カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

蒼天航路12話脚本:天を見上げる者達

アニメ・蒼天航路は、同名漫画のアニメ化作品。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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後漢を支配する暴君・董卓は、汜水関の戦いにて反乱軍を蹂躙。都・洛陽を燃やした後、長安に都を移した。

その後、焦土と化した洛陽に孫堅の軍が入城。夏候惇(曹操軍の重鎮)の助言もあり、孫堅は洛陽の復興を目指すことに。

調査中、孫堅達は五色の龍の気を放つ箇所を発見。そこを掘り起こしてみると、王朝に代々伝わる玉璽(ぎょくじ=皇帝が使う印章)が出土した。高屋敷氏特徴の「生きているような“物”」。意味深なアップ・間が、龍が出てくる原作通りの演出に拍車をかけている。つまり、「物が生きている」ことがわかりやすくなっている。1980年版鉄腕アトム脚本でも、「魂」を持つAIが重要な役割を演じており、それがアップ・間により表現されている。

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孫堅は、玉璽がある限り、洛陽の意味は失われていないとして、復興に励む。その噂を聞き、多くの豪族達が洛陽に集まる。

董卓長安遷都や、孫堅による洛陽復興の情報は、はるか西方にまで及び、曹操の命で西方に旅に出ていた曹操の軍師・荀彧(じゅんいく)の耳にも届く。ここも、高屋敷氏特徴の「全てを見ているキャラクター」である太陽の意味深アップ・間がある。ベルサイユのばらコンテと比較。

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一方、反董卓軍を統括していた袁紹(えんしょう)も、董卓への対抗策を、太陽を見ながら練っていた。あらゆる者が同じ太陽を見ている…という演出(月にも適用)は、高屋敷氏の演出や脚本に多く出てくる。

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曹操は故郷に身を寄せ、父と囲碁に興ずる。ここも、碁石の意味深アップがある。アカギやカイジ(脚本・シリーズ構成)にも、ゲームに使われる物の意味深アップが沢山出てくる。

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曹操は父に、今の自分には金と策が必要と言う。そこへ、曹操の言う「策」、つまり軍師の荀彧が旅を終えて曹操のもとにやって来る。曹操碁石を打った直後に荀彧がやって来たり、曹操が荀彧を「策」と例えるあたりに、「人ではないもの」を活躍させる高屋敷氏の特徴が出ている。

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その2年後。董卓の支配する都・長安は、恐怖政治ではあるものの栄えていた。

文人・蔡ヨウがその様子を書き記していると、董卓とその部下がやって来る。
この時、香炉のアップになり、董卓達が来ると煙がなびく。ここも、高屋敷氏の特徴である「意思を持つもの」の描写。めぞん一刻脚本と比較。こちらも、意思を持つように煙が動く。

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董卓の部下は、蔡ヨウが董卓を誹謗するような事も記述しているとして、蔡ヨウを批判する。
だが董卓は、蔡ヨウとの問答の末、自分の有り様を書き記すことを許す。ここの問答で、蔡ヨウの瞳に董卓が映る。高屋敷氏特徴の、「真実を映す鏡」演出。あしたのジョー2脚本と比較。

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ここでは、粗暴であるが王者の器がある董卓の、真の姿を映している。瞳には真の姿が映っているのだが、蔡ヨウは董卓の真の姿を、まだ探っている最中という演出にもなっている。

董卓は蔡ヨウの文才を認め、その才を見抜けなかったとして、蔡ヨウの事を告げ口してきた部下の目を刺すのだった。

そんな董卓に反発する者は多く、国の政務を執る司徒(役職名)・王允(おういん)もその一人だった。

どうすれば董卓を打倒できるか王允が考えあぐねていると、彼の養女・貂蝉(ちょうせん)が、自分が董卓の懐に潜り込み、策を練る手伝いをすると進言。
王允は反対するが、貂蝉の決意は固い。美しくなって董卓に取り入るべく、彼女は瞼を自分で切り、整形する。
ここで、灯の意味深アップ・間がある。これも高屋敷氏の特徴で、あらゆる作品に出てくる。挙げればキリがないが、あしたのジョー2・めぞん一刻カイジ脚本と比較。

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貂蝉は整形時に出た血を唇に塗り、狂気を見せる。意味深に口紅を塗る場面は、度々高屋敷氏の作品に出る。ルパン三世2nd演出・めぞん一刻脚本と比較。

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洛陽では、袁紹が勢力を拡大しつつある旨を袁術(孫堅と同盟中)から聞いた孫堅が、袁紹と戦うべく、荊州に赴くことを決意する。

出立の日、曹操から孫堅のもとに派遣されている夏候惇は、次に会うときは董卓を討つ時だと、孫堅と約束を交わす。中年男性同士の渋いやりとりは、高屋敷氏作品でよく強調される。太陽の使者鉄人28号・アカギ脚本と比較。

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一方曹操はエン州にて、農民の反乱を鎮圧する戦に参加する。
天下を「治める」ことを目指す曹操は、農民の扱いには慎重になるべきと説く。

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荀彧もそれに賛同し、曹操が農民を取り込むよう進言。そのために、農民のリーダーとなっている巨漢・虎痴(こち)の存在を曹操に伝える。

その虎痴とは、曹操の青年期において、共に戦った許チョ(1話登場)であった。曹操は、より多くの民を救いたいのなら、生涯ずっと自分に仕えよ、と許チョを説得。男の熱い友情描写も、高屋敷氏の特徴(少し無自覚天然BLなところあり)。忍者戦士飛影脚本と比較。

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その頃孫堅は、多くの民の指示を得ながら進軍していた。孫堅の家臣や家族達は、荊州を制することができれば天下が見えて来る、と沸き立つ。

孫堅は、ひとり月を眺める。ここも特徴である、「重要キャラクターとしての月」。雲に隠れたり、雲から顔を出すことで、未来を予兆し、現状を照らす。火の鳥鳳凰編脚本(金春氏との共著)と比較。

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孫堅が今後の未来について、月を見ながら考えていたところ、突如として、敵である劉表軍の兵に射られてしまう。

射られてもなお孫堅は倒れず、射手達は恐れをなして逃げ出す。

孫堅は天命が尽きるのを感じ、悔いはないとして、龍となって昇天する。

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虫の知らせか、器が割れ、孫堅の長子・孫策は不吉を感じる。ここも、特徴として「物」が活躍している。めぞん一刻脚本と比較。

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孫堅の魂が龍となり天に昇るさまを、曹操も目撃。巨星が堕ちた事を察するのだった。

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そして長安では、貂蝉董卓に取り入るべく、準備をしていた。雷が波乱の幕開けを知らせる(特徴:天=重要キャラ)。花田少年史・アカギ脚本と比較。

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  • まとめ

今回も、太陽や月といった「天」が活躍している。忍者マン一平(監督)や元祖天才バカボン(演出や脚本)では、太陽や月に顔がついていたり、声を出したりするのでわかりやすいが、本作含めシリアス作品での効果は更に大きく、凄みを感じるほど。

また、今回の主軸となっている孫堅の死であるが、まんが世界昔ばなしの「幸福の王子」演出にて、王子像とツバメの魂が太陽に回収される場面が思い出される。つまり、高屋敷氏が描く死=太陽や月、すなわち天に昇ることであると見て取れる。サブタイトルも、「孫堅昇天」。

だからこそ月は、間もなく天命が尽きる孫堅を「見ている」。そして孫堅も月を見上げる。孫堅は明るい未来を夢見て月を見ていたのだが、無情にも孫堅は死んでしまう。
だが孫堅は、悔いることなく昇天。「悔いがない」ことが強調されるあたり、あしたのジョー2最終回脚本の、「真っ白な灰になるまでやったから悔いがない」丈の、ラストの微笑が思い出される。

そして、蔡ヨウと董卓の問答のシーンにて、高屋敷氏の特徴の一つ、「善悪の区別は単純ではない」が描かれている。本作では、このテーマに割と重きを置いているような感じがする。戦乱の世に、善も悪も無い…からであろうか。

アニメ蒼天航路の特色として、董卓をはじめとした、悪役(?)キャラのかっこよさが目立つことが挙げられる。本作における、高屋敷氏のシリーズ構成方針の軸かもしれない。

一方、貂蝉の男気(女性だが)も描かれる。性差なく高屋敷氏は男気を描くが、貂蝉もまた、固い決意を押し通す強い人間だということを前面に出している。

今回、色々な武将が出て、それぞれの戦場を駆けているが、皆、同じ太陽や月を見ている。彼らは「天」を目指しており、そんな彼らを「天」が見ている。
そういった関係性を感じる回だった。