カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン4話脚本:「天」が招く縁

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学の大学講師として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

舞台は極寒のポーランド東部。
冒頭からして、高屋敷氏の特徴である自然(雪)の静かな間がある。監督作の忍者マン一平と比較(コンテ疑惑もある)。こちらも、冒頭から雪の崖の「間」がある。 

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雪の中、車を走らせていたキートンは、危うく老人を轢きそうになる。
幸い老人は無事。
老人は、自分は不死身だと豪語する。
彼もまた、高屋敷氏作品によく出る、味のある老人。忍者戦士飛影めぞん一刻・DAYS脚本と比較。

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キートンは老人を車に乗せる。老人はセミョーノフという名の在米ロシア人。
寒さをしのぐため、キートンはブランデーをセミョーノフにあげる。
これも特徴の、「相手を思いやる贈り物」。ルパン三世3期脚本と比較。

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セミョーノフは、スリルの無い人生などつまらない、と語る。スリル=人生のスパイス的なテーマは、元祖天才バカボン高屋敷氏演出・山崎晴哉氏脚本の話によく出てきた。アカギやカイジでも出てくるテーマ。

セミョーノフはロシアンマフィアに追われる身で、キートン達はロシアンマフィアの襲撃を受ける。
しかしセミョーノフの手荒な機転と知略で、二人は危機を脱する。特徴である火+煙草(葉巻)演出が、カイジ2期脚本とシンクロ。 

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マフィアを撃退するために車を犠牲にしたキートン達は、雪の中を歩くしかなくなる。だが天候は悪くなり、吹雪に。強がっていたセミョーノフは倒れてしまう。演出参加した家なき子にてビタリスが凍死した場面を思い出す。
また、チエ脚本ともシンクロ。

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セミョーノフが目を覚ますと、そこはキートンの作ったカマクラの中だった。
たき火場面は、演出でも脚本でもよく出てくる。家なき子演出でもよく出ていた。
画像はジョー1制作進行(脚本または演出手伝い疑惑あり)、ジョー2・チエ脚本。 

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キートンはセミョーノフに、コートに残っていた、たった一つのチョコレートを差し出す。これも特徴の、「手から手へ想いを伝える」場面。カイジ脚本・シリーズ構成と比較(他も多数)。キートンと同じく、カイジも自己犠牲の精神で石田さんを助ける(1期9話脚本)。 

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セミョーノフは、チョコレートのお礼に、ロシアの秘宝伝説キートンに聞かせる。
キートンは、父の話を聞く息子のような顔になって、その話を面白がる(特徴:疑似父子)。
チエ脚本でも、ジュニアが小鉄の昔話に聞き入る回がある。 

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伝説は、ロシア革命の折、皇帝の命を受けたニキータ卿が、大量の金塊を英国へ運ぶことになった…という話。だが道中、鯨をUボートと勘違いして大きく迂回した折、船は氷山に激突。金塊もろとも船は沈没したとのこと。
あらゆる作品で頻出の地図が出てくる。チエ脚本と比較。 

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ニキータ卿は命からがら生き残るも、息子に航海日誌を遺し亡くなる。だがニキータ卿の妻も革命の折に亡くなり、孤児となった息子はアメリカに渡ったという。
セミョーノフの話が、早口長台詞名調子(特徴)。セミョーノフ役の大塚周夫氏も名演。

なんとか吹雪を乗り切ったキートン達は、朝を迎える。ここでも、特徴である「全てを見ているような太陽」の間が発生する。
家なき子演出と比較。 

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キートン達は、再びマフィアの襲撃を受ける。マフィア達によれば、金塊伝説に乗せられ、セミョーノフに10万ドルだまし取られたとのこと。
セミョーノフは、キートンをかばうも、狙撃されてしまう。
体を張る年上男性はよく出る。忍者戦士飛影ルパン三世3期脚本と比較。 

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キートンは、昨夜の話は楽しかったのに…とセミョーノフを抱き上げ、悲しむ。
だがセミョーノフは、胸ポケットに入れていた日記に助けられ生きていた。これも特徴である「魂を持つもの」の活躍。監督作忍者マン一平でも、本が人の姿に変化する話がある。

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日記は、金塊を運んだという、ニキータ卿のものだった。セミョーノフは、本当にニキータ卿の息子なのかもしれない。
セミョーノフは、「スリルが無くて何が人生か」と言い、キートンと二人で街を目指すのだった。
雪原を行く二人が、家なき子演出とシンクロ。 

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  • まとめ

まず、演出参加作の家なき子とのシンクロが激しい。まるで、家なき子のビタリスの生存ルートのようだ。
ビタリスもセミョーノフも、主人公に人生の何たるかを教える役割を持つ老人。
暗黒ではあるが、カイジ(シリ構・脚本)の兵藤会長も該当する。

あと、「スリルが無いと人生は面白くない」というテーマ。
元祖天才バカボンの演出でも出てきたテーマだが、アカギやカイジでも、よく取り上げられている。予想だが、レースに命を賭けるF-エフ-(シリ構・脚本)でも出てくるのではないだろうか。

この「スリルのある人生こそ面白い」というテーマは、長年一緒に仕事した出崎統氏の作風がルーツかもしれない。
そして、一つしかないチョコレートを差し出すキートンの「無償の愛」は間違いなくカイジにも息づいている要素。

高屋敷氏の作品では、可愛かったり、優しかったりする中高年がよく出てくるが、今回のセミョーノフも、歌を歌ったり、茶目っ気があったりして可愛い老人。
シリ構・脚本のワンナウツも、可愛かったり大人気なかったりする中高年男性の宝庫である。

また、自然=キャラの一人、としての描写も今回大きい(特に雪)。セミョーノフは「いまいましい雪」と言うが、演出参加の家なき子も同様の台詞が出てくる。
雪は、キートン達を危機に陥れるが、キートンとセミョーノフが仲良くなる切欠も作っている。

めぞん一刻脚本では、雪の降る日に五代と響子が結ばれ、雪が丁寧に描写された。
今回は、雪がセミョーノフとキートンを引き合わせる。そして(カマクラで)二人の命を守り、仲を深める役を担った。
然るに、雪は重要なキーキャラクターと言える。

カイジでも、物語冒頭、カラスが鳴く曇天の日が不吉を予感させる。また、会長戦時には外が嵐になっている。
アカギは更に明確で、「嵐」がアカギと麻雀を引き合わせる。また、この「嵐」が無ければアカギは南郷や安岡と会っていない。

このように、太陽・月・天候等「天」が重要キャラであることが今回も描写された。
今回は、全編が雪景色であり、メインキャラはセミョーノフとキートンしかいない。だが「雪」という、もう1つのキャラがいた。ここに同氏の大きな特徴が出ていた回だった。