カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

おにいさまへ…28話脚本:揺らめく炎

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が廣嶋秀樹氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

父親の不倫が元で、クラスメイトの三咲に侮辱されたマリ子(奈々子の級友)は、三咲をカッターで切りつけ、学園を飛び出す。そこを貴(学園の社交クラブ・ソロリティ会長である蕗子の兄)に保護され、その後父と話し合う。
翌日、マリ子のソロリティ除名が発表され、その一方的な決定に怒れる奈々子はソロリティを辞める。

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父親の不倫をネタに、クラスメイトの三咲に侮辱されたマリ子(奈々子の級友)は、カッターで三咲を切りつけるという事件を起こす。
その事について、マリ子の母が連絡を受ける場面にて蛇口が映る。同じような表現は、しばしば出る。
F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。

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マリ子の起こした傷害事件の話は、尾ひれがついて学園中に広まる。モブの会話は原作よりバリエーションがあり、モブを重視する高屋敷氏の特徴が出ている。
あんみつ姫・らんま(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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奈々子と智子(奈々子の幼馴染)は、学園を飛び出したマリ子を心配する。
学園に駆けつけたマリ子の母と会った彼女達は、心当たりを探してみると話す(アニメオリジナル)。
ここで木葉が舞うが、木葉描写は多い。めぞん一刻MASTERキートン(脚本)と比較。

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一方三咲は、病院で手当てを受けた後、学園に戻る。
その後、帰路にて三咲は友達と喫茶店に寄る(アニメオリジナル)。
三咲の友達が喋っている間、アクアリウムの置物が映る。意味深な「物」の「間」は数多い。F-エフ-・めぞん一刻蒼天航路(脚本)と比較。

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かしましく喋る友達を、三咲は諌める。
ここも、高屋敷氏のモブ重視が出ている。
めぞん一刻でも、モブ(八神の友達)がよく喋っていた。原作では名無しなのに、名前がついている程である。

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各方面に謝罪後、マリ子の母は夫・桧川(官能小説家。ペンネームが桧川信夫なので、以降、桧川とする)に電話するも、彼は多忙で、うまく伝わらず。再度電話すると、今度は桧川の愛人が出て、マリ子の母は愕然とする(アニメオリジナル)。
このような孤独は深刻に描かれる。MASTERキートンと比較。

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桧川は、マリ子に何かあった事だけは聞いたので、自宅に帰って妻に会う。

奈々子と智子は、夕陽を見ながら、マリ子の状況を考えて憂う(アニメオリジナル)。
全てを見ているような夕陽は頻出。
宝島(演出)、蒼天航路(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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マリ子は、さまよっていた所を貴(学園の社交クラブ・ソロリティ会長である蕗子の兄)に保護されていた。
彼女が落ち着くまでドライブした後、貴はホットドッグを買ってくる(アニメオリジナル)。
飯テロは高屋敷氏の定番。
グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)、ルパン三世2nd(演出・コンテ)と比較。

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食べたくないと言うマリ子の前で、貴はホットドッグを美味しそうに食べる。それを見たマリ子は、腹が鳴り赤面する。
カイジ2期(脚本)にて、食欲/ビール欲を指摘されて赤面したり、美味しそうに物を食べたりするカイジが重なってくる。

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マリ子は、ホットドッグを食べる。
食べる=非常に重要なメンタルケアというポリシーは、とにかく色々な作品で前面に出ている。
グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも、モヤモヤした心を、大好物を食べることでケアする場面が(アニメオリジナルで)出てくる。

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マリ子が眠り込んでいる間に、貴はマリ子の家に電話し、事の次第を話す。
それを聞いた奈々子・智子と、マリ子の両親は安堵。
桧川は、安堵で手が震える。
手による感情表現は、あらゆる作品に出る。F-エフ-・グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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貴に連れられ、ようやく帰宅したマリ子を、皆が迎える(アニメオリジナル)。
落ち込んでいる人のもとに皆が駆けつけるのは、高屋敷氏の担当作によくあるシチュエーション。ど根性ガエル(演出)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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しばらく大人しくしていたマリ子だったが、両親に激情をぶつけ、部屋にこもる。
奈々子と智子が追いかけると、マリ子は沢山のロウソクに火をつけていた(アニメオリジナル)。火の描写は多くの作品で印象深い。F-エフ-・蒼天航路コボちゃん(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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子供の頃から、いつか家族皆が集まった時に飾ろうとロウソクを集めていたが、父はいつもいなかった…とマリ子は語り、カーテンに火をつける(幸い、奈々子と智子が必死に制止した為、火事には至らず)。
火事の状況もしばしば見られる。F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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駆けつけた桧川は、燃やしたいなら燃やせばいいが、自分を嫌いになってはならない、自分の良い所を見つめ、愛し続けなければならない…とマリ子の手を包む(アニメオリジナル)。
手による感情の伝達は多い。
宝島(演出)、F-エフ-・ワンダービートS(脚本)と比較。

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ここで注目したいのは、自分を嫌いになってはいけない、自分を愛せという桧川の言葉。
「自分とは何か」をはじめ、「自分」にまつわる哲学は、ありとあらゆる作品で高屋敷氏が投げかけるテーマ。アニメオリジナルなこともあり、それが直球で表れている。

マリ子は、自分は自分が嫌いだし、誰からも愛されていないと叫ぶ。
そんな彼女を、桧川はビンタする。
高屋敷氏は、ビンタシーンに縁がある。ベルサイユのばら(コンテ)、ど根性ガエル(演出)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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桧川は、自分はどうしようもない人間だが、それでも自分の良い所を見つけ、それを大切にしている、それがなければ生きていけないから…と語る。
ここも「自分とは何か」にまつわる、高屋敷氏のテーマが直球で出ていて驚く。

自分を愛さなくては人から愛されないし、人を愛すことができないと、桧川はマリ子の手を取る。ここも、手と手のコミュニケーション。MASTERキートンあしたのジョー2(脚本)と比較。

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自分は自分が嫌いだが、「パパを愛している」とマリ子は泣き、父娘は抱き合うのだった。
親の抱擁は、多くの作品で見られる。ベルサイユのばら(コンテ)、ど根性ガエル家なき子(演出)と比較。

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翌日。事件を受け、蕗子はマリ子をソロリティから除名すると発表する。
一方的すぎるとして、奈々子は立ち上がる。
その衝撃で花瓶が落ち、割れる。
陶器などが割れる表現も、結構出る。蒼天航路(脚本)と比較。

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奈々子の燃え盛る心のイメージとして、炎が出る(アニメオリジナル)。状況や心情と連動する火の描写も多い。花田少年史陽だまりの樹カイジ2期(脚本)と比較。

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奈々子は、蕗子に面と向かって抗議する。絶対的権力を持つ者に物怖じしない気概は、カイジ2期(脚本)にて、班長に堂々と抗議するカイジと共通するものがある。

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その時、群れからはぐれた鳩が窓を突き破る(アニメオリジナル)。状況と連動しているほか、鳥一羽一羽に「ストーリー」を持たせている。一羽の鳥がクローズアップされる描写は、時折見られる。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、宝島(演出)と比較。

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奈々子は、ソロリティを辞めると宣言して去っていく。この堂々たる行動も、カイジ2期(脚本)の、班長と対峙するカイジと重なってくる。

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また、「自分の道は自分で決めろ」という高屋敷氏のポリシーが前面に出ている。

  • まとめ

アニメオリジナルが多く、とにかく高屋敷氏の直球が見られる。
特に、「自分とは何か」にまつわる哲学について、桧川に色々語らせている。
あらためて同氏のこだわりと主張が感じられ、興味深い。

「自分とは何か」がわからないと精神が不安定になり、「自分が嫌い」だと自我が崩壊する(最悪、自殺につながる)という主張は、同氏の担当作に多々見られ、メンタルヘルスについての切り口の鋭さに驚く。

はだしのゲン2(脚本)でも、抑うつ状態の老人に対しての、ゲン達のケアが非常に的確だったし、カイジ2期13話(脚本)では、破滅に向かう坂崎を止めるカイジの、優しい行動/言動を強く印象づけていた。
高屋敷氏の、人間心理への洞察力は並々ならぬものがある。

飯テロに関しても、食事をとることが、心にとっても重要であるという強い主張が見られる(もともと食べる事が大好きそうではあるが)。
根掘り葉掘り事情を聞かず、まずはマリ子に食事をさせる、貴の対応も同氏らしい。

じゃりン子チエにおいて、寒くてひもじいと死にたくなるから食事は大事だと、おバァはんが語る回の脚本を、同氏が書いているのも面白い。初期のど根性ガエル(演出)でも飯テロはあり(ひろしの母が買ってくれた小さなクリスマスケーキ)、歴史は長い。

今回出てきたロウソクについても、ど根性ガエル(演出)のクリスマスケーキに立っていたロウソクがルーツ(の一つ)なのではないかと考えられる。時に、ロウソクの火は家族の温かさを表しており、家族の愛に飢えていたマリ子がロウソクを集めていたのは意味深。

今回のサブタイトルは「クリスマスキャンドル」。これもまた、ど根性ガエルのクリスマスケーキのロウソクを思い出させる。高屋敷氏の、ど根性ガエルへの思い入れが窺える。

一方で、蕗子に堂々と意見を述べる、奈々子の度胸の良さ・意志の強さも描かれる。前述した通り、カイジの男気と重なり、ジャンルが全然違うのに「同じカテゴリ」のものを見ている感覚に襲われる。
ここも、同氏の作品を追う上で面白いところ。

あと、「火」についてだが、まんが世界昔ばなしにて、高屋敷氏は「動物達と火」という話の演出/コンテをしている。これは、人が何故火を使えるようになったかという話。同氏がいかに「火」を重視しているのがわかる。

初期のど根性ガエルでも、同氏は強引に焚き火を出している。推測の域を出ないが、北国である岩手県出身なのも関係しているかもしれない。

そして、原作で殆ど描かれなかった、マリ子の父を掘り下げた手腕も光る。
原作を大いに補完し、キャラクターを掘り下げるアニメオリジナルを入れる巧みさは、本当に目を見張るものがあり、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも際立っている。

今回は、高屋敷氏の主張やテーマが如実に表れていた。
特に、「自分とは何か」を徹底的に追究する同氏の姿勢を確認できたのが大収穫だった。以降の回も、ここに注目しながら見て行きたい。