カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-9話脚本:人が童心に返る、「勝負の世界」

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが石山貴明氏、演出が谷田部勝義氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

筑波サーキットでの、FJ1600の練習走行が始まった。練習走行開始前に、左足を怪我した軍馬はクラッチを切れなくなり、低速走行を余儀なくされるが、なんと右足1本で運転を開始、上位ランカーの砂井に食い付く。意固地になる砂井に対しキレた軍馬は、靴やヘルメットを投げ、マシンを降りてもケンカを続けるのだった。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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左足の怪我が原因でクラッチが切れず、低速のままの軍馬を、聖(軍馬の後のライバル)が抜いていく。この場面はアニメオリジナルで、聖と軍馬の関係を強調したいという、構成の意図を感じる。

また、高屋敷氏の特徴である、状況や真実を映す「鏡」の活躍がある。あしたのジョー2・めぞん一刻脚本と比較。

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後ろをついて走る岸田(軍馬を慕う、金持ちインテリ青年)は、軍馬が左足を怪我していると悟り、ピットインするよう助言。
だが軍馬は、なんと右足だけで運転、加速。ここの軍馬は原作より幼い感じがあり、幼さや無邪気さの表現が上手い、高屋敷氏らしさが出ている。

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加速する軍馬は、鼻持ちならない上位ランカー・砂井に食い付く。砂井は、片足運転する軍馬を見て、「サーキットはサーカスじゃねえんだぞ」「とんだ道化師だぜ」と、内心毒づく。この砂井のモノローグはアニメオリジナルで、なかなかウィットに富んでいる。

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迫り来る軍馬に対し、意地になった砂井はタイヤを寄せて軍馬を妨害、「幼稚園の先生に三輪車の乗り方聞いてきな」と軍馬を煽る。この台詞もアニメオリジナル。主人公が保父になる、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)が元ネタかもしれない。

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キレた軍馬は、自分の靴を脱いで砂井にぶつける。
その後、軍馬の靴のアップ・間が出る。物の意味深なアップ・間は、高屋敷氏の作品に頻出。
グラゼニあしたのジョー2・カイジ2期脚本と比較。

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砂井を突き放したい軍馬は更に、もう片方の靴を投げるそぶりをする。
まんまと砂井はひっかかり、スピードダウン。
高屋敷氏の担当作には、なぜか知略や悪知恵を働かせるキャラが多い。
ベルサイユのばら(コンテ)のジャンヌ、カイジ(脚本)のカイジ元祖天才バカボン(演出や脚本)のパパ、ルパン三世2nd(演出や脚本)のルパンなど。

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軍馬が砂井を抜くのを見届けた岸田はピットイン。岸田には、小泉という老執事がついており、なかなか存在感がある。
高屋敷氏は、味のある老人を目立たせるのが得意。忍者戦士飛影はだしのゲン2・チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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岸田から事情を聞いたタモツ(軍馬の親友で、メカニック)は、悪い予感がする…と不安を募らせる。軍馬は、ハンデがあればあるほど燃える男だが、その「燃えかた」が尋常ではない事を知っているからだ。

一方聖は、ストレートでは聖のマシンに劣らない性能を持つ、軍馬のマシンに興味を持つ。聖は敢えて軍馬を待ち、軍馬と競争。この場面は、原作より強調されており、軍馬と聖の関係を前面に出したい、構成の意図が見える。

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聖は、軍馬のマシンの良さに驚き、チューンアップしたメカニックに興味を持つ。
だが、二人の競争は、砂井によって邪魔される。
砂井は、サーキットで拾った軍馬の靴をぶつけて、軍馬に仕返しする。

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キレた軍馬は、ヘルメットを脱いで砂井にぶつける。太陽を背負う構図は、高屋敷氏の担当作品に多い。忍者戦士飛影・太陽の使者鉄人28号はだしのゲン2脚本と比較。

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マシンを降りても、軍馬と砂井のケンカは続く。ここも子供のケンカのようで、幼さ・無邪気さの表現に長ける、高屋敷氏らしさが出ている。画像は、幼いケンカ集。今回、カイジ2期・めぞん一刻脚本。

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一連の騒動を見守るタモツは、「悪夢にちがいねえ」と愕然とする。
「夢に決まってる」と、愕然とするカイジ2期脚本のカイジと、どこか重なる(言い回しも似通うものがある)。

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一方で聖は、軍馬のメカニックに益々興味を持つのだった(今後の伏線)。

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  • まとめ

今回も、原作より聖を目立たせており、聖と軍馬の関係を強調したいという、「シリーズ構成」としての高屋敷氏の一貫した意志を感じる。いつ何時でも、聖は軍馬のモチベーションを上げる存在として、うまく機能している。

また、軍馬と砂井が、子供のような争いを繰り広げる姿は、年齢問わず「幼さ」を描いてきた高屋敷氏の本領が発揮されている。1話では、軍馬に対して聖がムキになっていたが、今回は砂井が、その立場になる。じゃりン子チエ脚本でも、子供のようにケンカする、ミツル・カルメラ兄弟を描写している。

幼さ・無邪気さを強調する一方で、高屋敷氏は、「大人への成長・豹変」も描写する。この、「幼さ」と「大人への成長」のギャップは凄く、インパクトは絶大。
特筆すべきは家なき子最終回の演出だが、カイジにも使われている技術。
普段可愛い姿を見せておいて、成長するとなると豹変する様は、いつも驚かされる。

もともと演出時代から、高屋敷氏は可愛く幼い芝居付けが上手かったわけだが、出崎統監督作品での演出において、それを「仕掛け」として使うことを身につけたのではないか?と思う。家なき子(出崎統監督作品)では、高屋敷氏の演出回はキャラの可愛さが特徴だったが、最終回演出では、主人公のレミが一瞬、大人の男の顔に豹変する。

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これは、今までの演出傾向からのギャップが激しいが故に、非常にインパクトのある演出だった。
本作も、軍馬が幼さを発揮すればするほど、終盤で何か仕掛けを用意しているのではないか?と思えてくる。

また、あしたのジョー2脚本経験(最終回含む)などを生かし、「男の勝負の世界」は、良くも悪くも人を「童心に返らせる」ものであることも、高屋敷氏は描いている。これも、物語が進むにつれ、更にハードになっていくことが予想される。

めぞん一刻脚本・最終シリーズ構成では、主人公の五代について、「いつまでたっても男の子」的な幼さを描く一方、「誰かの人生を支えることができる男」への成長も、見事に描ききった。

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本作のシリーズ構成も、そういった流れは期待できそうである。成長の中身や仕方は勿論、異なると思うが。

カイジのシリーズ構成においても、序盤にて、外車に洒落にならないイタズラをしたり、船井に騙されて泣いたりするカイジの姿を描く一方、勝負に生きる男として前を見据え(1期最終回)、全てを投げ打って人を助ける(2期最終回)姿が描かれた。

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そのギャップに胸打たれるわけだが、高屋敷氏は、そういった構成が非常に上手いと言える。

今回は、まだまだ序盤のため、軍馬の「幼さ」が前面に出ているが、他の高屋敷氏のシリーズ構成作品を考えるに、中盤や終盤に、あっと驚く「豹変」が待ち構えているような気がする。そういった意味でも、よく頭に叩き込んでおきたい回だった。