カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-24話脚本:「旅立ち」の序曲

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が杉島邦久氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

FJ1600レース(参戦4回目)にて、軍馬は2度目の優勝を飾るが、ライバル・聖のいるF3に一刻も早く上がりたいため、心は晴れない。
そんな折、黒井レーシングチーム代表・黒井から、F3ドライバーとして雇うと言われた軍馬は、その誘いに乗ることにしたのだが…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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聖(軍馬のライバル)は、F3から更にF3000に上がる計画を後援者に話す(アニメオリジナル)。
彼は「自分の力でやってみたい」と言うが、高屋敷氏のテーマの一つ「自分の道は自分で決めろ」が出ている。

不治の病を抱える彼は、生きた証としてF1の表彰台に上がって見せると、恋人のルイ子に宣言。

一方、参戦4度目のFJ1600レースにて、軍馬は見事2度目の優勝を飾る(優勝2回は原作と同じだが、時期や内容は異なる)。
チームの皆の喜ぶ姿が可愛い。これは演出・脚本問わず、高屋敷氏の担当作に表れる特徴。カイジ2期・コボちゃん脚本、監督作忍者マン一平と比較。

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だがしかし、聖のいるF3に早く行きたい軍馬の心は晴れない。

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そこへ、黒井レーシングチーム代表・黒井が声をかける。彼は名刺を軍馬に投げて寄越すが(アニメオリジナル)、高屋敷氏が脚本数本とノベライズを担当した、キャッツアイ(名刺投げが有名)を思わせる。

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黒井は、プロのF3ドライバー(給与あり)として軍馬を迎える用意があるから、いつでも来いと言って去る。
F3という言葉に反応し、軍馬はグローブを落とす。状況や心情と連動する「物」を、高屋敷氏はよく使う。あしたのジョー2・カイジ2期・花田少年史脚本と比較。

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アパートにて、皆は黒井の誘いについて話し合う。森岡(軍馬の雇用主で、後援者)は、黒井が元F1のテストドライバー(後に怪我で引退)だったことに気付く。
それを聞いた軍馬は、腹を決めることにする。原作では、しばらく迷うのだが、改変されている。
ここでも、高屋敷氏的テーマ「自分で自分の道を決めろ」が少し出ている。

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一刻も早くF3に行きたいと、軍馬は皆に語るが、複雑な表情の純子(ヒロインの一人)を見てしまい、少し言い淀む(アニメオリジナル)。ここは表情作画や関俊彦氏の演技も良く、また、「男の子」と「男」の間で揺れる心情が得意な高屋敷氏の腕が存分に振るわれている。

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そのまま、軍馬は岸田(軍馬を慕うインテリ青年)を連れて外出。
純子の叔母のさゆり(アパートの大家)は、龍二(F3ドライバーで純子の恋人だったが、事故死)のように、軍馬が純子から離れて行くことを心配する。優しいお婆ちゃんも、高屋敷氏の作品には多い。

純子は自室で悩む(アニメオリジナル)。ここでランプが映るが、意味深なランプのアップ・間は、高屋敷氏の定番の特徴。カイジ2期脚本、空手バカ一代演出/コンテ、ワンナウツ脚本と比較。

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あと、パジャマ姿で考え込む場面は、エースをねらえ!演出に多かった。

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更に、飾ってある写真のアップ・間がある。こういった描写も高屋敷氏の担当作に多く出てくる。エースをねらえ!演出、カイジ2期・DAYS脚本と比較。

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後日、黒井のスカウトに乗った軍馬は、テストランの日を迎える(そうなると、10日以上帰って来れない)。
ここで、「第三の男」のパロディが入る(アニメオリジナル)。だが元ネタとは男女の立場が逆転しており、並木道を歩く役は立ち止まって「荷物」についての話をし、意味深(元ネタは立ち止まらない)。

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さて、この「第三の男」のパロディは誰の趣味なのだろうか?アニメスタッフのうちの誰かであるとは思うが、高屋敷氏の好みである可能性もある。「第三の男」的な並木道は、家なき子演出、蒼天航路脚本に出て来ており(下記画像)、

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家なき子では、「第三の男」的な地下道シーンがある。この事は、頭の隅に置いておきたい。

この「第三の男」パロディは、どうやら軍馬の妄想のようだが、さゆりによって中断される。ただ、この中には事実もあり、純子が仕事を休んで軍馬の荷作りをしたり、テストコースまで付き合ったりしてくれるのは本当(原作通り)。
ミラクル・ガールズや、めぞん一刻脚本にも、境界線の曖昧な妄想シーンが見られる。

出発直前、森岡が軍馬に退職金として餞別をくれる。原作ではギャグ調だが、アニメでは「すまねえな、人手のねえ時に辞めちまってよ」と、軍馬が珍しく気を使う。これは驚きの言動で、「成長」描写が得意な高屋敷氏らしい。

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これからはプロとして頑張れと送り出す森岡に対し、軍馬は「わかってんぜ!」と言う(原作では、意地を張って「わかんねーよ!」と言う)。
ここは、高屋敷氏が構成方針としてよく使う「青春の終焉と旅立ち」の片鱗が見える。
なんとなく、カイジ2期脚本にて、覚醒したカイジを目の前にした遠藤が思い出される。

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軍馬・純子・岸田がテストコースに着くと、60年代のF1マシン(のコピー)に乗った黒井が現れる。彼は加速・減速Gや横Gを経験させると言って、なんとマシンに軍馬をくくりつけて走行を開始。

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このクラシックF1マシンの作画レベルが高い。ちなみに、エヴァンゲリオン演出で有名な鶴巻和哉氏が原画参加している(担当箇所は不明)。

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想像を絶するGを体験して軍馬は悶絶。
それを見守る安田(黒井レーシングのチームマネージャー)は、純子に対し、このテスト後に軍馬が「やめたい」と言ったら、励ましたりしてはいけないと釘を刺す。また、人にはそれぞれの枠がある…とも説く。鋭い言動は、カイジ(脚本・シリーズ構成)の会長を彷彿とさせる。

安田は、見た目は可愛いおじさん。可愛いおじさん描写は、高屋敷氏の作品には付き物。グラゼニ・チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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純子は、もし軍馬が「やめたい」と言わなかったら?と安田に問うが、彼は笑顔で「そういう奴見たことないねん」と答える。

漸くマシンが止まり、拘束を解かれた軍馬は「人を何だと思ってやがる」と黒井を押し倒す(原作では、放送できない行為もする)。このタフさには一同驚愕するも、彼はそのまま気絶するのだった。

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その後、軍馬はラーメン屋にてタモツ(軍馬の親友。現在は聖のメカニック)に電話し、F3に上がったことを報告。喜ぶタモツであったが、電話が切れる。テスト後、胃の中のものを全部吐いたからといって、軍馬はラーメンを何杯も食べてしまい、結局吐き気を催してしまったからであった(アニメオリジナル)。高屋敷氏の特徴である、食いしん坊描写が出ている。
そんな軍馬に、純子は和むのだった。

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タモツの方はというと、聖からF3000についての資料を渡される。まるで生き急ぐような聖の行動に、タモツは一抹の不安を覚える(アニメオリジナル)。こちらはこちらで、前回「死ぬまで生きてみせる」という境地に達した聖の変化が描かれている(原作でも、それは描かれる)。

  • まとめ

「青春の終焉と旅立ち」の準備段階に入った回。あしたのジョー2脚本(最終回含む)では、節目節目で、丈が心置きなく旅立てる準備のような描写が入っており、めでたいイベント(夏祭りや結婚式など)の中にも寂寥感があった。そして最終回後、丈はどうやら旅立った事が示唆される(後期OP)。

今回の場合、森岡に対する軍馬の言動等に成長の兆しが表れており、今までの彼からは考えられない言葉が飛び出す(気遣ったり等)。特に、原作と真逆の答え「わかってんぜ!」には驚き。
あしたのジョー2脚本と同じように、シリーズの終わりに向け、「青春の終焉と旅立ち」の時が迫っているような緊張感がある。

原作では、自分がプロになることで、アパートの皆や森岡と作ったチームが解散することや、黒井の怪しさを気にした軍馬が、スカウトに関して割と長考するが、森岡に諭されて決意する。アニメでは、皆が心配する中、軍馬が腹を決める。前述の通り、高屋敷氏のポリシー「自分の道は自分で決めろ」が出ている。

あと、妄想とはいえ気になるのは「第三の男」のパロディ。元ネタでは、並木道を歩いてくるヒロインが、主人公(男)に見向きもせず歩き続ける。
今回の場合は、並木道を歩いてくる軍馬が立ち止まり、純子と「荷物」について会話する。
恋については、完全無視できるほど成熟していない(元ネタは成熟した男女)…ということかもしれないし、「荷物」に恋も含めるか否か、かもしれない。

上記と関連するが、恋愛部分についてアニメオリジナルの表現がいくつかあり、純子の表情を見てしまった軍馬が、自分の決意について言い淀んでしまうあたりは、成長過程での葛藤が見られ、高屋敷氏の本領が発揮されていて凄く良かった。

人生にしろ恋にしろ、軍馬が大きな岐路にいることは確か。
カイジ脚本では、過去に人生の岐路を他人に委ねた事を、カイジが激しく悔いる場面が大きく強調されている。そんなカイジだが、覚醒すると大きな決断を「自分で」決めていく。
軍馬もまた、「自分で」決める。

これは、「やめたいと言う人間を、下手に他人が励ましてはならない」という安田の考えにも繋がる。やはり他人ではなく、ここでも「自分」が重要になってくる。
だからこそか、地獄のような体験をしても軍馬は「やめたい」とは言わなかった。
それくらいの「確固たる自我」が育ったとも言える。

自我が固まるということは、大人になっていくという事でもある。
ここは、成長譚が得意な高屋敷氏の「シリーズ構成」の見事な手腕が見られる。
全話脚本ということで、各話の端々に丁寧な「成長」の表現が仕込まれており、序盤、中盤、終盤と見て行くと非常に感慨深い。終わるのが寂しくもあるが、終盤も楽しみである。