カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンダービートS 12話脚本:絶望からの成長

ワンダービートSは、手塚治虫氏が企画や監修に携わったオリジナルアニメ。ミクロ化してヒトの体内に侵入し、害をなす異星人に対し、同じくミクロ化して戦う部隊・ホワイトペガサスの活躍を描く。
医学博士でもある手塚治虫氏の、医学解説コーナーもある。
監督は、前半が出崎哲氏、後半が有原誠治氏。
今回は、コンテ/演出が中村隆太郎氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

ホワイトペガサス隊は、ビジュール星人の使う信号の解析を進め、彼等の言語の翻訳に成功。交信可能なシステムを作る。

そしていつもの如く、市民の体内に侵入(今回はリンパ節)してきたビジュール星人と、ホワイトペガサス隊は戦闘。

戦闘後、リー隊長はビジュール星人とのコンタクトを図るが、ビジュール星人は話し合いを拒む。ススムが、父(宇宙探査中に行方不明)の乗った宇宙船について彼等に尋ねると、「宇宙の闇に消えた」との返答が…。

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本記事を含めた、ワンダービートSの記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88S

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寝坊したススムが慌てて部屋を出た拍子に、父とススムが写った写真が入った写真立てが割れる。ベタではあるが、「物」が「語る」シーンは、高屋敷氏の担当作に頻出。F-エフ-脚本と比較。こちらも写真立て。

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フェニックス・タワー(ホワイトペガサス隊本拠地)に急ぐススムはスピード違反し、警官から注意を受ける。後に、この警官の体内にビジュール星人が入り込むことになる。
名無しキャラだが、なかなか味がある。モブに色々個性を与えるのも、高屋敷氏の特徴。

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フェニックス・タワーでは、ホワイトペガサス隊隊員のジョーが、ビジュール星人の言語の解析を完了。
それを喜ぶ、ススムとビオ(サポートロボット)が可愛い。高屋敷氏の演出作・脚本作とも、喜び方が可愛いシーンは多い。陽だまりの樹脚本と比較。

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その後ホワイトペガサス隊は、警官(前述)のリンパ節に入り込んだビジュール星人を撃退すべく出動、ビジュール星人の放ったモンスターを撃破する。

戦闘後、リー隊長はビジュール星人(今回まで、地球側は「ヒュー」と呼んでいた)とのコンタクトを図る。

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リー隊長の呼びかけに、ビジュール星人達は驚く。

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シリーズを通して言えるが、ビジュール星人達は、彼等なりに必死に「生命元素」なるものを探しており、悲哀がある。高屋敷氏も、善悪のラインを明確にしない特徴がある。

しかしながら、ビジュール星人達は、話し合いを拒む。
ススムが、父の乗っていた宇宙船について彼等に尋ねると、彼等は「宇宙の闇に消えた」と答える。
それを聞き、ススムは絶望。主人公が絶望する回も、高屋敷氏は多く担当しており、カイジ2期でも、カイジが班長に負ける回(3話)の脚本を書いている。

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思うに高屋敷氏は、絶望から立ち上がる主人公の成長を描きたい意向があるのではないだろうか。

ススムは、確実な情報を得るまでは、父の死を信じたくないと思うのだった。ここでも少し、絶望からの立ち直りを描いている。

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  • まとめ

前述の通り、「絶望からの成長」を描きたいという、高屋敷氏の意向が少し窺える。
家なき子演出では、仲間(動物)やビタリス(師匠)の死を乗り越えて成長するレミが描かれた。

また、カイジ(シリーズ構成・脚本)は、アニメタイトルの「逆境無頼カイジ」の通り、いかにカイジが逆境を乗り越えるかどうかが胆。

このように、絶望や敗北から立ち上がる主人公を描くことが、高屋敷氏は多い。
同氏の構成(特にシリーズ構成)は、そういった主人公の「成長」をテーマの一つとすることが多く、その成長ぶりには、いつも驚嘆させられる。

今回はシリーズ構成ではないので、次回以降のスタッフへバトンを渡すことになるが、次回以降、ススムが徐々に成長していく様子が描かれており、バトンが確かに渡っている。

あと、今回の演出/コンテの中村隆太郎氏(鬼籍が悔やまれる)は、高屋敷氏と同じく、マッドハウス出身。
ど根性ガエルにて高屋敷氏が演出した回では、中村隆太郎氏の似顔絵が出ている(アニメーターの大橋学氏にツイッターで質問したところ、教えて頂いた)。

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それを踏まえると、脚本の高屋敷氏の意向が、演出/コンテの中村隆太郎氏にうまく伝わっていたのではないだろうか。

今回は、キャラクターの成長を描きたいという、高屋敷氏の熱意の片鱗を見たような回だった。