カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

太陽の使者鉄人28号47話脚本:「己」を失う恐ろしさ

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。) 

「太陽の使者鉄人28号」は、鉄人28号のアニメ第2作。
少年・金田正太郎は、父が遺した鉄人28号と共に、インターポールの一員として悪と戦う。
監督はゴッドマーズ監督の今沢哲男氏。

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フランスのベルサイユ宮殿に展示されていた王冠・「マリーの瞳」が、謎の巨大ロボットにより盗まれるという事件が発生。
高屋敷氏はコンテ、本作監督の今沢哲男氏は演出として「ベルサイユのばら」に参加しており、そこからのネタと思われる。

また、美術品を盗むというのが、ルパン三世(高屋敷氏脚本or演出)やキャッツアイ(同氏脚本)を彷彿とさせる。今回のは、ダイナミックすぎるが。

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犯人は自称ドロンボ党総裁・ドロンボ。
高屋敷氏のルパン三世脚本回に、「トロンボ」という警察官が出てくるので、名前の使いまわしが見られる。元ネタ自体は「泥棒」や「刑事コロンボ」のもじりだが。高屋敷氏の名前付けは、言葉遊びや楽屋ネタが多い。 

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ドロンボは、ドイツの研究所から盗んだロボット・イカロスを駆り、美術品を盗んでは闇ルートに流すという犯行を繰り返していた。
そして今度は鉄人を盗むことにする。
ドロンボの秘書はビジネスライクで個性的な美女。ルパン三世における高屋敷氏の脚本や演出の不二子もビジネスライク。

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ドロンボは、鉄人を盗む事は自分にうってつけの仕事だと、自信満々でグラスを見つめる。
高屋敷氏特徴の「真実を映す鏡」演出。
キャッツアイ・忍者戦士飛影脚本、ベルサイユのばらコンテと比較。

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イカロスはいつもカナダ上空でレーダーから消えるので、ICPOはドロンボのアジトがカナダにあると推測。
正太郎・大塚警部・鉄人は早速カナダへ飛び、地元警察のギャバン警部に会う。ギャバン警部の喫煙仕草が渋い(特徴)。アカギ・カイジ脚本と比較。

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正太郎達は、イカロスが消える地点の周囲を調べる。
それを知ったドロンボは、盗む対象が自らやって来たとして、イカロスで鉄人を迎撃する。
だが、イカロスは鉄人に苦戦。そこでドロンボは正太郎を狙う。悪役としてはマナー違反だが、敵も頭を使うのが高屋敷氏の特徴。

イカロスに追い詰められた正太郎は、崖から川に転落してしまう。
大塚警部達が必死に捜索するも、正太郎は行方不明に。
ここで、特徴である夕陽のアップ・間が入る。ベルサイユのばらコンテ、コボちゃんめぞん一刻脚本と比較。

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正太郎が見つからず、大塚警部は泣く。高屋敷氏の作品では、おじさんが泣く場面もよくある。ルーツは、脚本デビューの「あしたのジョー1」にて段平がよく泣くところからではないかと思われる。
カイジ2期脚本と比較。

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一方正太郎は、ドロンボに助けられるも、捕らわれの身になっていた。ドロンボの目的は、鉄人の操縦法をコンピューターにインプットすること。
それを強く拒む正太郎だが、特殊な機械により催眠をかけられてしまう。

その頃、敷島博士(正太郎の父の友人)とブラックオックス(鉄人のライバルだった自律ロボ)は、大塚警部達の応援に駆けつけていた。
ドロンボは、格好のデモンストレーションになるとして、催眠にかかった正太郎が操る鉄人と、ブラックオックスを戦わせる。催眠にかかって己を失った正太郎と、ギャンブルに脳をやられ己を失ったカイジ(脚本)を比較。

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鉄人とブラックオックスは互角の戦いをする。
その最中、正太郎が催眠にかかっているのに気付いた敷島博士は、ブラックオックスで正太郎を捕らえる。
一回気絶し、目覚めたことで催眠が解けた正太郎は、鉄人を正しく操り反撃。ブラックオックスと共にイカロスを倒す。

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ドロンボはイカロスから脱出するも、捕らえられる。
ジタバタするドロンボには愛嬌があり、中高年のコミカルな描写が上手い高屋敷氏の特徴が出ている。ルパン三世2nd演出と比較。

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また、喜ぶ大塚警部達が可愛い(特徴)。監督作忍者マン一平と比較。

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その後、ドロンボのアジトも発見され、闇ルートも明らかに。
レストランにて、正太郎達は乾杯するのだった。
満月に向かい乾杯しているような画に、月を重要キャラと捉える高屋敷氏の特徴が出ている感じがする。
監督作忍者マン一平蒼天航路脚本と比較。 

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  • まとめ

今回の脚本は、ファンに人気のあるブラックオックスと、鉄人を戦わせる状況を作る目的があるような気がする。確かにこの2機が戦う姿はかっこいいので、ブラックオックスが味方側についてもなお、鉄人と戦う姿が見たいというファンが多かったのでは。

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そして、高屋敷氏が打ち出すテーマの一つ、「己を強く保て」もよく出ている。
己を失った正太郎が操る鉄人は、恐ろしい兵器となってしまう。
また、鉄人は正太郎のアイデンティティの一つなので、高屋敷氏作品によくある、アイデンティティ喪失の危機でもある。

思えば、本作の高屋敷氏脚本担当作にて、正太郎はコントローラーをなくしたり、コントローラーを操る要である手を怪我したり、敵に催眠をかけられたりしている。
つまり、人間側に試練を与える展開が多い。それを克服してこそ一人前ということかもしれない。

「一人前」という概念は、高屋敷氏が多く演出を担当(最終回含む)した家なき子に、よく出てくる。家なき子では、「男は、いつか一人で生きていくもの。誰にも頼らず自分の力で生きてこそ一人前」というビタリスの教えが軸になっている。

そして、この「太陽の使者鉄人28号」では、人間側の正太郎に試練を課すことで正太郎が「一人前」になることを望んでいるような感じを受ける。ただ、あくまで「自発的」にそれができるよう促しており、今川版ジャイアントロボのような、父との関係についての苦悩はない。

今回、己を失った状態がどれほど恐ろしいかを描いているが、カイジ2期脚本でも、一見コミカルな、地下でカイジが久々にビールを飲むシーンにて、それが表れている。禁欲から解き放たれた時こそ、人間は己を失って欲に溺れるという真理を描いており、それを知る班長の恐ろしさも描かれている。

正太郎もカイジも、まさに死と隣り合わせの試練を与えられている。
それは、家なき子で提示された「一人前」となるための布石とも取れる。
そう考えると、高屋敷氏は、家なき子に相当な思い入れがあるのではないだろうか。
太陽の使者鉄人28号とは、年代も近い。

あと、再度「己を強く保て」について述べると、カイジの構成・脚本にて「オレがやると決めてやる。ただそれだけだ」や、やさしいおじさんの「帝愛じゃねえ、俺だ。俺がやるって言ってんだ」など、原作通りだが「己を強く持つ」台詞が相当に強調されている。

特に「帝愛の黒服」の一人にすぎなかった「やさしいおじさん」が自我を取り戻し、カイジを助けるのは重要な事として強調されている。
カイジもまた、2期1話の、ギャンブルに脳を焼かれ己を失っていた状態から、試練を通して自我を取り戻し、人間愛を発揮する。

今回、催眠にかかった正太郎は、鉄人の恐ろしさを示すが、正気に戻ると、鉄人を正しく使い悪を倒す。
一方、カイジにおいては「金」という力をどう使うかを問われ、最終的に、カイジは自分の意志で、人を救う事に使う。
そんな、力の使い方の共通性も感じた回だった。