボット描写は、「魂がある、無言のもの」の延長戦上にあり、相性はいいのではないだろうか(ロボットものは少ないが)。
とにかく今回は、孤独や、人間の業を見つめるロボット達が印象に残る回だった。