カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンダービートS 25話脚本:ヒトに不可欠な「自然」

ワンダービートSは、手塚治虫氏が企画や監修に携わったオリジナルアニメ。ミクロ化してヒトの体内に侵入し、害をなす異星人に対し、同じくミクロ化して戦う部隊・ホワイトペガサスの活躍を描く。
医学博士でもある手塚治虫氏の、医学解説コーナーもある。
監督は、前半が出崎哲氏、後半が有原誠治氏。
今回は、コンテが片渕須直氏、演出が片渕須直/中山晴夫氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

地球に来たビジュール星大王は、地球側との会談を申し出る。会談の場で大王は、バグー(序盤のビジュール側将軍)の命の恩人である、ススムの父はじめグリーンスリーブス号の乗組員を解放、和解を提案。
地球側もそれを受け入れる。
だがしかし、地球征服を目論むズダー将軍は、大王を刺す…

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本記事を含めた、ワンダービートSの記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88S

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ビジュラ姫が地球人と会談したという話を聞き、ビジュール星大王が地球に降り立つ。
大王は、意外と分別のある人物で、話し合いを地球側に求めてくる。善悪のラインを明確にしない、高屋敷氏らしい展開。

これを受けホワイトペガサス隊は、(通常サイズの)新ワンダービート号で、ビジュール側の海底基地へ赴く。

大王は、会わせたい人物がいるとして、バグー(初期のビジュール側将軍)を紹介。

バグーは、失敗を重ねた為に、ビジュール星のデス・ゾーンと呼ばれる砂漠に送られた時の話を始める。

バグーは、砂漠をさまよい、死にかけたという。
砂漠をさまよう話は、元祖天才バカボン演出/コンテにもあり、それが思い出される。

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その後バグーは、植物の芽が生えているのを見る。高屋敷氏は、「自然」に重要な役割を持たせることが多い。MASTERキートン脚本と比較。

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更にバグーが奥へ進むと、果物を発見。1988年版鉄腕アトムにて、月でのサバイバル中に果物を発見する場面が重なる。

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果物や植物は、同じくデス・ゾーンに流されたイサオ(ススムの父)をはじめとする、グリーン・スリーブス号の乗組員達が育てたものだった。
そのまま、バグーは彼らに助けられたとの事。

ここまで話したところで大王は、連れてきていたグリーン・スリーブス号の乗組員達を地球側に返す。
ススムやテツヤ(ホワイトペガサス隊の隊員)は、父と再会し、抱き合う。ハグも、高屋敷氏の担当作によく出る。グラゼニ脚本と比較。

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イサオは、ビジュール星の砂漠にあった植物の種や地下水のおかげで生き延びることができたので、自然との共生を忘れてしまい、開発が進みすぎたビジュール星でも自然の再生が可能だと説く。
ここは実に、「自然」に魂があるかのように「役割」を与え続けてきた高屋敷氏らしい。

バグーは、自分達が探し求めていた「生命元素」とは、「生きようとする力」なのではないかと意見する。

リー(ホワイトペガサス隊隊長)は、それに賛同し、ビジュール星は再生可能だと進言する。

大王は、今までの行いを詫び、和解を申し出る。地球側は、それを受けることを決定。

ホワイトペガサス隊はグリーン・スリーブス号乗組員を連れて帰還しようとするが、イサオは、ズダー(ビジュール側の、野心溢れる将軍)が気になると言い出す。

イサオによれぱ、ズダーはグリーン・スリーブス号を拿捕した際、乗組員達を執拗に尋問したという。
生命元素なるものが人間の体内にあるのならば、地球に行かずに、まずイサオ達を調べればいいのに、ズダーはそれをしなかったのが怪しいと、イサオはススム達に説く。イサオの鋭い推察は、知略合戦を好む高屋敷氏の特徴が出ている。

ススムとテツヤは、念のため大王やズダーの様子を見に、引き返すことにする。

イサオの懸念は的中。
生命元素探しは、地球に行くための、ズダーのブラフであり、ビジュール星人再生のために、地球を征服するのがズダーの真の目的であった。地球人の体内に入ることを繰り返していたのも、地球人の弱点を探るためだった。
ズダーはこれを大王に打ち明ける。大王は、それを愚かな行為だと非難する。
ならばと、ズダーは剣で大王を刺す。幸い、大王は生存。

偶然それを目撃したビジュラ姫(大王の娘)の悲鳴を聞きつけ、ススムとテツヤが駆けつけるも、ズダーはビジュラ姫を人質に取り、ビジュールシップで何処かへワープアウト。
ワープアウト先は、なんとドクター・ミヤ(ホワイトペガサス隊の上長)の体内であった。これにより、ドクター・ミヤは体調不良で倒れてしまう…

  • まとめ

今まで、手塚治虫氏のミニトークコーナーやノルマ戦闘のため、尺が短いと感じていたが、ここに来て、非常に密度の濃い話が展開された。
高屋敷氏は、やるとなると、尺を目一杯使った、情報量が多い脚本を書く。

これは1980年版鉄腕アトム脚本あたりで顕著になった特徴。同作では、原作の長い話を1話に超圧縮する必要があり、高屋敷氏も、これに則った脚本を書いている。

あと、前述の通り、「自然」が大きな役割を持たされており、高屋敷氏が、何故多くの作品で葉や花などの「自然」を意味深に映していたのかが見えてくる。
「自然」は、人と非常に密接なものであり、それが無ければ生きていけないほど重要なものとして描かれていると言える。

特徴の一つである知略合戦についても、怒濤の情報量で出てきた。
また、一件落着かと思いきや、話が更に二転三転する展開も、高屋敷氏はよく使う。とにかく話の尺の使い方が上手い。とても、ミニトークコーナーのために尺が短い作品とは思えない。

そして、「善悪の区別を明確にしない」特徴も全面に出ている。特に、大王が分別のある人物であったのは驚き。ズダーについても、彼なりの持論があることが描かれる。これも、なんとも高屋敷氏的展開。

最終回手前ということで、高屋敷氏の腕が存分に振るわれているのを感じる回だった。