カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

めぞん一刻脚本67話:梅酒がもたらす愛情

めぞん一刻は、アパート「一刻館」に住む青年・五代と、一刻館管理人で未亡人・響子との、山あり谷ありのラブコメ(原作・高橋留美子先生)。高屋敷氏は最終シリーズ構成と脚本を担当している。監督(最終シリーズ)は吉永尚之氏。

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開幕から美味しそうな飲食物(特徴)。五代の祖母、ゆかり婆ちゃん手製の梅酒。丁寧な描写でとても美味しそう。また、特徴である、意味深な梅酒のアップが入り、梅酒=重要キャラ(特徴)であることを示している。

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ゆかり婆ちゃんは、そろそろ就職活動をしなければならない五代(婆ちゃんにとっては裕作だが、五代と表記する)が気になっていた。

一方、五代と友達は、喫茶店で就職活動について話していた。ここでも意味深な吸い殻のアップが出てきて、半端ない煙草描写(特徴)。カイジ脚本と比較。しかもこの煙草描写はアニオリである。こういった場面で、絵面で高屋敷氏脚本とわかるのが毎度面白い。

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ところで、五代の友達の一人を、カイジのナレーション役である立木文彦氏が演じている。また、五代=カイジのおっちゃん役である二又一成氏と合わせると、カイジの声優が揃い踏み。

話を戻すと、五代達の通う大学はいわゆるFランであるため、五代の友達は就職活動に苦戦。まだ就職活動を始めていない五代に、友達は呆れる。ここのやりとり、原作より時間を割いており、五代と友達の、男同士の微笑ましい会話になっている(特徴)。

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自分も就職活動に本腰を入れねばと決意した五代は、保育園のバイトを辞める、と園長に言うが、園長は、園児達に人気のある五代を手離しがたく、9月になったら、また来て欲しいと頼みこむ。五代は園長の熱意に負け、承諾する。園長がやさしい(特徴:やさしい中高年)。

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帰宅した五代は惣一郎(犬)と戯れるが、それが原作より幼く可愛い(特徴)。また、何かをペロペロ舐める描写は、同氏作品によく出てくる。はだしのゲン2脚本と比較。

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響子は、五代宛に就職案内が沢山来ていることを告げる。五代は、就職活動を本格的に始めると響子に力強く宣言。

自室で就職案内をチェックする五代は、就職が決まった場合の、響子との夫婦生活を妄想。だが、四谷がやって来て妄想は中断となる。

四谷は、一流企業は現実的に無理だと言うが、五代は反発する。四谷にからかわれる五代が幼い(特徴)。五代はなんとか四谷を追い出す。ここでも蚊取り線香の意味深なアップが映る(特徴)。

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四谷が、現実を直視せよと言った直後にこれが映るので、蚊取り線香は、これから五代が直面する現実を予告するキャラとなっている?

翌日、大学で求人票を見た五代は、希望する大企業が全然無い事に落胆する。

一方八神(五代に惚れている女子高生)は、今日も今日とて五代を家庭教師として扱い、一刻館に向かっていた。

そんな折、八神はゆかり婆ちゃんと鉢合わせする。ゆかり婆ちゃんは、八神に荷物を持って欲しいと一方的に頼み、一刻館に向かう。文句を言いつつも、八神は方向が同じなため、荷物を持ってあげる(特徴:お年寄りに優しい)。

一刻館にて、出勤(夜勤)しようとしていた朱美は、ゆかり婆ちゃんを見つけ、再会を喜ぶ(ゆかり婆ちゃんは、以前訪問済)。ここも特徴で、朱美がお年寄りに優しく、手を握る。

手を握るのは同氏の特徴の中でも重要。様々な親愛の情を表す。ど根性ガエル演出と比較。

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ゆかり婆ちゃん=五代の祖母と知った八神は、態度が急変し、へりくだる。一刻館の面々は、それを見て呆れる。

五代の部屋には四谷(四谷も、八神の家庭教師)がスタンバイしており、結局、ゆかり婆ちゃんを囲んで、いつもの面々が五代の部屋で駄弁ることになる。朱美も店を休んで参加(一応、八神は四谷から授業を受ける)。

その頃、五代は親友の坂本と飲んでいた。ここでも、高屋敷氏特徴の煙草描写&物のアップが出てくる。

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そして、またしても高屋敷氏十八番のビールテロ。挙げればキリがないが、カイジ2期脚本と比較。

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坂本は、情熱が認められて一流企業に入った、同じ大学の学生の話をする。大事なのは情熱だと、二人も希望を持ち、酒が進むのだった。ここでも、男同士の気さくな会話が上手い(特徴)。

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ルーツはエースをねらえ!演出での、ひろみとマキの気さくな関係からだろうか。

本作は、恋愛ドラマより、こういった友情や仲間愛、疑似家族愛が目立つように感じる。もともと、高屋敷氏はそういった博愛の表現に長けているためだと思うし、それを利用して、恋愛よりも義理人情溢れるホームドラマの側面を強く出しているように見受けられる。これも、「(最終シーズンの)シリーズ構成」としての個性を感じる。

一刻館では、八神が、五代の帰りを待たずに大人しく帰宅する。いい子を演じて、ゆかり婆ちゃんに取り入る腹づもりであった。しばらくは、ゆかり婆ちゃんを口実に五代と会えるので、八神は内心喜ぶ。その一方で、ゆかり婆ちゃんは鋭く、八神・響子・五代の三角関係を見抜いていた。

夜、五代は泥酔状態で帰宅。五代は、ゆかり婆ちゃんが来ていることに驚くも、ゆかり婆ちゃんの歓迎会に加わる。

ゆかり婆ちゃんが、就職活動について五代に尋ねると、五代は坂本との話を思い出し、「情熱さえあれば一流企業も夢じゃない」と宣言する。ハイテンションの五代を見て、一刻館一同も盛り上がり、宴は夜更けまで続いたのだった。

翌朝、五代は、ゆかり婆ちゃんに叩き起こされる。就職活動における会社回りの初日ということで、ゆかり婆ちゃんはご馳走を作ってくれていた(特徴:飯テロ・ご馳走のアップ)。

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大げさだと五代は言うも、五代とゆかり婆ちゃんの会話が、気さくで和む。五代の「男の子らしさ」が、良く表現されており、高屋敷氏らしさが出ている。

皆に万歳三唱で送り出された五代は、気合いを入れて会社回りに挑む。

しかし現実は厳しく、どこに行っても、まともに相手にされなかった。

その頃、ゆかり婆ちゃんは、第六感で五代を心配していた。響子は、就職活動はまだ始まったばかりだと励ます。そこへ、ゆかり婆ちゃんが作った梅酒が宅配便で届く。”これがないと夏が過ごせない”と、ゆかり婆ちゃんが取り寄せたのだ。

響子とゆかり婆ちゃんは、美味しい梅酒を飲んで涼む。

その頃五代は、現実の厳しさを噛み締めていた。そんな折、五代は、こずえ(五代に好意を寄せていた、序盤の響子のライバル)とバッタリ会う。喫茶店にて、こずえが銀行に内定したと聞き、五代は益々ダメージを受けるのだった。

その夜、一刻館の面々は相変わらず、ゆかり婆ちゃんを囲んで酒盛りをしていた。帰宅した五代は呆れつつも、ゆかり婆ちゃん手製の梅酒の美味しさに感動する。

時間経過とともに梅酒は減っていくのだが、ここでも、高屋敷氏特徴の、意味深な梅酒のアップが入り、梅酒は、ゆかり婆ちゃんや五代の不安を和らげる、重要な役割を担っていることがわかる。

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飲みまくった五代は酔っ払い、気が大きくなる。「五代裕作は元気印の男の子なのです」とクダを巻く五代が幼い(特徴)。

その様子を見た一刻館の面々は、会社回りが上手く行かなかったことを悟り、彼らなりに慰める(特徴:疑似家族愛)。だが、あまりに大げさな慰め方なため、響子は皆をたしなめる。酔っ払った五代は響子の手を握り、立派な会社に入ってみせる、と、プロポーズまがいの事を言う。響子が戸惑いながらも励ますと、五代は泣き上戸となり、響子の膝の上で泣くのだった。

ここで明らかになったのが、以前も述べた、アニメ版五代の「”男“の幼さ・可愛さ」。響子の母性本能をくすぐるよう設定されている。現に、膝枕をしてあげる響子の表情は優しい。同氏脚本コボちゃんでも、膝枕シーンがあるが、この場面も、いつも背伸びしている水ノ江(コボの友達)の素の幼さを表現していた。下記画像は、今回とコボちゃん脚本。

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  • まとめ

大人(社会人)になろうとする話なのに、いつもながら五代が原作と比べ幼く可愛い。回を追う毎に、それが母性本能をくすぐるためのものだと確信できる。高屋敷氏は、演出であろうと脚本であろうと、こういった、幼さの表現が非常に上手い。

あと、物=キャラという特徴も、特に梅酒という形で表れている。梅酒は、ゆかり婆ちゃんが五代を心配した途端に届くし、落ち込んで帰宅した五代を酔わせ、慰めてくれたりする。極めつけは、響子の膝枕。梅酒が作ってくれたシチュエーションとも言える。このように、冒頭~終わりまで、梅酒が話運びのキーキャラクターとして活躍している。そのため、梅酒のアップが印象的なのだろう。

また、五代を取り巻く一刻館の面々の、疑似家族愛もクローズアップされている。特に、的確なアドバイスをしたり、五代の空元気を見抜いたりする四谷が渋い。これも、恋愛というより疑似家族を含めたファミリーものとしたい高屋敷氏の意向が窺え、原作通りであろうとも、シリーズ構成・脚本の個性は、作品を左右するほど強いことがわかる。

私は、子供の頃から原作を読み親しんでいたが、この、高屋敷氏の解釈は新鮮に映る。原作の五代は、妄想癖のある愛すべきバカという感じだが、高屋敷氏担当シリーズ・脚本の五代は幼く可愛い。母性本能をくすぐる存在として見事に機能していると思う。同氏シリーズ構成・脚本のカイジでも、女性視聴者の母性本能をくすぐるように、所々設定されている。

こういった、男性が描く男性キャラの可愛さは、あざとさがあまり無く、また、高屋敷氏はそれに長けている。同時に、カイジ(脚本・シリーズ構成)や「家なき子」(演出)のレミのように、突如大人の男としての豹変を見せるのも高屋敷氏の真骨頂。五代の場合、響子との仲が親密になる終盤の、男としての成長をどう書くのか、益々興味深くなった。