カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

蒼天航路20話脚本:「男」から「龍」へ

アニメ・蒼天航路は、同名漫画のアニメ化作品で、曹操の生涯を描く。高屋敷氏はシリーズ構成も務める。
監督は学級王ヤマザキや頭文字D4期などを監督した冨永恒雄氏。総監督は、バイファムやワタルなどのキャラクターデザインで有名な芦田豊雄氏。

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曹操は、皇帝・劉協(りゅうきょう)を奉り、豫州(よしゅう)の許(きょ)を都とした。だが、宛城(えんじょう)にて張繍(ちょうしゅう)の反乱に遭い、貴重な部下達や、長男の曹昴を失ってしまう。

そして曹操が許都に撤退した後も、張繍軍との戦は続いた。

一方徐州では、賭けがもとで曹操軍に下った劉備を中心に、呂布軍との交戦が続いていた。

そんな中、曹操は勇猛果敢な兵士・楽進(がくしん)を将に昇格させる。

楽進は、なんとなく忍者戦士飛影(高屋敷氏脚本参加)のダミアンに雰囲気が似ている。

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高屋敷氏は、ダミアン初登場回の脚本を書いており、その後の脚本回もダミアンへの思い入れが感じられる。雰囲気が似て来てもおかしくないかもしれない。

また、曹操軍の筆頭軍師・荀彧(じゅんいく)の甥・荀攸(じゅんゆう)が新たに軍師として加わる。荀攸は冷静で、曹操達を客観的に見ることができる目を持っている、優秀な人物。可愛いおじさん的なところもあり、こちらも高屋敷氏の得意分野を生かせるキャラクター。ルパン三世2nd脚本でも、愛嬌があり、そこそこ頭もキレる、トロンボというキャラクター(アニメオリジナル)が出てくる。

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新たな戦力を得た曹操は、あらためて張繍軍と交戦することに。

張繍軍には賈ク(かく)という優秀な軍師がいて、彼は曹操を追い込むための緻密な作戦を立てる。曹操曹操で、新たな将である楽進をサポートしつつ、賈ク(かく)との知略合戦を繰り広げる。

モノローグを多用した頭脳戦は、カイジの脚本にも生かされており、カイジ2期脚本7話では、カイジとの駆け引きを繰り広げる大槻班長のモノローグが大半を占める。それでいて緊張感とテンポが持続しており、近年の高屋敷氏の脚本の中でも屈指の出来。今回は、それを彷彿とさせる。結果的に、賈ク(かく)は曹操に、班長はカイジに、頭脳戦で敗北する。

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このようなキャラ同士の駆け引きや知略合戦は、高屋敷氏の得意分野と見られ、色々な演出や脚本作で見られる。戦いには善悪関係なく知略が必要、というポリシーが窺える。

曹操との知略合戦に敗れた賈クであったが、何故か曹操は止めを刺さず、兵を引く。

賈クはそれに疑問を持つが、すぐに、曹操が自軍の新顔(楽進たち)を育てるために、自分達を利用したことに気が付くのだった。

ここまでで、賈クのモノローグが多用されたこともあり、賈クにもシンパシーを感じる構成になっている。善悪の区別を単純にしないのも、高屋敷氏の特徴。

一方、曹操の命を受けて呂布軍と戦っている劉備達は、呂布の軍師・陳宮(ちんきゅう)に手を焼いており、ジリ貧になっていた。

そんな状況でも飯を元気にかっこみ、口についた米粒を舐め取る劉備の食いしん坊描写に、高屋敷氏の特徴が出ている。挙げればキリがないが、監督作の忍者マン一平、新ど根性ガエル脚本(コンテ疑惑もある)と比較。

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再び呂布軍が迫って来ているという報を受けた劉備は、嫌な予感がすると言い、堂々と(?)逃げ出す。

ここで戦慄するのが、劉備が太陽を横切る描写。元祖天才バカボン演出・ルパン三世2nd演出と重なる。

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他の演出・脚本作でも似たような描写があり、「脚本」なのに過去・未来作と絵面が似てくる怪現象が、ここでも出ている。
あと、高屋敷氏の作品では、太陽は重要なキャラクターなので、そのこだわりも感じられる。

劉備軍が逃げる最中、関羽劉備を守るため、しんがりを務めることに。
すると呂布軍の将・張遼(ちょうりょう)が、関羽に一騎討ちを挑んで来る。張遼は、シ水関の戦いでの呂布関羽の一騎討ちに影響を受けており、関羽と同じく青龍刀を使う。両者は互角に戦うが、好機に声を出した張遼が、その隙をつかれ敗北。ここも、なんとなくベルサイユのばらコンテ、忍者戦士飛影脚本と雰囲気が似てくる。

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関羽張遼に、青龍刀を使うのは十年早いと言い放ち、止めは刺さずに去る。ここも、青龍刀という「もの」に魂があるかのような表現や強調が続き、もの言わぬ物をキャラクターと捉える高屋敷氏の特徴が出ている。

一方で劉備は、兵達を逃がし、自分達は呂布に下る決断をする。ここで劉備が着物を脱ぐのだが、ここの強調に、高屋敷氏の特徴である、アイデンティティの如何を問う「脱衣演出」が出ている(服=アイデンティティを示す物)。チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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とにもかくにも、脱衣や裸は、主にアイデンティティと絡めてよく出てくる。

劉備達は呂布と対面するが、ここでも、特徴である、太陽の強調描写がある。

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狂戦士であるはずの呂布は、珍しいことに、劉備達に興味や殺意を抱かず、自軍の大切な将である張遼の身を案ずる。劉備は、そんな呂布に「やばさ」を感じるのだった。ここでは、呂布劉備も「将」の顔に豹変している。豹変も、高屋敷氏の特徴。

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曹操は、劉備達については泳がせておくことにする。曹操劉備と同様、狂戦士ではなく、軍師や兵を率いる「将」として成長している呂布に興味を抱き、今の呂布は「美しく見える」とすら言う。ここの強調も、善悪の区別を単純にしない高屋敷氏のポリシーが出ている。

曹操は、将としての呂布を自身の目で見るため、大軍を率い、呂布のいる徐州へと向かうのだった。

  • まとめ

全体を通して、軍師達の生きざまや活躍が描かれ、前半は荀攸賈ク、後半は陳宮(呂布の軍師)の思いや考えがクローズアップされている。

知略描写を得意とする高屋敷氏にとって、知略を生業とする「軍師」はうってつけのキャラクター。それも手伝い、軍師達が生き生きと動く。

また、長くてもテンポがよく、名調子なモノローグが続き、緊迫感が持続する構成に、名作であるカイジ2期7話脚本との繋がりを見ることができる。

もともと、テンポが速く名調子な長台詞は、高屋敷氏の特徴であるが、それが今回、存分に生かされている。

そして、狂戦士から将へ「成長」(?)した呂布についても描かれる。前半では、兵から将へ昇格した、曹操軍の楽進が描かれており、それと絡めて考えるのも面白い。

もともと高屋敷氏は、家なき子最終回演出を筆頭に、少年から男へと成長する様を描くのが得意なわけだが、本作では、一人の男が「天を目指す将」へと成長する様も描いている。

呂布はしばしば、高屋敷氏脚本回(今回含む)で、「自分は龍になる」と志を高めており、「自由な戦士であるが故、王の器ではない」と董卓に指摘された所を直しつつある。

本作では、原作通りだが「天を目指す将」は龍に例えられ、死ぬと魂が龍となって天へ昇る。

高屋敷氏は、本作のシリーズ構成にて「一人の男」が「龍」へと成長する様も描いているのではないだろうか。

段々と、シリーズ構成のテーマが見えて来る回だった。