カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人22話脚本:見上げた先

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。
今回のコンテ/演出は倉田綾子氏で、脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧(本記事を含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

龍次(元・少年院の二舎六房の一人。頭脳派)は娼婦のエリ(本名は絵理子)と駆け落ちを図るが、エリは別の男と心中してしまう。そして龍次は皆の前から姿を消すが…

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前回、忠義(元・少年院の二舎六房の一人。いかつい自衛官)にしこたま殴られた龍次(元・二舎六房の一人。頭脳派)は、真理緒(元・二舎六房の一人。熱血漢)の部屋で目覚める。
龍二の眼鏡が映るが、アイデンティティを示す物のアップはよくある。宝島(演出)、グラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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壊れた眼鏡の修理代として忠義が置いて行った金を、真理緒は龍次に渡す。
それは、エリ(娼婦。本名は絵理子)との駆け落ちを決めた龍次に対する、忠義なりの餞別だった。
あしたのジョー2(脚本)で、給料を丈に渡す西が思い出される。

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「どこにいたって俺達はダチだ」という皆の愛情を胸に、龍次は、待ち合わせ場所である泉草寺の、戦争で焼けた銀杏の木の下でエリを待つ。
鳩が飛ぶ(アニメオリジナル)。長年一緒に仕事した出崎統氏ゆずりの鳥描写は多い。おにいさまへ…陽だまりの樹(脚本)と比較。

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だがしかし、エリは他の男と落ち合う。
雨が降る中、龍次は何時間もエリを待ち続ける。そこへ昇(元・二舎六房の一人。小柄)が現れ、傘をさしてくれる。
一人でいる所に友達や仲間が寄り添ってくれる状況は強調される。カイジ2期・陽だまりの樹(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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エリを待ち続けた龍次は熱を出して倒れ、真理緒の部屋に運び込まれる。
ここでも、龍次のアイデンティティを示す眼鏡が映る。同様の描写は数多い。宝島(演出)、グラゼニ(脚本)、元祖天才バカボン(演出・コンテ)と比較。

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看てくれている万作(元・二舎六房の一人。巨漢のプロレスラー)が買い物に出ている間に、龍次は、エリが大学生と心中したという新聞記事を目にし、新聞を握りしめる。手による感情表現は色々な作品で出る。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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安かったからと、万作は野菜を沢山抱えて買い物から戻ってくる。
「野菜が安かったからつい沢山…」という台詞はアニメオリジナル。
食いしん坊描写は多数。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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外に飛び出した龍次は、エリが働いていた女郎屋に行く。そこで龍次は、エリの身の上話がデタラメだったことを知る。
下卑た事を言う女郎屋の主人を、龍次は締め上げる。ここも、手による感情表現。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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万作、真理緒、昇は手分けして龍次を探す。最悪の事態を危惧する万作に対し、昇はそれを全否定。この会話はアニメオリジナル。悲観や精神疾患による自殺を、高屋敷氏は強く否定する。また、不思議なことに、あしたのジョー2(脚本)と画が重なる。

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あてどなく彷徨う龍次は、エリと落ち合うはずだった泉草寺に行き着く。
ここでも、鳥(鳩)が飛ぶ(アニメオリジナル)。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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龍次は、焼け折れた木に触れる(アニメオリジナル)。これもまた、手による感情表現。宝島(演出)、F-エフ-・カイジ(脚本)と比較。

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龍次は、朽ちているはずの木に芽が生えているのを目にする。命ある自然の描写や、生きているような建造物の表現は強調される。おにいさまへ…・チエちゃん奮戦記・アカギ・はだしのゲン2(脚本)と比較。

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1ヶ月後、昇は龍次の家を訪ねる。
洗濯物がはためく(アニメオリジナル)。こういった描写は出崎統氏ゆずりで、要所要所で見られる。あんみつ姫・F-エフ-・あしたのジョー2(脚本)と比較。このうち、あしたのジョー2は出崎統氏のコンテ。

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そこへ龍次が帰ってきて、持ち出した金と同額の金を母に差し出す。
今までのことを悔い改め謝る龍次を、龍次の母は「おかえり」と許す。心情や状況と連動する光の表現は様々ある。
蒼天航路(脚本)、宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、はじめの一歩3期(脚本)と比較。

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今まで龍次は飯場で働いており、忠義に金を返したと昇に話す。そして、今ある分の金を昇に渡す。
夕焼けの中話すのはアニメオリジナル。
夕焼けの中の友情表現は多い。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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月が映る(アニメオリジナル)。全てを見守る月は頻出。はじめの一歩3期(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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元・二舎六房の面々は龍次を囲んで朝まで飲み明かし、彼を励ます。
仲間愛は、数々の作品で印象に残る。あんみつ姫(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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龍次は皆に、泉草寺の焼け折れた木に芽が出ているのを見せる。6人全員でそれを見るのはアニメオリジナル(原作では、昇に見せる)。ここも仲間愛の強調。ど根性ガエル(演出)、カイジ2期・はだしのゲン2・めぞん一刻(脚本)と比較。

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龍次は、強く生きていくことを誓うのだった。

  • まとめ

戦争で焼け折れた木が芽吹き、龍次が励まされる描写は、はだしのゲン2(脚本)で、まるで子供達を見守っているような原爆ドームを思い出す。どちらも戦争で死んだように見えるものが、強く生きているからだと思う。

また、前回に引き続き、常人にはできない領域の仲間愛が描かれる。
特に前回、龍次に嘘をつかれたり、酷い事を言われたはずの昇の、龍次に対する優しさは凄い。時に聖人レベルの優しさを発揮する、カイジ(シリーズ構成・脚本)におけるカイジが重なる。

自殺を強く否定する、アニメオリジナル場面も興味深い。
悲観や精神疾患による自殺を否定する、高屋敷氏の姿勢は確固たるもので、あらゆる作品で表れている。

自殺を防止する手段として、孤独にさせないこと、具体的な打開策を考えていくことが求められる事を、高屋敷氏は提示する。
今回の場合、木や仲間達が龍次を孤独にさせなかった事が、強く描かれた。

エリの嘘について、龍次は怒るより憐れに思い、「一緒に生きようと思っていた」と悲しむあたりは、「人間には色々な側面がある」という高屋敷氏のポリシーに合う。
エリの嘘は中々酷いが、死んでしまっては元も子もなく、虚しさが残るものとなっている。

芽吹いている木を見上げるのが、2人ではなく6人全員になっているのは、中々深い改変。高屋敷氏のポリシーの一つである、「仲間がいるから自分がいる、自分がいるから仲間がいる」が強めに出ている。

おにいさまへ…(脚本)で、「自分で生きようと思うまで待ってくれるのが友達」という概念が出てくる(アニメオリジナル)。まさに今回の話がそれに当たり、高屋敷氏のポリシーも乗っている事が窺える。
真の友情とは何かを考えさせられる回だった。