カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

F-エフ-25話脚本:想いを重ねる手

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが真下耕一監督、演出が遠藤徹哉氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

黒井レーシングチームのF3ドライバーとして雇用された軍馬は、過酷なトレーニングに明け暮れていた。
久し振りのオフ日にアパートに帰った軍馬は、純子(ヒロインの一人)と心を通わせる。それも束の間、トップドライバーの座を賭けて、彼は先輩ドライバーの五郎と対決することに。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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クラシックF1マシンに身体を括りつけて走るという、地獄のトレーニングを自ら進んで行う軍馬は、その度に嘔吐し、すっかりやつれる。
やつれ具合が原作より強調されており、あしたのジョー2脚本の、丈の減量苦が思い出される。コボちゃん脚本にも、食欲不振で竹男(コボの親戚で巨漢)がやつれる回がある。

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その一方で、先輩ドライバーの五郎は成績が低迷しており、進退を問われる身。マシンのサイドミラーに彼が映り込むが(アニメオリジナル)、鏡が真実や状況を映す描写は、高屋敷氏の担当作に多い。あしたのジョー2・カイジ2期・グラゼニ脚本と比較。

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そんな折、ユキ(軍馬を慕う、赤木家の元使用人。軍馬の異母兄・将馬に囲われている)は黒井(黒井レーシングチーム代表)に電話。軍馬の近況を聞き、上機嫌になった彼女は、おたね(ユキの世話係)と買い物を楽しむことにする(アニメオリジナル)。老人との微笑ましい交流場面は多い。
MASTERキートンめぞん一刻脚本と比較。

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軍馬が黒井レーシングチームに行ってから10日あまりが過ぎ、さゆり(軍馬の住むアパートの大家)は寂しがる。純子(さゆりの姪で、ヒロインの一人)もそれは同じ。
二人は洗濯物を取り込みながら話すが(アニメオリジナル)、物干し場で話す状況は、めぞん一刻脚本にも多かった。

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さゆりは、純子が軍馬を好きな事を察しており、彼との結婚を勧める。困惑する純子だったが、そこへ、久々にオフになった軍馬が帰ってくる(原作では正月)。
さゆりの機転で、軍馬と純子は二人きりに(アニメオリジナル)。
純子は、やつれた軍馬に沢山食べ物を与える。食いしん坊描写を、高屋敷氏は多く出す。コボちゃん脚本と比較。

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いつになく和やかな時を過ごす純子と軍馬であったが、コーヒーに純子の顔が意味深に映り込む。前述の鏡描写と同じく、客観的に状況を映す水面描写も多く出てくる。ベルサイユのばらコンテ、忍者戦士飛影グラゼニ脚本と比較。

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純子は、龍二(純子の恋人で、F3ドライバーであったが事故死)の話をし、壁を越えた者と越えなかった者との間には、隔たりができてしまう…と告げる(話すタイミングが原作と異なる)。そんな純子が、軍馬の瞳に映り込む。これも、前述の鏡や水面と同じく、真の姿を客観的に映している。蒼天航路脚本と比較。

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片方が壁の前で立ち止まっていてはダメね…とも純子は言う(原作にもある台詞)。
軍馬は純子の手に手を重ね、「震えてるぜ」と指摘。純子は、もう片方の手を軍馬の手に重ねる(アニメオリジナル)。
手で思いを伝える表現は、高屋敷氏の大きな特徴。ワンダービートS(脚本)では、「手は第二の脳」という台詞があるほど。
また、元祖天才バカボン(演出/コンテ)にて、手が喋る回がある。

とにかく、「手」を使った感情表現は多い。下記画像は、ワンダービートSグラゼニワンナウツ陽だまりの樹あしたのジョー2・ルパン三世3期脚本との比較。他も多数。

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二人は見つめ合い、キスしようとするが、電話がかかってきて中断となる。
今回は未遂だが、めぞん一刻脚本、ベルサイユのばらコンテのキスシーンと比較。片方が弱気になり、もう片方がリードする状況が多いかもしれない。

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電話は、黒井からであった(原作では、五郎が黒井に電話をかける)。
今回は、お邪魔虫な電話であるが、電話が魂を持つかのような描写は結構ある。これも、高屋敷氏がよく出す、意思を持つ「物」の一つなのかもしれない。
あしたのジョー2・MASTERキートン脚本と比較。

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黒井は、五郎が筑波サーキットにて、軍馬と勝負したがっていると話す。
軍馬はそれを受け、勝った方が鈴鹿のレースに参加するという条件を出す。
五郎・黒井ともに、その条件を飲む。
電話の最中、軍馬は切ない表情の純子を見てしまい、黙り込んでしまう一場面があり(アニメオリジナル)、ここの恋愛描写も良い。

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一方赤木家では、将馬(軍馬の異母兄)が総一郎(軍馬の父)の選挙資金を4千万円も使い込み、理由も聞かずにユキに貢いでいたことが発覚。将馬は総一郎から大目玉を食らう(原作では、複雑な横領劇が展開される)。
この場面は、掛け軸のアップから始まるが、こういったアップ・間は頻出。
エースをねらえ!演出、カイジ2期脚本と比較。

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そして、五郎と軍馬の対決が始まるも、初めてF3に乗る軍馬は、マシンを制御できずに苦戦。それを解説する安田(黒井レーシングチームのチーフマネージャー)は、ゴルフの素振りをするなど、仕草が可愛い。
可愛いおじさんも、よく出る。
グラゼニ蒼天航路・太陽の使者鉄人28号脚本、ベルサイユのばらコンテと比較。

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最初こそ苦戦した軍馬であったが、彼は次第にマシンの癖を理解し、なんと乗りこなす。その走りはマシンを強引に組み伏せるようであり、皆は驚愕。
特に純子は、龍二の先を行くような、軍馬の限界突破を見て戦慄する。
ここの作画や演出は圧巻で、スタイリッシュな真下監督のセンスが光る。

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ついに軍馬は、五郎に勝つ。進退を賭けていた五郎は悲哀を込めて、去り行く軍馬を見る。
軍馬は思わず立ち上がり、「鈴鹿だぜ!F3デビューだぜ…やっとオレの出番だぜ!何人たりともオレの前は走らせねえ!」と雄叫びを上げる。これはアニメの追加台詞で、同じ単語でリズムを取る、高屋敷氏の癖が出ている。

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さゆりは、軍馬がまた一歩遠くに行ってしまった…と純子を案ずる。純子は、距離は縮まらないかもしれないけど、軍馬は壁を乗り越える方法を見せてくれた…とさゆりに話す(アニメオリジナル)。
原作にもある、黒井の「人にはそれぞれの壁がある」という考えについての、アニメなりの解釈が窺える。

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その夜、ユキは黒井から、軍馬のF3デビューが決まった旨の報を受ける。だが、その電話は将馬の手の者により盗聴されていた。
調査の結果、ユキが黒井レーシングチームに巨額の資金をつぎこんでいるのを知った将馬は、軍馬に激しく嫉妬。徹底的に軍馬達を叩き潰すことを決意する(アニメオリジナル)。

ユキは、自分は離れていても平気だから、軍馬には夢を叶えてほしい…と、涙を流しながら星空を見上げるのだった(アニメオリジナル)。こういった星の「活躍」は、多くの高屋敷氏の担当作で見られる。
1980年版鉄腕アトムめぞん一刻脚本、元祖天才バカボン演出/コンテと比較。

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  • まとめ

軍馬をはじめ、様々な人物の「思い」が描かれた回。
前回に引き続き、軍馬がプロに一歩近付く度に、「青春の終焉と旅立ち」が待っていることが示唆される(この方針は特に、最終回を含めた、あしたのジョー2脚本に見られた)。

また、恋愛においても大きな成長が描かれた。初期は欲望の赴くまま、幼いアプローチをしていた軍馬が、ちゃんと相手を見ている。めぞん一刻(脚本)でも、幼かった五代が、ヒロイン・響子の人生を支える「男」になるまでに成長する。
どちらの成長も劇的で、成長譚の得意な高屋敷氏の手腕が光る。

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あと、「手から手へ思いを伝える」という高屋敷氏の大きな特徴が、恋愛場面、しかもアニメオリジナルで表れた事には驚き。めぞん一刻脚本・最終シリーズ構成はじめ、同氏はラブストーリーも守備範囲である事を思い出させてくれた。近年は男だらけの作品が多いので、新鮮に感じる。

純子と軍馬のくだりについてだが、あしたのジョー(高屋敷氏脚本参加)で、「真っ白な灰になるまで」戦いたいという丈の考えについて行けなかった紀子が思い出される。
今回の純子の不安は、手を重ねてきた軍馬によって抑えられるわけで、あしたのジョーにおいて結ばれなかった丈と紀子の救済のようにも感じられる。
ただ、F-エフ-においては、アニメと原作で、恋愛面での結末が異なるようなのだが、はたして。

もう一方のヒロイン・ユキは、軍馬が何度か孤独救済(高屋敷氏の特徴の一つ)を試みるも失敗しており(7話17話)、破滅的な道を歩むことになる。ただこちらも、アニメでは原作と大きく異なる展開になるらしいので、経過を見ていきたい。
未読だが、高屋敷氏著の、小説版ドラゴンクエストでも、恋愛において意外な結末があるらしい。

更に、恋愛面の話を続けるが、軍馬の瞳に純子が映る件について。脚本→コンテ→作画・演出の連携の賜物であるとは思うのだが、めぞん一刻(高屋敷氏脚本)において「僕の目の中には、あなたしかいないんです」という台詞があり、少し気になる。
監督作の忍者マン一平では、一平が目玉を飛ばす忍術を使うが、そこからの派生ネタかもしれない。

今回は、鏡、コーヒー、瞳に人物が映り込むわけであるが、高屋敷氏のテーマの一つ、「自分とは何か」も表れているのではないか、と思う。
これらの物は、客観的に自分や、自分が置かれた状況を映し出すが、それに気付くかは自分次第。その分かれ目も描かれる。

そして今回、事故死した龍二が見ていたという「得体の知れない何か」が出現する。龍二は吸い寄せられ帰って来なかったが、軍馬は突破し、「得体の知れない何か」を見せてやる…という、6話での純子との約束を果たす(原作ではもっと後の話)。この構成も見事。連携する演出・作画も素晴らしい。画像は、6話との比較。

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とにかく今回は色々と盛り上がる点があり、名回。それは、監督・脚本・演出・作画の連携が取れているからこそだと思う。
思い返せば、カイジ2期(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)でも、25話は非常に熱い回(脚本は広田光毅氏)。そんなシンクロも嬉しい回だった。