カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン5話脚本:学問にも適用される「不屈の精神」

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

今回の舞台はフランス・パリ。キートンはシモンズ社会人学校にて考古学の講師をしていた。
授業内容は、ヨーロッパ文明の起源について。
授業は活気があり、ど根性ガエル演出の町田先生の授業風景と重なる。 

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生徒もキートンも、ヨーロッパ文明の起源はエジプトだけではないのではないか…という論で盛り上がる。
優秀モブは、高屋敷氏の作品で頻出。
授業風景ということで、ど根性ガエル演出・はだしのゲン2脚本と比較。

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キートンは生徒達に人気があり、理事長も満足している。
だが、学校は廃校が決まっており、著名な画家の壁画以外は取り壊される運命。
めぞん一刻脚本の一刻館や、はだしのゲン2脚本の原爆ドームはじめ、建物=キャラと捉える高屋敷氏のポリシーに合った話と言える。

様々な思いを抱えてキートンが自宅に帰ると、そこには娘の百合子が来ていた(妻とは離婚)。
お転婆な百合子は、アパートの屋根に上る。
風景が綺麗ということで、キートンも上り、二人は屋根の上でランチ。特徴の飯テロ。ロックフォールチーズ等美味しそう。

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キートンは今の勤め先が廃校になることを嘆くが、「弱気なお父さんなんて大きらい」と百合子に叱られる。
めぞん一刻脚本で、自分の将来を真面目に考えろ、と五代を叱った響子が思い出される。

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百合子と話すうち、キートンは大学時代を思い出していく。

ヨーロッパ文明の起源は、エジプトだけでなく、ドナウ川周辺にもあるのではないか…という論は、キートンが大学時代から考えていたもので、今でもライフワーク。

キートンは、その説を授業で発表する。
ここで、同氏作品頻出の地図が出る。ジョー2脚本と比較。

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授業は盛り上がるが、壁画の調査のために来た役人のせいで邪魔されてしまう。残り時間が僅かなこともあり、キートンは渋々授業を終えるが、百合子は憤慨。
キートンは、考古学に対する思いを、百合子に話す。ベルばらコンテと比較。どちらも夕暮れのパリ。

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キートンは、一生考古学を続けたいと言う。そのきっかけの一つが、大学の恩師・ユーリー先生だった。
先生は、新婚で忙しかったキートンが卒論で赤点を取った時も、「夜学べばいい」と書庫の鍵を渡してくれたりした。
これも、同氏特徴の、心のこもった贈り物。

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キートンはユーリー先生を尊敬し、百合子の名前も先生の名前から取った。
だがしかし、キートンより前に、ヨーロッパ文明の起源=ドナウ説を唱えていた先生は、説を発表した後辞職してしまう。この論が異端であるためだ。
置き手紙がカイジ2期脚本とシンクロ。

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先生の置き手紙には、学ぶことを続けなさい、立派な学者になったならまた会おう、と綴られていた(特徴:主人公に人生の何たるかを教える中高年)。
百合子は、会いに行けばいい、とキートンに提案するが、年齢を考えればもう亡くなっている筈との事だった。

だが、先生との思い出を話すうち、キートンは、最後の授業で先生の話をしようと思い立つ。
そして最後の授業の日。キートンが先生の話をしようとした時、再び役人達が邪魔しに来る。キートンは、今回は「静かにしなさい」と彼等を一喝する(特徴:豹変)。

キートンは、ユーリー先生の過去の話を紹介する。先生は、第二次大戦中にドイツ軍の爆撃を受け瓦礫と化した校舎でも、授業を続けたという。向上心を削がれたら、それこそ敵の思う壺だ、と。
はだしのゲン2脚本にて、穴だらけのボロ校舎で授業をしていた先生と比較。 

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ユーリー先生は、人間の愚かな性を学び、またそれを克服することこそ人間の使命だと説いた。
キートンは生徒達にそれを伝え、学ぶことを止めないように伝える。
生徒達は拍手し、かつてヨーロッパ文明=ドナウ起源説を説いた講師がもう一人いたことを伝える。

キートンはすぐに、それがユーリー先生だと悟った。
後日、生徒達は、キートンにお礼がしたいと、パーティーに誘う。そこには、年老いた(90代)ユーリー先生がいた。
味のある中高年ということで、ど根性ガエル演出・めぞん一刻脚本と比較。

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ユーリー先生は、キートンを「立派になったな」と褒める。キートンは目を潤ませるのだった。
温かく見守るモブ達が、めぞん一刻脚本と重なる。

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  • まとめ

まず、今回も「キャラとしての建物」が出てきた。はだしのゲン2脚本の原爆ドームは、子供達や次世代の動物達(鳥)を育て見守り、めぞん一刻脚本(+最終シリ構)では、一刻館は「皆が帰ってくる場所」として存在している。 
だが今回の校舎は取り壊される。

めぞん一刻脚本・最終回のサブタイは「この愛ある限り!一刻館は永遠に…!!」。 
愛ある限り永遠に一刻館は「生きる」わけだが、今回の校舎も、取り壊されはしたが「皆の学ぶ心がある限り」、皆の胸で「生きている」。

一刻館の「愛」も今回の校舎の「学」も、人間の営みという点では同じ。
また、第二次大戦中のユーリー先生は、校舎どころか街そのものが死にかけた状態でも「学ぶ心」を忘れなかった。

今回はユーリー先生という、学問でも人生でも師と言える年上男性が出て来るわけだが、高屋敷氏の演出・脚本作とも、こういった存在が非常に多く出る。また、そういった存在を「強調する」同氏の手腕が見えてくる。

また、戦時下でも学ぶ事を忘れないユーリー先生は、不屈の精神の持ち主でもある。
こういった「不屈の精神」も同氏の作品にはよく出て、カイジでも出てくる。カイジ9話脚本では、「絶対に諦めねえ…!最後まで…!」という台詞を、かなり強調している。

こういった「不屈の精神」ポリシーのルーツも、あしたのジョー1、2脚本(1は無記名)にある気がする。
丈も、倒れても倒れても起き上がる。
今回の「学問」でも、それが適用されている。

今回のラストでは、ユーリー先生とキートンは再会を果たす。
ど根性ガエル演出では、見舞いに来てくれたひろしを抱きしめて「教師生活25年、町田は報われた」と泣く町田先生の話があり、それが思い出された。ユーリー先生も多いに報われている。

MASTERキートンは1998年制作なので、高屋敷氏の引き出しも大分豊富な状態。
あしたのジョーど根性ガエルはだしのゲン2、ベルばら、めぞん一刻など、担当して来た作品の要素がどんどん出てくる。その引き出しの豊富さにも驚かされた回だった。