カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

太陽の使者鉄人28号32話脚本:「主人公と中高年の交流」を強調するための布石

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。 少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。 監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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まず、サブタイトルの「死闘!白夜の対決」。
高屋敷氏のルパン三世2nd演出コンテ作に「白夜に消えた人魚」というサブタイトルの回があり、それと重なる。どちらともノルウェーが舞台なのも共通する。

北海にて、雷神トールと名乗る巨大ロボットとバイキング達により、輸送船が次々と襲われる事件が発生。

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雷神トールは雷を操るが、雷が1キャラクターとして波乱を告げる場面は多々ある。
1980年版鉄腕アトム花田少年史・アカギ脚本と比較。

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北海での輸送船襲撃事件が続発する最中、ノルウェーからNYまで美術品を船で運ばなければならないノルウェーは、正太郎と大塚警部、鉄人に美術品の警備を依頼する。

大塚警部が地図で説明する場面、舞台が同じノルウェーなだけあり、ルパン三世2nd演出と重なる。 

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その頃ノルウェーでは、地元警察のオーギャン警部とニガール部長が波止場に佇んでいた。

特徴の出崎演出持ち込みの波止場描写。エースをねらえ!演出、ルパン三世2nd演出、アカギ脚本と比較。不思議なのは、「脚本」でも波止場描写が似てくること。

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オーギャン警部は定年間近の渋い刑事で、ニガール部長は、そのよき理解者。
とにかく高屋敷氏の作品では、味のある中高年が沢山出てくる。
渋いカテゴリということで、アカギ脚本と比較。

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ところで、同じくノルウェーを舞台にしたルパン三世2nd演出回でも、「ニガール」という名前のキャラが出てくる。どちらも警官だが、性格と外見は大きく異なる。

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オーギャン警部は、正太郎達と共に美術品の警備をすることになっているのだが、今まで自分流の仕事をしてきた彼にとって、それはあまり面白くない事だった。
高屋敷氏特徴で、煙草演出が渋い。1980年版鉄腕アトムカイジ2期脚本と比較。 

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オーギャン警部と正太郎達は、なんとなく気まずい雰囲気になりながらも、美術品を積んだ船に乗り込む。
出港時に太陽が映る(特徴:太陽は重要キャラ)が、同じノルウェーが舞台のルパン三世2nd演出でも太陽が強調されている。

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船が沖に進むと、雷が発生して雷神トールとバイキングが出現。鉄人は雷神トールに、オーギャン警部達はバイキングに苦戦。
混戦の中、正太郎、大塚警部、オーギャン警部は海に投げ出されてしまう。
一度敗北を味わう展開は、高屋敷氏の作品によくある。

正太郎達は巡視船に救出されたものの、輸送船は奪われてしまう。更に、大塚警部は負傷。
そんな中、責任を感じたオーギャン警部は辞表を出し、単身ベルゲンに向かう(特徴:体を張る中高年)。

オーギャン警部を放っておけない正太郎は、鉄人に乗ってオーギャンを追う。自暴自棄のおっちゃんの元にカイジが来てくれる場面が思い出される。カイジ脚本と比較。主人公が中高年に優しいのも、高屋敷氏の特徴。

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素直ではないものの、オーギャン警部は正太郎の同行を認める。
オーギャン警部がベルゲンに向かうのは、長年の刑事の勘からだった。また、ベルゲンは(北欧神話の)トールやバイキングゆかりの地でもある。

オーギャン警部の勘は当たり、フィヨルドの一角にて、盗まれた輸送船を発見。だが、美術品や乗組員は見つからなかった。
鉄人が来ているのを知った敵の首領・ノースゲルは雷神トールに乗り出撃。鉄人と死闘を繰り広げる。

一方でオーギャン警部は対人戦にて雑魚を次々と倒す。
鉄人は雷神トールの雷攻撃に苦戦するも、諦めずに立ち上がる(特徴:不屈の精神)。カイジ脚本にて、カイジの諦めない姿勢が強調されていたのが思い出される。

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また、何度も立ち上がる展開は、あしたのジョー脚本にも通じるものがある。
鉄人は持ち前の頑丈さで雷神トールに反撃し、とどめのフライング・キックで雷神トールを粉砕する。

事件解決後、レストランの松明の炎のアップが映る。特徴の、「自然や物がキャラクターとして語る・見ている」描写。特に火は頻出。
ベルサイユのばらコンテ、あしたのジョー2脚本と比較。 

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ニガール部長は、正太郎達に感謝する。またも不思議な特徴で、「脚本」からでも喜ぶリアクションが可愛い。1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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そしてオーギャン警部に対し、ニガール部長は辞表を返す。思いを伝える「紙」も頻出。エースをねらえ!演出と比較。

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それを受け、オーギャン警部は辞表を松明に投げ入れて燃やす。ここも、火が「役割」を持っている。MASTERキートン脚本と比較。

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オーギャン警部は、定年までの残り少ない時間を警官として生きることに決め、次の任務に向かうのだった。
「プロの背中」ということで、MASTERキートン脚本と比較。

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  • まとめ

香港が舞台ということで、同作脚本28話と、ルパン三世2nd43話脚本の共通点が多かったのに続き、今度はノルウェーが舞台ということで、ルパン三世2nd演出コンテの147話とリンクしている。名前まで被る(ニガール)のは驚き。

また、登場する地名も、ルパン三世2nd演出と被る(ベルゲン)。推測だが、ノルウェーに関してルパン三世2nd演出に入れられなかった要素を、今回に回しているのではないだろうか。

やはり不思議なのは、「演出」でも「脚本」でも、出る個性が共通している点。演出では話に、脚本では画に、殆ど関与できないと思われるのだが、映像が似てくる。
ただ今回を見るに、脚本にて自分の好きな状況を作れる事が、何となく窺える。

例えば、出崎兄弟演出的な波止場を登場させるには、船で美術品を輸送するという状況を設定すればよい事などが挙げられる。
また、同氏特徴の太陽に関しても、白夜という設定にすることで、太陽を多く登場させる事ができる。ベルサイユのばらコンテと比較。

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また、同氏が好きなシチュエーションと思われる、中高年と年下の主人公との交流も、強調するための装置が脚本にあるような気がする。
カイジ脚本でも、石田さん・おっちゃんとカイジとの交流が強調されるように設計されている。

今回、オーギャン警部と正太郎の交流を強調するために、後半は大塚警部が怪我でリタイアする。まさに「脚本の都合」。
また、高屋敷氏のロボットアニメに対するポリシーとして、生身の人間の戦いも描かれる。

こうして見てみると、演出でも脚本でも、高屋敷氏は「自分の好きなもの」を出すための「装置」を作るのが上手いのではないだろうか。
年を経ると、脚本にて、その能力が多いに発揮されることになる。

1980~82年は、高屋敷氏が演出と脚本、両方の仕事を掛け持ちしていた過渡期かつ重要な年でもある(特にジョー2脚本)。
また、今回の「脚本」のネタ元に、ルパン三世2ndの「演出」が使われているのは面白い。

これを見るに、高屋敷氏にとって「脚本」と「演出」の距離は近いのかもしれない。
演出には脚本の経験を、脚本には演出の経験を使えている。
脚本と演出の相関関係について、考えさせられた回だった。