カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

あんみつ姫19話脚本:優しい策略

あんみつ姫は、倉金章介氏の漫画のアニメ化作品で、お転婆なお姫様・あんみつをヒロインとした、和風ファンタジーコメディ。監督は案納正美氏で、今回のコンテ・演出は香川豊氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、あんみつ姫の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%82%E3%82%93%E3%81%BF%E3%81%A4%E5%A7%AB

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  • 今回の話:

あべかわ彦左ェ門(家老。息子との名前の差別化のため、以降彦左ェ門とする)に、太助という息子(この世界の一心太助という設定)がいることが発覚。
かつて父のスパルタ教育に反発して不良になり、勘当された太助は、それから心を入れ替えて魚屋になり結婚、息子をもうける。
そして、自分の妻子を一目見てもらうべく彦左ェ門を訪ねるも、彦左ェ門は意地を張って取り合わない。そこで、あんみつ姫や皆で作戦を立て、彦左ェ門と、彼の孫・鯉太郎を引き合わせる。孫に心を許しかける彦左ェ門であったが、些細な事で再び太助と対立。そんな中、堀に落ちた鯉太郎を彦左ェ門が助ける。かくして彦左ェ門と太助は和解するのだった。

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彦左ェ門が魚屋で働いているのを目撃したカステラ(あんみつ姫の家庭教師)は、その事をあんみつ姫に話す。あんみつ姫は、自ら城下町に行き、それを確認。
聞けば彦左ェ門は、幼なじみの魚屋・魚辰が病気になったため、店を手伝っているのだという。そこで、あんみつ姫も魚屋を手伝うことに。

そんな中あんみつ姫は、密かに魚屋を覗く一家に出会う。事情を聞いたところ、彼等は彦左ェ門の息子・太助と、その妻子であった。

かつて太助は彦左ェ門のスパルタ教育に反発して不良となり勘当されたのだが、それから心を入れ替えて魚屋となり、所帯を持った。そして一目妻子を彦左ェ門に見て貰うべく、江戸からやって来たのだった。

そこで、太助の恩人かつ彦左ェ門の幼なじみの魚辰は、仮病を使って彦左ェ門に店を手伝わせ、太助が彦左ェ門の姿を見れるようにしたのである。
魚辰の策は、そこそこ頭を使っており、知略を好む高屋敷氏らしさが出ている。

あんみつ姫とカステラが、その事を話しているのを聞いてしまった家臣・たねすけは城の皆に、彦左ェ門に隠し子がいると言いふらす。ここは女中達の台詞も多い。高屋敷氏は、モブに個性を持たせる傾向がある。めぞん一刻(脚本)においては、原作では名無しのモブに名前を付けた程である。

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あんみつ姫は彦左ェ門を呼び出し、あらかじめ呼んでおいた太助・魚辰と彼を引き合わせる。だが、彦左ェ門は意地を張り、取り合わない。そんな彼を魚辰が諌める。血の繋がりが無くても家族のように接してくれる中年男性は、高屋敷氏の担当作で多く印象に残る。画像は、太陽の使者鉄人28号カイジ2期(脚本)との比較。

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それでも彦左ェ門は意固地になり、部屋を出て行ってしまう。

事情を聞いた、だんごの守と、妻のしぶ茶(あんみつ姫の父母)は彦左ェ門と話し合おうとするも、息子が武士にならなかった責任を取って切腹すると彼は言い出す。密かに覗いていた城の皆は、一斉に彼を止める。一方で、一旦わざと切腹を促してみたりと、色々巧妙な止め方をする。自殺をギャグで止める流れは、元祖天才バカボン(演出/コンテ)にも見られる。

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また、ど根性ガエル(演出)にて、「死ね」と言われて川に飛び込もうとしたひろしが、止めてくれた美女に惚れて、すんなり飛び込むのをやめる話も思い出される。

だんごの守としぶ茶は、彦左ェ門の管理があるから城の財政が何とかなっているのだ、と彦左ェ門を諭す。
死んでほしくない理由、その人に生きていて欲しい理由を具体的に話すのは、自殺を止めるのに効果的。
こういった、メンタルヘルスに関する鋭い感性を高屋敷氏は持っており、興味深いところ。

切腹は止まったものの、彦左ェ門は頑として太助を認めず。
そこでカステラとあんみつ姫は、太助の息子・鯉太郎と彦左ェ門を、さりげなく引き合わせることにする。
彦左ェ門は鯉太郎にすっかりほだされる。
それをこっそり見守る、あんみつ姫と城の皆が温かい。仲間愛は、色々な作品で見られる。ど根性ガエル(演出)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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だがしかし、太助と顔を合わせると、彦左ェ門はやはり意地を張ってしまう。
そんな中、鯉太郎がいなくなってしまい、皆で彼を探す。
鯉太郎は不安定な木の枝の上におり、助けようとした太助の奮闘虚しく、堀に落ちてしまう。
彦左ェ門は躊躇なく堀に飛び込み、鯉太郎を救出する。

これが切欠となって、太助と彦左ェ門は和解。江戸に帰る太助一家を見送った彦左ェ門は、照れ隠しに、皆に働くよう一喝するのだった。

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  • まとめ

厚い義理人情が描かれた回。彦左ェ門父子を何とかしようとして、魚辰や城の皆が奔走するのが良い。
こういった仲間愛は、前述の通り、あらゆる作品で見られ、高屋敷氏のこだわりが窺える。

また、彦左ェ門の切腹を止める皆の行動・言動にも注目したい。押せば引く、引けば押す感じで巧妙で、更に、具体的な彦左ェ門の存在理由を、だんごの守夫婦が述べる流れも上手い。カイジ2期(脚本)でも、自殺同然の行動をする坂崎に、カイジが何故彼を必要としているかを述べるあたりがクローズアップされており、印象深い。

このような、メンタルヘルスについての鋭く、かつ温かな高屋敷氏の視点は、本当に驚かされる。また、そこが惹かれる所でもある。

今回はいわゆる彦左ェ門の「当番回」なのであるが、味のある老人を描くのを好むっぽい高屋敷氏と相性が良い。
最後に見せるツンデレっぽい彦左ェ門の素振りも可愛げがある。
同氏が何故老人を好きなのかは謎ではあるが、これも和む特徴。

あと、具体的な策を持って彦左ェ門と太助を和解させようとする、あんみつ姫と城の皆も描かれた。とにかく高屋敷氏は、何をするにも「策」や「理」が必要であるということを強調する。これは、勝つための理を持つことが必要となる、カイジのシリーズ構成・脚本にも活かされている。

まとめると、義理人情の為にも「策」や「理」は必要であること、そして、それに伴う行動力も必要であることが描かれた。そして、根底には「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」といったような仲間愛がある。
高屋敷氏は、演出作・脚本作とも計算高さが見られるが、出力されるテーマは温かい。その手腕が見られた回だった。