カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-20話脚本:誰も踏み込めない領域

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが真下耕一監督、演出が遠藤徹哉氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

筑波FJ1600レース(参戦2回目)決勝。
砂井(上位ランカー)や、その取り巻き達との激しいバトルの末、軍馬は見事、初優勝。
喜びも束の間、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)は、聖(軍馬のライバル。病を抱える)のメカニックになることにしたと、軍馬に告白する…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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レース開始早々、軍馬は砂井(軍馬と確執のある上位ランカー)から執拗な攻撃を受ける。
砂井は「テクニックだぜ、テクニック!おめーなんかとテクニックが違うのよ!」と言うが、原作からアレンジが加えられている。高屋敷氏は、単語を繰り返してリズムを調整する傾向がある。

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砂井と軍馬は、コーナーを前に、どちらが先にブレーキを踏むかの勝負をする。
ギリギリを攻める軍馬に根負けして、砂井は先にブレーキを踏んでしまいコースアウト。アカギ脚本のチキンランと重なってくる(両作とも原作通りだが)。

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コースアウトする砂井を尻目に、軍馬は「テクニックだぜ、テクニック!おめーなんかとテクニックが違うのよ!」と、砂井の言葉をそっくりそのまま返す(アニメオリジナル)。繰り返しを効果的に使う、高屋敷氏のクセが出ている。
直後、バランスを崩す軍馬であったが、片輪走行で持ち直す。これにはギャラリーも拍手喝采

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しかし、砂井とグルになっている、周回遅れの者達が軍馬を囲んで妨害。
それを見たタモツ(軍馬の親友で、メカニック)は、「自分の力で切り抜けてみるだよ!見せてけろ…!」と言って、軍馬に期待する(アニメオリジナル)。ここは、自分と向き合い、自分で決めた道を行け…という、高屋敷氏が長年扱っているテーマが出ている。

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タモツの期待に応えるように、軍馬はマシンをジャンプさせて状況を打開。

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原作では飛んだままゴールし、マシンがクラッシュ・炎上するが、アニメでは着地に成功。ルパン三世2nd演出/コンテにて、ジャンプさせた列車を着地させる場面が思い出される。

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そしていよいよ軍馬は、砂井との一騎討ちに突入。ここは作画や演出が凄い。

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この勝負に勝ち、軍馬は見事優勝。タモツは感無量で、それを見守る。

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少し頬の内側を切るも、軍馬は無事で、報道陣に軽口を叩く(アニメオリジナル)。原作ではマシンがクラッシュ・炎上して彼は大怪我するので、展開が大きく異なってくる。

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報道陣に、聖(軍馬のライバル)と握手するよう促される軍馬だったが、聖の手を払いのけて、これを拒否(アニメオリジナル)。

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「手」による「感情の伝達」を、高屋敷氏はよく使う。ワンダービートS忍者戦士飛影脚本と比較。

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ワンダービートS脚本では、「手は第二の脳」という台詞があるほどで、同氏にとって「手」は重要であることがわかる。

聖と軍馬は一触即発状態となるが、さゆり(軍馬の住むアパートの大家)に、表彰式に出るよう促され、軍馬は矛を収める。
アニメでは、さゆりが目立っており、お年寄りを活躍させる、高屋敷氏の傾向が出ている。めぞん一刻でも、ゆかり(五代の祖母)が原作より目立つ。

その後、軍馬とタモツは、祝勝会をするべく、中華料理屋で皆を待つ。
大衆的な店構えに軍馬はぶーたれる。
不思議なことに、高屋敷氏の、他の担当作と画が似てくる。ど根性ガエル演出、ベルサイユのばらコンテ、ワンダービートS脚本と比較。脚本からコンテ師が想像する画が共通してくるのだろうか?

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タモツは、聖のメカニックをやることにした、と軍馬に告げる。
それを聞いた軍馬は、口論の末、「オレだって一生懸命やってるんだからよ…初優勝だぜ…祝勝会だぜ…」と、虚しさをたたえた顔で言う(アニメオリジナル)。軍馬の台詞はリズムが取れており、高屋敷氏のクセが出ている。

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本当の訳(聖の病気)は話せないが行かせてくれと頼むタモツであったが、そこへチームの皆(+さゆり)が現れ、タモツに訳を問い詰める。
ほぼ原作通りだが、仲間がいる事を、高屋敷氏はあらゆる作品で描く。
ど根性ガエル演出、元祖天才バカボン演出/コンテと比較。

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そして、グラスの意味深アップ・間がある。これは、高屋敷氏の特徴の一つで、多くの担当作に表れている。めぞん一刻脚本、ベルサイユのばらコンテ、カイジ2期・蒼天航路脚本と比較。

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タモツは、今でも軍馬と同じ夢を持っているが、「それでも行くことに決めただよ」と言う(アニメオリジナル)。ここも、高屋敷氏のテーマ「自分で自分の道を決めろ」が出ている。

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黙ってそれを聞く軍馬は、足でグラスを転がす(アニメオリジナル)。これも、同氏がよく使う、状況と連動する「物」。

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軍馬は静かに言う。
「行っちまえ…行っちまえよ…てめえの顔なんか見たくもねえ…」

ここで、あしたのジョー2・カイジ脚本と比較。

丈:
「葉子…葉子はいるか…」
「こいつ…こいつをよ…もらってくれ…」

カイジ:
「18だ…次の張りは…18ミリで勝負だ…」

台詞のアレンジの仕方やタメが共通で、よりドラマチックになっている。

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原作では、「行っちまえ…てめェの顔なんぞ見たくもねェ!!」であり、アニメのイントネーションは大きく異なる。
親友だからこそ、タモツの決意が固いことがわかってしまった軍馬の、様々な感情の渦巻きが感じられるように出来ている。
軍馬役の、関俊彦氏の名演も光る。

軍馬は更に言う。「軍馬さんはよ…てめえなんかいなくても勝てんだよ…ガンガンな…」
ここも、原作とイントネーションが大きく異なる。
それを聞くタモツも、少し笑みを浮かべ頷く。この反応も、アニメオリジナル。

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「男の友情」の表現に長ける、高屋敷氏ならではの解釈が出ている。

軍馬とタモツは立ち上がり、互いに頷き合う。そして軍馬はタモツを一発殴る。

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ここも、原作と雰囲気が異なり、互いに頷き合うのはアニメオリジナル。「二人の世界とケジメ」が、より濃く描かれ、高屋敷氏が得意とする「男の世界」が炸裂。

店を出たタモツは、少し微笑み、一礼して去るのだった(アニメオリジナル)。

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この場面も、軍馬とタモツにしかわからない領域が描かれており、感動的な追加。こういった、言葉が無くても通じ合える関係を、高屋敷氏は多くの作品で表現している。これには本当に敬服する。

  • まとめ

レース部分では痛快さが、ドラマ部分では切なさが見事に描かれる。
終盤の、タモツと軍馬のやり取りは名シーン。高屋敷氏は「男の子・男の友情」を描くのが本当に上手く、感嘆するしかない。

「自分を見つめ、自分で決めた道を行け」という、高屋敷氏の長年のテーマも、今回は非常に色濃く出ている。同氏キャリア初期のど根性ガエル演出~現代のグラゼニのシリーズ構成・全話脚本まで40年近く、このテーマが見られ、感慨深い。

タモツとの別れは、軍馬の成長の重要地点としても機能している。
初期の軍馬はタモツに依存気味だったが、色々なドラマを経て、タモツから「巣立つ」時期が来たと言える。
現に、軍馬の成長を見て、タモツは別れる決断に至った。

また、聖とのライバル関係も、継続して描かれる。原作の聖は、このレースに参加しており、(マシントラブルもあり)軍馬に負けて2位。アニメでは、聖は早めにF3に上がっており、今回のような登場となったが、殆どの回で登場。本作が「軍馬と聖の物語」でもある事を印象づけている。

今回は、高屋敷氏の台詞アレンジの見事さも光る。同氏は、抑揚やタメ、単語の繰り返しによるリズム取りなどを使い、雰囲気をガラッと変えることができる。
それでいて、原作を壊すことなく、よりドラマチックにしており、かつ、同氏のテーマを出すことに成功している。

この技術は、原作力が強ければ強いほど、難易度が高くなると思う。
(何回か書いているが)高屋敷氏は、原作クラッシャーの出崎統氏とも、原作に忠実な高畑勲氏とも仕事しており、両氏のハイブリッド。相当な経験が積み上がっているからこそ、これができるのだと考えられる。

軍馬とタモツは、家族のようでもあり、天才同士でもあり、同志でもあり、そして、親友である。その親友が「自分で決めた事」なのだから、軍馬はケジメをつけた上でタモツを送り出す。これもまた、軍馬が「自分で決めた事」。
そのような感想を持つよう、高屋敷氏は視聴者を誘導する。

この「誘導」は、まさにシリーズの「構成」を丁寧に積み上げた結果であり、高屋敷氏の計算高さには毎度驚かされる。

本作は、本当に同氏の手腕の巧みさを感じられる作品で、益々惹き付けられる。

そして、原作をどうアレンジするかで、「脚本」の個性が大いに出ることを感じた回だった。原作を先回りして読んでいても、アニメは先が読めず、驚きの連続。続きが待ち遠しい。