カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

空手バカ一代40話演出:雨が見守る死闘

アニメ・空手バカ一代は、同名漫画のアニメ化作品。空手家・飛鳥拳(実在の空手家・大山倍達がモデル)が、己の空手道を極めるために、国内外の強敵と対戦する姿を描く。
監督は岡部英二・出崎統氏。
今回は、脚本が吉原幸栄氏、コンテが出崎統氏・演出が高屋敷英夫氏。

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以前書いたが、本作は監督を「演出」、各話演出を「演出助手」とクレジットしているので、本作の演出助手=各話演出とする。実際の内容も、各話演出助手でかなり個性が違う。クラシック作品においての演出(現場監督のような立場)は、なぜか個性のばらつきが激しいのも興味深いところ。

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  • 今回の話:

格闘マニアの大富豪・ブラッド・ジョーに招かれ、飛鳥はフランスに赴く。
当地にて飛鳥は、フランスの伝統的格闘技・サファーデ(サバット)の達人・ボーモンと決闘することに。2時間を超える死闘の末、飛鳥はボーモンを空中3段蹴りで倒すのだった。

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冒頭にて、水溜まりに映るエッフェル塔と、葉の意味深な「間」がある。この「間」は高屋敷氏の特徴で、脚本作でも出る。出崎統氏の凝ったコンテと、高屋敷氏の、「物や自然が“語る”」演出が融合。画像は、高屋敷氏の「葉が語る」場面集。今回、MASTERキートンめぞん一刻脚本、エースをねらえ!演出。

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また、頻出の太陽のアップ・間が、今回も出る。当時の技術の限界で、太陽が異様に目立っている。そのおかげで、「太陽を出したい」という意志を明確に感じ取れる。らんま脚本、元祖天才バカボン演出、MASTERキートン脚本と比較。後年の脚本作になると、意味や迫力が増す。

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飛鳥がブラッド・ジョーと対面する場面では、両者が固い握手を交わす。握手などの、手を使ったコミュニケーションは、高屋敷氏の作品によく出る。今回の場合、ブラッド・ジョーの一方的な思いを描いている。
画像は握手集。今回、忍者戦士飛影あしたのジョー2・ルパン三世2nd脚本。

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ブラッド・ジョーと飛鳥が話す場面では、ブラッド・ジョーが葉巻をくゆらす。印象的な喫煙描写も、高屋敷氏の作品ではおなじみ。キリが無いので、カイジ2期脚本と比較。

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ブラッド・ジョーは飛鳥に、自分のスクラップ・ブックを見せるが、こういった新聞記事ネタや紙ネタも、高屋敷氏の特徴のひとつ。アカギ・チエちゃん奮戦記脚本、監督作忍者マン一平と比較。

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あと、はだしのゲン2脚本に、「元新聞記者」の老人が出てくるのが気になる。もしかしたら、高屋敷氏が好きな職業なのかもしれない?

飛鳥とブラッド・ジョーが、柔道の道場へ車で向かう場面では、出崎統氏コンテの定番の構図(橋+乗り物)が出る。影響下にある高屋敷氏も、これを使うが、やはり高屋敷氏の驚異的なところは、「脚本」からでも、似た絵面が出力されるところ。ベルサイユのばらコンテ、ルパン三世2nd演出、忍者戦士飛影脚本と比較。他も多数(脚本作含む)。

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ちょっとした小ネタだが、柔道の道場にて、コーチが笛を吹く場面が他作品とシンクロを起こしている。エースをねらえ!演出、カイジ2期脚本と比較。

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フランスでは、空手が殆ど知られていない事が判明し、飛鳥が落ち込む場面では、出崎統氏コンテでおなじみの、屋上演出が見られる。これも、高屋敷氏は「脚本」からでも出すことが何故かできる。チエちゃん奮戦記脚本、あしたのジョー2脚本と比較。あしたのジョー2は、出崎統氏のコンテだが。

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飛鳥が、サファーデの達人・ボーモンとの決闘に向かう場面では、高屋敷氏の大きな特徴である、ランプ演出が出てくる。めぞん一刻カイジ2期「脚本」と比較。

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同じく大きな特徴である、像の意味深な「間」が出る。ベルサイユのばらコンテ、ルパン三世2nd演出、じゃりン子チエカイジ脚本と比較。

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飛鳥とボーモンが対峙する場面では、やりすぎなくらい雨が自己主張。これも、「天」をキャラクターと捉えているらしき、高屋敷氏の意志が感じられる。
画像は、雨の中でのドラマ集。今回と、めぞん一刻あしたのジョー2・ワンナウツ脚本。

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死闘の末、飛鳥は決死の空中3段蹴りでボーモンを倒すが、ブラッド・ジョーが、空手のPRになると言って写真を取る。あまりよろしくない態度だが、笑顔が可愛い。
笑顔が可愛いのは、今回のような「演出」なら分かるのだが、「脚本」作でも可愛い笑顔は頻出。そういうキャラ作りをしているからだろうか?あしたのジョー2脚本、監督作忍者マン一平、DAYS脚本と比較。他も多数。

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飛鳥は、ブラッド・ジョーの非礼な態度を一喝し、倒れているボーモンに手を差し伸べる。ここも、高屋敷氏の大きな特徴である、手から手へ思いを伝える行為。
ワンナウツ忍者戦士飛影MASTERキートン脚本と比較。

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  • まとめ

気になるのは、ナレーションの多用。36話演出(出崎統氏コンテ)もそうだった。高屋敷氏の作品(特に脚本)では、ナレーションを重要キャラと捉えている節があり、ナレーションは多用される。本作において、出崎統氏コンテ+他の人の演出では、ここまでナレーションは多用されていない。
この時代の演出は、好みが全体に反映されやすい。それを思うと、高屋敷氏の意向なのかもしれず、もしそうなら、高屋敷氏の作風の一つ、ナレーション多用の初期型かもしれない。

そして今回も、太陽・ランプ・像・雨演出の初期型が見れたのが収穫だった。特に雨演出は、当時の技術の限界のおかげで、「雨を強調したい」という意図が丸見え。探究する側としてはありがたい。

今回の対戦相手であるボーモンは、誇り高い精神の持ち主で、飛鳥もそんな彼に好感を持つ。敵やライバルにもシンパシーを感じるようにさせるのは、高屋敷氏の得意分野であり、脚本作、特にシリーズ構成も務める作品では炸裂する。今回のも、それの初期型かもしれない。最初期はあしたのジョー1脚本(無記名)と思われる。

また、雨は、飛鳥がフランスに降り立った時と、決闘の間に降っており、決闘の後の雨上がりについては、「ブローニュの森は、雨上がりの優しさを取り戻していた」というナレーションが入る。こういった所も、「天」や「自然」を重要なキャラクターとする高屋敷氏の意向が窺える。

フランスが舞台なだけあり、後年の出崎統氏監督作品・家なき子に通じるものがある。家なき子も、シリーズの半分が、出崎統氏コンテ+高屋敷氏演出の組み合わせ(もう半分の演出は竹内啓雄氏)。つまり、今回の組み合わせと同じである。その意味では、家なき子のルーツ的な所がある。もともと私が高屋敷氏の歴史に興味を持ったのは、家なき子を見て、カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)のルーツを感じたからなので、カイジのルーツのルーツを見た感じで、感慨深い回だった。