カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

花田少年史11話脚本:一度きりの人生、一つだけの魂

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

花田少年史概要:
舞台は、カラーテレビが憧れだった時代の日本の田舎。 事故を切欠に幽霊が見えるようになってしまった少年・花田一路が遭遇する様々なドラマが描かれる。

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夜更けの嵐の中、一路の知り合いの幽霊であり、元インチキ占い師であるカトリーヌが、一路の枕元にやって来て不吉を告げる。
嵐・雨・雪・晴天など、「天」を重要キャラとして扱い、不吉を予告したり情感を表したりするのは高屋敷氏の特徴。アカギ脚本と比較。予想通り、この嵐の描写はアニメのオリジナル。

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なかなか起きない一路の頭の中をカトリーヌが覗くと、食べ物の事でいっぱいだった。特徴の飯テロ・食いしん坊。カイジ脚本と比較。

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イラついたカトリーヌは、化粧を落としかけた怖い顔面を見せて一路を脅かす。

ようやく起きた一路に対し、カトリーヌは「明日恐ろしいことが起きる」と予言する。カトリーヌは、生前はインチキ占い師だったが、死後の予知は百発百中。

だが、流石の彼女も、詳細は予知できない模様。
ちなみにカトリーヌと一路が出会う回も高屋敷氏脚本。

朝、カトリーヌの予言が気になった一路は、家族や友人に対し疑心暗鬼になるが、いずれも杞憂に終わる。

一路の友人である壮太・桂と、大路郎(一路の父)が話し込んでいる際、犬のジロのアップ・間があるが、めぞん一刻で頻出していた、惣一郎(犬)の間が思い出される。 

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学校にて、一路は壮太にだけ、カトリーヌの予言の話をする。こういった、男の子同士の可愛い友情は、同氏の特徴の一つ。コボちゃん脚本と比較。

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壮太と話している最中、先生が通りかかり、明日はテストと予防注射があると言う。

一路は、テスト・予防注射が、カトリーヌの言う「人生最大の危機」であると思い込む(特徴・幼い)。
その頃、交通事故で重体になった青年・春彦は、死ぬ前に加奈という女性に会いたいと強く願っていた。
すると春彦は幽体離脱し、一路のもとにやってくる。

春彦は、死ぬ前にどうしても会いたい人がいるから、一路の体を、それまで貸して欲しいと頼み込む。
カイジ(シリーズ構成・脚本)にて、1千万チケットをカイジに託し、死の鉄骨を渡り切ったなら妻に獲得金を渡して欲しいと頼み込んだ石田さんと重なっていく。

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カイジの石田さんも、今回の春彦も、虫のいい話ではあるが、命を賭けたお願い。
カイジは人の好さから、一路は無邪気さから、そのお願いを承諾してしまう。
もっとも、一路には、春彦の魂が入った一路の体にテストや予防注射を受けさせたいという打算もあったが。

一路と春彦が話している間にも、春彦の容態はどんどん悪化。
計器のアップ・間に、同氏特徴が出ている(もの言わぬものが“語る”)。カイジジョー2脚本と比較。

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一路と春彦の会話と、実際の春彦の様子が頻繁に入れ替わるのにも、同氏特徴が出ている。

事は急を要するので、さっそく一路と春彦は魂を交換する。交換のやりとりの画が、やはりシリーズ構成のカイジと重なっていく。

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春彦の体へ急ぐ一路の魂が巻き起こす風を察知したカトリーヌは、不吉を感じる。自然(この場合は風)=キャラが強調されている。めぞん一刻脚本と比較。

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魂を春彦の体に入れた一路は、春彦の感じていた痛みを一気に浴び悶絶。おまけに注射器を取り出した医者を見て恐怖する。
元祖天才バカボンの高屋敷氏演出回では、パパが大怪我をして、医者に恐怖する場面があるが、それを彷彿とさせる。

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春彦の体に入った一路のもとに、カトリーヌが現れ、魂と体が馴染み始めていると指摘。これこそアイデンティティ喪失の危機で、色々な高屋敷氏の作品で扱われているテーマ。
一方で一路の体を借りた春彦は、どうしても会いたい女性・加奈の元へ急ぐ。

春彦(体は一路)は道中、一路の近所のおばあさんから、学校をサボっていると勘違いされ、拳骨を食らう。
だが慇懃無礼に謝る春彦(体は一路)を見て、おばあさんは、強くぶちすぎたのでは、と心配する。特徴である、やさしい老人の描写。MASTERキートン脚本と比較。 

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その頃、春彦の体に入った一路は、治療を嫌がり、ぶーたれる。特徴の豹変描写。
また、元祖天才バカボン演出でも、バカボンに変装した犯罪者(中年)の、豹変演出が冴えていた。

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春彦(体は一路)が無一文で困っていると、カトリーヌが現れ、「あんたって、やる気も生きる気も無い」と指摘する(特徴:甲斐のある生き方とは何か)。

だがこのままでは一路が危ないとして、カトリーヌは春彦(体は一路)を目的地までテレポートさせる。

春彦(体は一路)はついに、会いたがっていた加奈の姿を見ることに成功。加奈は、かつての春彦の同棲相手だった。
カイジ(シリーズ構成)にて、妻の苦境を見つめる石田さんと比較。

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どちらも、現状を見るだけで、どうすることもできない状況。

すると、加奈に娘がいることが発覚。春彦(体は一路)は、それが自分と加奈の子供であると、すぐに察する。
彼は、しばらくは娘と共にいたいと強く願ってしまう。そして次回へ(次回も高屋敷氏脚本)。
物のアップ・間に同氏特徴が出ている(物をキャラクターと捉える)。めぞん一刻脚本と比較。

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  • まとめ

一路の特殊能力や一路の無邪気さによって、一見軽めに描かれているが、魂を交換するということ、死の直前に何かを託すこと、未練を晴らすこと、生きるということ、など、とんでもなく重い要素が入っている。カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)と比較すると面白い。

カイジ」の石田さんは、カイジに家族の事を託して死んでしまう。本作の一路のように、魂の交換はできないが、石田さんは、若くて芯の強い人間であるカイジを心から信じて死ぬ。
その願いはカイジに通じ、色々な局面でカイジを奮い立たせる。

対して春彦は、知り合ったばかりの一路に、とんでもなく重いお願いをしている。一路は一路で、テストや予防注射が、この世の終わりだと思うくらいに幼い。
求めるものが違いすぎる二人は、互いに、そのねじれに苦しむことになる。

魂を交換するということができてしまう本作だが、それにより、人生も魂も、一度きり、ただ一つのものであることが痛感できる作りになっている。
高屋敷氏の演出・脚本ともに、「甲斐のある人生とは何か」の問いかけは何度となくされている。

これについては、真っ白になり、燃え尽きたジョー2最終回脚本にて大きく描かれているし、アカギ(脚本・シリーズ構成)の「まだだ、限度いっぱいまで行く。地獄の淵が見えるまで」に代表される、アカギが問う「生死の意味」においても強調されている。

一度しかない人生を、どう生きるか決めるのは自分しかいないし、それを甲斐のあるものにするかどうかも、自分次第。
そう思うと、子供の一路に頼る春彦は少々ヘタレに見え、カトリーヌにも「やる気も生きる気もない」と指摘される。

ただ、そんな春彦も、死に直面したからこそ、加奈(とその娘)に会いたいと、行動を起こした所は、ガッツがある。
一方で、子供の姿でしか娘に会えず、どうすることもできない苦しみを春彦は味わうことになり、それは天罰とも代償とも取れる。

一路は一路で、子供らしい生き方を謳歌していたのに、予防注射やテストが嫌だからと、魂の交換に応じてしまう、無邪気さ故の愚かさが出ている。
元祖天才バカボン演出・脚本においてのパパ、鉄腕アトム(1980)脚本の電光(善悪の区別がつかないロボット)の話などでも、無邪気故の惨劇が描かれている。

高屋敷氏が時々投げかける、「生きるということ」。表現・状況は様々であるが、根底に流れるものは共通している気がする。
甲斐のある事や、スリルがある事、義理人情を重んじる事、などが代表的なものだが、今回も、一度きりの生をどう使うかを投げかけている。

また、高屋敷氏がよく描く「アイデンティティ喪失の危機」も、違う体に魂が馴染みかかるという状況をもって、今回は特に強調されている。
自分とは何か、自分の人生とは何か、生きるとは何か…
そんな重いテーマが隠されている回だった。

続きの12話についてはこちら:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/11/13/124211