カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

蒼天航路2話脚本:愛に生きるという「選択」

アニメ・蒼天航路は、曹操の生涯を描いた同名漫画のアニメ化作品。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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ゴロツキ集団・爆裂団の首領に勝ち、生き残った爆裂団を配下に加えた曹操は、洛陽に戻った。

友人・袁紹は、出世コースから外れてしまうと曹操に忠告するが、曹操は気にしない。

そんな折、曹操は街の茶屋で奴隷同然に働かされている胡人(はるか西方の民族)の娘・水晶に目を止める。
曹操は水晶に近付き、水晶を見つめる。
水晶は驚き、茶作りの道具を取り落とす。
ここで道具のアップ・間・動きが入るところに、高屋敷氏の特徴が出ている(物をキャラクターと捉え、演技させる)。あしたのジョー2・めぞん一刻脚本と比較。

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曹操は水晶を馬に乗せて湖へ連れて行き、ともに湖に飛び込む。

顔を隠し、一見汚い身なりだった水晶は、湖の水に洗われ、その美しい姿を晒す。曹操は、水晶が美しいことが最初からわかっていたのだ。
水面には、その「真実」が映る。ここは原作通りではあるが、高屋敷氏の作品では「真実を映す鏡」が多く出てくる。これもまた、鏡をキャラクターと捉えているためと考えられる。
元祖天才バカボン演出、じゃりん子チエ・あしたのジョー2脚本と比較。

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二人は、たちまち恋に落ちる。
水晶は、様々な外国の話や、獅子のこと、色々な天下人のことを曹操に伝える。
そんな水晶の頭に曹操は優しく触れ、
「この小さな頭には面白い話が一杯に詰め込まれている」と誉める。
水晶はその愛情に涙を流す。
高屋敷氏特徴の、優しい手つき。はじめの一歩3期脚本と比較。

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その後も二人は逢瀬を重ねる。ここで夕陽が映る。太陽を高屋敷氏は重要なキャラクターと捉えているようで、よく出る。ベルサイユのばらコンテ、家なき子演出、あしたのジョー2脚本と比較。

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ここでも、夕陽が二人を「見ている」ような存在感を発揮している。

また、二人は馬に乗って夕陽に向かい進んで行くのだが、家なき子演出と似てくる。

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毎度ながら、「脚本」なのに画が共通していくのが不思議。

水晶は、自分の故郷の言葉「アモーレ」を、自分が一番大切にしているものとして伝える。「アモーレ」とは、愛を語る時に使う言葉であった。二人は、ともに「アモーレ」と何回も叫ぶのだった。

ここでも、沈み行く夕陽が二人の運命を示唆するように映る。

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幸せも束の間、水晶は、絶対的な権力を持つ宦官・張譲にもらわれることが決まってしまう。雇い主である茶屋夫婦に逆らえるはずもなく、水晶はひとり泣く。

水晶と結婚するべく曹操が茶屋を訪れるも、時すでに遅く、水晶は張譲のもとへ行ってしまっていた。

曹操は激怒し、その勢いで壷が割れる(特徴:物=キャラクター)。めぞん一刻脚本と比較。

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その夜、不吉を示すような月が出る。月も高屋敷氏の作品では重要キャラクター。チエちゃん奮戦記脚本・元祖天才バカボン演出・エースをねらえ!演出と比較。

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怒りに燃える曹操は、張譲の屋敷を訪ねる。張譲に対面した曹操は、水晶を返せと迫るが、張譲は取り合わない。

このままでは曹操が危険だと察した水晶は、わざと曹操にそっけない態度を取る。
そんな水晶に、曹操はあの言葉、「アモーレ」を使う。

その気持ちを受け取った水晶は、曹操との恋は自分に生きる力を与えてくれたと、曹操に感謝する。
そして、全てを覚悟の上で、水晶は張譲に斬りかかる。だが、水晶の刀は張譲の頬に傷を負わせるのみとなる。

水晶は直ちに張譲の衛兵に刺される。
瀕死の水晶は、曹操に「生きて」と言い、こと切れる。

悲しみと怒りをもって、曹操は襲いかかる衛兵達を斬り殺し、屋敷を出る。

曹操は水晶の遺言の通り、生き抜くことを決める。

そのために、曹操は爆裂団に身を潜めるよう言い渡すが、張譲曹操の家の庭に水晶の死体を吊るすという、残忍な嫌がらせをする。

怒り心頭の曹操だったが、両親に、水晶を曹家の墓に丁重に葬るよう頼み、自身は部尉(警備隊長)の命に従い、牢に入る。

だが、その目は生きることを諦めてはいなかった。高屋敷氏特徴の、不屈の精神。カイジ脚本と比較。

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  • まとめ

まず、サブタイトルの「アモーレ」。高屋敷氏の作品では、「人ではないもの」がテーマになっていたり、重要な役を担っていたりする。

今回の「アモーレ」は、水晶が「一番大切にしているもの」。だからサブタイトルに使われ、話の主軸となっている。

また、太陽や月が全てを見ている。全てを「見ている」は、「未来」も含まれる。だから不吉を示すこともできる。

高屋敷氏が監督を務めた忍者マン一平には、月や太陽に表情がついているため、わかりやすくなっている。

まとめれば、「天」が重要なキャラクターなのだ。後年になればなるほど、その「役割」は重くなり、迫力が増す。「脚本」でも、いや「脚本」の方がその迫力が画面に表れるのが毎度不思議なところである。

そして、水晶の生きざまが描かれる。彼女の哀しい運命は原作通りだが、原作より男気(女性だが)を感じる。高屋敷氏は、様々な作品にて、性別を問わない男気を描いている。

また、「自分の人生は自分で決めろ」というメッセージは高屋敷氏の作品にて数多く発せられているのだが、今回の水晶然り。

太陽の使者鉄人28号41話脚本では、「フローレ博士」と「女王エスコ」という2つの顔を持つ女性が出てくるが、彼女は、死ぬ運命とわかっていても「女王エスコという自分」を自らの意志で選択する。

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今回の水晶も、死ぬとわかっていても「曹操を愛している自分」を選択した。

これは、カイジにも表れていて、カイジに全てを託すことを確固たる意志で決定し死んだ石田さんや、指を切られることがわかっていても、自らの意志で負けを受け入れたカイジに生かされている。

こういった、「己を強く持ち、自分の意志で人生を決めろ」というメッセージは様々な作品にて見受けられるわけだが、そのルーツはデビュー作の「あしたのジョー1」脚本(無記名)にあり、それが脈々と受け継がれているのではないだろうか。

そして、家なき子演出では「前に進め」というテーマが出てくる。

また、あしたのジョー2脚本(特に最終3本)でも、燃え尽きるのがわかっていても、「真っ白」になるまでボクシングをやりたいという、丈の強い意志が描かれている。

こう見ていくと、「自分の意志で人生を決める」ことがいかに大切かがわかってくる。

今回の水晶は、自らの意志で曹操の恋人として生き、散る。
その強さが印象に残る回だった。

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ちなみに少しネタバレすると、曹操はその後、公正な裁判官との問答の末、釈放されている。