カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-6話脚本:生き甲斐を提示する側の「責任」

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが真下監督、演出が杉島邦久氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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今回の話:
前回、免許取得直後に公道をレースカーで爆走した軍馬は一発免停。
そんな軍馬は、偶然目にしたビデオで、純子(同じアパートの住人)の恋人(龍二)が、レース中に事故死していたことを知る。
純子は、龍二が死の間際に見ていた「得体の知れない何か」を見届けるため生きていると、軍馬に告げる。軍馬は、その「何か」を自分が見せてやると宣言し、今日から仲間だと言うのだった。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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免停中の軍馬は、親友でメカニックのタモツと共に、ビデオデッキのある純子(同じアパートの住人)の部屋で、レースのビデオを見る。
軍馬は、月をダシにして純子を口説こうとする(原作では雪)。月や太陽は、高屋敷氏の作品では大きな役割を持つ。
画像は三日月シリーズ。今回、チエちゃん奮戦記脚本、空手バカ一代演出、蒼天航路・チエちゃん奮戦記脚本。

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タモツが軍馬の免停を嘆くのだが、原作よりも軍馬とタモツのやり取りが幼く、可愛い友情描写が得意な高屋敷氏の特徴が出ている。めぞん一刻脚本、元祖天才バカボン演出/コンテ、忍者戦士飛影脚本、エースをねらえ!演出と比較。

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純子は、軍馬とタモツに、最終目標を尋ねる。タモツはF3000と言うが、軍馬は「当然、F1だ」と宣言。すると純子は一瞬、深刻な表情になる。限界を知らずに大怪我しても知らないから、と言う純子に対し、「そのうちモナコのお月様見せてやるぜ。ベッドの中からな」と、軍馬は軽口を叩く。この台詞はアニメオリジナルで、この「お月様」というのが何とも、月に重要な役割を与え続けてきた、高屋敷氏らしい。

純子は、そんな軍馬を強く諌める。驚いた軍馬は、みかんを落としかけるも、バランスを取ってみかんをモグモグする。高屋敷氏の特徴である、食いしん坊描写が出ている。ルパン三世3期・MASTERキートン脚本と比較。

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純子は、「命を落としたらどうするの」と言うが、軍馬に「“心の底から軽蔑してる(前回、純子が宣言)”男がどうなろうと知ったこっちゃないんじゃねーのか」と言われ、「それもそうね」と矛をおさめる。
ここも、みかんをモグモグしながら物を言う軍馬が、原作より幼い。とにかく高屋敷氏は、「幼さ」の表現に長けている。

翌朝、軍馬は、さゆり(アパートの大家で、純子の叔母)から、純子の部屋で資料映像を見ておくように、とのタモツの伝言を聞く。

少々遊ぶなどするも、しばらくは大人しくビデオを見ていた軍馬だったが、次第に飽きて、他のビデオを漁る。すると、棚の奥にある1本のビデオを発見、再生する。

一方純子は、電車の窓に顔を映しながら、過去を回想する(アニメオリジナル)。「自分と向き合う鏡演出」は、高屋敷氏の演出・脚本作ともに多い。めぞん一刻脚本、ベルサイユのばらコンテ、忍者戦士飛影脚本と比較。

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原作では、啓太・ヒロシ(純子のレース仲間)と共に喫茶店で過去を思い出しており、少々異なる。

ここからは純子の回想と、軍馬の見るビデオが、平行進行する。アニメオリジナル演出で、うまくできている。

ビデオには、純子の恋人・龍二が映っていた。彼はF3レーサーで、純子とは結婚寸前の仲だった。

アニメでは、純子の回想として、純子と龍二の仲睦まじさが追加描写されており、龍二は純子の手を握る。手から手へ「心」を伝えるのは、高屋敷氏の大きな特徴。
ルパン三世3期脚本、カイジ(シリーズ構成)、ワンナウツ脚本と比較。他も多数。

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回想の中で純子は、ビデオカメラを構える。生きているようなレンズのアップ・間があるのだが、「魂を持つような、物言わぬ物」のアップ・間は、高屋敷氏の作品には頻出。ロボットも、無口タイプが多い。
1980年版鉄腕アトム花田少年史MASTERキートン・1980年版鉄腕アトム脚本と比較。

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純子のビデオカメラは、龍二のマシンを捉える。だが龍二のマシンはトラブルでクラッシュ、爆発炎上してしまう。軍馬も、その瞬間をビデオで見て、衝撃を受ける。
後から入ってきたさゆりはビデオを止め、龍二は純子の最愛の男だったが、2年前に、この事故で死んだと告げる。そして、龍二が純子の中に住み着いている限り、純子を手に入れることは出来ないと指摘する。

翌朝、ランニングに出る際に軍馬は、龍二の名を呼びながらうなされる純子の言葉を耳にしてしまう。何故か無性に腹が立った軍馬は、純子の部屋の窓ガラスを叩き割ってしまう。

一方その頃、聖(軍馬の後のライバル)はジムでトレーニング。ここはアニメオリジナルで、極力、聖を出しておきたいという、シリーズ構成の意図が感じられる。

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その後、免停講習を受けに行った軍馬は、様々な自動車事故の写真を見ながら考え込む。ガムをふくらますのは原作通りだが、ガム風船が意味深に割れるのはアニメオリジナル。ここも高屋敷氏特徴の、「意思を持ち、動く物」の描写。めぞん一刻蒼天航路忍者戦士飛影マッドハウス版XMEN脚本と比較。

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講習後、森岡モータース(タモツの知人の店で、タモツと軍馬のバイト先)に、愛車の改造トラクターで寄った軍馬は、タモツを拾うと走り出す。
無事に免許を取り戻した軍馬は、レースをやるために必要なライセンスを一刻も早く取得してレースをやりたいと言い出す。
ここはアニメオリジナルで、軍馬の焦りが、よく表れている。

アパートでは、軍馬へのプレゼントを服の中に隠し持って、さゆりが軍馬の帰りを待っていた。高屋敷氏は、味のある老人描写が上手い。画像は、味のあるおばあさん集。
今回と、チエちゃん奮戦記・めぞん一刻MASTERキートン脚本。

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帰宅した軍馬は不機嫌で、純子に、「惚れた男が目の前で死んだのに、なんで死ななかったんだ」と、問い詰める。
軍馬はビデオを見たこと、うなされていたのを見たことも告げる。
場は険悪なムードになるが、さゆりは機転をきかせ、プレゼントのヘルメットを軍馬に被せる。
ヘルメットには、軍馬とタモツのイニシャルであるGとTがデザインされていた。
ところで、原作通りではあるが、「贈り物」は高屋敷氏の作品で強調される。贈り物は、「意思がこもった物」であるためと考えられる。

軍馬のフラストレーションは治まらず、彼はヘルメットを被ったまま純子を押し倒し、先ほどの質問を繰り返す。

純子は「死にたかったわよ」と言う。
それでも純子が死ねないのは、龍二が死ぬ直前、「得体の知れない何か」を見ていたからで、それを自分も見届けたいからだと言う。ジョー2脚本で、丈やホセが常人には見えないものを見ていたのが思い出される。

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軍馬は、純子の気概も、ヘルメットのデザインも気に入ったと言う。ただ、ヘルメットに「足りないものがある」と言って、純子の唇に口紅を塗り、そこにヘルメットを押し付け、口紅の痕をつける。
原作通りだが、口紅描写は高屋敷氏の作品に多い。ルパン三世演出/コンテ、蒼天航路めぞん一刻脚本と比較。

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ヘルメットに口紅をつけた意図は、純子、軍馬、タモツで、一緒に「得体の知れない何か」を見ようということ。
そして軍馬は、その「何か」を見せてやると宣言。
感情をぶつけ合いながら、チームを結成する様は、カイジ2期脚本にて、遠藤・坂崎・カイジがチームを結成する場面に重なるものがある。

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純子は「サイテー男」と言い、軍馬は「そのサイテー男が見せてやるぜ。だから今日から俺達は仲間だ」と返す。「サイテー男」「そのサイテー男が見せてやるぜ」は、アニメの追加台詞。ポンポン台詞をリレーさせるのは、高屋敷氏の脚本上の特徴。ここは、うまい追加だと思う。

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「仲間」と宣言することを強調するのも、カイジ2期脚本の、カイジ・遠藤・坂崎チーム結成シーンを彷彿とさせる。また、長年高屋敷氏が描写している、「孤独」「孤独救済」も表れている。

純子は「…見せて…もらうわ」と睨み返す。原作通りだが、「具体的な“生き甲斐”を提示することで、生きる気力を取り戻させる」という、高屋敷氏の、メンタルヘルスについての鋭い先見の明が窺える。他の作品でも、数多く描写されている。

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  • まとめ

ここに来て、「死」の描写が出てくるわけであるが、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)でも、ヒロイン・響子の夫、惣一郎の死を取り扱っている。

めぞん一刻の主人公・五代は、最終的に、「(響子の中にいる)惣一郎をひっくるめて、響子と結婚する」という決断に到る。

一方軍馬は、アニメでは、「常に前に行く」というポリシーを持つ男として描かれる。そんな軍馬は、「後ろ向き」な姿勢を見せた純子に苛立つ。

これは私の解釈だが、「後ろ向きに生きるくらいなら、前を向いて死んだ方がマシ」という考えから、「なんで死ななかったんだ」と、軍馬は純子に問い詰めたのではないだろうか。

だが純子は、龍二の見ていた「得体の知れない何か」(つまり命を賭けた勝負の先にあるもの)を見届けたいから生きていると答えた。それは軍馬の「気に入る」前向きな答え。だから軍馬は「仲間」だと言い、自分こそ「何か」を見せることができる男だと宣言した。

つまり軍馬は、荒療治ではあるが、純子に、自身の生きる意味を再認識させた。しかも、その上で、具体的な「生き甲斐」も提示した。
高屋敷氏は、自殺願望者や、生きる気力の無い人への対処として、具体的な生き甲斐の提示を行うことと、孤独にさせないことを描く。これは最初期演出の、ど根性ガエル演出の頃から描かれている。

このあたりは、高屋敷氏を探求する上で非常に興味深いところ。自殺や精神疾患に対する、鋭い先見の明が見られるのだ。認知行動療法に近いものもある。
特に、「具体的な」生き甲斐の提示を行うのは、自殺の止め方として現実的。そして、提示する側は、それなりの責任を持つ必要があることも描かれる。

軍馬の場合は、純子に「何か」を見せる責任を負うことになるし、カイジ2期(脚本・シリーズ構成)の場合は、カイジは、とんでもなく困難な勝負に勝たなければならないという責任を負っている。

カイジ2期(シリーズ構成・脚本)においてカイジは、幾多の困難を乗り越えて「勝つ」姿を見せることにより、仲間達に希望を見せることができた。
軍馬の場合も、まだこれからになるが、「得体の知れない何か」を純子に見届けさせるため、数々の修羅場をくぐることになるのだと思う。

そう思うと、「生き甲斐を提示する側」の覚悟と責任は尋常ではない。だが、それができるキャラ(主に主人公)であってほしいという、高屋敷氏の願いも込められているのだと思う。
まだ序盤ではあるが、純子や軍馬の「生きる」意味が重く描かれ、高屋敷氏のポリシーが色濃く感じられた回だった。