カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンダービートS 24話脚本:「人類」にとって重要な「食」

ワンダービートSは、手塚治虫氏が企画や監修に携わったオリジナルアニメ。ミクロ化してヒトの体内に侵入し、害をなす異星人に対し、同じくミクロ化して戦う部隊・ホワイトペガサスの活躍を描く。
医学博士でもある手塚治虫氏の、医学解説コーナーもある。
監督は、前半が出崎哲氏、後半が有原誠治氏。
今回は、コンテ/演出が中村隆太郎氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

ビジュール星の穏健派・ビジュラ姫と、地球側の会談が行われた。
ドクター・ミヤ(フェニックスタワー所長)は、ビジュラ側が探し求める「生命元素」は、地球人の体内には無いと推測。
その後、ススム宅にてビジュラ姫は、地球の文化や愛について、リツコ(ススムの母)から教わる。
だが、その直後、ビジュール星人がリツコの体内に入り込む…

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本記事を含めた、ワンダービートSの記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88S

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地球側が大切にしているものとして、ドクター・ミヤ(フェニックスタワー所長)は、ビジュラ姫(ビジュール星大王の娘)に太陽を見せる。
高屋敷氏は「太陽」を「全てを見ている」重要なキャラクターとして扱っているところがあり、多く登場させている。
F-エフ-・あしたのジョー2・チエちゃん奮戦記脚本、監督作忍者マン一平と比較。

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忍者マン一平では、太陽に顔がついており、高屋敷氏の、太陽に対するスタンスがわかりやすくなっている。

そしてビジュラ姫は、ススム宅にて「食事」を目にする。ビジュール星人には、「食事」、特に「皆で食事」する習慣がなく、栄養補給は、栄養カプセルで済ますため、ビジュラ姫は驚く。

ここでも、高屋敷氏の担当作で頻出の、飯テロと食いしん坊描写が出てくる。しかも、食事は人類にとって重要な文化として扱われる。高屋敷氏がいかに「食」を大事にしているかが分かる。
グラゼニ・F-エフ-・DAYS・カイジ2期脚本と比較。

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また、ススムの弟が「ママの料理は世界一!」と言うが、F-エフ-脚本にて「ばーちゃんの料理は天下一品だ!」というアニメオリジナル台詞があり、重なるものがある。

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更に、「愛」や「家族」という概念が無いビジュラ姫に、リツコ(ススムの母)が、男女の出会いや結婚、子供や家族について教える。
高屋敷氏は、「母性」についても強く打ち出す傾向がある。家なき子ど根性ガエル演出と比較。

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後半は、リツコの延髄に入り込んだビジュール星人を撃退すべく、ホワイトペガサス隊が出動。
ビジュール側のズダー将軍は、体内を破壊する爆弾を仕込んだモンスターを放ったと脅し、ビジュラ姫を引き渡すよう、ホワイトペガサス隊に要求。

ビジュラ姫は要求に応じ、ビジュール側に戻る決意をする。
その際ビジュラ姫は、ビジュール側が回収していた、ススムの父(ビジュール星付近で行方不明)のオルゴールをススムに渡す。
大切な物を手渡す場面も、高屋敷氏は多く出す。カイジあしたのジョー2・チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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これを見ても、同氏がいかに「物」や「手」を重要視しているかがわかる。

ビジュラ姫がビジュール側に戻ると、モンスターに爆弾を仕込んだというのがズダー将軍のブラフだと判明。
敵・味方問わず、高屋敷氏は知略や悪知恵を好んで出す。

ビジュラ姫は、ズダー将軍の嘘を、決死の覚悟でススム達に伝える。
それを受け、ズダー将軍達はワープアウト。
ホワイトペガサス隊は、残されたモンスターを遠慮なく撃破。

一方、ビジュラ姫は大王に、地球人と対話したことを伝える。大王は直ちに地球に向かうことにするのだった。

  • まとめ

「太陽」「食」「母性」が高屋敷氏の作品に多く出てくる理由が明確に。しかも今回は、これらが「人類にとって」重要なものである…という話。
これは大収穫だった。まるで、何故これらが頻出するかの解答を得た気分。

「皆で食事」も、人類の大切な文化として描かれる。こちらも、「家族や仲間と食べるご飯は格別」というテーマを数多く出してきた、高屋敷氏の直球を感じる。

あと、まるでノルマのように、体内に侵入しては(最終的に)ホワイトペガサス隊に敗北するビジュール側が、今回は珍しく、ブラフや悪知恵を使う。
これも、知略や悪知恵を好む高屋敷氏の特徴が出ており、興味深い。

本作はオリジナル作品かつ、ターゲット年齢も低めのため、作り手の意図が直球でわかるようになっている。
後年になると、高屋敷氏の意図やテーマは、(特に原作つきアニメでは)複雑かつ巧妙に練り込まれるようになるので、同氏の探求を行う上では、本作は大いに助けになる。

今回は、同氏の演出/脚本における演出意図が判明した、貴重な回だった。