カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-13話脚本:赤木軍馬という男

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が杉島邦久氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

FJ1600レース決勝。偶然TVで父を見てナーバスになった軍馬は、レース開始後も父の幻影に苦しむ。それでもトップの聖(軍馬の後のライバル)に肉薄するが、事故を起こす。そんな軍馬を、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)が叱咤激励。それを受け、レースに復帰した軍馬は、父に、その先の聖に立ち向かう。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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今回は、原作と違うルートに進んだため、多くがアニメオリジナル。
マシンの整備に励むタモツ(軍馬の親友で、メカニック)に、聖(軍馬の後のライバル)とルイ子(聖の恋人)が差し入れ。
高屋敷氏特徴の飯テロ。はじめの一歩3期脚本、元祖天才バカボン演出/コンテ、グラゼニ脚本と比較。

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一方軍馬達は、近場のレストランで食事。そこで軍馬は、衆院選出馬前のPRとしてTV出演している父・総一郎を目にする(原作では、軍馬はこれを予選前に見る)。アニメでは、異母兄弟の将馬・雄馬も出演しており、「(総一郎の)二人の御子息」と紹介される。
自分の存在が無かった事になっている事に腹を立てた軍馬は、TVを破壊(原作では、足で電源を切る)。自分の存在の抹消=重大な危機であることが強調され、メンタル問題に鋭く切り込む高屋敷氏の姿勢が窺える。

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スタート前、聖が「サーキットは日曜日の一般道より遥かに安全さ」と言ってルイ子とキスするのを見た軍馬は、その台詞を真似て純子(ヒロインの一人)に言ってみるが、純子に「寝惚けるんじゃない!」とつっこまれる(アニメオリジナル)。ここのやりとりは楽しく、高屋敷氏の筆がノっている感じがする。

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続いてタモツがスタート時の心得をアドバイスするが、軍馬はピリピリする。
スタート後、軍馬が父親をテレビで見た事を純子から聞いたタモツは、不安を募らせる。
一方サーキットを走る軍馬は、父の幻影と戦いながらも順位を一気に上げる。

軍馬の走りを見た木下(名は啓太。軍馬の住むアパートの住人)は、(いつもツンケンしていたが)ついに応援を始める(アニメオリジナル)。主人公の活躍を喜ぶ姿が可愛いのは、グラゼニ脚本でも確認できる。

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ついにトップの聖に並ぼうかという時、軍馬は更に強烈な父の幻影を見る(アニメオリジナル)。いつかは乗り越えなければならない人という事で、空手バカ一代家なき子演出と比較。

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何とか父の幻影を振り切って聖を抜こうとした瞬間、軍馬は前輪でカエルを轢いてしまう。マシンはコースアウトの上、損傷。この事故を起こすのは、原作では予選であり、軍馬はそのままリタイアしている。
そして、雨が降り始める。「雨」という「役」の強調は、空手バカ一代演出の頃からある。

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軍馬は、何とかピットインする(アニメオリジナル)。事情を聞いたタモツは、いつになく軍馬を叱咤(ここは原作通り)。彼は、軍馬が父の事を考えていた事を見抜き、原作以上に激しく責める。原作と違い、皆が雨に濡れている。雨の中の熱いドラマは、高屋敷氏の作品に多い。空手バカ一代演出/コンテ、1980年版鉄腕アトムめぞん一刻脚本と比較。

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衝突寸前の二人を、他の皆はなだめるが、森岡(チームをバックアップする、森岡モータース社長)は、「マシンは壊れれば代わりはいくらでもあるが、赤木軍馬という男は一人しかいない」と、タモツの心情を代弁する。タモツは同意し、「赤木軍馬という男は、皆の夢を叶えてくれる男だべ」と語る。

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それを受け、軍馬は「こう見えても一応レーサーなんだぜ。このマシン、まだ走れっか」と、応急処置の済んだマシンを再スタートさせる(アニメオリジナル)。「自分とは何か」「どういう自分になるかは、自分で決めろ」というテーマを、数多くの作品で掲げてきた高屋敷氏の意志が直球で出ている。

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再び走り出した軍馬は、父の幻影に立ち向かい、打破する(アニメオリジナル)。画像は、巨大な存在に立ち向かう主人公達。今回、エースをねらえ!演出、カイジ1・2期脚本。

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また、コンテや演出、作画が素晴らしい。ちなみに、鶴巻和哉氏ほか、後のエヴァンゲリオンスタッフが原画参加している。

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どんなに周回遅れでも、何とか聖を一度だけ抜こうとする軍馬は、聖とデッドヒートを繰り広げ、ついに一瞬だけ聖を抜く。だが、その直後。限界を迎えたマシンは崩壊。軍馬のデビュー戦は、こうして幕を閉じた(アニメオリジナル)。ここも、演出や作画が凄まじい。

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レースは、聖が優勝。軍馬は、カエルの墓を作る(原作通り)。アニメでは、カエルをいたわるような台詞がいくつか追加されており、ど根性ガエルや、新ど根性ガエルのスタッフだった高屋敷氏の、カエルへの愛着が感じられる。

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そこへルイ子が現れ、「カエルさんには、とっても優しいのね」と声をかける。軍馬は「女の子にだってとっても優しいぜ」と返す。この会話はアニメオリジナルで、軽妙なやりとりは、高屋敷氏が演出や脚本で参加した、ルパン三世を彷彿とさせる。

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ルイ子はタモツに用があると言って去る。
ここも、アニメオリジナルの「タモツはムッツリ、オレはモッ×リ」という台詞や、軍馬が想像するルイ子×タモツが可笑しく、高屋敷氏の筆のノリが良い。

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ルイ子はタモツを、後日開催される聖の祝勝パーティーに招待。ついでに軍馬も招待されるが、軍馬は拒否。
一方、聖はルイ子と祝杯をあげながら、タモツを自分のメカニックにしようと、計画を進めるのだった。

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  • まとめ

「自分とは何か」「どういう自分になるかは、自分で決めろ」という、高屋敷氏がよく掲げるテーマが、直球で出た回。アニメオリジナルが多い分だけ、高屋敷氏の個性が非常に色濃く出ている。また、「青年が“男”に豹変する」という、同氏得意の構成も、1クールを越えた節目に炸裂した。

クライマックスの、軍馬が父の幻影を打破して聖に挑む姿は感動的で、非常にかっこいい。今まで相当に幼い面が強調されていただけに、ギャップも凄い。これはカイジのシリーズ構成にも使われている技術で、古くは家なき子エースをねらえ!演出でも確認できる。

いつも思う事であるが、キャラクターの幼さ・可愛さを沢山見せておいて、節目や最終回に、成長・覚醒した姿を見せる、高屋敷氏の技には本当に脱帽。今回の覚醒軍馬は、覚醒カイジを見るのに近い感覚があり、相当に魅力がある。ちなみに下記画像は、初期と今回の軍馬の比較。

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また、原作にある台詞「赤木軍馬という男は、皆の夢を叶えてくれる男だべ」に、「こう見えても一応レーサーなんだぜ」というアニメオリジナル台詞で応えるのも熱い。軍馬は、親友の後押しもあり、「レーサーとしての自分」を見つけていく。

「確固たる自我」を持ったことで、軍馬は、自分の存在を脅かす父の幻影を打破する。原作からして、「存在理由」や「父親越え」といった心理系のテーマが見え隠れしており、高屋敷氏も、そういったテーマを多く取り扱っているので、相性がいい。いや、原作から、何を強調すべきかを相当に上手く選んでいる。

「シリーズ構成」としての技も見事で、淡々と原作を消化するのではなく、アニメオリジナルを混ぜながら、1クールの節目を盛り上げるための計算が成されている。原作を読んでいても、アニメの先が読めないという楽しみも出てきている。また、アニメオリジナル展開は、少し時計の針がずれた改変世界…といった趣がある。

以前、「軍馬が幼さを発揮すればするほど、終盤で何か仕掛けを用意しているのではないか?と思えてくる。」と書いたのだが、予想が当たった。だが、中盤で、アニメオリジナルで入れてくるのは予想外で、衝撃を受けた。本作は本当に、高屋敷氏の才能と個性が感じられる作品。この作品に出会えて、本当に良かったと感じた。