カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-7話脚本:“今”を走る

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、演出/コンテが谷田部勝義氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

アニメオリジナルエピソード。
軍馬の異母兄・将馬に強引に迫られたユキ(軍馬を慕う、赤木家の使用人)は、赤木家を出て、軍馬の住むアパート・小森荘に転がり込む。
レースに出るためのA級ライセンスを取得する直前だった軍馬は、ユキに自分の夢を語り、ユキもそんな軍馬を益々慕う。
だが、色々な状況を汲み取ったユキは、アパートを去る。引き止めようとする軍馬だったが、ユキを迎えに来た将馬に邪魔される。二人は乱闘となるが、ユキは自ら、赤木家に戻ると言って将馬を止め、軍馬に「夢を叶えて」と言い残す。
A級ライセンスの実技試験にて、軍馬は改造トラクターで疾走し、ユキのためにも、世界最速の男になる事を誓うのだった。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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冒頭、将馬(軍馬の異母兄)がユキに強引に迫る描写があるが、踏みにじられる写真立て等、「物」が事象を代弁するつくりになっている。「物」が「語る」描写は、高屋敷氏の作品に頻出。蒼天航路コボちゃん忍者戦士飛影脚本と比較。

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この一件で居づらくなったユキは、赤木家を出て、軍馬の住むアパート・小森荘を訪ねる。

一方、軍馬とタモツ(軍馬の親友で、天才メカニック)が、A級ライセンス取得のためのトライアル走行から戻る道中、飛行船が映る。コボちゃん脚本でも、飛行船が映っており、意味深な情景や「間」を、(絵を管理できない)脚本からでも指定できることが窺える。

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A級ライセンス(取得は結構簡単)を取れればレースができる、と軍馬は喜び、タモツを抱き寄せてナデナデする。高屋敷氏が得意とする、可愛く無邪気な友情描写。ナデナデも、よく出てくる。
ど根性ガエル演出、じゃりン子チエ脚本と比較。

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帰宅した軍馬とタモツは、ユキの来訪に驚く。軍馬は、将馬と何かあったのだと察する(が、ユキは否定する)。
純子(小森荘の住人)は、(自覚は無いが)あからさまに嫉妬し、軍馬は困惑する。
更に、ユキを自分の部屋に泊める、と屈託無く言い出す軍馬に、小森荘の皆は騒然。
原作だと、軍馬とユキは肉体関係があったが、アニメでは、一緒に育った仲…といったニュアンスになっている。
純愛を好む傾向にある、高屋敷氏らしい改変。

軍馬はユキを改造トラクターに乗せ、夜の街を走る。あしたのジョー2脚本にて、葉子(ヒロインの一人)が丈を乗せて、スポーツカーで疾走する場面が思い出される。

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もうすぐレースに出れる軍馬は、世界最速の男になる、と自分の夢を語る。それを聞くユキは、益々軍馬に惹かれるが、その後に複雑な表情を浮かべる。

二人は港で語らうが、ここも、あしたのジョー2脚本の、海辺で語らう葉子と丈に重なっていく。

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ユキは、純子は素敵な人だと言い、軍馬と純子の心情を察する。ユキの背後を船が横切っていくが、長年、高屋敷氏と一緒に仕事した出崎統氏が、よくやる演出。高屋敷氏の場合は、脚本からでも、これをやれるのが不思議なところ。MASTERキートン・アカギ脚本、ルパン三世2nd演出/コンテと比較。

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ユキは、「軍馬様のバカ」と、軍馬をからかい、軍馬もそれに無邪気に反応する。ここも、あしたのジョー2脚本にて、無邪気に笑い合う丈と葉子の場面と重なる。高屋敷氏自身、相当に、あしたのジョー2脚本(30話)を意識しているのではないだろうか。また、無邪気なやり取りが、非常に高屋敷氏らしい。

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はしゃぎすぎて海に落っこちた軍馬は、自室で凍える。そこへタモツが訪ねて来て、ユキが赤木家を出たのは、よっぽどの事があったのではないか?と懸念する。
一方、ユキは純子の部屋で寝ることに。ここで、高屋敷氏がよく出す、「状況を映し出す鏡」が出てくる。めぞん一刻カイジ脚本、ベルサイユのばらコンテと比較。
ここでは、軍馬に惹かれている二人を客観的に映している。

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純子は、レースをやるということは、生半可なことではないが、もしタモツの言うように、軍馬が天才なら…と話し、ユキは、「軍馬様なら、きっとやります!」と熱くなる。が、ユキは我に返り、「私も夢を探さなくちゃ」と、床につく。だが、迫って来る将馬を思い出し、ユキは苦しむ。

翌朝、ユキは置き手紙を残して出て行ってしまう。手紙描写は、高屋敷氏の演出・脚本作ともに、実に多く、かつ印象的に描写される。カイジ2期脚本、家なき子演出と比較。

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入れ替わりに、将馬が小森荘を訪ね、ユキを連れ戻しに来たと言うが、軍馬は反発。だが、将馬の部下に殴り飛ばされる。
純子は、軍馬の家庭環境を目の当たりにして、複雑な表情を浮かべる。前回、純子の過去が明かされたことを考えると、面白い対比。

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森岡モータース(軍馬とタモツのバイト先)にて、タモツは、ユキが出て行ったのは、軍馬が純子を好きなことを察したからではないか?と鋭い推察をする。軍馬は素直に認めたがらず、赤面する。
ここも、「男の純粋さ」を好む、高屋敷氏らしい描写。画像は、「男の可愛さ」集。今回、カイジ2期・めぞん一刻脚本。

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A級ライセンス試験の日、筑波サーキットに向かおうとした軍馬と小森荘の皆は、途中でユキを見かける。横断歩道でユキを発見するという展開が、カイジ2期脚本(オリジナル部分)と重なる。高屋敷氏の好みのシチュエーションなのかもしれない。

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無茶な運転で車を破損させるも、軍馬達はユキに追いつく。孤独な人のもとに、仲間が来てくれる状況は、高屋敷氏の作品には多い。ど根性ガエル演出、コボちゃん脚本と比較。

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だが、そこへ将馬が現れて、ユキを連れ戻そうとし、軍馬と将馬は殴り合いに。高屋敷氏が、あしたのジョー2(最終回含む)の脚本を書いたことが思い出される。
ど根性ガエル演出、あしたのジョー2脚本と比較。

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ユキは二人を制止し、赤木家に戻ると申し出る。ユキは、「きっと夢をかなえて」と軍馬に言い残して将馬の車に乗り、去る。
タモツは、ユキの気持ちを無駄にしないよう、改造トラクターに乗り換えてA級ライセンス試験に行けと進言。

タモツの進言に従い、軍馬は改造トラクターで筑波サーキットを疾走(実技試験)。

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それを、聖(軍馬の後のライバル)が見つめ、「奴は“今”を走っている。若さ丸出しの走りでな」「死を恐れない、怒りの走り方だ」とルイ子(聖の恋人)に話す。
ここの聖はかっこよく、アニメ版の名台詞だと思う。

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軍馬は、ユキのためにも、「世界最速の男」になると誓うのだった。

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このように、アニメオリジナルパートは、軍馬のモチベーションを上げるものが多く、原作をうまく補完していっている。

  • まとめ

原作序盤(軍馬の上京前)にて、ユキは将馬に犯されているのだが、アニメでは(今のところ)明確になっていない。
原作では、ユキと軍馬は、再会するまで1年かかるが、アニメでは、今回会えている。

原作のユキは、どんどん不幸になって行ってしまうのだが、アニメでは、多少の救済が行われているように感じる。

軍馬とユキのデート場面が、あしたのジョー2脚本の、丈と葉子のデート(?)場面と重なるのは感慨深い。どちらも、「今しかない、束の間の楽しい一時」を過ごす。
あしたのジョー2の場合は丈の、本作の場合はユキの今後を考えると、非常に切ない。

高屋敷氏は、友情にしろ恋愛にしろ、「無邪気さ・可愛さ」の表現に長けている。その「無邪気さ」が、後の悲しい展開を引き立たせることがあり、今回もそれに該当する。
ユキが「今夜のこと、一生忘れない」と言うのも、後の悲しい展開の伏線になっている。

また、「孤独」「孤独救済」も高屋敷氏の持ち味であるが、「孤独救済に失敗すると、破滅が待っている」という悲劇展開もある。今回は「孤独救済失敗」にあたり、ユキは今後、破滅に向かう。ただ、ユキの運命は原作とアニメで大きく異なるようなので、今後を見守りたい。

今までも、アニメオリジナルパートは、軍馬の、レーサーになるというモチベーションを上げるものが多かったが、今回のオリジナルエピソードは、話全体で、軍馬のモチベーションを上げている。

前回、純子の過去が明かされたが、その上で、軍馬と純子の距離は縮まった。
そして今回、ユキの登場により、純子の心が揺れ動くようになっている。
ラブストーリーの面でも、構成の計算高さが出ていて面白い。

そして、聖の言う「奴は“今”を走っている」という台詞。“真っ白になるまで”、“今”を燃やし尽くした丈を描いた、あしたのジョー2最終回の脚本を、高屋敷氏が書いたことを考えると感慨深い。ちなみに、あしたのジョー2最終回のサブタイトルは、「青春は“いま”…燃えつきた」である。

更に聖の言う「死を恐れない、怒りの走り方」。あしたのジョー2脚本では、恐れを知らない丈の戦い方に、ホセ(丈の最後の対戦相手)が畏怖する場面があり、それが思い出される。また、聖の今後を考えると、重要な伏線になっているのも上手い。

軍馬は前回、純子の思いを背負う覚悟をし、今回、ユキの思いも背負った。そして、聖の言う通り、「今を」走る。

今回で、軍馬がレーサーとなることへの「重み」が加味された。その意味でも、「意義のある」アニメオリジナルエピソードだった。