カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-1話脚本:「前に行く」男

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の熱い勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが真下耕一監督、演出が石山貴明氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

群馬県の大富豪・赤木総一郎の愛人(故人)の息子、赤木軍馬は、天才的なメカニックの腕を持つ親友・タモツにより改造されたトラクターを乗り回し、様々な車をぶっちぎる日々。
そんなある日、軍馬はBMWを駆るレーサー・聖に出会い敗北。
後日、偶然にも聖に再会した軍馬は、タモツがチューンアップしたスターレットで、再び彼に挑むのだった。

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OP開始時、「つよさ…」「よわさ…」「はかなさ…」「じぶん…らしさ…」という、意味深な文字が浮かぶ。

高屋敷氏の発するテーマに、「自分とは何か」「どういう自分になるかは、自分で決めろ」というものがあり、それがもろに表れている。また、同氏が脚本参加した、あしたのジョー2のサブタイトル法則である、「必ず“…”を入れる」を適用している。

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開幕に、意味深な太陽と花の描写がある。高屋敷氏の特徴として、「自然の活躍」があり、それは演出作・脚本作両方で確認できる。家なき子演出、めぞん一刻脚本と比較。

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続いて、よそ者達の乗るカマロ(車種名)の登場時に鳥が飛ぶ。長年一緒に仕事した出崎兄弟ゆずりの鳥演出は、高屋敷氏の演出・脚本作ともに頻出。ベルサイユのばらコンテ、空手バカ一代演出/コンテ、カイジ脚本と比較。 

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改造トラクターに乗る軍馬と、軍馬の親友のタモツは、カマロに乗る青年達に煽られる。その際、軍馬はバカにされて煙草を鼻に突っ込まれる。この、煙草のくだりはアニメのオリジナルで、煙草演出を強調する高屋敷氏の個性が見られる。太陽の使者鉄人28号脚本と比較。

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バカにしたお礼とばかりに、軍馬は超絶なドライビングテクニック(ちなみに無免許)で改造トラクターを駆り、カマロをぶっちぎるが、自分達も転倒して、肥溜めにはまってしまうのだった。ここのカーアクションの作画は超絶。

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その後も軍馬は懲りもせず、女の子達(原作ではソープ嬢達)をトラクターに乗せて夜の街を爆走する。

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当然、軍馬は警察に咎められるわけであるが、地元の大富豪である父・総一郎の権限で放免となる。

その後、総一郎は1人囲碁を打ちながら、軍馬や、亡き軍馬の母(総一郎の愛人)のことをなじり、軍馬はそれに激しく反発する。

蒼天航路脚本では、曹操が父と仲良く囲碁を打つ場面があり、まるで作品を越えて赤木父子が救済されたような感慨がある。演出も、重なるものがある。

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総一郎は軍馬を、自分の「出来の悪いイミテーション」のようだと吐き捨て、父子の溝は更に深まる。

軍馬は鬱憤を晴らすように、今度はタモツをトラクターに乗せて暴走、154台の車を抜く。タモツが「どこに行くんだ」と尋ねると、軍馬は「前だ。前に行くんだ」と答える。これはアニメでの追加台詞。高屋敷氏は、カイジ脚本でも、「死んだみんなのためにも…前だ!もっと前に行くんだ」というモノローグを追加しており、演出参加した家なき子のテーマの1つ、「前へ進め」への強い思い入れが窺える。

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軍馬の爆走が止まらぬ中、1台のBMWが勝負を挑んで来る。運転するのは、プロのレーサー、聖であった。原作と違い、恋人のルイ子も乗っており、彼女はタバコに火をつける。ここも高屋敷氏の、煙草へのこだわりが感じられる。あしたのジョー2脚本と比較。

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結局、軍馬達はプロである聖のBMWに敗北し、川に転落してしまう。
後日、軍馬はタモツの家を訪ねる。その際、軍馬は鶏から卵を奪って食べる。ほぼ原作通りの場面だが、はだしのゲン2脚本にて、原爆ドームに巣を作った鳥の卵を、ゲン達が食べる場面に重なる。

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軍馬は納屋にて、タモツが知り合いからチューンアップを頼まれていたスターレットを見つける。慌てるタモツであったが、「友達だよな」と迫る軍馬に参って、運転を許してしまう。発進するスターレットの演出が、元祖天才バカボンの高屋敷氏演出/コンテに重なる。かなりのシンクロで、驚いた。こういった奇跡が起こり続けるのが面白い。

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改造スターレットで爆走する軍馬であったが、偶然にも聖のBMWと再会。すぐに聖を追いかける。タモツは、軍馬の動体視力や状況把握能力に驚愕する。原作通りだが、アカギ脚本にて、アカギの才に驚愕する南郷と重なる。構成の組み立て方に共通性があるためか。

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改造スターレットをもってしても、聖のBMWとはスペック差があったのだが、軍馬はとんでもないショートカットをして、聖に追い付く。

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聖も聖で熱くなり、ルイ子に「相手はまだ子供よ」とたしなめられる。
こういった「男の無邪気さ」の描写は、高屋敷氏の得意とするところ。

車体をぶつけながら煽ってくる聖に対し、軍馬は自分の服を、聖の車に向かって投げつけ、運転を妨害する。原作では、更にとんでもない(放送できない)行為もする。脱衣や裸は、アイデンティティーの如何を絡めて、高屋敷氏の演出や脚本で強調される(カイジ然り)。ここでも、かなり強調されている。

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脱ぐものがなくなって全裸の軍馬は、アメリカから帰国した軍馬の異母兄弟、将馬・雄馬と、総一郎を乗せた車とすれ違う。総一郎は、更に怒りを募らせるが、温厚な雄馬は、軍馬を「元気そう」と評す。この場面は、どこか出崎演出的で、出崎兄弟と縁深い高屋敷氏が脚本であるのは劇的。

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結局の所、スターレットはガードレールに激突、勝負は終わる。アニメのオリジナルで、聖の背後に夕陽が映る。太陽や月の意味深な「活躍」は、高屋敷氏の作品には頻出。元祖天才バカボン演出/コンテ、ベルサイユのばらコンテ、あしたのジョー2脚本と比較。

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車を降りても聖と軍馬は衝突。軍馬は聖に殴りかかるも返り討ちにあい、吹っ飛ばされる。聖は「サーキットじゃな、お前より速いやつは五万といるんだぜ」と言い残し、去る。この台詞は、終盤のアニメオリジナルでの場面で非常に重要になってくる台詞らしいので、覚えておきたい。

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ちなみに聖は、どことなく雰囲気が「あしたのジョー」のホセや力石に似ている。高屋敷氏は脚本で、あしたのジョー(特に2)に深く関わっており(2の最終回含む)、なかなか運命的なものを感じる。

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全裸でボロボロになるも、軍馬は闘争心を高め、前を見据えるのだった。
同じく全裸でボロボロでも、絶対に諦めないカイジと比較。

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「守るものがない」裸状態での試練は、高屋敷氏の演出・脚本作で、よく強調される。

  • まとめ

1話からして、高屋敷氏の全力投球を感じ、圧倒される。
特にOPの「じぶん…らしさ…」という言葉は、「自分とは何か」という、高屋敷氏がよく出すテーマを直球で投げており、驚く。

今回も、天や自然といった「物言わぬもの」の活躍が目立つ。冒頭から花や鳥が活躍し、最後も太陽が映える。こういった、「演出でも脚本でも、やる事が同じ」という不思議な現象は、戦慄すら覚える。

序盤は、改造トラクターでカマロの鼻をあかすなど、痛快な展開を見せるが、軍馬の冷たい家族関係もクローズアップされる。「孤独」、「孤独救済」は、高屋敷氏が重点を置いている事の1つ。冷たい家庭で孤立する軍馬のフラストレーションや影が、時折顔を見せるように構成されている。

軍馬の孤独描写は、タモツに何回も言う、「オレとお前は友達だよな」という台詞の強調にも表れている。家族の中で孤立する軍馬にとって、タモツやユキ(軍馬を慕う、赤木家の使用人)は命綱とも言うべき存在であることの、うまい表現になっているし、高屋敷氏らしい強調だと思う。

そして、オリジナルで追加された「前だ。前に行くんだ」という台詞。前述の通り、カイジ脚本での追加モノローグである「前だ。もっと前に行くんだ」と重なるのが本当に感慨深いし、演出参加した(最終回含む)、家なき子の「前へ進め」は、高屋敷氏自身が、非常に大切にしているテーマなのだと感じられる。

ライバルである聖については、あしたのジョー2脚本で培った経験をフルに生かしていると考えられる。軍馬とカイジに重なるものがあるように、聖もまた、丈のライバルであるホセや力石に重なるものがある。その「重なり」は、高屋敷氏が自身の仕事に、持てる経験を、常に全力で注ぎ込んでいるために発生するのではないだろうか。

本作は、1話あたりの密度が濃く、原作消費スピードも速い。それでいて、効果的な追加シーンもある。これは、長い原作を超圧縮する必要があった、1980年版鉄腕アトムの脚本経験が生かされているように思える。この脚本技術は、約100ページを1話に圧縮するような事もある、カイジの脚本にも生かされており、そういう面でも繋がりが見られて面白い。

本作は、シリーズ構成かつ全話脚本ということで、高屋敷氏が発するテーマやメッセージは非常に濃い。当時の高屋敷氏の集大成とも言えるかもしれず、これからも、じっくりと取り組みたい。