カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-12話脚本:様々な感情を秘めた「沈黙」

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が谷田部勝義氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

筑波FJ1600レース予選が始まった。
軍馬は砂井(上位ランカー)に執拗に狙われ、バトルになる。その渦中に巻き込まれた岸田(軍馬を慕うインテリ青年)は、砂井の体当たりによりマシンを吹っ飛ばされ、重症を負う。
岸田の思いを背負い、軍馬は雄叫びを上げてコースに復帰。予選をギリギリで通過するのだった。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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冒頭、アニメオリジナルで、砂井(軍馬と確執のある上位ランカー)が、仲間と喫茶店で話す場面があるが、モブに個性があり、高屋敷氏の特徴が出ている。
また、砂井が愛車(以前、軍馬に壊された)を大事にしていたと語るあたりは気の毒で、善悪のラインを明確にしない傾向にある、同氏らしい追加要素。

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予選前日、軍馬のチームの皆は準備に追われる。タモツ(軍馬の親友で、メカニック)は軍馬に走行プランを叩き込もうとするが、軍馬は真面目に聞かず、漫画を読む。原作ではセクシーグラビアだったが、漫画に改変して幼さを出すあたり、高屋敷氏らしい。漫画を読んで爆笑する様子も幼い。

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ちなみに、軍馬の読む漫画がいしいひさいち氏タッチ。 高屋敷氏は、劇場版がんばれタブチくんの構成や、おじゃまんが山田くんの脚本陣として、いしいひさいち氏の作品に関わっている。奇跡的な偶然かもしれないが、縁を感じる。

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軍馬と同じアパートの住人で、本職はデザイナーの松浦(名はヒロシ。途中からクレジット表記がヒロシから松浦に変わったので、以降松浦とする)が、マシンにペイントを施してくれる。派手なデザインであるが、軍馬はそれが気に入り、松浦と意気投合。

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聖(後の軍馬のライバル)と同じ走り方をすれば上位に食い込めると言うタモツに、あくまでトップを取りたい、と軍馬は反発。このやりとりも高屋敷氏らしく、原作より幼い。挙げればキリがないが、陽だまりの樹脚本と比較。

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夜、チームの皆は、さゆり(軍馬の住むアパートの大家)の作った弁当を食べる。高屋敷氏特徴の飯テロ。グラゼニ脚本、元祖天才バカボン演出/コンテ、カイジ2期・コボちゃん脚本と比較。

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夜更け、焚き火のアップが映る。これは、高屋敷氏の演出/脚本作で多く見られ、こだわりが感じられる。MASTERキートン脚本、ど根性ガエル演出、太陽の使者鉄人28号脚本と比較。

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焚き火にあたる純子(軍馬と同じアパートの住人で、ヒロインの1人)は、整備中のタモツに、「レース前の緊張感を抑えながら、静けさの中でじっとしているのが好き」と語る(アニメオリジナル)。あしたのジョー2(脚本)にて、丈が似たような事(勝負前の静けさが好き)を語っており、興味深い。高屋敷氏の好きなものなのかもしれない。

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そんな中、純子は、いつの間にか眠りこけていた軍馬の「純子ぉ~」という寝言を耳にする。さすがに純子は和む(アニメオリジナル)。
めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)でもそうだったが、ヒロインの母性本能をくすぐる状況作りが、高屋敷氏は非常に上手い。無邪気な寝顔もよく出る。陽だまりの樹めぞん一刻カイジ2期脚本、ど根性ガエル演出と比較。

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優しく起こしてあげようとした純子だったが、軍馬が寝惚けてキスしようとしたので殴る。
この直後、タモツが焚き火を消火する場面になる。これは、ちょっとした恋の炎が鎮火されてしまった事を示唆。
「物」が「語る」のは、高屋敷氏の大きな特徴の一つ。

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更にアニメオリジナル展開は続き、緊張して眠れない岸田(軍馬を慕うインテリ青年)が、軍馬に会いに来る。そこで、軍馬は岸田の愛車を運転し、周辺をドライブして岸田をリラックスさせてやろうとする。以前も書いたが、やはり岸田と軍馬の関係は、高屋敷氏が演出参加したど根性ガエルの、ひろしとゴロー(ひろしの後輩)を思わせる。

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そこへ砂井と取り巻きが現れ、軍馬と乱闘になる。これもアニメオリジナル展開。空手バカ一代演出/コンテの、飛鳥(主人公)の弟子・高津の私闘が思い出される。
今回の場合は、通りかかった聖が止めに入り、空手バカ一代の方は、駆けつけた飛鳥が乱闘を鎮める。そして聖も飛鳥も、私闘を諌める。

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予選当日。ここから、原作と大きく異なるアニメオリジナル展開になる。

砂井は、聖に私闘の事を謝るが、無視され消沈。更にそれを見ていた軍馬に煽られ、彼は益々軍馬を憎む。軍馬の煽り文句は軽妙でテンポがよく、高屋敷氏の筆が冴えている。

スタート時に、飛行船が太陽を横切るが、何かが太陽を横切る画は、色々な高屋敷氏の作品に見られる。
蒼天航路・太陽の使者鉄人28号脚本、ルパン三世2nd演出/コンテと比較。

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砂井は軍馬に執拗に攻撃を仕掛けようとするが、砂井の攻撃パターンを学習した軍馬にかわされる。
ここのやりとりもテンポがよく、高屋敷氏の筆がノっている感じがする。

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軍馬と砂井のバトルに巻き込まれた岸田は、砂井の攻撃によりマシンを吹っ飛ばされ大怪我を負う。自分のことはいいから、レースに戻って欲しいと言う岸田のため、軍馬は雄叫びを上げて走り出す。友達のために熱くなる所は、ど根性ガエル(演出)を思い出す。ひろしも、ゴローを泣かせる相手に立ち向かう。

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予選は終わり、静寂がサーキットを包む。ここも、高屋敷氏の大きな特徴、何かを語るような、意味深な「物」のアップが続く。カイジ2期・グラゼニ脚本と比較。

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そしてマシンの上に寝そべる軍馬が、色々な感情を秘めて目を開ける。この、色々な感情を秘めた「無言の間」は、カイジ2期脚本にも表れている。

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軍馬は、ビリから2番目ではあるが予選を通過。原作では事故で予選落ちしており、大きく異なっている。
空には飛行船が飛んでおり、コボちゃん脚本と重なる。

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静かに予選通過の報を聞く軍馬は、ゆっくり起き上がって上を見据えるのだった。

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  • まとめ

原作では予選落ちの所を大きく改変。他もオリジナル部分が多い(ほぼ2/3)。
これは、シリーズ構成において、1クールの節目に盛り上がるポイントを作るためと思われる。その証拠に、次回は非常に熱い展開となる。

原作では、岸田が怪我をするのは、もっと後で、扱いもコミカル。スタッフに愛されていたのか、または高屋敷氏が、ど根性ガエルのゴローと重ねていたのか、アニメでは岸田の出番が増えている。

今回、岸田の怪我により、軍馬は色々な感情を抱き、予選通過の報も、どこか放心状態で聞く。この、「色々な感情を秘めた上での沈黙」は、高屋敷氏も、監督の真下氏も得意としており(おそらく演出/コンテの谷田部氏も)、各氏の個性がうまく融合していると思う。作画面でも、軍馬が目を開けるカットは印象深い。

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アニメオリジナルで盛り上げたいからといって、安易に明るい展開にせず、どこか暗い影を漂わせる所が、作品に深みを持たせている。また、真下監督も、ハイテンションとローテンションの差が激しい作風であり、それが今回、目立つ形で表れている。オリジナル部分が多いためだろうか。

あと、キャラクターの「幼さ・無邪気さ」の積み重ねにより、純子が軍馬の寝顔に和んだりする事への説得力を持たせた手腕も見事だと思う。初期の演出作からして、高屋敷氏は「可愛さ」(老若男女に適用)を表現するのが非常に上手い。

また、そういった「可愛さ」が少年や青年に適用される場合、成長して「豹変」するよう仕掛けるのも、高屋敷氏の大きな特徴。これは、カイジのシリーズ構成でも絶大な効果を発揮している。本作のシリーズ構成も、回を追うごとに、その手腕の見事さに気付く。これは次回に詳しく書いていきたい。

今回は、次回へのボルテージを上げるための回として機能しており、そういった、シリーズ構成としての計算高さも感じることができる。はっきり言って本作は、期待を遥かに超えてきており、すっかり夢中になってしまった。今後も追うのが楽しみになった。