カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

じゃりン子チエ32話脚本:物語の縦と横

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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  • 今回の話:

演出:秋山勝仁氏、脚本:高屋敷英夫氏。

ヤクザ・地獄組が開いた一大賭場“大阪カブの会”は警察の突入により壊滅したが、チエ達の尽力で賭場から逃げたテツ(チエの父)は、ほとぼりが冷めるまで自宅の天井裏に縛りつけられる。

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テツ(チエの父)が一大賭場“大阪カブの会”に参加した事を隠すべく家路を急ぐチエだったが、ヒラメ(チエの親友)を無視するわけにも行かず、家に招く。するとヒラメは喜ぶ。背中による感情表現は結構出る。RAINBOW-二舎六房の七人-・カイジ2期・ワンナウツ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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ヒラメが家に来る前に、チエはテツと百合根(お好み焼き屋)が賭場でつけていた面を燃やす。
結局それをヒラメに見られるが、チエは何とかごまかす。指をもじもじさせるのは、しばしば見られる。宝島(演出)、カイジ2期・ワンダービートS(脚本)と比較。

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そこへ、香港旅行から帰ってきたカルメラ兄弟(テツの弟分)が疲労を浮かべた顔で訪ねてきて、チエが焼いたホルモンを美味しそうに食べる。飯テロは頻出。ど根性ガエル(演出)、グラゼニ・F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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カルメラ兄弟は、香港で麻雀をしたら、点数計算の食い違いで胴元とモメてヌンチャクでボコられたと語り、チエとヒラメは同情する。原作通りだが、顔に手をやるリアクションは、色々な作品にある。ワンダービートSカイジ2期・あしたのジョー2(脚本)と比較。

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そこに、アントニオ(百合根の亡き愛猫)の剥製を探す百合根が通りかかる。彼は酒を飲んでいる時の記憶が飛ぶので、賭場での出来事を忘れていた。チエは天井裏に縛りつけていたテツに、アントニオの剥製の行方を聞く。ここは情報量が多いのにテンポが良い。

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テツからの情報を元に、賭場が開かれた地獄組(レイモンド飛田を組長とするヤクザ)のビル周辺でアントニオの剥製を探すと、ヒラメがそれを発見。百合根は泣き出す。太陽の使者鉄人28号あしたのジョー2(脚本)ほか、おじさんの涙は印象的。

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その後、ほとぼりが冷めた頃合いを見てテツは天井裏から解放される。
見張り役をしていた小鉄(チエの飼い猫)とジュニア(百合根の飼い猫)は、久々にお天道様を拝み喜ぶ(アニメオリジナル)。お天道様信仰は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか目立つ。

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テツはすっかりすねて、皆から背を向けて朝食をとる。ここも頻出の飯テロ。アンパンマン・新ど根性ガエルストロベリーパニックガンバの冒険(脚本)と比較。

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なおもすねるテツは、ヨシ江(チエの母)に絡むが、彼女は天然で、テツの食いしん坊ぶりを述べる。“食”への並々ならぬこだわりは、アンパンマングラゼニ(脚本)など数々の作品で強調されている。

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そんな折、ミツル(テツの幼馴染で警官)の妻・ノブ子が菓子折を持って訪ねてくる。ここも飯テロ。ストロベリーパニック(脚本)、ガイキング(演出)、マイメロディ赤ずきん
コボちゃん(脚本)と比較。

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ノブ子は、ミツルが派出所の所長に昇進したことを報告しに来たのだった。拳骨(テツの恩師)の所にも行くと言う彼女に、テツは拳骨の悪口を言い、おバァはん(チエの祖母)にどつかれる。ここも情報を多く捌きつつもテンポがいい。

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その後、テツはミツルのいる派出所を訪ねるが、ミツルは不在。そこでテツは、格闘技を警察官に指南している者だと身分を偽って、ミツルの部下達を煽る。らんま1/2ストロベリーパニック(脚本)ほか、味のある脇役は多い。

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一方、偶然会ったミツル・拳骨・チエは談笑するが、テツの事をチエから聞いたミツルは派出所へ急ぐ。時既に遅しで、ミツルの部下達をKOしたテツは、自分が派出所のブラックリストに載っている事に憤慨するのだった。ここも複数キャラの動向を捌くのが上手い。

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  • まとめ

いつもながら言えることだが、テンポやリズムがいい。ともすれば台詞だらけでダラダラしそうな所も、なぜかスムーズに場面展開される。そうさせるための総合的な技術力が非常に高い。

次から次へとキャラが登場するのに、ブツ切りにならない所も凄い。
情報と情報が繋がり、話がどんどん進んで行くのが見事。
シリーズ全体に言えるが、物語の縦と横の組みあわせがしっかりしている。

一見独立したエピソードの集まりに見えて、シリーズ全体の繋がりが見える所もいい。今回のミツルの昇進も、その一環と言える。永遠に変わらないように見えるコミュニティでも、少しずつ変化があるのは、本作の見所。

本作はシリーズ構成不在だが、脚本陣の連携はバッチリで、この経験が、後の高屋敷氏のシリーズ構成作に活かされていると思う。例えば、同氏が最終シリーズ構成・脚本を務めためぞん一刻も、物語の縦と横の関係がよくできていた。

めぞん一刻では、各エピソードのドタバタ劇と、シリーズ全体を流れる本筋が、良い塩梅で絡み合っていた。また、五代(主人公)の成長にもスポットが当たっていた。
1話1話を楽しみながら、シリーズ全体では五代の成長に感動できる作りになっている。

本作に話を戻すと、ミツルは結婚や昇進など、シリーズを通して徐々に変化していくキャラ。こういったキャラを扱っていたからこそ、めぞん一刻の五代の成長(恋愛成就)を描けたのではないだろうか。

もともと演出時代(家なき子、宝島など)から、高屋敷氏はキャラの成長を描くのが上手かったが、それを文芸面でも活かしたように見える。F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)でも、軍馬(主人公)の成長と旅立ちを見事に描ききっている。

これはカイジワンナウツグラゼニのシリーズ構成・脚本でも応用されていて、やはり最終回でのキャラの変化が感慨深い作りになっている。これらの作品になると、使われている技術は熟練の域に達している。

ただただ目の前の原作を消化するのではなく、シリーズ全体のことにも目を配ることが大切なのだと、本作は気付かせてくれる。今後も、物語の縦と横に注目しながら見て行きたい。

じゃりン子チエ31話脚本:キャラメイキングの確かさ

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:三家本泰美氏、脚本:高屋敷英夫氏。

レイモンド飛田を組長とするヤクザ・地獄組は、大規模な花札の賭場“大阪カブの会”を開帳。そこにテツ(チエの父)と百合根(お好み焼き屋)が入り込み、大騒動に。

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ヤクザ・地獄組が開帳した一大賭場“大阪カブの会”に入り込んだテツ(チエの父)と百合根(お好み焼き屋)を案じつつ、チエとおバァはん(チエの祖母)はラーメンを食べる。飯テロは実に多い。怪物王女カイジ2期・アンパンマングラゼニ(脚本)と比較。

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おバァはんは、人間は孤独でひもじくて寒いと不幸になるから、ご飯はしっかり食べるべきと語る。それを聞いたラーメン屋は感銘を受ける。背中による感情表現は、しばしば出る。ワンナウツストロベリーパニックグラゼニ(脚本)と比較。

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おバァはんの説く、食べる事とメンタルの重要な関係性は、おにいさまへ…グラゼニワンダービートS(脚本)などでも強調されている。高屋敷氏の並々ならぬ拘りが感じられる。

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一方、賭場に入り込んだテツは、近くにいた参加者のヤクザをどつき回して、賭場の仕組みを吐かせる。ハローキティのおやゆびひめ・カイジ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、おにいさまへ…(脚本)など、味のあるモブは多い。

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賭場は、煎餅(原作ではビスコ)をチップがわりにする仕組みで、もし警察が来たら煎餅を見せてごまかす算段。カイジ(脚本)もそうだったが、高屋敷氏はルールのまとめ方・語り方が上手い。

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テツは、酒を飲んで寝ていた百合根を起こす。愛嬌のある酔っぱらい描写は結構ある。ガンバの冒険(脚本)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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そして、テツと百合根はバカヅキで、カブ(花札のゲーム)で連勝する。大喜びで踊る二人が可愛い。おじさんの可愛さは、グラゼニワンナウツ(脚本)などでも目立つ。

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調子づくテツと百合根にイラついたヤクザ達は、二人に襲いかかるが返り討ちに。レイモンド飛田(地獄組組長)は、ほとほと参ってしまう。やられる側が気の毒になってくる話作りは、カイジ2期(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)など、多く見られる。

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レイモンド飛田は、ついに地獄組本部ビルの権利書を賭けてテツと大勝負しようとする。その時、包囲していた警察が賭場に突入を開始。小鉄(チエの飼い猫)とジュニア(百合根の飼い猫)も動く。ここは色々なキャラの行動がテンポよく捌かれていて上手い。

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レイモンド飛田は、負けた場合解散するとして、部下に今までの感謝の意を伝え泣く。アンパンマン(脚本)や、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)などでも、やられ役の悲哀が印象に残る。

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警察の突入を受けたヤクザ達は、テツの煽りを受けて抗戦を開始。レイモンド飛田も消火器で応戦する。高屋敷氏は、水ぶっかけに縁がある。らんま1/2カイジ2期(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、F-エフ-(脚本)と比較。

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テツは、もうけた煎餅を抱えて逃げる準備をし、成り行きでミツル(テツの幼馴染で警官)を吹っ飛ばす。何かを回転させる動きは、ど根性ガエル(演出)でも目立っていた。もともと、高屋敷氏が共に仕事する事が多かった出崎哲・統氏が回転を好む。

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酔いから覚めた百合根は、状況が掴めずテツに自己紹介する(酒で人格と強さが変わる)。ここも可愛い。ワンナウツグラゼニ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、おじさんの可愛さは色々な作品で出ている。

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ジュニアと小鉄の導きで、テツと百合根は雨どいをつたい脱出を図るが、刑事に見つかり揉み合いに。すると雨どいが倒れ、全員気絶。小鉄とジュニアは、惨状に目を覆う。RIDEBACKガンバの冒険(脚本)ほか、キャラの可愛さは数々の作品で引き出される。

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小鉄の導きにより、チエと、おバァはんはテツと百合根を、ラーメン屋から借りた屋台に乗せ、逃げ出すのだった。
ここも、各々のキャラの動向を捌くのが上手い。

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  • まとめ

本作は、事情がある場合を除き、徹底して原作に忠実な作り。なのに、不思議とスタッフの個性は出ている。また、「原作をなぞるだけの単純作業」とは一線を画しているのも感じられる。

これは、巨匠たる高畑勲監督のもと、原作の面白さを損なわないよう、管理が徹底されていたのではないかと思う。再三書いていることであるが、「原作に忠実」であるためには、かなりの技術力が要る。

あと、孤独の恐ろしさと“食”の大切さを説くのがポリシーである高屋敷氏が今回の脚本を担当したのは、縁を感じる。おバァはんが、食べることの大切さを説くくだりは原作通りだが、同氏が色々な作品で主張してきた事とシンクロしている。

勿論、縁だけでなく、原作からどこを強調したいかで個人差が出る。高屋敷氏の場合は、やはりメンタルと食の関係の重要性を前面に出したい意向があると考えられるし、そのための技術も、同氏は持っている。

それ以外の面では、やはりキャラの愛嬌が目立つ。演出をする場合も、キャラの可愛さが際立っていたが、脚本の場合も、不思議とキャラが幼く、可愛くなる傾向が、高屋敷氏にはある。

これは高屋敷氏が、演出面(芝居付けなど)からでも文芸面(台詞や話など)からでも、キャラメイキングに秀でるからではないかと考えられる。とにかく、同氏はキャラの掘り下げが上手い。

そして、複数のキャラの動向を捌く技術にも長ける。複雑な人間模様が展開される本作では必須なためか、この技術は本作でかなり磨かれた感がある。「チエ前・チエ後」で高屋敷氏の歴史を分けたい程だ。

これも何度か書いているが、高屋敷氏の「演出の師」が出崎統氏ならば、「脚本の師」は(本作監督の)高畑勲氏なのではないかと思っている。それくらい、本作が高屋敷氏に与えた影響は大きいと思う。あらためて、興味が尽きない。