カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-26話脚本:友情の夕焼け

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が澤井幸次氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

アニメオリジナルエピソード。
F3デビューを目前にして、胸踊る軍馬であったが、彼を激しく憎む将馬(軍馬の異母兄)の暗躍により、軍馬の属する黒井レーシングチームは壊滅、マシンも破壊される。そして軍馬はレースを欠場せざるを得なくなってしまう…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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鈴鹿でのF3デビュー目前の軍馬は、夏祭りにて仲間達と祝杯を上げる。
あしたのジョー2高屋敷氏脚本回でも、夏祭りは描かれており、それが思い出される。

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宴の席上、木下と松浦(軍馬の住むアパートの住人)は、仕事の都合でレースを見に行けない…と言い出す。
前回、純子(ヒロインの一人)が予想した通り、プロとなる軍馬と、皆との間に隔たりが出来始めている。原作の台詞を、アニメオリジナルの今回で映像化しているあたり、原作とアニメの連携が上手い。

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軍馬が木下・松浦と口論になりそうになった所へ、チンピラ(軍馬の異母兄・将馬の手の者と思われる)が因縁をつけ、軍馬にビールをかける。
高屋敷氏は、飲み物ぶっかけ系に縁がある。カイジ2期・DAYS脚本と比較。

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怒った軍馬はチンピラと乱闘となり、岸田(軍馬を慕うインテリ青年)が加勢に入る。雰囲気が、ど根性ガエル(高屋敷氏演出)と重なってくる。とにかく岸田がらみの場面は非常に、ど根性ガエル的。

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乱闘は、将馬の手下によって盗撮される(今後の伏線)。さらに、軍馬が属している黒井レーシングチームが、将馬の手の者により襲撃され、代表の黒井は大怪我。
そしてガレージには火が放たれる。
火事描写は、ど根性ガエル演出と重なるものがある(ど根性ガエルの方は夢オチだが)。

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連絡を受けて駆けつけた軍馬は、なんとかマシンを火の手から救おうとする。軍馬の必死の形相を見て、岸田も手伝う。
ここは、男の友情を描くのに長ける高屋敷氏の手腕が光っており、どこか子分的な立場だった岸田が、軍馬の「友達」となった瞬間を描けていると思う。

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軍馬と岸田の奮闘虚しく、マシンは爆発・炎上し、軍馬は絶望。高屋敷氏は多くの「絶望」シーンを描いている。ど根性ガエル演出(夢オチだが)、ワンダービートSカイジ2期脚本と比較。他も多数。

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翌日、食事も取らずに自室にひきこもった軍馬を案じながら、松浦と木下はキャッチボールをする。
ここは、高校の野球部の監督をするほどの野球好きである高屋敷氏の一面が出ている。ど根性ガエル演出、ワンダービートSワンナウツグラゼニ脚本と比較。野球アニメのシリーズ構成を担当することも多い。

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木下は岸田に、今一番悔しいのは軍馬であり、ここで優しい言葉をかけてもマシンが戻るわけでもない…と説く。ここは、木下役の千葉繁氏の名演が光る。
高屋敷氏も、得意分野である「仲間愛」を前面に出している。

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そんな中、フラっと何処かへ出かける軍馬を皆は目撃。
ここで、ボールが意味深に転がる。意思を持つかのような「物」を、高屋敷氏は多く描写する。グラゼニめぞん一刻コボちゃん脚本と比較。

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一方、ユキ(軍馬を慕う、赤木家の元使用人。将馬に囲われている)は、黒井と連絡が取れずにいた。そこへ将馬が現れ、自分が黒井達を潰したと告げる。
自分がユキに貢いだ金が、密かに軍馬のために使われていたことで、将馬は嫉妬と憎悪に狂う。金の流れがバレるのは、原作ではかなり後の話であり、アニメの先行具合に驚く。

将馬は大暴れした挙げ句、「ユキちゃん」とユキにすがり付き、軍馬の事を忘れて欲しいと懇願。
高屋敷氏は「幼さ」を描くのにも長けるが、ここは、幼さ故に周囲に大迷惑をかける事がある、元祖天才バカボン(同氏は演出や脚本で参加)のパパを彷彿とさせる。

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その頃、純子は軍馬を追いかけていた。彼女は、水上バスにて軍馬の隣に座ろうとするが、離れられてしまう。心の距離がつかずはなれずになる描写は、じゃりン子チエ脚本にもある。

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ただ、口はきかずとも、軍馬は純子が寄り添ってくれている事を認識する。

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後日、軍馬はガレージの焼け跡に佇む。ここは、あしたのジョー2脚本の廃車場とかなり重なる。

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更に、彼は紙飛行機を飛ばすが、これもエースをねらえ!演出や、あしたのジョー2脚本とシンクロ。

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軍馬は安田(黒井レーシングチームのチーフマネージャー)から、チームの解散を告げられ、更にショックを受ける。

一方聖(軍馬のライバル)は、F3レースで二度目の優勝を飾る。余命いくばくもない彼は、シャンパンを見つめる。こういった意味深な「物」のアップ・間は、高屋敷氏の担当作に多い。あしたのジョー2・カイジMASTERキートンワンダービートS脚本と比較。

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夕焼けの中寝転ぶ軍馬は、食欲、物欲、性欲などを岸田に吐露する。これは16話にて、軍馬が逆ナンパを断った時のアニメオリジナル会話(非常に、あしたのジョー2的)と対になっており、レースに青春を賭けることを絶たれた軍馬の弛緩が表れている。

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また、夕焼けの中、友達や仲間がいてくれる状況を、高屋敷氏は多く出す。
ど根性ガエル演出、じゃりン子チエ陽だまりの樹カイジ2期脚本と比較。

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軍馬は、何でも相槌を打つ岸田に笑い、「やっぱりオレ、諦めたくねえ!」と身を起こす。
二人は立ち上がり、「何人たりともオレの前は走らせねえ!」と叫ぶのだった。ここは、男同士の微笑ましい友情を長年描いてきた高屋敷氏の真骨頂。

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  • まとめ

友情と愛情が、絶望する軍馬を支える。
前々から思っていたことだが、あしたのジョー2脚本にしろ本作シリーズ構成/脚本にしろ、高屋敷氏は「丈/軍馬を孤高にさせすぎない」ポリシーがあるように思う。

これは、長年高屋敷氏が「孤独」「孤独救済または失敗」を描いてきたからこそだと思う。ファンの中には、「丈/軍馬は孤高であるべき」と捉える人もいるが、同氏はそれに逆らってでも、人間が色々な友情や愛情に支えられている事を描く。

あしたのジョー2脚本では、オリジナル要素を入れてでも丈とドヤ街の皆との交流を強調しているし、今回は完全オリジナルエピソードである。そして原作では、岸田はこんなに目立たない。
それを踏まえると、貫きたい所は譲らない、高屋敷氏の非常に強い意志を感じる。

また、「絶望」からどう立ち上がるかも、よく描かれる。描かれ方は様々だが、今回は友情に依る所が大きい。23話にて、タモツ(軍馬の親友だが、現在は聖のメカニック)が岸田と純子に、軍馬をよろしく頼むと頭を下げた(アニメオリジナル)のが伏線になっており、構成の緻密さにも感心させられる。

あと、ユキが黒井達のスポンサーになっていた事を将馬が知って、軍馬を憎むのは、原作では聖と軍馬の決着(アニメ最終回)後、大分経ってからの話であり、アニメのような襲撃はしない。この件については、アニメが大分先行しているのが、かなりの驚き。

将馬がユキに不気味に甘えるのは、原作もアニメも共通だが、アニメオリジナルエピソードである今回、「ユキちゃん」と言って彼がユキにすがりつくのは衝撃的。「幼さ」を描くのを得意とする高屋敷氏は、それを歪んだ形で使う事も可能なのだと気付かされた。

そして、廃車場や紙飛行機などの、あしたのジョー2脚本とのシンクロも、ゾクッとさせられる。23話の夕陽に引き続き、高屋敷氏の、あしたのジョー2への相当な思い入れが感じられる。

これから30話冒頭まで、アニメオリジナル展開が続くらしいので、原作を読んでいても全く先が読めず、益々楽しみである。しかも前述の通り、原作を大分先行するような要素もあり、目が離せない。