カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

あんみつ姫45話脚本:カッパにとっての皿

あんみつ姫は、倉金章介氏の漫画のアニメ化作品で、お転婆なお姫様・あんみつをヒロインとした、和風ファンタジーコメディ。監督は案納正美氏で、今回のコンテ・演出は岩本保雄氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、あんみつ姫の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%82%E3%82%93%E3%81%BF%E3%81%A4%E5%A7%AB

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  • 今回の話:

夏休み、あんみつ姫達が高原でキャンプを楽しんでいたところ、Q助という、皿の無いカッパと出会う。Q助は恋人のマキを、横暴なカエル・助五郎親分に取られた挙げ句、頭の皿も奪われたという。
あんみつ姫達はQ助に協力し、マキを取り返しに行くことに。
ドタバタの末、あんみつ姫達はマキを奪還し、助五郎達を退ける。Q助とマキは新婚旅行に旅立つのだった。

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高原に来たあんみつ姫達一行は、キャンプ組(あんみつ姫側)と麻雀組(あんみつ姫の両親側)に分かれ、それぞれ楽しむ。

だんごの守(あんみつ姫の父)らが麻雀をするわけだが、コボちゃん(脚本)で麻雀回があったほか、麻雀ものであるアカギ(シリーズ構成/脚本)が思い出される。

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麻雀の他にも、高屋敷氏の担当作には、カイジ(シリーズ構成/脚本)を始め、

などなど、ギャンブルが実に多く出てくる。もともと駆け引き、知略、悪知恵、ギミックなどを好む傾向が見られるためかもしれない。

キャンプ組のあんみつ姫と、たねすけ(家臣)は釣りを楽しむが、たねすけは釣糸をカステラ(あんみつ姫の家庭教師)のスカートにひっかけてしまい、彼女のパンツを見てしまう。
このシーンで何故か目玉が飛んでいるのだが、これがまた(絵をいじれない)脚本なのに、高屋敷氏の監督作である忍者マン一平に出てくる、一平の目玉(一平は目玉を飛ばす忍術を使う)と似ているのが不思議。

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あんみつ姫の案納正美監督は、忍者戦士飛影(高屋敷氏脚本参加)の監督でもあるので、仲が良いのだろうか。

これだけでなく、キャッツアイの高屋敷氏脚本作では、ど根性ガエル(同氏演出参加)の梅さん的キャラが、同氏シリーズ構成/全話脚本のF-エフ-では、バカボンのパパ(同氏は元祖天才バカボンに演出/コンテ/脚本で参加)的なキャラが出ている。

キャッツアイの竹内啓雄監督は数々の作品で高屋敷氏と一緒に仕事しているので不思議ではないのだが、他のこういった事例は、監督との親密さを示すものなのかもしれない。

その後、あんみつ姫達は魚を食べる。飯テロは高屋敷氏の定番の特徴。
コボちゃん(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)、グラゼニ(脚本)と比較。

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そしてあんみつ姫達は、たねすけの酒を飲んで眠りこけるカッパ・Q助を発見する。酔っぱらうキャラは多い。ど根性ガエル・宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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Q助は死ぬつもりであり、最後の晩餐として飲み食いしてしまったと、あんみつ姫達に謝る。
自殺しようとするゲストキャラと出会う話は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)にもある。

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Q助は、恋人のマキを横暴なヤクザの親分・助五郎に奪われた上、自分の皿まで取られたのだと話す。
蒼天航路(脚本)でも、(原作通りだが)恋人を暴君に奪われる話があり、それと重なる。

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岩山に月がかかる時刻に、助五郎とマキは結婚する予定であると聞いたあんみつ姫は、マキ奪還をQ助に提案する。
このような月のクローズアップは実に様々な作品で見られる。
空手バカ一代(演出)、チエちゃん奮戦記・蒼天航路(脚本)と比較。高屋敷氏が月を重要視していることがわかる。

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一方助五郎の屋敷にて、マキはQ助の皿を抱きしめる。キャラクターのアイデンティティを示す物は、多々出るわけであるが、高屋敷氏がよく掲げるテーマ、「自分とは何か」との関係性が窺える。
めぞん一刻・F-エフ-・蒼天航路(脚本)と比較。

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その後、すれ違いに助五郎の屋敷に忍びこんだQ助は、皿を取り戻して元気になっており、このとき「自分」を取り戻したと言える。

助五郎とマキの結婚式が強引に執り行われる中、マキの顔が盃の酒に映る。真実や心情を、水面や鏡などに映す描写は多い。グラゼニ忍者戦士飛影(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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Q助とあんみつ姫、おっとっと(猫)は結婚式に乗り込み、マキを奪還する(ちなみに、洋画「卒業」のパロディあり)。
この時、あんみつ姫が岩石を落として攻撃するのだが、同じ戦法がルパン三世3期の高屋敷氏脚本回に出る。

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あんみつ姫は、たねすけ達と合流して助五郎達と戦闘し、Q助とマキを逃がす事に成功するも崖に追い詰められてしまう。
ここでも、月のアップ・間がある。じゃりン子チエマッドハウス版XMEN・F-エフ-(脚本)と比較。

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そこへ、だんごの守達の乗った飛行船が通りかかる。だんごの守は、麻雀で大負けしたことで拗ねて帰りたがり、(車はたねすけがキャンプに行くために使っているため)飛行船を持ち出した経緯があり、麻雀のシーンが所々に差し挟んであったことが、ここで繋がる。
高屋敷氏は、複数並行エピソードを捌く技術に長けており、その手腕が存分に発揮されている。

ところで、飛行船はF-エフ-・コボちゃん(脚本)でも登場している。高屋敷氏の好みなのだろうか?

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迫り来る飛行船から逃れようとして、助五郎達は崖から落ち壊滅。似たような状況は、宝島(演出)にもある。

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そして朝日が昇る。一件落着で朝日が昇るのは、空手バカ一代(演出/コンテ)にもあった。

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飛行船で帰路につくあんみつ姫達だったが、車を川付近に放置したままだったことを思い出す。これも、きっちり描写がある。
そして、その車はQ助とマキが新婚旅行のために使っていた。なんとなく、ルパン三世2nd(脚本)で、話の終盤、(作戦が成功し)晴れやかな顔で車に乗る不二子とルパンが重なる。

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幸せそうなQ助とマキをあんみつ姫達は見守るが、(車の管理を任されていた)たねすけは憤慨するのだった。

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  • まとめ

じゃりン子チエの脚本で存分に振るわれていた、複数並行エピソードを捌く技術が今回も発揮されている。
伏線もポンポン回収されており、感心させられる。

高屋敷氏は、毎度毎度、自身の(当時の)経験をフル活用しており、そこが見ていて面白い点の一つ。
今回も、ど根性ガエル空手バカ一代元祖天才バカボン忍者マン一平忍者戦士飛影ルパン三世、宝島、じゃりン子チエ(いずれも本作より前)などなどの要素が見受けられるわけだが、これがカイジグラゼニなど近年の脚本になると、凄い時で1話内に20箇所以上、同氏の経験を見つけることができ驚異的。
それだけ、同氏の積んだ経験が膨大であることがわかる。

また、コメディであるものの、自殺の止め方の上手さが今回も出ているのが興味深い。希死念慮の原因を探り、その具体的な対策を立て、そして実行するといったような、実際の精神治療でやっているような事が出来ている。

このような、メンタルヘルスに関する先見の明の原因は謎ではあるが、脚本デビュー作(無記名)である、あしたのジョー1の力石の死と関連性があるのではないか?とは思っている。
また、「自分とは何か」という高屋敷氏の長年のテーマとも繋がっているのではないだろうか。

今回、「カッパの皿」という、アイデンティティを示すわかりやすいものが出ているわけで、キッズ向けの本作に則しながら、自身のテーマを上手く入れ込んでいる。

この技術は、原作つきアニメでも大いに使われており、原作通りのストーリーであっても、高屋敷氏のテーマが巧妙に封入されている。このあたりは、同氏の(いい意味で)非常に恐ろしいところ。その「恐ろしさ」を今回も確認できた。