カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

おにいさまへ…24話脚本:アニメオリジナルの意義

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が廣嶋秀樹氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

アニメオリジナルエピソード。蕗子(学園の社交クラブ・ソロリティの会長)は12歳の夏、武彦(蕗子の兄の親友で、奈々子の文通相手)に淡い恋心を抱いた。その詳細が、貴(蕗子の兄)や、蕗子自身の回想により明かされていく。

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冒頭、鳥の群れが映る。鳥演出は出崎統監督の定番。長年一緒に出崎統監督と仕事をした高屋敷氏も、それを好む。宝島(演出)、陽だまりの樹・F-エフ-(脚本)と比較。

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海岸に佇む、れい(謎めいた上級生で、姓が異なるが蕗子の妹)は、自分がバイオリンで弾いた曲が、何故蕗子を怒らせたのか疑問に思う(23話参照)。彼女は、砂を掴んで落とす動作をするが、似た動作は、あしたのジョー2・忍者戦士飛影(脚本)にも出る。

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再び、鳥の群れが映る。鳥+太陽もよく出る。宝島(演出)、F-エフ-(脚本)、家なき子(演出)と比較。

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その後、れいは貴(蕗子の兄)に会い、蕗子を怒らせた曲について、何か心当たりがないか聞く。
鉄橋描写があるが、鉄橋は出崎統監督の定番。高屋敷氏もよく出す。忍者戦士飛影(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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問題となっている曲は、6年前の夏に別荘で行われたパーティーで、蕗子が弾いたものだと貴は話す。
回想イメージとして花火が出るが、ベルサイユのばら(コンテ)、あしたのジョー2(脚本)と重なるものがある。

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そのパーティーには、武彦(貴の親友で、奈々子の文通相手)が来るはずだったのだが、急用で来れなかった。それ以来、蕗子は件の曲を弾かなくなったという。
イメージで、無人のボートが映る。そこにいるはずの人がいない描写は、しばしばある。家なき子(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。

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れいは、件の曲を蕗子が弾くのを何回も聞いたが(それ故好きな曲と思っていた)、思えばいつも一人の時だったと気付く。
つまりは、12歳の蕗子が、懸命に武彦のために練習したが本人に聞かせられなかったのが、件の曲であった。
貴の話を聞き、れいが色々と察した場面でも、鳥が飛ぶ。

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帰宅した貴は、れいと会ったことを蕗子に話す。6年前の話をしたことを聞いた蕗子は、鋏でバラを切り落とす。意味深な花の描写は、よく出てくる。宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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バランスが崩れたとして、活けていたバラを捨て、蕗子は自室に行く。
バラの棘で傷付いた、蕗子の手のアップが映る。手が「語る」場面は頻出。ワンダービートS蒼天航路(脚本)と比較。

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れいの余計な詮索に蕗子が怒りを募らせていたころ、れいは人形を蕗子に見立てて謝っていた。
それを鏡が映す。心情や状況と連動する鏡描写は、数々の作品に出る。F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)、あしたのジョー2(脚本)と比較。

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一方蕗子は、武彦と初めて会った、6年前の日の事を回想する。
蝶が飛ぶのが印象的。出崎統監督も、高屋敷氏も蝶を好む。
あんみつ姫あしたのジョー2・ワンナウツ(脚本)と比較。

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蕗子が武彦に初めて出会ったのは、滝の前だった。滝もまた、出崎統・高屋敷両氏は好む。宝島・エースをねらえ!(演出)、忍者マン一平(監督)と比較。

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風で飛んだ蕗子の帽子を、武彦が拾ってくれる。帽子を拾ってくれる状況は、ちょくちょく見られる。ルパン三世2nd・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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気になるのは、高屋敷氏が脚本参加(無記名)した、あしたのジョー1でも同じ状況が出ていること。思い入れがあるのかもしれない。

時は現在に戻り、蕗子は蝶の幻影を両手で包み込む。大切なものを持つ手の描写も、色々な作品で見られる。F-エフ-・ワンダービートS(脚本)と比較。

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場面は再び6年前になる。
武彦は、自分の一番好きなシェイクスピアの詩(ソネット18番)を蕗子に教える。
その後、突然雨に降られた二人は、湖畔のボート小屋で雨宿りする。
雨によるドラマは数多い。宝島(演出)、ワンナウツ(脚本)、エースをねらえ!(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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蕗子に請われ、武彦はシェイクスピアの詩を再び朗読する。雨は上がり始め、太陽が顔を出す。全知全能的な太陽の描写は、実に多い。MASTERキートン(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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自分もこの詩が大好きだと言う蕗子の顔を、太陽が照らす。光による心理・状況描写は結構ある。宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、カイジ2期(脚本)と比較。

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武彦は、蕗子に詩集をあげる(それを現在でも蕗子は大切にしている)。

夏の終わりのパーティーに再び顔を出すと、武彦は蕗子と約束し、指切りする。
手と手のコミュニケーションもまた、多く出てくる。陽だまりの樹ワンダービートS・F-エフ-(脚本)と比較。

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あの夏の日、幸せだった…と(現在の)蕗子は思う。そんな彼女を、ランプが照らす。ランプ描写は非常に多い。コボちゃんめぞん一刻(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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れいが学校に出て来ないので心配になった奈々子は、れいの住むアパートを訪ねる。鍵が開いているので入ってみた奈々子だったが、れいは不在。
置かれていたCDを再生してみると、それはれいが弾き、蕗子を激怒させた曲だった。
そこへ、蕗子がやってくる。ここでも鏡が出る。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ1・2期(脚本)と比較。

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蕗子はCDプレーヤーの電源を引っこ抜き、以前、れいと付き合うなと言ったはずだと奈々子を叱責する。
その後川辺に佇む奈々子は、「あの曲」に何かあるのだと察する。
水面に奈々子の顔が映る。ここも鏡描写。
ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻蒼天航路(脚本)と比較。

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蕗子は自家用車に乗りながら、再び6年前を回想する。
パーティー当日、蕗子はドレスアップして赤い靴を履く。
出崎統監督は、まんが世界昔ばなしで「赤い靴」の演出/コンテを担当しており、それを意識したものかもしれない。

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貴から、武彦が急用でパーティーに来られなくなったことを告げられた蕗子はショックを受ける。バイオリン演奏は見事にやり遂げたものの、その後、蕗子は激情のままに湖に飛びこむ。ここで月が映るが、全てを見ているような太陽や月の描写は多い。MASTERキートン(脚本)と比較。

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湖から上がった蕗子は号泣する。

時は現在に戻り、あの夏の日は永遠に自分のものだと、蕗子は思う。
「あの人があの夏の日に戻ってきてくれるまで、私は、誰にもあの人を渡しはしない」と決意しながら、蕗子は件の曲のCDを割るのだった。ここも「手」による感情表現。宝島(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。

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  • まとめ

22話からの、色々な謎が明かされる回。
整理すると、

  • 恋の日のままの部屋がある(22話)
  • 22話の、蕗子の詩の朗読は、初恋の思い出
  • 2223話のバイオリン曲は、武彦のための曲

となる。
つまり、蕗子は初恋を大事にしている…ということになる。

蕗子が武彦を想っていることを、原作ではかなり短めに描いていたが、それを丸々3話も膨らませた手腕が見事。
アニメオリジナルエピソードを使ってキャラクターを深く掘り下げる構成は、F-エフ-*1(シリーズ構成・全話脚本)でも見られ、高屋敷氏が垣間見せる大胆さに驚かされる。

過去と現在を細かく行き来する時系列操作も巧み。これは近年(2018)のグラゼニ*2(シリーズ構成・全話脚本)でも見られ、その卓越した技術に感心しきり。

22話についての記事でも書いたが、2223、24話を通して見ると、蕗子の意外な一面に驚かされる仕組みになっている。
高屋敷氏のポリシー「人間には色々な側面がある」を描くことに成功しており、ここも見事。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも、(2期)1516話で夏之介の意外な一面(熱かったり、号泣したり)を見せていく構成が上手かった。話もジャンルも年代も違う両作だが、共通点が多く見られ、比較すると面白い。

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鳥、蝶、太陽、月など、「人ではないもの」を使った状況/心理描写も冴えており、それらを共通して好む出崎統・高屋敷両氏の強い連携を感じる。相変わらず、出崎統氏抜きの「脚本」作でも、高屋敷氏がこれらの要素を出せるのは謎ではあるが。

シリーズを通して、各キャラクターの掘り下げを徹底的に行っている構成方針も凄いし、原作で掘り下げがない部分には、丸々オリジナルを当てはめるのも大胆で潔い。
そのオリジナル内容も、とにかく丁寧で唸らされる。

もはや原作を読んでいても、次の展開がどうなるかわからない領域にある。これはF-エフ-のシリーズ構成・脚本でもそうだった。あらためてアニメ化の意義、オリジナルを入れる意味を考えさせられた。

ちなみに、シェイクスピアソネット18番が使われたのは、大学時の高屋敷氏が文学部だったことと関連があるのかもしれない。