カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ハローキティのおやゆびひめ脚本:表現のベース

ハローキティのおやゆびひめ』は、1990年公開の劇場アニメ(サンリオアニメフェスティバルの一編)。サンリオキャラであるキティが、おやゆび姫を演ずる。話の大筋は、ほぼ(一般的な)原作通り。
総監督:波多正美氏、監督:窪秀巳氏、コンテ:鹿島典夫氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、サンリオアニメフェスティバルに関する当ブログ記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AA

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開幕、鳥のつがいが映る。とにかく、鳥はよく出る(高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏も、よく鳥を出す)。はだしのゲン2(脚本)では、野鳥の卵がゲン達の貴重な栄養源となるほか、陽だまりの樹おにいさまへ…(脚本)などでも鳥が印象深い。

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とある独り暮らしの婦人が、子供を欲しいと神様に祈っていたところ、風が吹いて女神が現れる。ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻(脚本)ほか、意思を持つかのように風が吹く場面は多いが、それらに意図が乗っているのが、本作と比較するとわかる。

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(願いを叶えると言った)女神から貰った種を、婦人は育てる。その最中、鳥のつがいが様子を見に来て、婦人は鳥達に話しかける。
カイジ・F-エフ-(脚本)ほか、意味深な鳥描写の元は、高屋敷氏が鳥を重視しているためなのが、ここを見ると実感できる。

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そして、種は育って花を咲かせ、花の中から小さな女の子が生まれる。婦人は彼女を「おやゆび姫」と名付ける。小さいキャラの描写は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)やガンバの冒険(脚本)の経験が活きていると感じられる。

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春、おやゆび姫は蝶と遊ぶ。蝶も、出崎統氏がよく出すもので、高屋敷氏もよく出す。
おにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較。比較対象は、いずれも監督が出崎統氏。

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寝落ちするおやゆび姫を見て、婦人は和む。
眠りこけるキャラが、周りのキャラに優しくされる場面は、F-エフ-(脚本)や宝島(演出)にもあった。

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おやゆび姫が一人立ちする日を思いながら、婦人はおやゆび姫を両手で包みこんで抱擁する。
手を使った感情表現は、あらゆる作品に見られる。
F-エフ-(脚本)と比較。

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夜、おやゆび姫に目をつけていたカエル夫婦が、息子の嫁にすべく、おやゆび姫をさらう。息子は大喜びする。
喜び方が幼いのは、色々な作品に見られる。宝島(演出)、忍者戦士飛影・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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おやゆび姫は蓮の葉の上に隔離され、カエル(息子)に顔を舐められる。
何かを舐める仕草は多々ある。はだしのゲン2・新ど根性ガエル(脚本)、宝島(演出)と比較。

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事の一部始終を見ていた魚達は、おやゆび姫に同情して彼女を逃がす。地味に目立ち、ファインプレーが光る脇役はカイジワンナウツ(脚本)でもクローズアップされていた。

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おやゆび姫の行く先には滝があったが、何とか助かる。滝は出崎統氏が好み、高屋敷氏もよく出す。おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代エースをねらえ!(演出)と比較。比較対象のいずれも、監督は出崎統氏。

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おやゆび姫に逃げられたカエル(息子)は泣き出し、両親に慰められる。年齢問わず泣き方が幼いのは、他の作品でも見られる。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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蓮の葉に乗って川を下りながら、おやゆび姫はウサギやトンボに挨拶する。
このあたりを見ても、高屋敷氏が動物に色々な役割を積極的に課しているのが推測できる。画像は、宝島(演出)、蒼天航路(脚本)との比較。

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コオロギが音楽を奏で、蛍が舞う美しい夜、女神がおやゆび姫の前に現れ、花の国へ向かえと告げる。ここも、高屋敷氏が自然を重視しているのが窺える。おにいさまへ…めぞん一刻(脚本)ほか、自然の意味深描写は多い。

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おやゆび姫は、南にある花の国を目指すことにする。事情を聞いた蝶は、おやゆび姫を手助けする。ここも、空手バカ一代(演出)やワンナウツ(脚本)といった他作品での蝶や蛾の意味深描写のベースを見ているようで面白い。

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おやゆび姫を見かけたコガネムシのコンガは、おやゆび姫をさらう。コンガは陽気な流れ者で、音楽を嗜む。
お調子者キャラの配置の上手さは、宝島(演出)やあんみつ姫(脚本)なども記憶に残る。

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周りのコガネムシ達は、コンガやおやゆび姫をからかう。意地悪なトリオは色々な作品にて前面に出ている。
なんとなく、カイジ2期(脚本)の大槻・沼川・石和トリオと比較すると面白い。

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怒ったおやゆび姫は、コンガにあかんべーする。この動作は、宝島(演出)、めぞん一刻おにいさまへ…(脚本)にもある。
前述の、舐める動作が多い事も含め、高屋敷氏のクセなのかもしれない。

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おやゆび姫は、不運にも蜘蛛の巣の上に落ち、蜘蛛に食べられそうになる。蜘蛛はグルメなことが窺える。恐ろしいキャラがグルメであるのは、カイジ2期(脚本)でも強調された。

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コンガは蜘蛛を丸め込んで、おやゆび姫を逃がし、蜘蛛とも仲良くする。
お調子者が場を和ませるのは、宝島(演出)でも目を引く。

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旅を続けるおやゆび姫だったが、雪が降ってくる。彼女は雪を見て感動する。
めぞん一刻(脚本)でも雪がらみの情感ある描写があるほか、家なき子(演出)やF-エフ-(脚本)でも、雪の情緒がふんだんに使われていた。

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積もった雪の上を、おやゆび姫は葉をソリのように使って滑走する。
ソリ遊びの描写は家なき子(演出)にもあるので、それが活きているのを感じる。

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そして寒さが厳しくなり、おやゆび姫は行き倒れてしまうが、野ネズミに助けられる。
MASTERキートン(脚本)の、雪の中で老人を助けるキートンが重なるほか、(画像が用意できなかったが)家なき子(演出)でも、レミが雪の中行き倒れ、親切な人に助けられる。

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野ネズミおばさんは、温めた蜜をおやゆび姫に飲ませる。
おいしそうな飲み物・食べ物の表現は、高屋敷氏の十八番。
はだしのゲン2(脚本)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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おやゆび姫は、暖かくなるまで野ネズミおばさんの家に居候することに。
両者は楽しい時を凄す。
束の間だったが同居することで、濃厚な時を過ごした、カイジ2期(脚本)の坂崎とカイジを思わせる。

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そんな折、近所の金持ちのモグラに気に入られたおやゆび姫は、パーティーに誘われる。このモグラ、宝島(演出)のトレローニに雰囲気と風貌が似ている。金持ちであり、どこか愛嬌があるのも共通。

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モグラ邸に行く途中、おやゆび姫達は行き倒れのツバメに遭遇する。
ここでも鳥が重視されている。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、おにいさまへ…ガンバの冒険(脚本)と比較。一羽一羽がクローズアップされる事が多い。

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ツバメの事が気になるおやゆび姫だったが、モグラのパーティーに参加する。ここも飯テロ。グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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おやゆび姫は、こっそりツバメを看病する。なんとなく、カイジ2期(脚本)の、介護当番中のカイジが重なる。

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そんな日々の中、おやゆび姫はモグラからプロポーズされる。
本人の意向にそぐわない縁談は、RAINBOW-二舎六房の七人-・めぞん一刻(脚本)にもあり、重ねると面白い。

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おやゆび姫は悩み、ツバメに相談する。ツバメは、春になったら一緒にここを出ようと提案する。
協力してくれる頼もしい鳥は、ガンバの冒険(脚本)でも目立つ。

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だが、モグラとの縁談を進めたい野ネズミおばさんに、おやゆび姫は春まで軟禁され、モグラとの結婚式を迎える。
望まれない結婚式は、RAINBOW-二舎六房の七人-・あんみつ姫(脚本)でも描かれた。

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そこへツバメが乱入し、おやゆび姫はツバメに乗って逃げる。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)では、一羽の鳩が活躍しており、やはり高屋敷氏が鳥を重視しているのが見て取れる。

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モグラは、おやゆび姫を潔く見送る。
金と容姿に恵まれ、性格も良くても恋に敗れた、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)の三鷹と重なるものがある(三鷹の場合、別の恋が成就するが)。

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あらためて、おやゆび姫はツバメと共に花の国を目指す。道中、カモメの群れに会ったりと、やはり鳥が重視されている。
宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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ツバメとおやゆび姫が花の国に入ると、ミツバチ達から花の矢を射られる(当たっても痛くはないが)。ミツバチ達は愛嬌があり、かわいく朗らかなモブを描写するのが上手い高屋敷氏の特徴が出ている。
はだしのゲン2(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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女神からのお告げで、おやゆび姫を待っていたという花の国の王子の求婚を、おやゆび姫は受ける。幸せな結婚についての話も、高屋敷氏は多く担当している。めぞん一刻グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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ツバメは北の国に行くべく、おやゆび姫に別れを告げる。
おやゆび姫は、育ての親である婦人に、自分は幸せに過ごしていると伝えて欲しいとツバメに頼み、感謝のキスをする。
ガンバの冒険(脚本)や宝島(演出)と同じく、やはり鳥が重要な役を担っている。

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おやゆび姫は、今まで会った者達に感謝するのだった。
「皆がいるから自分がいる」「多くの人達の思いを背負う」「今まで会った人達が自分を見ている」といった境地は、エースをねらえ!(演出)、ワンナウツ・F-エフ-・カイジ(脚本)でも描かれた。

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  • まとめ

とにもかくにも、鳥の活躍が目立つ。鳥演出自体は、空手バカ一代(演出やコンテ)あたりから確認できるが、まんが世界昔ばなしの一編である幸福の王子(演出/コンテ)に出るツバメが強烈で、本作もそれの強い影響下にあると思う。

まんが世界昔ばなしの幸福の王子(演出/コンテ)では、最後に寒さに耐えられずツバメが死んでしまい、親友であるツバメを失った王子像も死ぬ(彼らの魂は天に昇る)。ひるがえって本作は、ツバメが瀕死から立ち直り活躍するので感慨深い。

鳥が死なずに活躍する展開は、ルパン三世2nd141話「1980モスクワ黙示録」(演出/コンテ)にもある。
こちらも、まんが世界昔ばなし幸福の王子(演出/コンテ)の影響が出ている。
詳しくは、以前書いたブログ記事参照:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/03/04/140243

あと、女神のお告げというガイドラインがあるものの、自分で自分の道を行けという、高屋敷氏がよく出すメッセージも込められている。モグラとの結婚式で、おやゆび姫が誓いの言葉をキッパリ拒否する場面に、それが表れている。

今まで会った者達に、おやゆび姫が感謝するラストも「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」という、高屋敷氏がよく掲げるテーマの表れと言える。高屋敷氏のシリーズ構成作の最終回に、今までの登場人物達が映るものが多い事にも繋がる。

高屋敷氏が演出/コンテや脚本で参加した、まんが世界昔ばなし(童話や民話がベース)は、各スタッフの作家性が剥き出しになっていて非常に貴重な作品だが、童話をベースにした本作も、やはり作家性が丸出しになっていて、そこを見るのも面白い。

そしてラストのナレーションが、童話にありがちな「幸せに暮らしました」ではなく「(今まで会った者達の事を思い出して)懐かしい気持ちでいっぱいになるのでした」であり、ラストのおやゆび姫の台詞が「みんなありがとう」な所に、レギュラーからモブに至るまでキャラを立たせる高屋敷氏らしさが出ている。

大分シンプルで原作通りではあるが、(花の国にあるという)幸せを求めて、おやゆび姫が旅をするコンセプトは、家なき子最終回(演出)で、幸せとは何なのかを考えるためレミ達が旅に出る展開が活かされていると思える。

高屋敷氏の担当作は、自然が織り成す「間」や、月や太陽、風や雨、雪等が出す情緒が多いわけだが、本作を見るに、やはり同氏はそれらを神秘的で意思を持ったものと捉え、重視していると思える。これも大きな収穫だった。

前回特集した、マイメロディ赤ずきん(脚本)でもそうだったが( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/03/01/135924 )、高屋敷氏が担当した作品のキャラを投影すると面白い。同氏の経験の豊富さを、あらためて感じた作品だった。

本作は非常にレアであるものの、リマスターDVDがセル/レンタルリリースされているのがありがたい。アニメ史を探る上でも、貴重なものと言える。

マイメロディの赤ずきん脚本:作家性を探る鍵

  • 作品概要:

マイメロディ赤ずきん』は、1989年公開の劇場アニメ(サンリオアニメフェスティバルの一編)。サンリオキャラであるマイメロディが、赤ずきんを演ずる。
総監督:波多正美氏、監督:窪秀巳氏、コンテ:石川康夫氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、サンリオアニメフェスティバルに関する当ブログ記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AA

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本作は、サンリオキャラがお芝居をするというコンセプト。司会のサム(サンリオキャラ)がリングアナ風な言い方をして「プロレスか」とつっこまれるが、リングアナといえば、はじめの一歩3期・あしたのジョー2(脚本)が想起される(こちらはボクシング)。

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赤ずきんの芝居が始まると、まずは旅をする狼がミュージカル風に歌いながら登場し、歌い終わると「腹がへった」と嘆く。
あしたのジョー2(脚本)では放浪する少年期の丈が描写されたほか、F-エフ-(脚本)では実家へ旅する軍馬が、自分を狼だと例えた。
カイジ2期(脚本)ではカイジが根なし草。

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マイメロディ(サンリオキャラ)扮する赤ずきんの家が映ると、小鳥が飛ぶ。長年一緒に仕事した出崎統氏は鳥演出を好むが、そのためか高屋敷氏担当作にも、鳥はよく出る。おにいさまへ…ガンバの冒険(脚本)と比較。どちらも監督は出崎統氏。

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赤ずきんは、お母さんと一緒にクッキーを作る。クッキー作りはコボちゃん(脚本)にもあり、おにいさまへ…(脚本)では、先輩(蕗子)への誕生日プレゼントとして奈々子(ヒロイン)がクッキーを焼いている(アニメオリジナル)。

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赤ずきん”という、あだ名の由来として本作では、おばあさんがくれた赤ずきんを気に入ってずっと着けている女の子だから…としている。高屋敷氏は可愛い中高年キャラの描写に長け、ベルサイユのばら(コンテ)やF-エフ-(脚本)でも、それは見られる。

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クッキーが焼き上がると、お母さんはフライングして味見し、おいしいと喜ぶ。
おいしそうな食べ物は、高屋敷氏担当作に実によく出る。おにいさまへ…・怪物くん(脚本)と比較。

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そこへ猟師が訪ねてきて、猟犬が赤ずきんをなめる。なめることで親愛の情を表すのは、宝島(演出)、めぞん一刻はだしのゲン2(脚本)でも見られた。
他の作品でも、ペロペロなめる仕草は見られる。

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猟師は、狼が出没していること、おばあさんが風邪をひいたことを赤ずきん達に告げる。この猟師も愛嬌がある。可愛い中高年キャラは実に多い。
ワンナウツMASTERキートングラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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一方、狼は小川で水を飲む。滝が映るが、出崎統氏が滝を好む影響か、高屋敷氏担当作にも多々見られる。宝島・空手バカ一代(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。比較対象のいずれも、監督は出崎統氏。

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狼は観客に向かって、一人旅の苦労を語る。いわゆるヒールにも色々な事情があるのは、はじめの一歩3期(脚本)や宝島(演出)でも強く描かれた。宝島のシルバーが善悪問えないキャラである他、高屋敷氏は善悪のラインを明確にしない傾向がある。

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トロールする猟師を見かけた狼は、慌てて身を隠す。猟師は、いざとなればズドンと狼に弾を当てるのだと、銃をかまえる。愛嬌あるおじさんが実は銃の名手なのは、宝島(演出)やルパン三世2nd(脚本)にもあった。

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猟師をやりすごした狼は、手ごろな洞穴を寝ぐらにすることに決める。
あしたのジョー2(脚本)でも、少年期の丈の一人旅での寝ぐらが印象に残るほか、空手バカ一代・宝島(演出)では、洞穴に一人で住むキャラが出てくる。

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狼は荷物から鏡を出して毛をとかし、自分で自分に見とれる。状況や真実/現実を映すものとして、鏡は結構出てくる。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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赤ずきんの家では、おばあさんの見舞いに行く事になった赤ずきんに、お母さんがクッキーを持たせる。
ここも飯テロ。コボちゃんおにいさまへ…(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。特にコボちゃんは、ホワイトデー用の手作りクッキーで、共通する所がある。

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さらに、お母さんは葡萄酒と、おいしいチーズを赤ずきんに持たせる。「体がぽかぽかになる」葡萄酒や、「おいしい」チーズなど、台詞上でも美味しそうな食べ物の描写が続く。とにかく飯テロ。F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。

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おばあさんの家へと向かう赤ずきんは、リスに話しかける。基本、言葉が通じない動物と親しげにする場面は、ルパン三世2nd(演出/コンテ)やガンバの冒険(脚本)、宝島(演出)にも見られた。

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赤ずきんを見かけた狼は、おいしそうだと思い接触を試みる。はじめの一歩3期(脚本)では、対戦相手を美味しい肉に例える沢村が、一歩を「おいしく」頂こうと執拗に攻める。比較して見ると面白い。

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狼のサングラスに、赤ずきんが映る。ここも真実/状況を映す鏡描写。カイジ2期・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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画像が用意できなかったが、高屋敷氏が演出参加したエースをねらえ!にも、似たようなサングラス描写がある(竹内啓雄氏演出回)。

狼は、赤ずきんを使った色々な料理を想像する。ここも飯テロ。
元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期・おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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狼は紳士的なふりをしつつ、隙を見て赤ずきんを食べようとするが、偶然が重なり失敗する。
はじめの一歩3期(脚本)で、まだゴングも鳴っていないのに沢村が一歩を襲おうとする場面と比べると面白い。

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狼は、花畑があると言って赤ずきんを誘う。赤ずきんを見ながら、狼は舌なめずりする。ここも、はじめの一歩3期(脚本)で、一歩をおいしい肉に見立てる沢村と比較すると、重なるものがある。

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人気のない所まで誘導して赤ずきんを食べる算段をしていた狼だったが、石が積まれた山の向こうに本当に花畑があり、赤ずきんは大喜び。喜ぶ姿が可愛いのは、数多くの作品に見られる。宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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赤ずきんは、おばあさんのために花を摘む。花の描写は、高屋敷氏担当作に様々あり、意味深な事も多い。F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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狼は作戦変更し、おばあさんの家へ先回りする。台詞にもあるが、おばあさんの家は風車小屋の隣。画像が用意できなかったが、高屋敷氏が演出参加した家なき子にも風車小屋はよく出ていた。また、カイジ2期(脚本)にも風車のイメージが出るので縁を感じる。

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狼は赤ずきんのふりをして、おばあさんの家に入る。
赤ずきんの姿を見たくて、おばあさんは老眼鏡をかける。
ワンナウツ(脚本)や宝島(演出)にも、老眼鏡がチャームポイントな可愛い中高年キャラがいる。

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「この世に狼がいる限り、狼の仕事はただ一つ」と言って狼はおばあさんを食べる。
この「~限り」という言い回し、ワンダービートS最終回(脚本)では「この宇宙がある限り」、グラゼニ最終回(脚本)では「プロ野球選手である限り」(アニメオリジナルモノローグ)など、重要な場面で出てくるので興味深い。

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おばあさんを捕食後、「ちょっとばかり筋があったが、年寄りだからしょうがないか」と狼は感想を漏らす。
ここも、はじめの一歩3期(脚本)で、「まだ美味しそうに見えねえな」と一歩を品定めする沢村が重なってくる。

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そして、おばあさんに変装した狼は、訪ねてきた赤ずきんをベッドに招き入れる。
はだしのゲン2(脚本)にて、母親の布団に入り込むゲンが思い出される。

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(定番通り)赤ずきんは狼の手を取り、おばあさんの手はこんなに大きかった?と問う。ワンダービートSおにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などなど、高屋敷氏は手による感情表現を非常に重視する。

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定番通り、(口が大きいのは、お前を食べるためだと言って)狼は赤ずきんを食べる。
そして、満腹の狼は眠りこける。眠る姿が無邪気なのは、陽だまりの樹カイジ2期(脚本)などにも見られる。

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巡回のついでに、おばあさんの家を訪ねた猟師は、様子がおかしいので家の中に入る。
狼を発見した猟師は驚き、ロウソクに火をつける。火による「間」は、よく見られる。コボちゃんおにいさまへ…(脚本)と比較。

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猟師はナイフを取り出して狼の腹を割き、赤ずきんと、おばあさんを救出する。愛嬌だけでなく有能でもある中高年キャラも少なくない。F-エフ-・陽だまりの樹(脚本)でも印象に残る。ちなみに陽だまりの樹のキャラは医者が多く、手術場面も多い。

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おばあさんは、狼をこらしめようと提案して、石ころを集める。なんとなく、はだしのゲン2(脚本)にて、金になるジャンクを集めるゲン達が重なってくる。

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おばあさんは、石を狼の腹に詰めて縫い閉じる。糸巻きの「間」があるが、こういった「物」による「間」は色々な作品で見られる。蒼天航路グラゼニ(脚本)と比較。

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ここまでされても狼は眠り続け、寝ぼけて猟師の銃をくわえる。
前述の通り、無邪気に眠りこけるシチュエーションは様々な作品にある。F-エフ-・ワンダービートS(脚本)と比較。

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猟師の声でようやく起きた狼は、腹に入れられた石のせいで七転八倒しながら逃走。
それを見ながら赤ずきん達は笑う。
やはり、喜び方が可愛い(高屋敷氏のリアルな野球経験から来ている可能性あり)。怪物くん・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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狼に風邪がうつったおかげで、おばあさんはすっかり元気になる。赤ずきんと、おばあさんは笑い合うのだった。
はじめの一歩3期(脚本)にて、苦戦の末に沢村を破り、鴨川会長と勝利を喜ぶ一歩と比較。どちらも老人との絆が描かれている。

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夜になり、月が映る。全てを見ているような月は頻出。高屋敷氏は、月や太陽に重要な役を課すことが多い。
はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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腹に石を詰められ(自分自身は、赤ずきん達の消化が悪いと思っている)、おばあさんから風邪をうつされた狼は、へとへとになりながら旅立つ。死んだとも旅立ったとも取れる、あしたのジョー2最終回(脚本)や、F-エフ-最終回(脚本)で、世界へ旅立つことが示唆された軍馬を思わせる。

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お芝居終了後の舞台挨拶では狼が出て来て、無事な事を披露して「お芝居も楽じゃないよ」とこぼし、マイメロディとも和気あいあいとする。
はじめの一歩3期(脚本)で、一歩に敗れ大怪我するも、千堂に見舞われた(孤独ではない)沢村と比較すると面白い。

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  • まとめ

先に述べた通り、はじめの一歩3期(脚本)の沢村戦(11・12・13話)と比べると非常に面白く、沢村が狼に、一歩が赤ずきんに重なって見えてしょうがなくなる。

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一見可愛らしげで、狙われる(食べられる)立場の者が、最後に襲う(食べる)側を、かなり残酷な形で(老人と共に)打ち負かす構成も、はじめの一歩3期(脚本)と共通するものがある。

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これは本作の総監督である波多正美氏が、はじめの一歩3期11・12話の演出に参加している事も関係あるかもしれない。とにもかくにも、この両作のシンクロは楽しい。
ちなみに波多正美氏・高屋敷氏とも、あしたのジョー1スタッフであり、両氏揃っての、はじめの一歩3期参加は感慨深い。

また、狼が言う「この世に狼がいる限り、狼の仕事はただ一つ」という台詞は、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の、夏之介のアニメオリジナルモノローグ「これが僕の仕事です」「僕は(グラウンドに埋まる銭を)掘り続けます。プロ野球選手である限り!」が重なり興味深い。

これは、どちらも「自分とは何か」をある程度掴んでいるから出る言葉だと思う。
「自分とは何か」は、高屋敷氏がよく提示してくるテーマで、人生の経験値が高いキャラほど「何か」が何か、わかるようになっている。

劇中で狼が、何故か真っ先に鏡を取り出し自分の姿を映すのも、「自分とは何か」を狼がわかっている表れの一つなのかもしれない。
狼にせよ、グラゼニの夏之介にせよ、「自分とは何か」をある程度掴んでいるからこその「悟りと誇り」が見られる。

そして本編ラスト、(その後の狼を見た人がいないとしながらも)「またどこか旅をしてるんでしょうか」と結ぶナレーション。
ここに、あしたのジョー2最終回(脚本)の、高屋敷氏なりの解釈(丈は死なずに旅に出た)を感じる。本作以外にも、そういった要素は散見される。

あと、高屋敷氏は狼にシンパシーを感じているようで、まんが世界昔ばなしにて『三びきの子ぶた』(演出/コンテ)ではコミカルな狼を、『きつねのさいばん』(脚本)では正義感の強い狼を描いている。
本作でも、少し狼に対し共感したり同情したりできる構成。

本作の狼が絶対悪でもないのをはじめ、高屋敷氏はとにかく、善悪のラインを明確に引かず、人間の色々な側面を描写する。
このような要素は、アカギ・カイジカイジ2期・ワンナウツ(シリーズ構成・脚本)にも大いに活かされている。

高屋敷氏が参加した、まんが世界昔ばなしでもそうだったが、童話をモチーフにした作品は、スタッフの作家性が剥き出しになる。そういった意味でも、非常に貴重な作品だった。
リマスターDVDがセル/レンタルともに出ているのもありがたい。