カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ9話脚本:9話の法則

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回の演出・コンテは矢嶋哲生氏で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

プロ野球球団・リカオンズと「ワンナウツ」契約(1アウトで+500万円、1失点で-5000万円)をしている渡久地(謎めいた投手)には、ワンナウツ契約20倍レートで行われているマリナーズ戦にて、自分のマイナス分を消しつつプラスに持っていく秘策があった。

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高屋敷氏のシリーズ構成作は、9話で何らかの節目があることが多い。カイジ・RAINBOW-二舎六房の七人-・カイジ2期・おにいさまへ…グラゼニの9話を見比べると面白い。(おにいさまへ…のシリーズ構成は、金春氏と共同)。

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リカオンズ(謎めいた投手・渡久地の所属するチーム)対マリナーズ(リーグ最強チーム)の試合は、降雨中断から無理矢理再開され、試合成立(5回以上)を目指すことに。全ては彩川(リカオンズオーナー)の目論見だった。原作通りだが、雨の中のドラマを高屋敷氏は得意とする。おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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ワンナウツ契約(1アウトで+500万円、1失点で-5000万円)の20倍レートにより、勝っても負けても-140億円になる渡久地を、及川(リカオンズ広報部長)は心配する。主人公の行動に反応する役目は、カイジカイジ2期(シリーズ構成・脚本)の石田父子も担っている。

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渡久地は、マイナス分を消して、彩川からきっちり大金を取ると及川に宣言する。この会話も、及川のキャラが強めに出ており、やはり彼を構成の柱の一つにしているのが窺える。

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それと同時に、原作から台詞を削減しつつ追加もするなど、高屋敷氏の脚本技量の高さも感じられる。

4回裏、リカオンズの攻撃は2アウト1塁。打席に立つ荒井は、ボールカウントに得手・不得手があり、苦手なカウントになって動揺。「どうしよう」という追加モノローグが幼い。キャラが幼くなるのは高屋敷氏の特徴で、ガンバの冒険ダンクーガの脚本にも、それは見られる。

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渡久地は、キャッチボールの手が滑ったふりをしてボールを荒井に当てる。
憤慨する荒井に、次の球は100%カーブだと渡久地は助言する。
荒井をなだめる渡久地の手が映るが、手による感情表現は頻出。MASTERキートングラゼニカイジ(脚本)と比較。

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渡久地の言った通り、球種はカーブ。荒井はそれを叩き、リカオンズは大逆転して4回裏は終了。これについて、出口(リカオンズ捕手)と渡久地の解説があり、藤田(左翼手)は感心。彼には味がある。カイジ(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、F-エフ-(脚本)等でも、脇役が印象に残る。

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守備につく際、渡久地はマリナーズ監督・忌野を煽りに煽り、責任を取れと言い放つ。トマス(マリナーズ強打者)は忌野をなだめて冷静に戦況を語り、バットを握りしめる。ここも、手による感情表現。ワンダービートSグラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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息詰まる駆け引きの末、渡久地は高見(マリナーズの天才打者)を仕留める。
高見のヘルメットが転がる。こうした意味深な「物」の「間」は、高屋敷氏の担当作に多く見られる。めぞん一刻おにいさまへ…(脚本)と比較。

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高見は、渡久地が雨を味方にしたピッチングをしたことに気付き、己の見落としに愕然とする。雨のほか、高屋敷氏は天候を重視する。F-エフ-(脚本)でも雨が勝負を盛り上げていたし、マッドハウス版XMEN(脚本)では、天候を操るストームを活躍させていた。

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その後、トマスも三振。ブルックリン(マリナーズ強打者)もゴロを転がし、試合終了となるはずだったが、渡久地はタッチを寸止めし、忌野を責める。渡久地のボールがクローズアップされる。ボールに感情を乗せる描写は多々ある。おにいさまへ…・DAYS(脚本)と比較。

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渡久地は、マリナーズの投手達の防御率を滅茶苦茶にした忌野に対し、責任を取るということは、痛い目を見るということだと説く。ここの長台詞は、カイジ(脚本)にて、金を巡る人間の醜さを激しく説くカイジが重なり、構成のシンクロに驚かされる。

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落とし前として、渡久地は忌野に試合放棄を提言する。そうすればルールによって投手の自責点はじめ、その試合の個人成績は消え、同時に渡久地のマイナス金額も消える事になる。
動揺する彩川はテレビにかじりつく。空手バカ一代(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)ほか、高屋敷氏は憎まれ役の愛嬌を出すのが巧み。

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試合放棄するか否か、3秒以内に決めろと言われた忌野は、試合放棄を選択する。
高見は渡久地を見つめ(アニメオリジナル)、忌野は、この屈辱を勝利で返すと言う。
F-エフ-・めぞん一刻(脚本)ほか、ライバルのかっこよさは強調される。

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試合放棄すると、投手は完封したことになり、渡久地のマイナスは無しになって大金を獲得することに。
及川はつくづく感心する。カイジ1期9話・2期9話(脚本)でも石田父子がカイジの大逆転を見守り、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも温かく主人公達を見守る大人が出る。

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こうして、現在の渡久地の推定年俸は21億3500万円となったのだった。裸(アニメオリジナル)→1つずつ文字表示は、ルパン三世2nd147話(演出/コンテ)の冒頭を思わせ、並べると面白い。

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  • まとめ

今回含め、カイジ1期・2期、RAINBOW-二舎六房の七人-、おにいさまへ…(金春氏と共同)、グラゼニ…と、高屋敷氏のシリーズ構成作は、9話が重要回である事に目が行く。こうも共通すると、偶然ではないような気がする。

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具体的に述べると、カイジ1期9話(脚本)はエスポワール編が決着し石田が泣き、カイジ2期9話(脚本)は地下編が決着して、石田の息子が泣く。今回(ワンナウツ9話)はマリナーズ戦が決着して及川が驚き、渡久地に感心するという構成になっている。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)9話では、夏之介が投球フォームを変更するか否か悩み、今までのフォームに戻すことを「自分で」決断する。地味ながら選手生命の分かれ目となる重要な話で、かつ高屋敷氏のテーマの一つ「自分の道は自分で決めろ」が色濃く出ている。

RAINBOW-二舎六房の七人-(シリーズ構成・脚本)9話(広田光毅氏脚本)では、少年院から脱走した真理雄が初めてボクシングの闇試合に挑み、敗北の痛みを知るという話で、舞台およびシリーズの転機となっている。このように、高屋敷氏は9話に重要な話を置く構成が多い。

この「9話の法則」だけでなく、高屋敷氏のシリーズ構成や脚本には精密・綿密な「計算」が見られる。なんというか、技術の巧みさ・計算力の高さが感じられる。特にストーリーを盛り上げる・キャラを立たせる構成は見事かつ、きっちり計算されている。

高屋敷氏は、あしたのジョー2最終3話(丈対ホセ戦)の脚本を担当している。
あくまで推測だが、同氏はこの「3話分」をシリーズの最小単位と見ているのではないだろうか。そうなると、3×3=9で、9話はシリーズ3段階目の山場ということになり、重要な回が来ても不思議ではない。

今回渡久地は、責任を取るということは、痛い目を自ら負うことだという旨の名言を口にし、彼の信条を垣間見ることができる。一方カイジ9話(脚本)は、カイジの怒りが言葉となり、彼の熱い感情がほとばしる。この二人が重なるようにする「構成」は、やはり凄まじいものがある。

今回(9話)の渡久地にしろ、カイジ9話のカイジにしろ、主人公の主義主張が言葉となり、それによって主人公の掘り下げが(かなり)行われている。
どちらも高屋敷氏の、キャラを掘り下げる技術・能力が存分に発揮されている。

対戦相手についても、矜持やかっこよさがしっかり描かれている。
こちらも、人間の色々な面を描写したいという、高屋敷氏のポリシーが形になっている。こういった所は、対戦相手にもドラマがあった、あしたのジョー(特に2)の脚本経験がルーツだろうか。

とにもかくにも今回は、「9話=重要回」の法則、キャラの掘り下げ、1話内の密度の濃さ、尺に入れるための調整など、高屋敷氏の「脚本・シリーズ構成」の技術が盛り沢山の回だった。