カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

忍者マン一平監督12話:本当の神、本当の贈り物とは何か?と自己犠牲とカルマ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

コンテやすみ哲夫氏、演出橋本三郎氏、脚本金春智子氏(高屋敷氏の元夫人)。全て既述。全員最新作が近年まで続いているので注目したい。 今回クリスマス回で、最終回は大晦日。打ち切りとはいえ、区切りはついている。

これも高屋敷氏がじゃりん子チエ脚本で見せたような、平行して別行動を取るキャラ達が最後に合流する作り。高屋敷氏は監督だけでなく、シリーズ構成的なこともやっていたのか?と疑いたくなるくらい、後期は同氏の脚本作に見られる特徴やテーマが大きい。

ただ、文芸は飯岡順一氏で、キャッツアイのシリーズ構成。昔の「文芸」はシリーズ構成を指す場合もある。はたしてどうなっていたのだろうか。

話はサンタのふりをして、子供を催眠術で操り、泥棒させる悪人をバトルでやっつける話。興味深いのは、高屋敷氏は赤ルパン脚本でニセ泥棒教団、元祖バカボン演出で拝金主義坊主を描き、カイジシリ構で帝愛を偽の神(兵藤)を冠するヤバイ教団のように描いていること。

今回の悪徳偽サンタといい、皆が信じているもののフリをして人々を騙す奴をこらしめる、または、そういう連中に激しい怒りをぶつける話は、高屋敷氏の仕事の中で多い。カイジ1期9話脚本の、カイジ怒りの長台詞で帝愛の偽女神像が延々映るのもそうだ。

それとは逆に、太陽や月といった、「お天道様」に対するリスペクトがあり、高屋敷氏の演出・監督・脚本の仕事すべてで、悪行、善行ともに「見ている」という殺気をこめて太陽、月、ランプ等が描写されている。これは唯一の監督作である本作で大分浮き彫りになった。

高屋敷氏の太陽や月に対するリスペクトは、長年、共に仕事した出崎統氏や丸山正雄氏が巨大太陽・月演出が好きなのにも起因しているだろうし、そこにストーリー性を持たせ、キャラ化する応用をしたのだろうか?この話には偽太陽ぽいデザインの気球に偽サンタが乗っている。

下記画像は偽サンタが乗ってきた、偽太陽的気球。他にも太陽めいた光の球が子供達をそそのかす。

ところで、子供達が偽サンタに操られ泥棒する場面で、モサと書かれた犬小屋が出る。モサとは高屋敷氏のあだな(元マッドハウスの名アニメーター・大橋学さんから教えて頂きました)。顔も似せてる?あと小ネタに、「本日の墜落予定」(画像右)。

 

アゲハちゃんが集合場所に遅れた・一平の目玉達がアゲハちゃんを迎えに行ったおかげで、一平とアゲハちゃんだけ催眠術にかからず、偽サンタの悪事を知り、バトルとなる。そこに至るまでに、相当な紆余曲折と理由付けがあり、Bパートの圧縮具合が凄い(高屋敷氏特徴)。

皆を騙す者に対する怒りは、カイジにおいて、エスポワール完結回だけでなく、2期の地下編でも描かれる。特に、地下労働者を借金漬けにする、班長が作ったシステムに対してカイジが真正面から怒りをぶつけた場面(3話・脚本)。→8、9話でカイジ班長達に天誅を下す。

 

あとクリスマスといえば、プレゼント。高屋敷氏の担当作品では贈り物がよく出る。送り手や受け取り手を象徴するものが多い。元祖バカボン演出では、本官さんが、生まれて初めて人にプレゼントをした、と物を贈る喜びに目覚めてはしゃぐ話や、父の日の贈り物の話がある。

この「贈り物に魂、贈り物=キャラ」という高屋敷氏のポリシーは様々な作品で絶大な効果を発揮する。まずは善意の贈り物。カイジにおける、石田さんと、やさしいおじさんは究極。兵藤会長は善悪ミックス。

本作では、偽サンタを倒すため、髪が全部抜けるリスクを負う忍法髪の毛ミサイルを使った一平に、本物のサンタが帽子をくれる。他はめぞん一刻カイジ脚本・シリ構、元祖バカボン演出。どれも心がこもっている。

 

対してこちらはエゴを押し付けたり、悪意があったりする贈り物。自分を象徴する物を相手に無理矢理押し付ける。今回は伝宅の顔刺繍と歌つき枕。他は、らんま・カイジ脚本。会長は前述の通り善悪が混じる。

 

この話では、カイジにつながる自己犠牲と因果についても簡潔に描かれる。一平は偽サンタを倒して皆の洗脳を解くため、必殺忍法で髪の毛を全て失う。一方カイジは、仲間を殺し、イカサマする利根川を倒すため耳を失う。

そして髪を全て失った一平には本物のサンタが帽子をプレゼントし、カイジだと、仲間のためにほぼ全てを投げうったカイジに、やさしいおじさんが3万円をくれる。本当の贈り物とは何かを考えさせられる作り。

シンクロ編。出崎統氏がよく使う穴底からの構図。チエ脚本では、馴染みである三家本氏が演出とはいえ、高屋敷氏脚本だと必ず何か出崎系演出が出るのが怖い。また、出崎系を離れ、絵を管理できない脚本でも出るのが怪。

作品は、家なき子演出、今回、チエ脚本、カイジ脚本・シリ構。この中で出崎統作品は1つだけ(家なき子)。しかも今回と家なき子以外は脚本やシリ構であり、制作スタッフや年代も異なる。特に高畑勲監督作のチエで、脚本から出崎統演出を毎回持ち込んだのには戦慄を覚えた。

 

出崎哲氏の作品では回転演出が頻出するが、どうにも出崎哲氏を敬愛しているらしき、高屋敷氏も回転をよく出す(出崎哲氏との仕事も多い)。しかも脚本からも出す。画像は今回、元祖バカボン演出、らんま脚本。全て回転斬りが共通。

 

高屋敷泥酔シリーズ再び。今度は美女の酒酔い。比較はめぞん一刻脚本。泥酔は、他にも多数ある。

 

チエ脚本と元祖天才バカボン演出がシンクロ(下記画像最下段)。ともに父が指名手配になるイタズラ(チエのはマサルの仕業)。

あとは、高屋敷泥酔シリーズ。ど根性ガエルバカボン、ルパン演出・チエ、めぞん一刻カイジ脚本。可愛いのも特徴。 pic.twitter.com/TMTeg4hJdP July 6, 2015

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高屋敷氏特徴、泥酔シリーズが、監督作の忍者マン一平を加えてまた増えた。他は、ど根性ガエル、元祖バカボン演出、カイジ脚本(他も多数)。あと、孤独を慰める意思を持つかのようなブランコ、食べもの(最下段)。殆どが、孤独やストレスを慰める効果がある。 pic.twitter.com/8qD8UBT0Q7

March 30, 2016

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今回の話では、

  • 皆が信じているもの(サンタ・神・太陽など) に扮し、皆を騙す者に対する怒り
  • プレゼント=キャラを象徴する。本当に心のこもった贈り物とは何か
  • 皆のための自己犠牲は、誰かが見ていて巡り巡って報われる

というテーマが出る。

これらは高屋敷氏の出すテーマの中でも重要な骨子であり、この回の脚本は当時夫人だった金春氏である。他の脚本陣(特に金子裕氏)も全て馴染み。本作は子供向けということもあり、高屋敷氏の個性が脚本や演出陣により丸裸になった作品と言えるかも。監督とは、そういうものなのかもしれない。

 

ちなみに皆のクリスマスの様子。どれも可愛く幼い(特徴)。また、自己犠牲を払った一平にだけ、本物のサンタがプレゼントをくれたのも、意味深だった回だった。