カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンダービートS 26話(最終回)脚本:未来を見据える目

ワンダービートSは、手塚治虫氏が企画や監修に携わったオリジナルアニメ。ミクロ化してヒトの体内に侵入し、害をなす異星人に対し、同じくミクロ化して戦う部隊・ホワイトペガサスの活躍を描く。
医学博士でもある手塚治虫氏の、医学解説コーナーもある。
監督は、前半が出崎哲氏、後半が有原誠治氏。
今回は、コンテが有原誠治氏、演出が岩本保雄氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

地球との和解を決めた大王に対し、地球征服を目論むズダー(ビジュール星将軍)は反発。大王暗殺に失敗した彼は、ビジュラ姫(大王の娘)を人質にし、ビジュールシップでドクター・ミヤ(ホワイトペガサス隊の上長)の大脳内に逃げ込む。
ホワイトペガサス隊は、大王の協力により、ズダーの眼前にワープ。対峙する両者だが…

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本記事を含めた、ワンダービートSの記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88S

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ビジュラ姫(ビジュール大王の娘)を人質に取ってドクター・ミヤ(ホワイトペガサス隊上長)の大脳内に逃げ込んだズダー(ビジュール星将軍)は、大王やホワイトペガサス隊に通信を行い、ビジュール星は地球に宣戦布告すべきと主張、さもなくばビジュラ姫やドクター・ミヤの命は無いと脅す。

しばし考える時間を与えられた大王やホワイトペガサス隊は、ビジュラ姫とドクター・ミヤ救出に全力を尽くすことを決意。
そこで、ビジュールのテクノロジーであるワープ装置を使い、新ワンダービート号をズダーのいる位置までワープさせることに。

前回同様、「善悪のラインを明確にしない」高屋敷氏のポリシーが炸裂しており、かつ、敵だった者達が協力してくれる熱い展開になっている。

また、大王がビジュラ姫を心配する一面が描写される(彼等は「愛」の概念が希薄)。そんな大王に、イサオ(ススムの父)が、親が子を思うのは当然のことだと声をかける。このやりとりも、家族または疑似家族の「愛情」を前面に出す高屋敷氏らしい場面。

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一方、ズダーのビジュールシップの眼前にワープした新ワンダービート号は、ドクター・ミヤやビジュラ姫が人質であるため、手を出せずにいた。
そこで、新ワンダービート号がズダーの注意を引き付けている間に、ススム、テツヤ(ホワイトペガサス隊隊員)、ビオ(サポートロボット)がビジュールシップ内に潜入する作戦を立てる。

作戦は成功し、ススム達はズダーを気絶させてビジュラ姫の救出に成功。
ズダーを捕虜にしようとするテツヤだったが、ズダーは自らテツヤの剣に刺さりに行き、倒れる。

敵が矜持を見せるのは、カイジ(シリーズ構成・脚本)における利根川や一条ほか、あらゆる作品で強調される。こちらも、高屋敷氏のポリシーが窺える。

やむを得ず、ススム達はビジュラ姫のみを連れて新ワンダービート号に帰還。
そこへ、虫の息のズダーから通信が入る。ビジュラ姫は投降を呼び掛けるも、ズダーは、事を急ぎすぎた…と自省。彼は、いつかビジュール星人も愛情を取り戻す日が来るのだろうか、とビジュラ姫に問う。
ビジュラ姫は、これから自分達がそうしていくのだと説く。
ズダーは、ビジュラ姫の傍にいる時が一番幸せだった…と言おうとするも、途中で力尽きる。そして最後の力で、ビジュールシップのバリア装置を切る。
敵が安らかな顔で自爆するのは、ルパン三世2nd脚本にもある。やはりどちらも、敵の矜持が描かれており、高屋敷氏のこだわりを感じる。

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また、野心溢れる美形悪役が、姫に恋していたという展開は、忍者戦士飛影(高屋敷氏脚本参加)のイルボラと共通するものがある。

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バリアを切ったビジュールシップは、大脳において異物を排除する役目がある小膠細胞に包まれ、消滅する。
こうしてズダーの野望は潰えたのだった。

後日、大王やビジュラ姫はじめビジュール星人達は母星に帰る。
ススム達は、それを見送る。マユミ(ススムのガールフレンド)はススムに、地球はいつまで美しい星でいられるのだろうか、と問う。
ススムは、「ずっと…永遠にさ。この宇宙がある限り」と、自信を持って答えるのだった。

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  • まとめ

ほろ苦さの残るズダーの最期を描く反面、前(未来)を見据えるススムの姿も描かれる結末。

かつての敵と手を取り合うのも、ズダーが矜持を見せるのも、善悪のラインを明確にしないポリシーを持つ高屋敷氏の特徴が前面に出ている。

今までの単発脚本から一転、最終3本の脚本は「高屋敷ワールド」とも言える展開―つまりシリーズを乗っ取る勢いになっており、驚いた(本作のシリーズ設定は今泉俊昭・小出一巳氏)。

どうして最終3本の脚本を高屋敷氏に任せたのかは謎だが、怒濤の情報量でまとめあげ、非常に高屋敷氏らしい終わり方になっている(打ち切りではあるが)。

善悪のラインを明確に引かない/敵にも矜持がある件については、高屋敷氏が脚本デビューした「あしたのジョー1」において、丈のライバルや対戦相手が、(殆どの場合)悪者として描かれていないこと、敗者にも矜持があることが描かれたことに起因しているのではないか…と考えている。

色々な作品を見るにつけ、同氏がいかに「あしたのジョー1・2」の経験を大事にしているかがわかる。

また、ススムの締めくくりの台詞「永遠にさ。この宇宙がある限り」は、めぞん一刻最終回(高屋敷氏脚本)のサブタイトル「この愛ある限り! 一刻館は永遠に…!!」に通じるものがあり、感慨深い。

ススムが、地球はずっと美しい星であり続ける、と自信を持って答えるのは、高屋敷氏が演出参加(最終回含む)した家なき子において、どんな困難に遭っても「前へ進め」と、レミ達が前(未来)を見据えたことが思い出される。
こちらも、あらゆる作品で(F-エフ-*1カイジのシリーズ構成・脚本含む)反映されており、同氏の一貫したポリシーを感じる。

そして、高屋敷氏がよく掲げるテーマ、「自分の道は自分で決めろ」も色濃く出ている。ズダーが最期に矜持を見せたのも、ビジュラ姫が「愛」あふれるビジュール星を作っていく意志を見せたのも、「自分で」決めたことであり、それが強調されている。

あと、前述の通り、最終回を任せるとシリーズを乗っ取る勢いの、高屋敷氏の個性の爆発を感じる。あの、我の強い出崎統監督の「あしたのジョー2」における高屋敷氏の最終3本の脚本もそうで、「高屋敷版・矢吹丈」が何度も顔を出している。

そういった「(いい意味での)恐ろしさ」は本作の最終3本にも表れており、ゾクッとするものがある。

大団円の中にも、高屋敷氏の「恐ろしさ」が見られる回だった。