カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ12話脚本:各々のキャラ立ち

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテは新留俊哉氏で、演出がKim Min Sun氏。そして脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

知将・城丘率いる球団・バガブーズは、超俊足の野手・ジョンソンを活かしリカオンズ(謎めいた投手・渡久地が属する球団)を翻弄。渡久地らは突破口を探す。

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冒頭は今までのあらすじから始まる。このまとめ方が上手い。こういった技術は色々な作品で使われており、カイジでも大いに発揮されていた。カイジ2期1話アバンでは、あっという間に1期全体の内容をまとめていた。

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7回表、相手球団・バガブーズの投手のフォアボールでノーアウト1・2塁のチャンスを迎えたリカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)だったが、次の打者は渡久地(投手なのでバッティングは期待できない)。

立ってるだけでいい筈が、渡久地は何故かレフトのジョンソン(超俊足の野手)に向けて打ち、レフトフライに終わる。
怒る冴島(リカオンズコーチ)に、渡久地は「ボケ」と返す(アニメオリジナル)。冴島の反応がコミカルで、可愛いおじさんを表現するのが上手い高屋敷氏の特徴が出ている。

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次の打者である富岡は、妻に浮気をバラすと渡久地に脅され、ジョンソンのいるレフト方向に打って泣きながら走る。大人が泣く場面に高屋敷氏は縁がある。ルパン三世2nd(演出・コンテ)、カイジ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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意図的にキャッチボールに出ている渡久地が、打球を追うジョンソンに「Watch out!(危ない)」と声をかけると、ジョンソンは捕球に失敗。この間にランナーが帰り、リカオンズは逆転。
次の打者が三振に倒れ、リカオンズは7回を終了。渡久地は理由を解説し(ジョンソンは“目切り”ができない)、リカオンズの皆は驚く。おにいさまへ…めぞん一刻カイジグラゼニ(脚本)等、愛嬌ある脇役は数々の作品で印象に残る。

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驚きの展開ばかりで、実況席は沸き立つ。解説(元阪神・川藤がモデル?)が酒を飲んで酔っ払っているが、色々な作品に泥酔描写がある。これも愛嬌がある。ガンバの冒険陽だまりの樹カイジ2期(脚本)と比較。

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7回裏、ジョンソンは足を活かして3盗。ここで登板した渡久地は、ジョンソン得意のホームスチールを封じる策に出る。
三原(リカオンズ監督)と冴島(同・コーチ)はそれに一喜一憂。ここも可愛い。可愛いおじさんは多くの作品で目立つ。カイジ2期・グラゼニ・F-エフ-・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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ホームスチールを封じる代償として、渡久地は四球の山を築き満塁となる。だが、なんとリカオンズは隠し玉を敢行、ジョンソンはアウトに。この場面もショートの今井が光り、脇役が目立つ。F-エフ-・グラゼニめぞん一刻・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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シリーズ全体で言えることだが、原作より実況アナウンサーが目立つ。あしたのジョー2・1980年版鉄腕アトムグラゼニ(脚本)などなど、高屋敷氏はとにかく実況を前面に出すし、台詞運びも上手い。相当に好きなのではないだろうか。

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渡久地の仕掛けた色々なトリックによって、まんまと隠し球をやられたことにバガブーズコーチは悔しがる。ここも、可愛いおじさん描写。グラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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リカオンズ1点リードのまま、試合は9回裏へ。先頭のジョンソンは再び3盗。そしてここで渡久地が登板(ピンチの時以外は1塁についている)。
実況が長い解説をするが、カイジ2期・グラゼニ(脚本)ほか、高屋敷氏の脚本は流れるような早口長台詞が多々ある。

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出口(リカオンズ捕手)は打者との勝負を選択し、児島(リカオンズのベテラン天才打者)も同じ思いを抱く(アニメオリジナル)。シリーズ全体でちょくちょく児島のアニメオリジナル場面があり、児島を重視する意図が見られる。
高屋敷氏は、軸となるキャラを徹底して出す傾向がある。

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渡久地は、何故かジョンソンの挑発に乗る形で、彼との勝負を選ぶ。それをテレビで見ていた彩川(リカオンズオーナー)は爆笑(1アウト+500万円、1失点-5000万円というワンナウツ契約の20倍レートで、失点すれば渡久地は金銭的に破滅)。どこか可愛げある憎まれ役は多い。忍者戦士飛影(脚本)、宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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ジョンソンを上手く使ってきた城丘(バガブーズ監督)と、渡久地のモノローグの応酬があり、ここは切り替えやテンポの調整で、緊迫感を出している。切り替えの良さや名調子モノローグは、はじめの一歩3期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも見られる。

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渡久地は、打者がバントできない絶妙な位置(打者のかかとの後ろあたり)に球を投げ、それを捕球した出口がジョンソンをタッチ。彼は憤死となる。
勝負を盛り上げていく構成が、はじめの一歩3期・カイジ2期(脚本)などと共通している。

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残り二人が凡退し、リカオンズは勝利。及川(リカオンズ広報部長)は密かに喜ぶ(アニメオリジナル)。高屋敷氏は、主人公を見守るキーキャラを上手く設定することがあり、はじめの一歩3期・F-エフ-・カイジ2期の脚本でも、それは見られる。

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一方、渡久地を破滅に追いやることができなかった彩川は悔しがり、負け額自体は減った…とぶつぶつ言う(アニメオリジナル)。
忍者戦士飛影カイジルパン三世2nd(脚本)など、どこか憎みきれない憎まれ役の表現に、高屋敷氏は長ける。

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勝利を喜び、城丘とジョンソンを完全に封じたという出口の意見を渡久地は否定し、正捕手なら、その理由を自分で考えろと言うのだった。原作通りだが、ここは高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」にマッチする。

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  • まとめ

とにかく、かわいいおじさんを描写するのが上手い。一方、城丘はかっこいい。つまりは、中高年キャラの魅力を引き出す手腕が凄いのだと思う。これは、ありとあらゆる担当作に見られるので、高屋敷氏の持ち味の一つと言える。

また、脇役の個性を引き立たせるのにも長け、そのための布石を色々打っている。本作では、今井や藤田が印象深い。
カイジ(シリーズ構成・脚本)でも、名無しの10番・11番に強い存在感があった。
おにいさまへ…(脚本)でも、心に残るアニメオリジナルキャラが多い。

あと、主人公を見守るキャラとして及川にスポットを当てているほか、児島も、原作より出番を増やしている。彼もシリーズ全体の軸となるキャラとして設定されていると言える。

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話の構成としては、クライマックスへの組み立て方が見事で、これはボクシングアニメである、あしたのジョー(特に2)の脚本経験が大いに活きている。ボクシングの緊迫感は、F-エフ-やカイジグラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)でも応用されている。

原作より実況が目立つのは、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)も同様で、相当に実況役が好きなのではないだろうか。数々の作品に見られるナレーション多用も、その繋がりかもしれない。

本エピソードの最後に、出口と渡久地の会話を持ってくる構成から考えても、高屋敷氏の提示するテーマの一つ「自分とは何か」が見えてくる。既に確固たる自我がある渡久地が、出口に「正捕手」としての自覚を促すのは、今回の肝の一つだと思う。

出口は割と出番が多く、脇役というわけではないが、今回含めてシリーズ全体でキャラが立っている。高屋敷氏の、キャラを掘り下げる能力は抜群なので、こちらも同氏の本領が発揮されている。

こうして見ると、レギュラーから脇役に至るまで、キャラが立っている。これは、それぞれの役割が重い「野球」の概念から来ているのでは…と思えてきた(高屋敷氏は野球経験が豊富)。ボクシングといい、野球といい、同氏が活かしているものが窺えた。