カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

グラゼニ(2期)21話脚本:先を行く先輩

アニメ・グラゼニは、原作:森高夕次氏、作画:アダチケイジ氏の漫画をアニメ化した作品。監督は渡辺歩氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
2期は1期最終回12話からの続きで、開始話数は13話。

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  • 本作のあらすじ:

プロ野球投手・凡田夏之介は、年棒にこだわるタイプで、「グラウンドにはゼニが埋まっている(すなわちグラゼニ)」が信条。そんな彼の、悲喜こもごものプロ野球選手生活が描かれる。

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今回は、コンテ・演出が村田尚樹氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、グラゼニに関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

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  • 今回の話:

夏之介と同郷の先輩・徳永は、野球解説者として頑張っていたのだが、ラジオ局の予算の都合で切られてしまうことに。そうとは知らず徳永は、婚約したことを夏之介や大野(夏之介と同郷の後輩)に報告。
アナウンサーの松本は、何とか徳永に、クビになったことを告げようとするのだが…

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冒頭は、野球実況の松本(アナウンサー。実在で、声も本人)のシーズン中の日常が映される。
その中で、(松本がよく食べる物として)神宮球場名物のカレーとうどんが紹介される。飯テロは高屋敷氏の定番の特徴。F-エフ-(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、DAYS・カイジ2期(脚本)と比較。

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松本が、次の試合の実況の下準備をしていると、徳永(夏之介の先輩で、解説者)がやって来て缶コーヒーを差し入れてくれる。コーヒーの差し入れはアニメオリジナル。コミュニケーションツールとして、コーヒーはよく使われる。宝島(演出)、カイジ2期・F-エフ-(脚本)と比較。

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徳永もまた、解説する試合の下準備を始め、二軍に調子の良い投手がいるから、データをチェックした方がいいと話す。

試合当日、徳永の予想した投手が急遽登板し、データを用意していた松本・徳永は喜び合う。これを境に、松本は益々徳永を可愛がるようになったのだった。

そして時は過ぎ、(シーズンが終了した)冬になる。
シーズンオフ中、松本はラジオの情報バラエティ番組のパーソナリティーをしており、その番組のゲストとして、徳永が呼ばれる(アニメオリジナル)。

番組終了後、徳永はディレクターの荻原から、来年の解説もよろしく頼むと声をかけられる。
これに喜んだ徳永は夏之介に電話し、紹介したい人がいるから、大野(夏之介の同郷の後輩)を交えて飲もうと言う。

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このくだりはアニメオリジナル。1期3話で出た、徳永・夏之介・大野から成る「山梨県人会」の絆を前面に出しており(他の回でも見られる)、構成方針としての、友情描写の強化が見られる(高屋敷氏は友情描写が得意)。かつ、後の展開をスムーズにする働きもしている。

山梨県人会の飲み会当日、徳永は、婚約者の朱美を紹介し、夏之介と大野は祝福する。結婚といえば、めぞん一刻あしたのジョー2、陽だまりの樹でも、高屋敷氏は結婚回の脚本を書いている。

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1期3話の、徳永・夏之介・大野のアニメオリジナル会話にて、彼女がいるかいないかの話が出たのだが、今回の伏線にもなっていて驚く。アニメオリジナルを適当に入れるのではなく、構成にがっちり絡ませる手腕に感心させられる(他の高屋敷氏のシリーズ構成作品にも見られる)。

また、朱美に不躾な質問をする大野を、夏之介が密かにつねる場面が、アニメオリジナルで追加されている。こういった、どこか子供っぽい友情描写も、高屋敷氏は上手い。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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あと、アニメオリジナルを交えて、ビールを飲む場面が強調されている。ビールテロもまた、高屋敷氏の定番の特徴。挙げればキリが無いが、カイジ2期・めぞん一刻(脚本)と比較。

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その頃、オトワラジオの上役達は、料亭にてベテラン解説者の神野を接待し、出演交渉をまとめていた(原作と時系列が異なる)。

後日、オトワラジオの面々は神野との交渉が成立した事を話題にする。モブの会話が色々追加されており、モブを大事にする高屋敷氏の姿勢が出ている。陽だまりの樹MASTERキートンカイジ2期(脚本)と比較。

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この会話の中で、神野のギャラを捻出するために、一番若い徳永が切られる可能性があるという話が出て、松本は不安に駆られる。

松本は徳永を、飲みに誘う。ここもビール描写の強調が見られる。

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徳永は、実績を積んで、いつかは神宮スパイダース(夏之介が所属するチーム。ヤクルトスワローズがモデル)のコーチになりたいから、そのためにも解説の勉強を沢山して、独自の個性を出して行きたいと語る。

だからといって、コーチになれる保証はどこにもない…と徳永は目に涙を浮かべ、「おれはね…おれの事は自分が一番よくわかってんのよ」と言う。

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原作では、「それはね おれが一番よくわかってんのよ」であるが、ちょっとした改変で、高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」が顔を出している。この技術にも驚き。

目の前の仕事をして頑張って生きていくのが人生だと話す徳永を前にして、とてもじゃないがクビになりそうだと話せる雰囲気ではない…と松本は思うのだった。

ところで、時系列が原作と異なっており、アニメでは、山梨県人会の飲み会にて、徳永が朱美を紹介するプロットを先に持ってきている(飲み会を開く流れが、よりスムーズになっている)。高屋敷氏の、複雑な時系列操作の技術が光る。

後日オトワラジオは、神野のギャラを捻出するために徳永を切ることを決めてしまう。
とても自分の口から言い出せないとして、荻原は松本に、この事を徳永に伝えて欲しいと懇願する。

夜、松本は酒を飲みながら困惑するが、意を決して徳永に電話。だがしかし、電話はつながらなかった。

その後松本は、早朝の神宮外苑をランニングするのが日課の夏之介をつかまえて、徳永の行方を聞く。
夏之介は、徳永が(携帯の電波が届かない)山梨の秘湯で同窓会をしている事を松本に説明する。

動揺しきりの松本を見て、夏之介は詳しい事情を尋ねる。
事情を聞いた夏之介も、これから結婚するのに…と徳永に同情する。

徳永の結婚話を初めて知った松本は驚く。ここも原作と時系列が異なり、松本が徳永の婚約を知る流れが、よりスムーズになっている。この組み立ても巧み。

松本は夏之介を連れ、徳永がいる山梨の旅館へと車を飛ばす。これはアニメオリジナル展開で、話に緊迫感を持たせるのに一役買っている。
旅館へ着いた二人は、徳永が既に東京に帰ったことを知らされる。

結局、二人も東京へ戻ることに。道中、車中泊をしていたところ、徳永から夏之介の携帯に電話がかかってくる。

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徳永は羽田空港におり、これから朱美と二人でグアムに旅行に行くと言う。
慌てて夏之介が松本に携帯をまわすも、徳永は、そろそろ飛行機の時間だとして会話を早々に切り上げてしまう。

松本が直接、徳永と会話するのはアニメオリジナル。このために、アニメオリジナルで夏之介と松本を共に行動させた工夫が見える。これにより、コミカルさが増している。

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結局、クビの報告は、徳永がグアムから帰ってきた後にすることに。
そのことを話しながら、夏之介と大野は飲む(アニメオリジナル)。ここでもビールテロ。

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夏之介は、無職になった徳永は結婚できなくなるかも…と悲観的になり、大野は、何とかなるのでは?と楽観的に考える。
なんにせよ、プロ野球界の厳しさを知った二人は、ため息をつくのだった(以降、次回へと続く)。
ここも、どことなく二人のやりとりに愛嬌があり、可愛い友情描写を得意とする高屋敷氏の腕が振るわれている。

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  • まとめ

いつにも増して、複雑かつ巧みな時系列操作が見られ、高屋敷氏の技術に驚嘆する。
原作をただ淡々と追うのではなく、どこをどうすればスムーズな話運びになるのかを丹念に考慮している姿勢が窺える。

所々に配置されているアニメオリジナルパートも、話の組み立ての重要な箇所を支えており、「なぜアニメオリジナルを入れるか」がしっかり計算されている。この考え方も、相変わらず唸らされる。

前述したが、徳永の台詞を少しだけ改変(「おれの事は自分が一番よくわかってんのよ」)し、自身のテーマ(「自分とは何か」)へグッと引き寄せてくる技術も、流石の一言。
原作に沿いながら、アニメ独自のテーマをじわじわ出していくテクニックには、とにかく毎度、脱帽させられる。

約22分の中に人間関係がギュッと詰まっているのも、よく考えれば凄いことで、やるとなると非常に密度の濃い脚本を書く、高屋敷氏の技術力の高さが見られる。

シリーズ全体を通して、徳永・夏之介・大野の繋がりを、アニメオリジナルを交えて強調してきたことが今回も効いているし、今回の1/3程で、あっという間に徳永と松本の繋がりを描いたのも鮮やか。

それに加えて、夏之介と松本をうまく絡ませた上で、情報をまとめているのも見事。とにかく数々の圧倒的技巧が見られ、高屋敷氏の熱意が感じられる。

テーマ的なものに目を向けてみると、やはり高屋敷氏が投げかけるテーマの一つ「自分とは何か」が見られる。

同氏のテーマは、下記のような発展をする:
自分とは何か→自分のなりたい自分になれ→自分の道は自分で決めろ→己を強く保て→自分を超えろ

このうち、本作では1期最終回12話で夏之介が「超厳しい世界だけど、(プロ野球は)好きで選んだ道」(アニメオリジナルモノローグ)という悟りに至っており、夏之介は、「自分とは何か」を見つめ、「自分の道を自分で選ぶ」ことができている状態。

自分の道を選んだ結果、色々な試練は付き物。夏之介の場合は怪我や、優勝を決める試合で浴びた一発、クライマックスシリーズでの押し出しフォアボールなど。それでも何とか「自分を保つ」ことができたのが、現段階での夏之介と言える。

一方、夏之介の「先輩」である徳永は、当然のことながら年上なので、いつでも夏之介の先のステップを行く存在。
そんな徳永が、結婚という人生の節目を前に、(仕事が無くなるという)とんでもない試練に遭ってしまう。

ここをどうするかは、次回に持ち越しとなるが、今回終盤のアニメオリジナルパートで、「明日は我が身」と夏之介は不安になっている。

前回20話のブログでも書いたが、「プロ」と呼ばれる人達は、「自分とは何か」が普通よりわかっている人達だと思う(だからこそ魅力的)。そんな人達が、人生の試練にどう相対するのかも、本作では色々描かれている。それを踏まえ、次回を見ていきたい。

また、シリーズ終盤も終盤に、徳永の人生の重要局面(結婚や失職)が配置されているのも意味深で、そこにも注目したい。

ところで、高屋敷氏の担当作には名実況が多かったが(高屋敷氏の書く台詞回しも上手い)、今回、実況アナの松本(しかも声が本人で本職)にスポットが当たっているのは感慨深い。

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